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 先生へのなんともありませんでした。という報告を終えて俺とゆずはちゃんはようやく校舎の外に出た。

 無駄に豪華で大きい校舎を背にして、先生に渡された4つの品を見つめる。

 学生寮の注意をまとめた冊子と部屋のカードキーと学生証。そしてキラドリフォン。

 冊子は何の変哲もない数枚のプリントをホチキス止めした簡単なもので、その中に部屋のカードキーが挟まっていた。


 学生証はカードキーと同じ手に収まるサイズ。

 女の子らしくピンクで、名前と顔写真がついたシンプルなデザイン。

 正しくアニメで描かれていたまま。

 キラドリフォンは、まぁなんだその、アイドル必須ツールということしか知らない。

 充電がきれていて動かないので今は放置。

 取りに行くまでとても時間がかかっているわけだし文句を言っても仕方ない。


 「はぁー。まさかひかりちゃんと別の部屋になるなんて……」


 銀色の文字で203と印刷されたそれをゆずはちゃんはため息を混じりに見つめる。

 俺の受け取ったカードキーには205とある。

 ゆずはちゃんは俺……正確にはひかりちゃんと別の部屋になってしまい露骨に落ち込んでしまった。

 俺としてもゆずはちゃんと一緒の部屋じゃないのは残念ではあるが、ぼろが出て中身が男であることがバレないのはいいことだと言える。というポジティブな方向に考えて行く事にした。

とういうより不思議なことにそういう思考が浮かんで消えないのだ。

 もしかしたらひかりちゃんのポジティブさが影響しているのかもしれない。


 「仕方ないよ寮の部屋2人部屋なんだし」


 「でもー3年間ずっと同じ部屋になれないんだよ? ひかりちゃんは悲しくないの?」


 さて、返答に困ったぞ。

こんなシーンアニメになかった。

 アニメではひかりちゃんとゆずはちゃんは相部屋だったはず、つまりこの時点で展開が変わってしまっているのだ。

 下手な答えを出せば最悪、絶交なんてこともあるんじゃないか、

ふとそんな考えがよぎる。

 中学時代の同じクラスの親友同士の女子ふたりはしょっちゅう絶交をしてたのを思い出しつつ、返答を考える。

 さっきから横に並んでチラチラとこちらの様子を見て来てるしあまり待たせるのはよくないだろう。


 「もちろん寂しいよ? でも与えられた部屋以外で寝ちゃいけないなんてことないと思うし、泊まりに来るぐらいはいいんじゃない? 二部屋しか離れてないんだし」


 実際アニメでは主要メンバー4人で同じ部屋に集まって寝落ちするシーンが何度かあった。

 特に怒られるようなことはなかったし、問題ないと思われる。


 「え、そうなの? なら仕方ないか。でもよく知ってるね」


 「ほらここの注意には無断の外泊を禁止するってかいてあるけど、建物の中ならセーフ何じゃないかなと思って」


 カードキーを取り出すために偶然開いていた禁止事項のページ見せつつそれらしく言って見る。


 「どれどれ……。あっ、ホントだ。ひかりちゃん活字苦手で、普段わざわざ注意なんて読まないのになんか変だねっ?」


 見せたページをのぞき込みながらしれっとキラーパスを飛ばしてくる。

 大好きなキャラゆずはちゃんの頭がこんな近くにあるなんてと本来なら鼻を最大限まで酷使したいところだが、なんだかまだ疑われているようだ。


 「えっ? いや、たまたま目に入っただけだ、よ?」


 絶対バレるわけには行かないので、それっぽく誤魔化すものの、不信感を完璧に消し去ることはできなかったようで、鑑定するように顔から首のあたりまでを何度も見直し、スンと、鼻を鳴らしながら匂いまで嗅いでくる。

 やはり親友のことになるとなかなか鋭い。


 「そうだ、頭打ったからかっ!」


 しばらく鑑定していたゆずはちゃんだったが、手をポンと可愛らしく叩きひとりでなにやら納得してしまった。

 ひかりちゃんって普段どれだけアホの子だったのだろうか。

 ちょっと気になるな。


 「…………」


 何か反論の一つでもしてやろうかと考えたが、納得してくれているならわざわざ否定して蒸し返すこともないと考え、淡々と2人で寮まで歩いていく。

 どうやらゆずはちゃんは意外と天然なのかもしれない。


 不思議と好きな子と一緒に居るのにドキドキしない状況に今度はこちらが首を傾げる番となった。

 そういえば目覚めてからここまでずっと一緒だったのに1度も変な気持ちになっていない。

 普通いくらありえない状況でも美少女と二人きりなら妙に意識してぎこちなくなったり、目があってドキドキしたりとか、そういうのがあってもいいはず。

 もしかして男にしかついてないアレがないせいか?

 まだそっちは確認していないけど、上の方はやや小ぶりではあるけどあるんだよなぁ、胸。

 あえて考えないようにしていたわけだが、少し余裕が生まれたおかげで余計なことを考えてしまう。


 はっ、ということは女の子とどれだけ仲良くなっても……。

 とんでもない事実にいまさらながら気がついたわけだが、……今は女の子になったわけだし、まさか男と? いやいやないない。そこまで適応力は高くない。

 それにもしかしたらこれがとてもリアルな夢って可能性だってまだゼロになったわけじゃない。

ふたたび思考が逃げに回ってしまったところで妙案が浮かんできた。


 そうだ。アイドルになればそんなこと考えないで済む。

 となればできるだけ長くアイドルでいられるように努力しなくては。

 ここに世界一不純な理由のアイドルが誕生した。


 「ん?」


 崇高な恋愛回避計画をまとめ終えて、おのれの才能ににやついていると、不意にゆずはちゃんが声をもらしたて、立ち止まった。


 「どうしたの?」


 「アレってもしかして」


 学校の裏側、つまり裏口のほうにちょうど1台の車が止まっていて中から人が出てくるところだった。

 学生寮の近くに作られた裏口は多くの木々で隠すように作られているのか鉄製の門と車がなければきっと気づかなかっただろう。

 ドアが開いて、ゆっくりと人が降りてくる。

 その人が誰か見ようとゆずはちゃんの横から前に移動したところで、視界が暗くなった。

 隙間からすこしだけ光が見えるものの、ほぼボヤけて見える。

 というかほとんど見えていない。


 「ちょっとどけてよ。見えないんだけど?」


 少しトゲのあるいい方になってしまったが仕方ないことだ。

 いくら好きな女の子だったとしてもいきなり目隠ししてきたら怒る。

というより困惑。


 「そのね、……また気絶されても困るからもう少し我慢してね」

 申し訳なさそうな声音でそう言われては仕方ない。


 なるほどリリア先輩か。

 入学式が、終わってすぐの仕事がようやく終わって、ちょうど帰ってきたところかな。


 「流石にもう失神したりしないと思うんだけど……」


 俺がひかりちゃんになる前に実際なっているらしいので自信はないが、一応言っておかなければならない。

 リリア先輩が近くに来る度に目隠しをされては困る。

 いくら親友思いでもやりすぎだと思う。

 手からもいい匂いが香ってくるし、ハンドクリームでも使っているのだろうか?

 ゆずはちゃんの手の匂いについて考えるだけで困惑も怒りもなくなってしまうあたり俺はどこかちょろいのかもしれない。

 ちょろインと呼ばれないように注意していこう。

 と、変に気を引き締めたところで。


「よし。行ったみたい」


 パッと目隠しから開放された。


 強く抑えつけられたおかげで残っている感触を少しでもやわらぐようにと、軽めに2回強く1回まばたきをする。

 少し残念な気もするけど……いやいやちょろインにならないと決めたばかりだろ。


 「じゃあおれ……じゃなかった、わたし達も入ろうか」


 「そうだね。急がないと、夕ご飯食べられなくなるもんね」

 既に夕日はそろそろ沈む直前。

空の一部はオレンジから紫へとかわっている。

 リリア先輩の後を追うように、俺達は寮の中に入ることができた。



「「ふぁぁーーあ!!」」


 自動ドアをくぐって1秒。

目に飛び込んできた光景にゆずはちゃんと揃って感嘆の声を上げていた。

 学校もどこぞの城なみに豪華だったが寮の豪華さの前では霞む。

 まずめちゃくちゃ広い。

 多分50畳は軽く超えている。

 壁と柱は白く当然のように汚れ一つない。

 しかも床は全面真っ赤な絨毯が敷かれ、上を見れば吹き抜けの天井に大きなシャンデリア。

 ロウソクを模した電球を1周配置して、その下には大きめのハート型の透明クリスタルか宝石を糸のようなものでぶら下げている。

 柔らかなオレンジの光が降り注ぎ落ち着いた雰囲気を醸し出してくれている。

 右はじには4つあるテーブル全てに囲むようにソファーいくつも置かれて、写真で見れば完全にホテルのロビーにしか見えない。

少し離れたところに見える二階へ続く階段も豪華の一言。

 金色の手すりに、なんだかひかりを反射して白く見える石の踏面。

たぶんあれ大理石ってやつでしょ。


 ――全くたかが学生寮にいくら金をかけるんだよ。


 想像の遥か上の高級感漂う学生寮に頬が引きつる。

 「なんというかすごいねここ」


 どことなくバカ丸出しの感想が口からもれるように出てきた。


 「それは当然のことだと思うよ。

綺羅星学園はニホン一のアイドル養成学校だもん。すごいに決まってるよ」


 そんな設定があったのか。

 アイドルのことは詳しく語られるけど学校のことは最低限の情報しか出ていなかったおかげで多くの推測がとびかっていた。

 それを全て知ることができる。

 そう思うとアイドルやるのはやっぱり悪くないと思える。

 好きなアニメの裏の裏まで見られるこれほど素晴らしいことはない。


 「いつまでここにいちゃ邪魔になるしそろそろ部屋にいこうか」


 既に頭は探索モード。

未開のダンジョンを踏破しようとする冒険家の気持ち。


 「うん。じゃあまたあとでね」


 手を振ってゆずはちゃんと別れて自分の部屋へ向かう。

 まずは同居人から調べていこう。

 205と掘られた扉のドアノブ上にあるカードキー挿入口にカードキーを差し込みドアノブに手をかけた。

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