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 放課後のレッスン室。

 久しぶりに、追加特訓のための用意をしようとしていると、突然雅ちゃんの声が響いた。


 「今日は特訓の前にステージ衣装の申請に行くわよ!」


 やる気に満ちた声でそう宣言する。

 ここ数日、雅ちゃんが漫画にはまって放課後のほとんどを、漫画を読むことに使ってしまい、ステージ衣装の申請に行けていなかった。

 あんこちゃんと2人で、行こうとも考えたが、図書館で1度放置して、オリジナルアピールについての宿題をやってしまった引け目もあって、雅ちゃんと3人で行こうと話あったのだ。

 除け者にするのは良くない。

 今、幼なじみとの関係が良くないのに、ルームメイトとの仲まで悪くなったらもう終わりだし。

 そして昨日の夜、突然正気に戻ったらしく、今日から放課後特訓再開となったわけだが、まずは期限が今日までのステージ衣装を決める。

 しかし夜通し、押し殺した笑い声に悩まさせれてきた俺は寝不足のイライラを嫌味に変えて雅ちゃんに放つ。

 漫画が面白いのは知ってるから笑っちゃうはわかるし、寝ている俺に配慮して笑い声を抑えてくれてるのもわかるが、抑えても笑い声は気になる。

 それに無理やり抑えてこんでるせいか、ベッドが揺れて地震だと思って夜中に飛び起きた俺のことを少しは考えてほしい。


 「雅が漫画にはまらなければ、もっと早く申請できたんじゃないの?」


 「ええ、とんでもなく時間を浪費してしまったと反省しているから、これ以上蒸し返さないで……ほんとアレは……」


 どうやら反省しているらしい。

 だが、一体どんな漫画を読んだらこんな風に頭を抱えてうなだれるような反応になるんだろう? 興味はあるけど怖くて聞けない。

 そんなトラウマ量産漫画なんて出会いたくないし。


 「しゅんとする雅ちゃん珍しくて、可愛いかも……」


 いつの間にか近くにいたあんこちゃんが雅ちゃんに後ろから抱きつき頭を撫で回す。


 「可愛いとかやめて、なんか恥ずかしわ。……離れてなさいそれと頭も撫でないっ!」


 本当に恥ずかしいらしく頬を赤く染めながら抱きつくあんこちゃんから逃げようと、小さく身体をよじる。

 離れろという割には無理やり引き剥がしにかからないし、これはからかうチャンスではないか? 

 普段ツッコミを入れられてばかりだし、普段の借りを返しておこう。


 「雅もしかして照れてる?」


 「もうっ! 私をからかうなんて今日のひかりはレッスンやる気まんまんなのね?」


 あんこちゃんに抱きつかれたまま、こちらに顔を向けた雅ちゃんは恐ろしい笑顔を貼り付けて、そう問いかけてきた。

 まずい調子に乗りすぎた。

 最初の1回でやめとけば良かった。


 「そ、そんなことより急いでライブシアターに行かないと、時間なくなちゃうよ」


 困った俺はからかいをなかったことにしようと話題をライブシアターにすり替える。

 

 「そうね、時間は大事だもの急がないといけないわね。でも今日は特訓はいつもりハードにするのか変わらないわよ?」


 「それは横暴ってやつだよーーっ!!」


 調子に乗った俺も悪いとは思うが、それはそれだ。

 だからといって久しぶりの特訓でいきなりハードはあかん。

 筋肉痛になってしまって明日のレッスンに響く。


 「あんこ。ひかりをよろしく」


 「了解」


 雅ちゃんは最近すっかり手馴れた課金スキルあんこちゃんの懐柔を発動させる。

 すると、あんこちゃんが俺の前に移動して俺の両手を掴んで連行する。

 というかあんこちゃんそんなに海外お取り寄せのパン美味しかったのかな?


 「自分で歩くから引っ張らないでー」


 流石に廊下を連行されながら歩くのは恥ずかしいので、無理やり掴まれた両手を振り払う。

 もしかして駄々をこねてこの場から動かなくなるとか思われたのか?

 流石にそこまで子供じゃないぞ。

 


 校舎を出て正門に2分ほど歩いたところにライブシアターはある。

 警備員さんの常駐しているプレハブ小屋を通り過ぎ、カフェテリアがあって、その手前にあるあまり背の高くない白色の建物。

 本当に正門入ってすぐの建物だな。


 「ライブシアターっていうからどんなに大きのかと思ったらなんか……」


 いや、口は災いの元だ。

 さっき最後まで言ってとんでもない悲劇が起こったしここは余計なことは言わない方がいい。


 「予想より小さいわね」


 「あーあ。はっきり言っちゃった」


 そう思って途中で止めた先を雅ちゃんが引き継ぎはっきり口にだす。

 

 「でも実際小さいでしょ?」


 確かにライブシアターは小さい。

 校舎の半分ぐらいの高さで全校生徒が入れるかどうかぐらいの大きさしかない。

 体育館の方が大きいと思う。


 「せっかく途中で止めたのに。もし先生とか近くにいたら困るじゃん」


 「別に事実を言っただけよ。それだけ評価が下がったら問題じゃない?」


 確かに素直な感想をのべただけでマイナス評価を受けることは流石にないか。


 「うんうん。それにあたし達既にマイナス評価なんだしさ」


 ほっと胸をなでおろしたのもつかの間、あんこちゃんあんこちゃん発言に心臓が握られたようにキュンと縮むようなきがした。


 「え? いつの間に?」


 「ほら校内見て回った時に、あたし気絶したじゃん? その後聞かされたよ」


 「あっ……そういえばそうだったね」


 そんなことありましたね。

 確かアイドルは変装みたいな安易な考えで、サングラスにマスクの不審者みたいな格好して、先輩に減点をくらったことがあった。

 まぁあんこちゃんが殴りかかったていうのもあるけど。


 「ええ、思い出さないようにしてけどここでふざけあってる余裕私たちにはなかったわね」


 「中、入って衣装早く決めちゃおうか」


 沈んだ雰囲気になり、少し重くなった足取りてライブシアターの扉を開け、中に入る。


 ライブシアターは申請最終日ってこともあってかそこそこ賑わっていた。

 普段はお客さんを案内する受付も今日は1年生で溢れている。

 エントランスだと思う空間には臨時で持ってきたであろう脚の長い長机がいくつかおかれて、真剣な顔でなにやら書き込む1年生達の姿があちこちに。

 少し遠くをみると、受け付けに座っている事務員さんは1人。

 列の前から順番に紙を渡して説明をしているようだ。

 ひとまず列の最後尾に並ぶ。

 紙を渡すだけなのですぐに順番がきた。


 「次はあなた達ね。それじゃあこの用紙の項目を埋めて、その下のドレスチップ一覧にチェックを入れて、記入完了したら隣の箱に入れてください」


 「それだけですか?」


 あっさりしすぎな説明に、雅ちゃんが思わず聞き返す。

 あっ、ちょうど3人組がテーブルを離れたから、場所を確保しておこう。


 「はい、それだけです。あっ名前だけでデザインが分からないと思いますので、そちらのカタログを参考にどうぞ」


 流石事務員さん。

 こういうのに慣れている感じの営業スマイルをひとつ浮かべると、サラリと補足を入れる。


 「あ、ありがとうございます」


 それ以上の説明のしようがないことを悟った雅ちゃんはお礼を言うそっとこっちにやってきた。

 

 「なんだか予想よりあっさりしてるわね」


 とはいえ納得はしていないらしく、こっち来てからも首をかしげている。


 「うん。わたしドレスチップがいっぱい机か何かに並べてあってその中から選ぶのかと思ったもん」


 まさかドレスチップの名前だけで大事なステージ衣装を決めることになるとは思ってなかった。

 

 「で、この中から選ぶみたいだけどさ、どこにもパン要素がないんだけど? これじゃあ選べないよ」


 「あるわけないでしょ? ステージ衣装なんだから」


 「嘘っ。でもドレスチップ作ってるファションブランドに食べのもをモチーフしたデザイン専門あったはずだけど……」


 そんなやべぇ会社あるのか……。

 焼肉モチーフのドレスとか着る人いるのか? 想像しただけで胸焼けそうだな。


 「今回は歌とダンスと衣装のセンスをテストされるみたいだし奇抜なデザインのドレスチップはないようね」


 「どうしよう。どれにすればいいか全くわからなくなってしまった」


 あんこちゃんは今日も変わらずあんこちゃんだけど、何を基準に選ぶのが正解は分からないのは、俺も一緒だ。


 「あんこの私服ってクロワッサンが印刷されたTシャツしか見たことないわね」


 勉強会の時は基本そのまま寝られるような格好に着替えて行う。

 あんこちゃんとは休日に出掛けたことがまだないのでパジャマしか知らないから、Tシャツしか見たことなくても不思議じゃないと思う。

 いや、そんなことよりも、今はステージ衣装をどう、選ぶかだ。

 幸いあんこちゃんのステージ衣装を選ぶ流れが来ている。

 これに乗るしかない。


 「あの……雅」


 「まさかひかりもステージ衣装を1人で決められないとか言い出すんじゃないでしょうね?」


 「そうなんだけど……」


 「なんでアイドル志望の女の子が3人いてファションセンスが皆無なのが半分超えてるのよー!」


 いや、正確には女の子は2人だし半分は超えてないよ。

 絶叫して天井を見上げる雅ちゃんを思わずそう返しそうになるのを我慢して、正気に戻るのを待つことにする。

 もしかたらステージ衣装選び、18時ぎりぎりまでかかるかもしれないな。

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