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 駅を一歩外に踏み出せばそこはもはや異世界と呼ぶべき光景が広がっていた。

 ひしめき合う人は流れをつくり、川のようにせわしなく動き続けて、都会特有の時間に追われて額に汗をにじませるスーツ姿の人が走りさっていく。

 お仕事ご苦労様です。

 思わずそう言ってしまいたくなるほどに忙しそうにしている人達であふれかえっている。

 前世では地方に住んでいたので、ここまでの規模の人だかりを見る機会がなかった。

 ニュースで見る帰省ラッシュレベルの混み具合。

 空を見上げれば視界の端にビルが映り込む。

 のどかな先ほどの駅と比べるまでもない完璧な都会にやってきてしまった。


 「ほへぇー」


 「ひかり。女の子がなんて顔してるのよ」


 驚きと感嘆と感動を混ぜ合わせた感情が渦巻き、無意識に口から漏れる声に、電車を降りて、すっかりテンションが元に戻ってしまった雅ちゃんは、呆れたような冷たい目でこちらを見た。

 口を大きく開けて餌をねだる鯉のような顔をしてる自覚はあるけど、都会の迫力が悪いんだからそんな目を向けないでほしい。


 「いや、これが都会なのかぁって思っていさ」

 

 「ひかりってそんなに田舎の方に住んでるの?」


 「え? ………………」


 何の気なしに聞いてきたであろう質問に思わず固まってしまう。

 その質問の正直な答えは知らないだ。

 俺は雛星ひかりの過去をほとんど知らない。

 というか俺ひかりちゃんの家の住所知らないし。

 アニメでしっかり住所まで作りこむような作品なんてないしな。

 せっかく出来たこの世界ではじめての友達にデタラメを吹き込みたくもない。

 嘘はつきたくないけど、真実話すこともできないその板挟みで俺は発する言葉を見つけられずにいる。


 「どうしたの?」

 

 黙ったままの俺に怪訝な顔をする雅ちゃん。

 何か考えないと。

 ひかりについて知ってることを思い出す。

 そうだ、確かに両親はカフェやってるはずだから店名の検索すれば……。

 キラドリフォンを取り出して、検索をする。

 だいたい飲食店の情報はネットに上がっているものだし。

 あとはアニメに写っていた外観と近いものを探して、そのカフェの情報を見せればいい。

 ひかりちゃんの実家のカフェは人気があるらしくすぐに見つかった。

 レビューの星四つもあるじゃん。


 「ここだけど」


 キラドリフォンの画面を見せ、そこに表示された赤い屋根の二階建ての建物のを指さす。


 「ひかりの家ってカフェだったの?」


 画面を覗きこみ、眼球を数回、左右に動かしてからちょっとびっくりした表情をこちらに向けてくる。


 「あれ? 言ってなかった?」


 そういえば、ひかりちゃんの身の上を誰かに話したことはなかったな。

 自分の話ではあるけど他人の話を語るみたいで、ちょっと違和感と嘘をついているような気分になるし、あまり話したことはない。

 まぁ知らないってのもあるが。


 「今度行って見たいわ。その時は案内して」


 「あぁ、うん、機会があれば……」


 そういえばひかりちゃんの両親ともこれから関わって行かなきゃならないんだよな。

 バレたりしないだろうか?

 

 「それ社交辞令ってやつじゃん。ママがパーティーで口説かれた時に同じこと言ってたし」


 「ちょっとした冗談だよ」


 できれば、覚悟が出来てからにしていただきたいとは、思っているが……。


 「まぁ、いいけどさ」


 とくに気にした様子はなく、目的地へと歩いていく。


 しばらく雅ちゃんの後ろを黙って歩いていると、急に振り返ってビルを指さす。


 「ついわよ」


 「ゲームセンターっ! なんだかんだテンション上がってくるよ」


 雅ちゃんの指さす先を見て心躍った。

 ビルの1階部分には大きくゲームの文字が書かれた看板が掲げられていて、入口付近にはよくわからない大きなぬいぐるみがクレーンゲームの中に入れられている。


 「違うわよその上よ」


 「げっ、フィットネスジム? わたし用事を思い出したので帰ろうかな」


 そのに出ている看板を見ると、このビルは8階建てらしく、1階と2階がゲームセンターになっている。


 「その上よ。あとしれっと嘘つかないの」


 言われてその上の看板を見ると。


 「アミューズメントパーク? なんだ結局遊ぶんだね?」


 丸文字で、アミューズメントパークと書かれた看板をみながら一応確認をとる。

 雅ちゃんには怠け者である性根はとっくにバレているし、騙してフィットネスジムに連れ込まれる可能性もゼロじゃない。


 「ええそうよ。ほら中に入りましょ?」


 手を掴まれて、引っ張られるように中へと連れ込まれていく。



 「フリータイムパック中学生2人分で」


 疑っていた俺を引っ張り、エレベーターに乗ってやってきたのは本当に、アミューズメントパークだった。

 受付を済ませ、荷物をロッカーに入れると、少し移動すると目の前にはたくさんのゲームが。


 「でさ雅。何して遊ぶの?」


 ウキウキとしたテンションを抑えつつ、髪をくくって運動モードになっている雅ちゃんに語りかける。

 本当に今日は完全な休日ということか。

 疑ってすまなかったと、少し反省。


 「これよ」


 「なにこれ?」


 「これはダンスの達人っていうダンスを踊って得点を競うゲームよ」


 うわっ。前世のゲームを混ぜ合わせたようなタイトルのゲームだな。

アニメにはパロディー要素はつきのものだけどさ、これ各方面から怒られたりしないかな……。

 

 「なるほど楽しくゲームをするんだね?」


 今日は休日ということはもうわかりきったことだしきっと雅ちゃんはこのゲームをずっとやってみたかったとか、

そういうことに違いない。


 「何言ってるのよ? 今日はこの中の1曲を最高難易度で、オールパーフェクトで踊りきれるようになってもらうわ」


 俺の心の中での謝罪を返せ。


 「雅。どうしてそんなひどいことをっ」


 瞳を潤ませて、悲壮感をまとい顔を伏せながら演技をする。

 

 「ひどいって、失礼ね。ひかりはちょっと目をはずすと、すぐに怠けるから、楽しくレッスンできる方法はないかって考えたのよ。それに私も一緒に踊るわ」


 「でもオールパーフェクトなんて……1日じゃ絶対無理だよ」


 「もしパーフェクト取れたら帰りにラーメンを買うことを許して上げるわよ」


 結局まだこの世界では前世のソウルフードであるラーメンを食べられていないのでそう言われるとやる気に火がともる。


 「よし、やってやろうではないか」


 訂正、雅ちゃんは優しい。


 「なにその口調」


 「気合を入れてやらないと思ってさ」


 「じゃあ、難易度は1番難しくていいわね」


 「最初はNORMALぐらいでいいんじゃないかな」


 こういうゲームでいきなり高難易度に挑むなんて絶対ひどい結果になると思うし、ルール把握のためにも簡単から始めたい。


 「最初だけよ」


 しぶしぶと言った様子で、NORMALに難易度を合わせ、この世界ではメジャーなアイドルソングを選択する。

 なるほどゲームで楽に振り付けを覚えることができるようになっているわけか。


 関心していると曲が始まった――。


 「はぁ、はぁっ、んぐっ。これNORMALからしてめちゃくちゃハードじゃん、これ」


 1曲終えた俺は額に汗をにじませる呼吸を思い切り乱していた。

 ひかりちゃんの身体では全く感覚がつかめず、単純なステップですら危うい。

 最近ようやく意識しなくてもこけないようになってきたところだったが、歩くのと、ダンスはまた別物。


 「さぁー次の曲行きましょうわよ」


 「なんでそんなに元気なの」


 「鍛え方が違うのよ。次はExtremeでいいわね?」


 「5分ほど休憩も貰えれば……」


 ダンスレッスンが始まる前に知ることが出来て良かったけど、無事に生きて帰れるかな。

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