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 「じゃあーレッスン頑張りますかー」


 ライブシアターを出てすぐに、俺は大きく伸びをしながら、気持ちを切り替えるように宣言した。

 日が落ちて少し冷えた空気が身体の中に入ると、頭がすっきりしたような気分になり、やる気も充填された気がする。


 「珍しくひかりがやる気になってるわ。なにか良くない事でも起こるのかしらね」


 「ひどいなぁ。わたしだってたまには、サボらずやろうって思う時ぐらいあるよ?」


 サラリと失礼なことをいいながら、横を歩く雅ちゃんを横目で確認しつつ、反論する。

 確かにいつもどうにかサボろうと画策している俺だが、もう衣装を決めるところまで来てしまえば、いつまでも心を揺らがせているわけに行かないと思うわけだ。

 まだゆずはちゃんとの仲直りする方法は見つけられていないが、テストライブには出るつもりだし。

 でもテストライブ前には仲直りしたいところではあるがな。

 「もしかしてひかりちゃん、ステージ衣装選んで気が引き締まったとかのかな?」


 「まぁ、私もその気持ちはわかるけど……単純過ぎじゃない? さすがに」


 2人は俺の心情を勝手に解釈したらしい。

 まぁそれもあるし、ここは乗っておこうかな。


 「でもステージ衣装を見たらほんとにステージに立つんだって実感が湧いてきたし、やるからには恥かきたくないじゃん」


 「そうだよね。あたしもやるからにはちゃんとしたいって気持ちよくわかる。お客さんには、ちゃんとしたパン以外出さないってお父さんも言ってたし」


 そんなプロ意識と一緒にされても困るが、もしかしたら自覚がないだけで少しぐらいはプロ意識が芽生えているのかもしれないと、ポジティブに解釈しつつ、校舎へと戻っていく。


 「あのさ2人ともレッスン前に自販機寄ってもいいかしら?」


 レッスン用の靴に履き替え、レッスン室に向かおうとする俺達に雅ちゃんが唐突にそんなこと言い出した。

 

 「うん」

 

 「あたしもレッスン中の飲み物欲しいしいいよ」


 一応レッスン室の近くには水飲み場あるが、人によっては水道水はちょっとって抵抗があるってこともあるので、中学校には珍しく綺羅星学園には自販機が置いてある。

 俺は使う機会がなかったので使って来なかったが、雅ちゃんはたまに使っているようだな。

 流石お金持ち。


 「まだ予約の時間まではあるけどちょっと急ぎましょう」

 

 ガタンとペットボトルが落ちる音がしてミネラルウォーターのボタンに売り切れの文字がもとった。


 「さてと、水これだけあれば問題ないわね」


 「自販機売り切れまで買う人はじめてみたかも」


 下にずらりと整列したペットボトル達を見ながら俺は若干引いていた。

 雅ちゃんはそんなことなどお構い無しにミネラルウォーターの数を数えている。


 「雅ちゃんってもしかしてお金持ちか何かなの?」


 その様子を後ろで見ていたあんこちゃんが、俺にも小声で問いかけてきた。

 流石に人の家庭の事情をペラペラとしゃべるわけには行かないのでどう答えるべきか悩んでいると、


 「これくらい普通じゃない? とりあえず1人6本ね」


 ミネラルウォーターを数え終えた雅ちゃんがサラリとお金持ち発言しつつ、意味のわからない発言をかます。

 普段、レッスン中雅ちゃんはこんなに大量に水を飲むことは無い。

 つまりこれは浪費というやつになるはずだ。

 ここは雅ちゃんのおかしな金銭感覚を指摘おいた方がいいのではないだろうか?


 「流石にレッスンにこんなに、ミネラルウォーターいらないんじゃない? いったい何に使うのこれ?」


 雅ちゃんのことだから、もしかしたら飲まずに別のことに使うかもしれないと、思い直して、発言に少し付けてしながら用途を探る。

 

 「今日からしばらく歌をメインにレッスンするのよ。ひかりの歌、とんでもなくひどいし。だから喉のケアようにミネラルウォーターを買ったの。水道水だと一々レッスン室の外に出ないと、飲めないし」


 「ところで雅ちゃん。あたし今日はそろそろ帰ろうかなと思うだけど……用事を思い出したし」


 大量のミネラルウォーターの謎が解け、そろそろレッスン室に、歩こうかと用意をしていると、あんこちゃんが突然見え見えの嘘をついた。

 用事を思い出したはほぼ100パーセント嘘だと相場が決まっている。


 「何を言ってるのよ? あんこも一緒に地獄を味わいましょうよ。私たち友達よね? それにさっきちゃんしたものを見せたいってあんなに熱く語ったじゃない」


 当然俺にわかる嘘を雅ちゃんが見抜けないはずはなく、あんこちゃんの腕をがっちり掴み悪魔のように耳元で囁く。

 流石にそこまでけなされると俺ショックなんだけど。

 女々しく泣いちゃうよ? まぁ今は完全に女の子の身体なんですけどね。


 「いや、熱くは語ってないし、いくら友達でもキツイものはあるのだよ」


 珍しくガチのトーンでボケや茶化しも一切なく、本気で逃げようとしているあんこちゃんを見ていると、ショックがさらに広がる。


 「わたしそんなに下手なの?」


 もしかしたら俺をからかう冗談なのかもしれないという思考が一瞬浮かび、多分そうだろうと信じることにして2人に問いかける。

 普段から2人にからかわれることはよくあるし、ひかりちゃんは歌が上手い設定なんだし下手ってことは無いだろうと、漠然と思っていた。


 「「いや、まぁ……うん」」


 しかし2人からの反応は、はっきり告げるはなんだか可哀想だけど、言わないのも可哀想かも見たいな中途半端さのあふれる微妙な表情と戸惑いの入りまくった声だった。


 「そ、そっか……お、わたしうたヘタなのね」


 あっさっきのやり取りガチだったんですね。


 「正確には、下手っていうより、歌い慣れてみたいな感じ……例えるなら、弾いたことのない楽器で曲を演奏しているみたいな不安定感が有るのよ。まるで今まで1度も歌を歌ったことなみたいな感じのぎこちなさも感じるし」


 雅ちゃんがなにやら必死にフォローしれている見たいけど内容は入って来ない。

 まさかひかりちゃんの身体に入った事で、音痴になってしまうとは。

 これじゃあ確実にテストライブは悲劇になってしまう。

 どうすれば回避することができるだろうか?

 考えよう。


 「雅ちゃんって音楽詳しいの?」


 「そこまでじゃないけど……ママの影響で、小さい頃から音楽にはそれなりに触れてきたつもりよ。まぁ自慢できるほどではないけど」


 「へー、だから詳しいんだねっ」


 2人のやり取りは耳を通り過ぎるだけで一切入って来ないまま亡霊の如くレッスン室へと歩を進める。

 

 「あれ? 今日はいつものレッスンじゃないの?」


 結局レッスンを頑張るしかないと思い直した俺はたったいつものレッスンを通り過ぎたことに疑問を感じて、雅ちゃんにそれをぶつける。


 「ええ、最初から歌の練習をメインでやるつもりだったから今日は歌レッスン用の部屋を借りといたのよ」


 「そんなのあるの?」


 「なんで知らないのよ……そろそろここの生徒になって一ヶ月ぐらい経つわよね? それなのにまだ学校の地図暗記してないの?」


 「普通学校の施設を全部暗記してる方が珍しいとあたしは思うけどね」


 「そうそう。雅が真面目すぎるだけだよ。それにまだ一ヶ月も通ってないし」


 普通3年通っていても入ったことのないところがあるのが普通だと思うし、校内の地図の暗記なんてしてる人なんてそんなにいるわけないはずだ。


 「2人が不真面目なだけよ。他の生徒は設備をだいたい把握していると思うわ。実際予約した時に見た名簿にはうちのクラスの子達名前をあったわ」


 「嘘っ!? 知らなかったのわたしだけだったの?」


 「ひかりちゃんって授業中によく寝てるし、授業の途中の先生の雑談とか聞いてないから知らないのも当然かもね」


 あんこちゃんは校内全てを暗記しているわけではないが、歌用のレッスン室の存在は知っていたらしく俺のように驚くようなことはなかった。

 

 「授業中になんの話してるの?」


 授業中の雑談でどういう流れで学校の設備の話なんてするのだろう?


 「先輩アイドルの1年の時の話とかでよく歌レッスン室での話が出てくるのよ」


 「へー、どんなの?」


 なんだか面白そうだな。

 先輩アイドルの話興味あるし、詳細を聞き出そう。


 「知りたければ真面目に授業を受けることね」


 「雅の意地悪」


 しかし雅ちゃんは、うまく俺に真面目に授業を受るように誘導してきた。


 「授業中に寝ちゃうひかりちゃんが悪いと思うよ」


 「あんこちゃんまでそんな真面目なことを」


 俺だって居眠りしたいわけじゃないんだがな。

 早めに寝るのに授業中に睡魔が襲って来るのは、絶対朝のランニングのせいだ。


 「ありゃ? まだ中で人がレッスンしてるよ?」


 あんこちゃんの声に反応して少し先にあるボイストレーニングルームの扉についてる小窓を見ると、オレンジ色の光が薄暗い廊下に漏れていた。


 「ほんとね。まぁまだ18時30分には早いし、ここで軽く身体をほぐしながら、待っておきましょうか?」


 雅ちゃんもそれに気が付き、俺達には3分ほど、ストレッチをすることになった。

 それにしても時間ぎりぎりまでレッスンするなんてずいぶん熱心な人もいるんだな。

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