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 お昼休憩で、やる気を充電した俺は、再びダンスの達人のあるフロアへと戻ってきた。

 時刻は12時50分。

 ハンバーガー1つ食べの自体は10分もかからなかったが、その前の女子トーク? が盛り上がってしまったおかげで30分ほどロスしてしまった。

 女子はおしゃべり好きというのは事実のようだな。

 少し歩いてダンスの達人が遠目で見えるところまで来ると筐体の前に人がいるのがわかる。


 「ありゃ、既に先客がいるよ」


 1つしかないダンスの達人の筐体の前には動きやすい格好に髪をまとめあげ、一心不乱に、ダンスをしている女性の姿が。

 淀みなくキレのあるプロのようなダンスを披露している。

 もしかしたらプロのダンサーとかなのかもしれない。

 ハンバーガーを食べながら、ちょっとダンス達人について調べが、ダンスレッスンの設備として、取り入れている学校やダンススクールも結構あるらしい。

 後ろ姿と雰囲気的に、たぶん俺達よりは年上だろう。


 「ほんとね」


 まだはじめたばかりなのか、かかっている曲は序盤の方だ。


 「しょうがないから別のゲームで遊んで時間を潰そうか?」


 本当に不本意だが、先客がいるなら仕方ないと思いつつ、弾みそうに声を抑えてそう提案する。

 いやーやる気はあるんだけど本当残念だなー。


 「こういうゲームでは他の人のプレーも参考になるってネットに書いてあったから却下よ。というか、ひかりちょっとサボろうとか思ってるでしょ?」


 横に立つ雅ちゃんの鋭い目がこちらを射抜く。

 スナイパーに照準を合わせられたような寒気が背中に走る。

 まさか見抜かれたのか?


 「そんなわけないよ? やる気充分!」


 額から頬へと、流れる冷や汗を誤魔化すように、小さめの拳を上げて、やる気をアピールする。

 もしもサボろうとしていたことが、バレたらきっと、追加で何やらされるに決まっている。


 「じゃあ、やる気充分ならあの人のプレーを見て振り付けを覚えることね」


 面倒くさっと、反射的に出そうになった言葉を飲み込む。


 「ぐっ、って雅、どこいくの?」


 目の前でキレ良く踊るお姉さんを指さしたあと、雅ちゃんはどこかに向うのか突然歩き出した。


 「あんまりそういうこと聞かないの。女の子ならデリカシーぐらい持ってた方がいいわよ」


 「あー、ごめん」


 あートイレね。

 確かにいちいち聞くのはデリカシーがないと言えるな。

 これは反省。



 「あれは廃人って言われる部類の人なのかな?」


 雅ちゃんに言われた通り一通りお姉さんのプレーを見て、最後に表示されたリザルトを見て思わず感想をつぶやいてしまった。

 このゲームにおける最高評価であるオールパーフェクトの文字が画面には踊っている。

 リザルト画面が消えるとお姉さんは後ろに人がいないことを確認して、再びスタートボタンを押した。

 

 「というかあの人どんだけ踊るつもりなんだ?」


 この感想がでたのは俺がプレーを見始めて3回目のリザルト画面が出たところだった。

 そろそろ雅ちゃんが居なくなって15分程が経過している。


 「雅ちゃんちょっと遅くないか?」


 なにかよからぬことに巻き込まれているのではないかと、不安が頭をよぎる。

 


 「入れ違いなっても困るけど、いくらなんでも遅すぎるし、探しに行くか」

 

 気になってしまえばもうレッスンどころではないと言い訳をして、捜索に行こうと後ろの方にあるエスカレーターに乗ろうと身体を反転させたところで、後ろから声がかかった。


 「どこ行こうとしているのひかり?」


 「あれ? 雅なんでそっちの方から出てくるの?」


 トイレは確か受け付けのフロアだから戻って来るにしても、エスカレーターと逆側からなのは不自然。


 「この店のお手洗い故障中で、1階のゲームセンターまで降りて行かないとお手洗いがなかったのよ。こういう時に限って男のスタッフしかいなし、探すのすごい手間取ったわ。しかも出てきたところに気持ち悪いおっさんが声かけてくるし、もう最悪。何が魔法少女モモたんに似てるって言われませんか? よ。思い出したらなんかムカついてきた」


 地団駄でも踏みかねないほどに荒れた雅ちゃんが拳を強く握りしめて、軽いシャドーボクシングを始める。

 どんまいおっさん。

 でも、アニメキャラに似てる人にあった時のテンション上がって声かけちゃう気持ちわかるよ。

 まぁ俺の場合はキャラそのものにあっているんだけどな。

 

 「まぁまぁ雅落ち着いて。きっとそのおっさん? も悪気はなかっただろうしさ」


 そう、彼には悪気はないのだ。

 ただキャラに似てるを見つけてテンションが上がってらしくもないことをしてしまっただけなのだ。

 街中で芸能人を見つけて声をかけるのと変わらない。


 「まぁ、人睨みしたらすぐに逃げて行ったけど」


 「ね? ちょっとテンション上がっちゃただけだよきっと」


 「妙におっさん庇うわね……もしかしてひかりって」


 これはもしや男だと、バレてしまったのか?

 流石におっさんを擁護し過ぎだったかな。

 どう誤魔化そうか考えて始める。

「枯れ専なの?」


 よりにもよってなんてことを言いやがる。

 枯れ専ってなんだよ。

 そもそも俺は男だぞ? 何が悲しくておっさんを恋愛対象しなければならないんだ?

 頭に駆け巡る考えを余すことなく雅ちゃんぶつけるわけには行かないので、数秒考えて、できるだけ怒り感情を抑えて、あくまでも軽い感じに。


 「それはないし、声かけてきた人気持ち悪いおっさんだったんでしょ? 絶対ないわ」


 今のは流石に口から絶対発してはいけない秘密なので、なんとか抑えられことに安堵のため息をつく。


 それに恋愛対象にするなら、最低でもイケメンがいい――いやそもそも男はないな。 

 ひかりちゃん生活始めてから女の子らしい生活しかしてないからちょっと頭がおかしくなりはじめたかもしれない。

 あくまで冷静に、俺は男だと言い聞かせる。


 「そうよね。そもそも、アイドルって恋愛禁止ってイメージあるものね」


 「そうそう。恋愛、ダメ絶対だよ」


 この世界でもアイドルは恋愛禁止の風潮があるらしく、一安心。

 やっぱり俺の選択は間違っていなかったようだと、安堵したのも束の間。

 

 「あなた達さっきからごちゃごちゃとうるさいんだけれど?」


 背中に浴びせられた、冷水より冷たい声に、なんだか人波乱来そうな気配がしてきた。

 主人公ってトラブルに巻き込まれる体質だったりすることが多いけど休日ぐらいほのぼのした感じで終わらせてほしい。


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