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そろそろ受付終了の時間が30分後に迫ってきて、他の生徒達が減り始めた頃俺達は今からステージ衣装を決める作業に入るところだ。
「2人共ファションセンスがないことはよく分かったわ。仕方ないから、基礎的な事を教えるから、それで参考にして選んで」
「雅先生よろしくお願いします」
「しますっ!」
呆れたような雅ちゃんに頭を下げる。教えをこう以上この瞬間は雅ちゃんは先生ということになる。
あんこちゃんも続いて頭を下げた。
顎に人差し指添えながら思い出すように雅ちゃんのステージ衣装の講義がはじまる。
「えー、まずステージ衣装……つまりドレスチップには、大きく分けて3つタイプがあるのは知ってるわね?」
資料も準備もなしで教えることになったにも関わらず、淀みなく講義が進む。
「もちろんそれぐらいあたしだってわかるよ」
それくらい常識だと言わんばかりの自身を周囲に放つあんこちゃんの横で、俺は冷や汗をかき、忙しなく視線を左右に動かす。
やばい全然知らない。
アーケード版ではキッチリ出ていたタイプだが、アニメではサラッと流されていて、正確に覚えていない。
だが、タイプは常識らしいので、全く知らないなんていえばやばいヤツ認定をされるかもしれないな。
ここは知ってます感を出しつつあんこちゃんに便乗しておこう。
「え? そりゃもちろん知っている決まってますわよ?」
「ひかりはそれすら知らないのね」
「なんでバレたの?」
あっさりと見破らたことに驚きを隠せず、聞いてみる。
絶対バレでは行けない秘密を抱えているから、どうしてバレたか知って今後の参考にしたい。
「ひかりちゃん動揺しすぎだからだよ。そんな露骨に目を泳がせたら、誰でも気づくよ。それに口調がめちゃ変だし」
パン以外興味のないあんこちゃんにすらバレるぐらい露骨に反応していたのか。
それはまずいな。
ひかりちゃんの顔は表情豊かでよく動くし、嘘を吐くには向かないとは思っていたけど、そこまでとは思わなかった。
明日からポーカーフェイスの練習でもしようかな。
「ひかりのために説明すると、ドレスチップのタイプはプリティ、クール、セクシーの三種類。例外なく、すべてのドレスチップがこのどれかの属性を持っているわ。まぁ厳密にはもう一つ属性があるって噂はあるんだけどそれは今は脇に置いておきましょう」
4つ目の隠し属性とかとっても脇に置けないぐらい興味あるんですけど?
いや、いかん。
女の子はそんなことでテンション上げたりしないだろう。
ここは落ち着いて雅ちゃんの講義を聞くことにする。
そうしないとその先には退学あるしな。
ふざけてる場合じゃないのを忘れないようにしないと。
「それでそのタイプがどう衣装選びに関わってくるの?」
一瞬で心を入れ替えた俺は質問をする。
「そして私たちアイドルにも大まかだけどこのタイプに当てはめることができるの。例えば、ひかりはプリティとか」
「わたしはどっちかっていうとクールだと思うけど」
言ってなかったけど、クールで知的な雛星ひかりを目指しているんだから俺は絶対クールに決まっている。
「どこがよっ! 付け加えておくと、このアイドルのタイプは、イメージであって、本人の正確は関係ないわ。……どう例えるのがいいのか分からないけど……そうね明るい子とか物静かな子だなとか、第一印象で決まるわね。ちなみに私はクール」
軽くツッコミを入れると、すぐに話を軌道修正して、続きを進める。
「じゃあ、あたしは?」
あんこちゃんが尋ねると雅ちゃんは途端に険しい表情に変わる。
まぁあんこちゃんってピッタリこのタイプって言えるものがない。
中途半端に可愛らしい印象と、隠しきれないパンへの狂気じみた愛が合わさって、一つの属性に絞れない。
「あんこは……クール寄りのプリティ?」
普段あまり悩むことのない雅ちゃんが珍しく一分近く悩んで、結局あまり答えになっていない答えを出した。
自信がないのか語尾にははてなマークがついているような気がする。
「なんか微妙印象だね」
流石に納得出来ていないようで、微妙な表情をしながら、首をかしげるあんこちゃんを見て、雅ちゃんは、慌てて補足を話しだす。
「パッとみ、明るい元気な印象あるけど、しゃべらないときの雰囲気はちょっとクールぽいからさ」
流石に、滲み出る雰囲気が怖いからとか言えないらしく、だいぶ言葉を濁した感じの補足になってしまったな。
「とりあえずアイドルのタイプとドレスチップが同じ中から選べばいい訳だね?」
なんだかんだで頭がよく、理解のあるあんこちゃんは、とりあえずそれぽい解釈を見つけだす。
「まぁ一言でいうとそうね」
正解らしくい。
それなら簡単に選ぶことが出来そうだな。
「なら、わたしは簡単かも。……これかな」
プリティタイプの中からアニメでひかりちゃんが来ていたようなフリフリひらひらとしたドレスチップを選べばいいだけどの話じゃないか。
カタログをパラパラとめくりその中の一つを指さす。
「へー、シンプルピンクステージドレスね。ひかりにしては無難なチョイスね」
シンプルピンクステージドレスは、アニメ最初のライブでひかりちゃんが着た衣装で、派手な装飾がなく名前通りシンプルなスカートと、ブレザーをモチーフにした、これぞアイドルって言えるステージ衣装だ。
そして何よりリリア先輩が1年のテストライブで選んだドレスチップとしても有名。
「そもそも選択肢の中に変なものないけどね」
全部見たわけではないから、確実ではないが、ステージ衣装におかしなものは混ざっていなかったと思う。
「あるわよこれとか」
後ろの方に乗っているなにかの果物を無理やりドレスにしたようなデザインの衣装を見せながら雅ちゃんはちょっと嬉しいそうにドヤ顔する。
どこで勝ち誇ってるんですかね?
しかし、このドレス露出度高いし、まるでコスプレ衣装だな。
これ先生達の趣味とかじゃないのか?
いや、女の教師しかいないしそれはないか。
一応、警戒心は持って過ごした方がいいかもしれないな。
「これいいじゃんあたしこれにする」
「ええっ!? それコスプレ衣装みたいなやつだよ。絶対先生達が遊び心で入れた感じがする」
「クールフルーツドレスって絶対選んじゃいけないやつだと思うわよ。先生あえて言わなかっただけだろうけど、衣装の点数もきっと評価に入ると思うし」
なるほど衣装選びのセンスを審査するためのネタ衣装ってことね。
良かった。
流石に先生達の中にそっちの趣味の人がいるのかと思って、明日から警戒しながら生活するところだったな。
「だって他に食べ物をモチーフにしたドレスないし、一目見てこれって思ったの」
「まぁ、あんこがそれでいいなら私は止めないわ。2人とも決まったみたいだし申請用紙出してレッスンに戻りましょう」
サラッとレッスンに戻ろうとする雅ちゃんに俺は気になっていることを質問する。
「雅は、どんなドレスにするか言わないの?」
「当日の秘密にしておきましょうか? 流石に全員衣装を言っちゃうのは面白くないもの」
「なんかずるくない?」
「当日を楽しみにしておいて」
どうやら雅ちゃんは相当自信があるらしいな。
雅ちゃんの衣装は当日まで頭の隅に置くことにして、申請用紙をだす。
なんとかステージ衣装の問題は17時56分に終わらせることができた。
さぁーこれから21時まで特訓がはじまるぞ。