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 「じゃあ電気消すわよ」


 お風呂場でとんでもない事実思い出した俺は、気がつくと自室で消灯の時間にベッドに入っていた。

 あれ? 今日の夕食、何食べたっけ?

 完全に上の空で食べちゃったんだ。

 お腹は空いてないし。くっ、とってももったいないことをしたな。

 朝ごはんはしっかり味わって食べよう。


 「うん。おやすみなさい」


 その言葉を聞き終えると同時に雅ちゃんが、電気を消す。

 二段ベッドの下を使っている雅ちゃんは基本部屋の電気を消す担当になんとなく決まっている。

 ベッドに入ったところだが、俺はまだ眠るつもりはない。

 もちろん、ゆずはちゃんかテストライブかどっちを選ぶかその二択に答えを出すために、考えを整理しておきたいからだ。

 現状、どっちかを選べばどっちかは失うことになるらしい。

 仮にゆずはちゃんととって謝ったとしても、もしかしたら友情は戻らないかもしれない可能性も考える。

 テストライブを選べば、当然アイドル道を突き進む覚悟を持つことにもなる。

 1つ切り捨てればもうあとには引けない状況になるわけだ。

 雅ちゃんのおすすめは後者の選択らしいが、あまり選びたくはない。

 それはひかりちゃんらしい選択とは言えないし、俺、個人としてもゆずはちゃんと絶交してアイドルの道を進む選択肢はないと思っている。

 そう考えてなければそもそもこんなに悩まないわけだしな。

 円満解決には両方を取るってパーフェクトな選択を取る以外ないのは既に理解しているが、アニメのようにそんな都合の良い選択肢は残念ながらないらしい。

 テストライブは1人ずつ受ける仕様になっているし、その前にライブをすることは準備時間とかいろいろ考えて、現実的に実行出来そうにない。もしできたとしてもテストライブの成績が下がるのは、確定事項になる。


 「って八方ふさがり何じゃないかこれ」


 改めて状況を整理してはっきり理解できたのは、俺は両方を選びたいと思っているということ。

 現実はどちらを選ぶしかないってこと。

 完全に積んでいる。


 「ひかりまだ起きてたのね」


 あまりの難問に漏れた声にベッドの下から反応が返ってきた。

 

 「雅、もしかして起こしちゃった?」


 「いや、消灯してからまだ10分ぐらいしか経ってないけど……まだ悩み中みたいね。明日に響かないうちに寝たほうがいいわよ」


 雅ちゃんの声音には心配の色が濃く滲み出ている。

 なんだかんだで面倒見のいいお姉さんタイプの雅ちゃんは、口では切り捨てろと言っておきながらその選択を強要してくることはなかったし、案外俺とゆずはちゃんの中を気にしてくれているのかもしれないな。


 「うん。もう少ししたら寝るよ」


 あまり心配させても良くないしな。

 とは言ったものの、どうにかしてでも両方の選択肢を選べるそんなアイデアが浮かぶまで寝られるような気はしないがな。

 だか、結局、具体的な策が浮かぶことはなく気がつくと寝てしまったらしい。



 そのことに気がついたのは空に綺麗な朝焼けが広がり始めた日の出の少し前。

 少し眠りが浅かったのか俺の耳に遠くの方でかすかに聞こえた数人の足音で目を覚ました。


 「こんな朝からランニングしている生徒がいるなんて、綺羅星学園の生徒は真面目な子がおおいな」


 窓に映るスクールジャージの女の子達を寝起き特有のぼーっとした頭と、ピントの合ってるようで合っていない目で、眺めつつ人事のように独り言をつぶやく。

 

 「あの子達確か、うちのクラスじゃないか? やっぱり、テストライブ間で時間少なくなってきたし、朝練でも始めたのかな」


 数日前までは朝からランニングしている生徒はそんなに多くなかった思う。

 まぁ俺が、寝ていて気がついていなかったって話もあるがな。

 やっぱり俺も早朝ランニングやった方がいいかな? まだまだひかりちゃんの身体には慣れてないし。

 意味もなく転けるようなことはなくなったが、ダンスレッスン中はよく転びそうになるし、慌てると身体と噛み合ってないなと痛感させられる。

 うん。もしかしたら走って見たらいいアイデアだって降ってくるかもしれないし、気分転換のつもりでやって見ようかな。

 そう決めるとそっとはしごから降りると、なるべく音を立てないよにクローゼット開けてジャージ取り出す。

 まだ雅ちゃんは寝ているから、起こすわけに行かない。

 普段から迷惑かけてるし、雅ちゃんもしかしたら人に起こされると機嫌が悪くなるタイプの人だったら困るし。

 極力音を立てないように慎重着替えること数分。

 あとはファスナーを締めれば完了というところで、ベッドで寝ていた雅ちゃんが大きく動く。

 やばい起こしたかも。

 一瞬、固まる俺が固まっていると、雅ちゃんがベッドから上半身起こすと上のベッドに向かって声を飛ばした。

 

 「ひかりそろそろ起きないとって珍しいわね。もう起きてるなんて。ってどこか行くの?」


 その途中で目が合った。

 起きてすぐに俺を起こそうとするんなて慣れって恐ろしいですね。

 まぁ普段俺の寝起きがとんでもなく悪いだけなんですけど。

 起こされてから30分は起きないし。

 

 「うんっ。テストライブまであんまり時間ないし、朝の時間を有効利用しようと思って。ランニングをしてこようかと」


 「そういえば最近1年生の中で流行ってるらしいわね朝、ランニングするの」


 そんなの流行するのって、絶対うちの学校ぐらいだろう。

 

 「わたしも窓の外で走ってる子たちを見て走ろうと思ったんだけど流行ってたんだ」


 まぁそれだけじゃなくていろいろあるけどな。


 「あくまでもジンクスみたいなものらしいわよ」


 「どんな?」


 全く聞いたことがないし、女子っておまじないだの占いだのそういうの好きなイメージが、あるし食いついておいた方がいいだろう。

 単純に興味もあるけど。


 「テストライブ前から毎朝ランニングをすると、在学中に人気アイドルになれるらしい」


 「それってただの努力家なだけ何じゃないの?」


 わざわざ朝早起きしてランニングするような真面目な子なら人気出て当然なのでは冷静に思った俺は素直にツッコミを入れる。


 「アイドルの世界は努力だけで売れるほど甘い世界じゃないわ。だから成功者がやってる習慣をジンクスとして験担ぎに使うことはよくあることなのよ」


 「へー。で、その成功者って誰なの?」


 もしかしたら俺の知らないトップアイドルかもしれないから一応聞いておく。

 この世界は俺の知っているキラドリの世界とは少し異なって来ているし、少しでも情報を集めておきたい。


 「月城リリアよ。たまたま話すことができた1年が聞き出したのが、早朝ランニングらしいわ」


 雅ちゃんは何故か渋い顔になりながら

続きを話す。

 もしかしたら雅ちゃんはジンクスとか嫌いなタイプなのかもな。

 

 「そっかリリア先輩か……。ならますますやらないとね」


 ひかりちゃんのリリア先輩好きな設定は守らないといけないので大げさに反応する。


 「ひかりは失神するぐらい月城リリアのファンなのよね」


 「雅、ちょっと機嫌わるくなった?」


 安易にジンクスに頼ろうとするが気に入らないのかもしれない。

 よくあることでも雅ちゃんが験担ぎしているところ見たことないしな。


 「別に……。でも月城リリアにこれ以上差を付けられるのも癪だし私も早朝ランニングするわ」


 違ったただの負けず嫌いさんだった。

 


 雅ちゃんの着替えを待ち、学校のトラックに向かい、軽く走り始めた俺達は澄んだ空気を吸い込み晴れやかな気分でランニングを始めた。


 「ふっ、ふっ、はっ。朝からこれ結構きついね」


 「なに言ってるのよこれぐらいで根を上げてちゃ、月城リリアには絶対勝てないわよ」


 少し前を走る雅ちゃんがまだまだ余力を残した声で返してくる。

 これで息1つ上がってないって雅ちゃんやっぱりチートしてるんじゃないの?


 「雅が、負けず嫌いなのはよく知ってるけど流石にトラック5周したしそろそろ休憩に、してもいいんじゃないかな?」


 「いいえ最低でも10周は、しないと。ひかりはアイドルにしては致命的に体力がないわけだし」


 「えー、これじゃ授業時間をまるごと睡眠時間にあてることになりそうなんだけど」


 朝からこんなに動いたら居眠りしてしまう確信がある。


 「ほら、やっぱり体力ないじゃない。アイドルたるもの体力は基本中の基本。ないと話にならないわ」


 いやそれとこれとは別の体力だと思んだけどな。

 抗議しようと雅ちゃんの方を見ると前から俺の横に移動していた。


 「うわっ。鬼コーチ雅が始まったちゃったよ」


 逃がさないようになのか前ではなく俺の方をガン見して、ランニングフォームに細やかな指導がはいる。


 「残り5週走るまで朝ごはんは食べさせないわよ」


 「うー、それは絶対いやー」


 昨日の夕食、食べたようで食べてないようなものだから、朝はしっかり食べたいので残り5周をしかしかたなくこなすことにする。

 明日から朝ランニングはやめようかなと思いつつ無心で走り始める。


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