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絶叫から数秒が経ち、ようやく2人はが落ち着いたかと思ったら、雅ちゃんが掴みかかる勢いで、俺の正面へと歩いてきた。
両肩に手を置きガッチリ掴むと、真剣な表情を浮かべて怒っているような声音で言葉を紡ぐ。
ちなみに目は一切笑ってない。
「ちょっとひかり本気なの? あの月城リリアよ? 絶対断られるに決まってるに決まってるわよ? テストライブの話が出た時にたくさんの1年生が指導を頼んで断れたの知らないわけじゃないでしょ?」
確かに、例の早朝ランニングのジンクスの情報元はリリア先輩にレッスン指導を頼みに行ったと噂される隣のクラスの女子の誰かだ。
女子社会では噂がと飛び交うのなんて日常茶飯事。
実際俺と雅ちゃんだってネタにされてるしな。
だが、今のところリリア先輩から指導受けている1年生の話は聞かない。
つまり、リリア先輩は断り続けているということになる。
まぁ、実際断れたなんて言いふらす良ような人間はいないので、雅ちゃんの推測だろうけど、たぶん間違いではないと思う。
「うん、でも、なにかが駆け巡ったような気がするの。こうしろって。というかこうしなきゃ行けないみたいな? ただの直感なんだけどさ」
リリア先輩の言葉を聞いた瞬間、ゆずはちゃんのことが頭に浮かんだ。
そして、勢い任せにあんなことを言ってしまったのだ。
でも、後悔は湧いて来ない。
「そんな曖昧なので、受けてもらえるわけないでしょ?」
雅ちゃんの言うことは正しいと思う。
1年生の多くも俺と同じようにして、リリア先輩に頼んだのだろう。
少しの時間を使ってリリア先輩を探して、頭を下げて、アイドルへの暑い思いや何かも語って縋りついた子だっているかもしれない。
そんな子達に比べれば勢いだけで理由すら曖昧で明確な目標すらも定まったいないような俺なんかではいい返事がもらえる分けないと、凹む前にやめておけと、雅ちゃんはさとそうとしてくれている。
雅ちゃんは友達思いな優しいだから。
ちょっと厳しいけどさ。
「ひかりちゃん1つ聞かせて貰ってもいいかな?」
そんな俺達のやり取りを黙って見ていたリリア先輩は、静まったタイミングを狙って、声をかけてくれた。
雅ちゃんの手が両肩から外れて、俺はリリア先輩の方を向く。
リリア先輩の表情は、雅ちゃん以上に真剣なもので一瞬言葉につまりそうになる。
でも、頷くだけで返したくなった。
それでは、ただ流されているような気がしたから。
「はい。何でも聞いてください」
だから俺は同じように真剣な表情でそう返す。
いつまでも流れに乗って勢い任せに行動するんじゃダメなんだ。
たった今、俺に嫌われるリスクを承知で雅ちゃんが口を挟んだのは忠告のためなんだから。
ここからは足りないなりに頭で考えて返答すべきだと思う。
「どうして、そんなことを言い出したのか教えてくれない? 何か思いついたみたいな顔してるし、歌に命をかけてるわけでもないみたいだし、テストライブのためなら、わざわざそこまでする必要ないから他に理由があるのかなと思って。その理由を聞かないことには返答のしようがないから」
まぁさっき思いっきりそれを、におわせるような発言したし、それぐらいなら答えても問題ない。
実名とかは、わざわざ言う必要がないのでそこだけ外して。
「わたし、気持ちを届けて仲直りしたい人がいるんです。たぶん普通に謝っても伝わらないと思うから」
先ほど思ったことを嘘偽りなく告げる。
リリア先輩は嘘かどうかを判断したいのかじっと俺の顔を無言で見つめた。
うっ、やっぱりトップアイドルだけあって、すごく可愛い。
ひかりちゃんとよく似た金髪に、女の子中で飛び抜けて白い肌。
たぶんどんな加工アプリを使ってもこの可愛いさは出せないと思わせるぐらいの圧倒的なまでの美少女感。
直視されてるこっちが恥ずかしくなるぐらいに見つめられ、顔が熱くなるのがよくわかる。
それでも目を逸らすことなく、見つめ返すこと数秒。
ようやくリリア先輩の顔が離れた。
「……………………。よし、わかった。いいよ教えてあげるよ。わたしのレッスン厳しよ? ついて来られるかな?」
「ありがとうございますっ! よろしくお願いします」
出た答えはまさかの合格だった。
雅ちゃんもあんこちゃんもすごい顔をした状態で固まってしまっている。
「とりあえず連絡先交換しようか。キラドリフォンは持ってきてるよね?」
しかしリリア先輩はそんなこと一切気にせず、キラドリフォンを操作したながら話を先へと進めていく。
これが大物の余裕なのか。
「はい、これで完了ですね」
流石は現代のテクノロジーの塊だけあって数秒で連絡先の交換を終えることができた。
「ねぇひかりちゃん。そういえば、あたし達も交換してなかったよね?」
いつもの間にか正気に戻ったあんこちゃんがキラドリフォンを持ってこちらに近づいてきた。
これまで寮か学校に行けばいつでも会えてたし、連絡先を交換する必要も機会
もなかったし、どうせならこの機会交換しておこうかな。
「あっ、確かに雅ちゃんともあんこちゃんとも交換してなかったね。じゃあ交換する?」
雅ちゃんはほとんどキラドリフォンを使わないなら断られるかもしれないと思ったが、話を降った瞬間、目のを色を変えて壁際に置いてあったキラドリフォンを素早く回収した。
「もちろん。実はいつこの話になるかずーっと気になってたのよ」
あんこちゃんの横に並ぶと、ずーっとを強調しながらそう言った。
そういえば俺もはじめの連絡先交換の時同じようにやたらとキビキビ動いて交換したなぁー。
あっ、ということは?
「もしかして雅友達と連絡先交換したことないの?」
「はぁー? そそそ、そんなことあるわけないでしょ? 私だって連絡先の交換ぐらい……」
使わないじゃなくて使う必要がなかっただけなのね。
「ぐらい?」
あまりに露骨に動揺を見せた雅ちゃんが、面白いかったので続きを促してみることにした。
普段からかわれているし、返せる時に返して置くのが俺のポリシーだ。
「……さっ、早く交換しましょう?」
あっ、誤魔化した。
まぁいいや、あまりしつこくやるとカウンターが返って来るのも学習済みだ。
「はい終了」
完了の文字画面に浮かぶ。
「これで完了なの? 案外あっさりしてるわね」
雅ちゃんはイマイチ信用出来ていないのか何度も連絡先とホームを行ったりきたりさせながらポツリとつぶやく。
「やっぱり交換したことなかったんだ」
人生で初めてジト目をしたかもしれない。
雅ちゃんは、居心地悪そうに俺の視界からいそいそと、外れると誤魔化すようにキラドリフォン観察するようにあちこち触ったり、持ち替えながら。
「いやー最新のキラドリフォンは便利ねー」
「雅ちゃんそれお婆ちゃんの感想だと思うけど」
確かにお婆ちゃんが言いそうなセリフだな。
ナイスツッコミだあんこちゃん。
雅ちゃんに見えないようにあんこちゃんに、親指を立ててグッジョブのサインをだす。
あんこちゃんからも同じサインが返ってきた。
「なっ、誰がお婆ちゃんよ」
流石に誤魔化しに失敗してさらにお婆ちゃんと言われたのが恥ずかしかったようで、顔を真っ赤にしながらあんこちゃんを睨みつけた。
「ぷっ、ぐふっ」
しかし、耳まで赤くして、目の下に少量の涙をためたままでは全く迫力にかける。
チワワの吠えるぐらい可愛らしいものだ。
「ちょっとそこの2人笑わない」
「お婆ちゃんだってお婆ちゃん。くくくっ。連絡先交換出来て良かったねー雅お婆ちゃん」
「ひーかーりぃー? 流石にそろそろ怒るわよ?」
あっ、やば。
この顔の赤さと鋭い目つきはちょっと怒った時のやつだ。
「と、とりあえず明日の朝からよろしくお願いしますリリア先輩」
「ふふっ。はい、お願いされました」
多少強引だが、所謂主人公修行パートってやつが始まる。