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 定期テストに向けて久しぶりに真面目に、4時間目までの授業を受けた俺は疲れ果てて、お馴染みの机に突っ伏す体勢で脱力していた。


 「あー、今日はいつも以上に疲れた。なんで全教科一コマで教科書5~6ページぐらい一気に進むんだろう? わたしを殺しに来ているとしか思えないんだけど」


 すっかり板についてきたわたしという一人称に成長を感じながら、愚痴をこぼす。

 

 「そりゃここがアイドル学校だからに決まっているでしょ?」


 隣で教科書をしまっていた雅ちゃんが、愚痴に反応する。

 

 「アイドル学校なのわかってるけど……、それと何の関係が?」


 ここがアイドル学校なのは知っているがそれがどう関係あるのか、全く繋がらない。

 ここが私立の進学校とかなら理解できるけど。

 なんかで聞いた話ではそういう学校は、1年ずつ上の学年の授業内容をやるために進むペースが早いとか。


 「ほぼ毎日午後の時間をレッスンに当てると授業時間足りなくなるでしょ? だからよ」


 「あー、確かにね」


 言われて納得する。

 確かに午後の二コマは基本レッスンか、お仕事のどっちかに当てられる。

 リリア先輩のようなトップアイドルを一部を除いて、現実となったこの世界では、そういうシステムでアイドルをすることになっているらしい。

 残念ながらまだデビューすらしていないので本当なのかは分からないし。


 「2人共、急がないとカフェテリアのパン売り切れちゃうんだけど?」


 雅ちゃんと2人でそんな会話をしている間に教室のドア付近に移動していたあんこちゃんが、急かすように声を上げる。

 目を輝かせて、ぴょんぴょん跳る姿になんとなく無邪気な子犬のイメージを浮かべる。


 「すぐ行く。ほらひかりいつまでも机と仲良くしてないで、さっさと起きる」


 「はぁーい」


 机から身体を引き剥がして、起き上がる。

 結構、集中して授業受けたしお昼はちょっと多めに食べようかな。


 特に問題なく昼食を終えて、いつものようにスクールジャージに着替えた俺は雅ちゃんの方を見た。

 すっかり女子特有の何人かで一緒に行動するのが習慣になりつつある。

 

 「雅。髪くくるの?」


 既にスクールジャージに着替えていた雅ちゃんは、どこからか取り出したのか何の変哲もないただ髪を纏めることに特化した黄色いヘアゴムを片手に、自分の髪の毛を後ろに流して、毛束を作ってくくろうとしていた。


 「まぁ、そうよ。そろそろ動くと汗かいて首筋に髪の毛、張り付いて気持ち悪いじゃない」


 確かにレッスン終わりは基本汗まみれになって、高確率で前髪が汗でおでこに張り付いたり、毛先が汗で濡れて細くなったりする。

 そして雅ちゃんの言うとおり、首の後ろに張り付いてとても気持ち悪い思いをしながらシャワー室に駆け込むことになる。

 男の俺には動く時に、髪をくくるって発想がなかった。


 「へー。じゃあわたしもくくろうかな」


 「ヘアゴムなんて持ってないでしょ?」


 「明日のレッスンの時にしよう」


 アニメの世界なのに都合よくヘアゴムを持ってるなんてことは起こらない。

 

 「さて、今日から宣言通りダンスと歌のレッスンに入るわけだが、まず君たちの中で経験者と未経験に分れてもらいたい」


 レッスンが始まってすぐに先生はそんなことをいい出した。

 今日も凛とした表情を崩さず、クールに指示を飛ばす。


 「えぇと、私は一応経験あるけど2人はどうなの?」


 グループに分かれるのが不安なのか雅ちゃんが俺とあんこちゃんに問いかけた。


 「あたしはパン以外は興味がなかったから、全然やって来なかったよ」


 「わたしも全然」


 大げさに肩をすくめて首を横に振るあんこちゃんに乗っかる形で返す。

 本当はひかりちゃんには、ダンスや歌の経験があるかもしれないけど俺にはそういう経験はないので、嘘ではない。


 「じゃあ一旦離れることになるわね」


 「雅。もしかして寂しいとか」


 明らかに沈んた声のトーンになった雅ちゃんをからかうように問いかけた。


 「そ、そんなわけないわよ。あんこはともかくひかりがないか問題起こすんじゃないかって心配なだけよ」


 問題を起こす前提とは失礼なやつだな。


 「雅じゃないんだから、喧嘩はしないよ」


 流石に問題児認定は、解せないかったので抗議の意味を込めて皮肉を返す。


 「……っ! 勉強会が楽しみねひかり。今夜は寝かさないからそのつもりで」


 その瞬間雅ちゃんから黒いオーラのようなものが放たれた気がした。

 流石にこれはまずいことになってしまった。

 

 「み、雅ったら大胆」


 あまり褒められた手ではないだろうけどちゃかしてしまおう。

 俺の周りにはシリアスな雰囲気など必要ない。

 

 「誤解を生むような反応しないでよ。みんな変な目で見てるから。ちょっとあんこなんで一歩引くの?」


 「やっぱりなのかな?」


 あんこちゃんは小さくそうつぶやくと一歩ほど後ろにさがり、俺達の輪から外れた。


 「そこの塊3人組。さっさと分かれろ」


 注意を受けた俺達は素早く分かれる。

 あんこちゃんの発言が気になるところではあったが、注意されたばかりで私語をする勇気はないので、今は放置。



 「まずは経験組から指示をだしていく――」


 先生は教室の右と左に俺達、生徒を分けさせて真ん中に立ち、指示を出し始めた。

 今は経験ある組に指示を出し始めたので後ろを向いている。

 だが、雅ちゃんの問題児認定が現実になったらきっと、どや顔で本当に朝まで勉強コースになりかねないので、おとなしく指示が来るのを待つことにした。


 「ねぇ、ひかりちゃん」


 黙って待っていると、横から声がかけられた。


 「何? あんこちゃん」


 「雅ちゃんとは本当に何もないの?」


 女子が大好きな恋バナのトーンというよりは探るような慎重なあんこちゃんらしくないシリアスな声のトーンで問いかけてくる。


 「あるわけないよ。だって女の子同士だし」


 恋愛対象については絶賛悩み中なのでしばらくは、そういうことはない。

 たぶんさっきちゃかしに参加できなかったから改めてちゃかそうとしているのだろう。


 「それがさ、聞いた話なんだけどね、うちの学校にいるらしいの女の子同士のカップルが」


 と思ったがそうではないらしい。

 どうやら変な噂をまに受けて、たまたま疑わしい言動した俺達をその噂と、似た状況だったから、確認したくなっただけのようだな。


 「えぇーどうせ噂でしょ?」


 噂なんてあてにならないことが多いし。


 「まぁひかりちゃんと雅ちゃんのことなんだけど」


 「なんでそんなことになってるの!?」


 この世界に来て第2位のパニックだよ。

 どこからそんな噂がたったんだ? 


 「寮を抜け出そうとして、2人揃って、警備の人に連行されてるところを見たって噂から始まって、さっき聞いたんだけど、先週の休みふたりっきりで出掛けて、しかも手を握って見つめ合ってたとか。昼休み始まってすぐ、あたしがちょっと先にドア付近にいた時に聞こえたのだよ」


 心あたりは確かにある。

 警備の人に連行されたのはラーメンを買いに行こうとした時の話だし、もう一つはたぶん、退学を賭けたダンスバトルを受けるか受けないか悩んで時のことだろう。


 「断じて違うから」


 「それにさっきも2人仲良さそうに、今夜寝かさないとか行ってたし、ひかりちゃんの反応も満更じゃないぽかったし」


 この世界きて初めてボケらしいボケをしたのが噂の裏付けの補強材料になるとは。


 「ほんとに誤解なんだって」


 運が悪すぎるけど事実ではないので否定を重ねる。


 「それに雅ちゃんってひかりちゃんの面倒異常なほど見ているよね?」


 ぐっ、それに関しては俺が男だからルームメイトの雅ちゃんは女の子らしさの手本。

 出来ないことは素直に雅ちゃんにやってもらうって言うのがあたり前になっているからでなんて言えるわけない。

 バレたらこの噂なんかより絶対やばい。

 流石に女子力皆無アイドルなんて噂がたてばデビュー前にアイドル生命を絶たれることになる。


 「あんこちゃんはどう思ってるの?」


 「あたし? うーんないとは思うけどたまーに2人が並ぶと男女のカップルに見えることがあるかな」


 それは俺が男だからかな?

 男らしさをかなぐり捨ててでも女の子っぽさを磨いた方がいいのかもしれない。

 でもそれだとより噂が濃くなるのか?


 結局、考えがまとまらないうえに、動揺も重なって、貴重なレッスンの時間は何も得ることができなかった。

 問題が重なりはじめているしなんとかしないとな。

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