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 週明けの月曜日。

 週の始めはテンションが上がらず、やる気も出ない。

 土日のやる気はどこへやら。

 前世からかかり続ける謎。

 病週明け無気力症候群 (命名、俺)のせいで、ぼーっとホームルームを聞き流す。

 本当になんで、月曜日ってやる気出がないんだろうな?

 誰か教えてくれると、きっと対処方法を見つけられると思うんだが。


 ぼーっとしながらも、本当にアイドルとしてやっていく覚悟ができるのかと、疑念が頭をよぎる。

 あの1件は、俺の中の楽しくて、明るい女児向けアニメの世界であるという認識を覆すには充分だった。

 この世界はアニメであっても現実。

 前世で生きてきた残酷な元の世界と何も変わらないのだと理解した。

 もしかしたらこの先、あのお姉さんのように嫉妬や妬みから、この世界で築いてきた友情がぶっ壊れるかもしれない。

 そうなったとしても、上を目指すことが出来るかと、問われれば今はまだ無理だ。

 そんな覚悟は決まっていない。

 というよりそこまでする理由を持っていない。

 ひかりちゃんはアイドルになりたくてここに通うことを決意が、俺は気が付いたらここにいたってだけで、何かを犠牲してでも叶えない夢ではない。

 何を失わないのなら、このままアニメの先をみたい。恋愛をしばらく考えないための言い訳としてアイドルになりたい。

 といった浅すぎる理由でしかない。

 

 それにもともと、争うことがあまり好きではない方だし、やっぱり友達とは笑いながら過ごしたい。

 理想はアニメの世界の関係性だが、それは難しいことは理解している。

 既にアニメでのひかりちゃんの周りにいた仲間と、俺の周りにいる友達はちょっと違う。

 やっぱり無理やりにでもあの子に会いに行くべきだろうか? 

 物思いふけっていると、耳に気のぬけるような明るい声が届いた。

 あんこちゃんである。


 「なんか教室の空気、悪くない?」


 テストライブの話が発表されてから、1年生全体の空気がちょっとピリつき始めている。

 たぶんその影響だろう。

 もしかしたらもう蹴落とし合いがどこかでは起こっているのかもしれない。


 「あんこまさか、先生の話聞いてなかったの? テストライブが終わったらすぐに定期テストって言ってたわよ」


 ん? 何、定期テストだって?


 「雅、冗談だよね? まだ先の話でしょ?」


 焦りで、声のボリュームが調整できなかった。

 おかけで周りの視線を一気に集めるほどの大声がでてしまった。


 「うおっと、急に大声上げでびっくりするじゃないひかり」


 「ごめんでも今、おそろい話が聞こえたようなきがするから」


 まさか、この世界にもやつがいるとはな、アニメじゃテストを受けるシーンとかなかったし、存在しないと思って授業内容ほとんど頭に入れてないんだけど。


 「あんこちゃんは勉強苦手だよね?」


 きっとこのぶっ飛びパンマニアの自由人ならこの危機感を分かってくれるだろうと、じっと見つめる。


 「残念ながら、成績悪いとお父さん、パン屋のお手伝いとかさせてくれなかったから、勉強はちょっと得意なのだよ」


 パンが絡めば世界すら滅ぼしかねないパンマニアだったのを忘れてた。

 ちょっとどや顔してくるあたり自分がアホキャラに見られる自覚はあるのかもしれない。


 「えぇー、あんこちゃんは絶対、仲間だと思ってたのに」


 雅ちゃんは当然、勉強は得意なタイプだし、もしかして、このメンツの中で勉強できないの俺だけ?


 「ひかりさ、もしかて今やってる授業内容理解してないの?」


 疑惑の念がたっぷりと込められた視線が雅ちゃんから飛ばされる。


 「あはは、も、もちろんわかってますよ。当然」


 俺は向けられた視線のおかけで、居心地がとっても悪いので、顔を雅ちゃんとは逆方向に向けて嘘をつく。

 きっと顔は引き攣っている。

 冷や汗が頬をつたって落ちていく。

 心做しか、疑惑の視線が強くなったようなきがするから、もうしばらく後ろを向けない。

 雅ちゃんってめちゃくちゃ勘が鋭いし目を合わせたら授業を理解してないとこバレそうだし。


 「じゃあ、トウキョウの県庁所在地は?」


 今日の雅ちゃんはどうやら俺を追い込んで、ぼろを出させるつもりみたいだな。


 それで、県庁所在地? 何ですかそれは?

 授業でやりましたか?

 元の世界では新宿だったはずだけど、この世界の地名はほとんどがオリジナルのものになっている。

 昨日キラドリフォンで暇つぶしに調べたから間違いない。

 だが、流し見しただけだから覚えてない。


 「知らん」


 一瞬、考えてみたがひかりちゃんの頭は正解を教えてはくれなかった。

 いや、勉強不足なのはわかってるけど、テストないと思ってたんだから仕方ない。


 「はぁー、虹の橋でしょこれぐらい常識じゃない」


 危ねぇー。素直に新宿って答えてたら完全にやばい人認定されてたかもしれないじゃん。

 それよりも問題なのは確実に社会科が終わってしまったということだ。

 でもまぁ中学校は義務教育っていう素晴らしい制度によれば、どれだけ成績が悪くても進学はできる。

 幸い綺羅星学園には、少し離れたところに高等部があるし勉強できなくても高校までは卒業、出来るな。


 「このままだとひかりちゃん退学なんてこともありえるよ?」


 「え?」


 あんこちゃんが放った、死刑宣告じみた言葉に素直にびっくりする。


 「当たり前じゃないうちの学校、1度の定期テストで赤点を3教科書以上とったら退学よ。まぁそれと実技の成績が悪かったらだけど」


 「嘘っ、初耳なんだけど」


 くるっと2人の方を向く。

 なんだよその優しいようでちょっと厳しい条件は。

 中学から退学もありえるって現実以上に世知辛い。


 「いやいや、さっき先生ちゃんと説明してたわよ。それに夏休みに追加で編入の募集してるらしいし、才能のない子は早めに見切りをつけて新しい子を捕まえようって考えたなのかもしれないわね」


 「そうそう、キチンと説明してたよ。でもひかりちゃんぼーっとしてたもんね」


 「そうだけどさ……」


 まさか聞き流していた間にそんな話をしていたとはな。

 それに夏休みの編入試験って確か、アニメの途中で、一人抜けたレギュラーキャラの代わりの補充のために強引に追加されたようなイベントじゃなかったのか。

 なんでしっかり組み込まれて、難易度上げに貢献してるんだよ。

 赤点をとる可能のある教科は、社会科と、数学と英語。

赤転候補3つで、即効退学コースじゃんこれ。


 「わかったわ。今日から寝る前に勉強するわよ」


 俺の顔がみるみる青ざめて行くのを感じとったのか、雅ちゃんはとんでもない提案をしてきた。


 「えぇー」


 勉強嫌いの俺は不満の声を上げる。


 「それ面白そうだね。あたしも参加していい?」


 「ちょうど良かったじゃん雅。あんこちゃんの部屋に行ってやってくるといいよ」

 

 勉強好きどうし仲良くどうぞと、提案してみる。


 「ひかりのための勉強会なんだからこっちの部屋でやります」


 しかし流石は雅ちゃん。

 しれっと勉強から逃げよう作戦は残念ながら失敗に終わってしまった。


 「ちっ」


 「どんだけ勉強嫌いなのよ」


 俺の舌打ちに雅ちゃんは呆れたように反応する。


 「虫より嫌い」


 ほぼ反射的に答える。

 虫は潰せば黙るけど勉強は潰せない上に黙らない。

 放置すると増えるところは同じなのにな。


 「うーわお。それって結構嫌いじゃん」


 そんな俺の意図は全く知らないであろうあんこちゃんはちゃかすように、俺の両肩に手を置き2回ほど軽く肩を叩いた。

 なんか慰められているような気もする。


 「とにかくひかりにはきちんと、勉強をしてもらいます。助けてもらったのに退学なっちゃたら困るもの」


 「ん? 助けてもらった? 雅ちゃん何かやらかしたの?」


 「やらかしたって何よ。ひかりにはちょっと自主退学の危機を救ってもらっただけよ」


 「えぇ!? 自主退学の危機ってそれ完全問題じゃん。ひかりどう言うことなの?」


 オーバーリアクションをしながらあんこちゃんは俺に詰め寄ってくる。

 別に問題がある話でもないし、話すぐらいいだろう。

 

 「いや土曜日に――」 「ひかり、しーっ」


 あんこちゃんを誘わずに休日に遊びに行ったなんて、わざわざいうことでもないか。

 それにお姉さんのことを話すのもよくないと思うし。


 「まぁ、色々あったってことだけは確かだよ」


 色々考えた結果、それだけ付け加えた。

 完全隠すのもそれはそれで気分のいいことではないし。


 「やっぱり雅ちゃん何かやらかしたんだ」


 あんこちゃんは聞いた、情報から言えないほどの問題だと判断したのか、UMAでも見たような表情をした。


 「とにかく! 今日の夜からは自主トレの後に勉強会。これは決定事項です」


 これ以上はよくないと思ったのか、無理やり、そうまとめる。

 さらっと自主トレ追加されてない?

 まぁひとまずテストライブと定期テストを乗り越える。

 当面の目標はそれにしよう。

 あの子を探して会うのはその後でもいいか。

 また、アニメにないイベントが追加されたわけだし。


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