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 勉強会の翌日の放課後。

 レッスン室に2人の少女の影が動いている。


 「1、2、3、4、はい、そこでターン」


 授業が終わり完全に人が居なくなったレッスン室に雅ちゃんのカウントと手拍子、そして靴が床に擦れる音が鳴り響いていた。

 俺は今は放課後追加レッスンを受けている。

 ダンスの達人で覚えたのはあくまでも一般向けに優しい難易度に直されたExtremeだったようで複雑なステップを含む今回の課題曲にはほとんど意味がなかった。


 「うわっ。痛っー」


 タイミングを合わせて華麗にターンを決めようとした俺だったが、足を見事にこんがらがらせて派手に尻餅をつく。

 体重が軽いおかげが身体返ってくる衝撃は少なかったが、痛いものは痛い。

 お尻を軽くさすりながら起き上がると厳しい声が飛んでくる。


 「全然ダメ、何ぼーっとしてるのよ」


 「ごめん」


 自覚があるので素直に謝る。

 考え事をしていたのはゆずはちゃんのことで、どうしても嘘つきと言った意味を思い出して謝りたい。

 しかし、雅ちゃんとのエピソードが濃いからか、いくら頭を捻ってもヒントの一つのすら浮かんで来ない。

 アニメにないエピソードだからアニメの知識も役には立たないし。


 「今日1日ずっとそんな調子じゃない。なんかあったの?」


 「ううん。たぶん昨日遅くまで勉強したからかな? 慣れないことはするもんじゃないんだよ」


 心配そうな表情を浮かべられると嘘を着くのがとっても心苦しいが、これ以上迷惑をかけたくないし、雅ちゃんにとって天敵とも言えるゆずはちゃんの話題を出すのはなんだが気まずい。


 「確かに昨日は遅かったけどさ、でもいつもより1時間遅く寝ただけじゃない?」


 「ちょっと顔でも洗って、気持ち引き締めてくるよ」


 分が悪くなった俺は逃げるようにレッスン室から出ていく。

 人通りのほとんどない廊下を歩いて、水道が見えてきたところで、この時間には珍しい人影が見えた。


 「あっ」


 人影の正体は悩みの種のゆずはちゃんだった。


 「………………」


 当然のように俺を避ける様に廊下の端に寄って早足ですれ違おうとするゆずはちゃんを考えなしに呼び止めてしまった。


 「待って」


 「なに?」


 見たことがないくらいに不機嫌なオーラを周囲に撒き散らして、威圧すると、貧乏ゆすりをするように靴底を廊下に高速で打ち付け、イライラしているアピールを入れてくる。


 「あの、その」


 もともと俺は気が強い方ではないし、前世では女子にビビリながら生活していたので、威圧を受けて言葉を奪われたように喉に突っかえさせてしまう。

 俺はゆずはちゃんを呼び止めて何を言いたかったのだろうか?

 冷静考えみて、発するべき言葉を見つけ出すことができなかった。

 よく分からないのに謝るなんて絶対やっちゃいけないことだし、どうして怒っているか自分で考え答えを出すべき何じゃないかと思った。


 「用がないなら話しかけないで」


 しびれを切らしたゆずはちゃんは吐き捨てるように言い放つと、不機嫌オーラをさらに放出しながら去っていった。


 「何やってるんだろな俺は……」


 結局呼び止めてさらに不機嫌にさせただけで無意味どころかマイナスにしかならないことをしてしまった自分自身に嫌気がさして、口から後悔の声が漏れた。



 「今日はここまでにしましょうか」


 ゆずはちゃんとの邂逅でレッスンの質はさらに落ち、見かねた雅ちゃんが予定より1時間ほど早く切り上げを提案して、返事を待たずに片付けを始める。


 「ごめんレッスンに付き合ってもらってるのにこんなぐだくだした感じになっちゃって」


 申し訳ない気持ちが、溢れて雅ちゃんに頭を下げて謝る。

 片付けをしていた手をピタッと止めてこちらに歩く音が聞こえる。

 頭を下げたままの視界に雅ちゃんのレッスン用のスニーカーが映る。


 「そろそろ何があった教えてくれない? いつまでもモヤモヤが続くとこっちまでそのモヤモヤが移って憂鬱になりそうなのよ」


 ぽんと肩に手を置いて、撫でながら言葉を紡いでいく。


 「でも……」


 「レッスン無駄にして悪いと思うなら話して」


 頭を上げて難色を示す俺に、雅ちゃんは確実に話さればならなくなる魔法の言葉をかけた。

 罪悪感を利用したその魔法は俺に葛藤する暇すら与えず、口を割らせた。

 もしかしたら雅ちゃんには見抜かれていたのかもしれない。

 本当は誰かに話を聞いて欲しいとどこかで思っていたその気持ちに。


 「実は……ゆずはちゃんと喧嘩みたいになったの」


 「それで?」


 俺はひとまず起きたことを語った。

 流石に雅ちゃんと俺の噂の件は伏せて大まかにあの日、雅ちゃんが来る前の話を。


 「つまり原因は分からないと」


 聞き終えた雅ちゃんは結論を先に当てると、複雑そうな顔を浮かべてなにやら考える大勢に入る。


 「うん。なんか急に来たかと思ったら突然怒り出したみたいな」


 「一応確認するけど、嘘つきって言った後、怒り出したのね?」


 「うん」


 正確には冒頭から怒っていたが、概ねあっていると頷く。


 「何か約束とかしてなかったの?」


 「たぶんしてないと思うけど、他のインパクト凄いイベント、盛りだくさんだったから自信はないけど」


 この世界に来て平穏だった日はほとんどないので、インパクトの弱い話は忘れている可能性が高い。


 「なら、思い出しに行きましょう?」


 「それってどういう意味?」


 「捜査の基本は現場検証よ」


 「もしかて雅って刑事ドラマ好きだったりするの?」


 なにかの刑事ドラマにあったようなセリフを言い出したので、聞いてみる。

 雰囲気が重くなって来たので、少し空気を変えるきっかけになればと思いながら。


 「小さい時に好きだっただけよ。とりあえずあのぼっちと、あった場所や行った場所覚えているだけ思い出してみて」


 確か出会ったシーンは鮮明に覚えているぞ。


 「入学式の途中に気絶して、目が覚めた時に話したのが、一応この学校に入ってからの一番古い記憶かな?」


 「それで次は?」


 それほど重要なところではなかったのか軽く流して続きを促してくる。

 えーと、学園の外に出た後は寮に向かったはずだから……。


 「その後、雅と会ってご飯食べた時が2回目だよ。それでその後お風呂に入って別れて、その後は確か新入生歓迎会のパーティーの時! でその後が問題のやつで……」


 結構覚えているものだと関心しながら、時系列順に話して見たが、結局ヒントはなかったな。

 確かにゆずはちゃんと一緒いるより雅ちゃんといる頻度の方が高いのはよく分かったが、別にそれは嘘つきの発言とはつながらない。


 「それじゃ現場検証に行きましょうか」


 「現場検証ってなんなの?」


 「実際に現場に行けば、もっと思い出すかもしれないでしょ? いいから付いてくる」


 確かにエピソードって物や場所と関連付て覚えていることが多い。

 写真を見ながらの方が思い出話が弾むのと同じ理屈なんだろうか?

 それならまあ分からなくもないかな?

 名探偵雅と依頼人ひかりの謎解きが今、始まる。

 物語風にすると少しだけ沈み続けていた気分柄上向いた気がする。


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