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 新入生歓迎会の日から早いもので、一週間が経過した。


 「あー、づがれだー」


 机に思い切り身体を預けて、しわがれたような声を出す。

 これじゃあ完全におじさんじゃん。

 

 「うーわ、今日のひかりちゃん、水分の多い菓子パンみたい」


 いくらパンに例えるのが好きだからからって流石にマニアック過ぎてよくわからないぞ。


 「それってどういう意味?」


 頭は机につけたまま目だけで上の方をみる。

 視界に映るのはもうすっかり主要メンバーになった赤い髪。

 授業中は流石にパンを頭に乗せる暴挙に出ることはなく、ハイテンションパン好きガールが、からかってくる。


 「なんか、しわがれてちゃってるみたいな?」


 横に座って小首をかげる。


 「どっちかっていうと枯れかけの花とかじゃないの?」


 再び机に身体を預けようと顔を伏せた瞬間、逆サイドからクールな声。


 「どっちもひどい例えだと思わない?」


 流石に男の俺でも傷つく例えだったので反論する。

 しわしわのパンと枯れかけの花どっちにしたっていいものではない。


 「ひかりがシャキっとしてればそんなことは言われないの。ほら起きてお昼ご飯にいくわよ」


 そういえばもうそんな時間なのか、授業がハイペース過ぎて何時間目か気にする暇なかったもんな。


 「復ー活っ」


 今のこの生活の唯一と言っても過言ではない楽しみの食事の時間とあれば疲れなど一旦、側におくことぐらい造作もない。

 かばっと勢いよく起き上がり、そのまま立ち上がる。

 若干筋肉痛に響いたがこれは仕方ないので我慢。


 「雅ちゃんのひかりちゃん捌きは今日も一流だね」


 「そりゃルームメイトでもあるわけだし、それに放って置くと危ないもの」


 あんこちゃんが褒めると雅ちゃんは愛想笑いの時のような微笑を浮かべて、サラリとひどいことを言い放った。


 「危険物扱いとか一番ひどい」


 もちろん抗議の声を上げる。


 「昨日だって夜食とかいって、夜中にインスタントラーメン買いに行こうとして、警備の人に怒られたわよね? こっちにまで被害が来てるのに危険物じゃないと言うわけ?」


 「あはは、えへっ、でも、入学してから1度も食べてないし」


 苦笑いのあとに誤魔化しの笑を浮かべる。額にはいつの間にかにじんで汗が滲み、すっと頬に落ちてくる。

 リアクションはアニメのままなのでとてもわかりやすい。


 こっち世界に来てから、ラーメンとか揚げ物とか、前世の胃袋の友をほとんど食べることが出来ずにいた。

 そして昨日唐突に、ラーメン食べたい病にかかって夜中に、コンビニ行こうと思い立ち、こっそり部屋を抜け出したがあえなくバレて、警備のおっさんのお世話になってしまった。

 流石に夜中まで寮の前の警備が常駐しているとは予想外だった。


 「基礎の筋肉トレーニングしてる最中は油物とかの高カロリーなものは、控えるように先生言われたでしょ?」


 「あくまで控えるようにだもん。絶対禁止じゃないじゃん」


 俺がそう言うと、雅ちゃんは意地の悪い顔を貼り付けて、


 「そんなんじゃあ、いつまでたっても本格的なレッスンに入れないわよ。ひとりだけ留年することになるかもしれないわ」


 「昨日は結局食べないないからセーフ」


 一瞬想像して、流石にそれは恥ずかしいと思ったので、急いで反論する。


 「まだ諦めて内容に聞こえるんだけど?」


 「基礎レッスン筋トレ編が終わるまでは我慢するよ……」


 仕方ない最大限の譲歩だ。

 ラーメンアイドルになったら会いに行くよ。


 「二人ともそろそろ行かないとお昼の時間」


 「「あっ!」」


 教室にある時計を見て、同時に声を上げる。

 こんな感じて慌ただしい日々をおくりながらも楽しく充実した日々を過ごしている。


 お昼を終えれば午後はレッスンがはじまる。

 まぁ基礎レッスンというなの筋トレなんだが。

 この世界ではテレビやCM、ラジオ、イベントなど、人前に出るお仕事のほぼすべてにアイドルが出演することが当たり前にある。

 アイドルメインのアニメらしいといえばらしいのだが、その分競争率もとんでもないことになっていて、恐ろしくレッスンがきつい。

 一定以上の水準にならなければデビューどころかオーディオすら受けさせるつもりはないというのが綺羅星学園の方針。

 となればデビューする前のアイドルの卵は当然きついトレーニングを行う。


 「くっ、きっつうー。はぁーー」


 全身を投げ出して大きく息を吐く。

 完全に地獄だよこれ。

 呼吸するだけで動く腹筋が痛い。


 「ひかりまだ半分しかやってないじゃない」


 「もう一週間も腹筋させられてるんだもん筋肉痛がひどくて」


 校内見学の翌日から基礎トレーニングとして腕立て、腹筋50回が最低ノルマとして課せられた。

 他にもたくさんあるが、今はおいておこう。

 まだ今日の分の腕立てやってないし。


 「ひかりちゃんは体力がないなー。こんなの100ぐらい余裕、余裕」


 しゃべりながら俺の倍ほどのペースで軽々と腹筋を鍛えるあんこちゃん。


 「あんこちゃんは体力ば……んん、元気いっぱいだから余裕なんだよ」


 思わず本音が漏れそうになるのをなんとか言い直し、腹筋を再開するために気合を入れ直す。

 この世界の人間絶対チートか何かしているに違いない。


 「ひかりの体力がなさすぎるのが問題だと思う。小学校の時運動会しなかったわけ?」


 アニメに過去編なんてないから全然わからないんだが?

 ここはとりあえずあまりないが推理力をはっきする時だ。


 「全く。これっぽちもしてないけど」


 腹筋だけでここまで苦しい思いをするのは普段運動をしていないからだろうと推理しつつ答える。

 

 「これはレッスン以外にもメニュー追加しないとまずいんじゃないの?」


 確かに他のクラスメイトは苦しそうな顔そこしているものの、中断することなく腹筋を続けている。


 「ええーこれ以上やったら死ぬって絶対」


 しゃべる度に刺がささったような痛みを与えてくる腹筋を見ながら首を横にふる。


 「そんなこの言ってると、どんどん周りに追い越されちゃうわよ」


 「それは…………まぁうん、人にはそれぞれ自分のペースってのがあるからさ」


 そうボディービルダー目指しているわけでもないからそこまでやる必要はないと思う。

 それにまだダンスも歌も練習してないしステージに立つのはまだまだ先のことだろうし無理せずやるほうがいいに決まっている。


 「まぁ大変なひかりだしあんまりとやかくは言わないけどさ。それじゃ次のメニューは――」


 腹筋を余裕で終えた雅ちゃんは次のメニューへと移行する。

 さて、俺も腹筋に戻りますか。


 ぎりぎりでノルマを終えてすぐのこと、どこかに言っていた先生が戻って来るとすっと整列する。


 「では、今日の授業はここまで。最後に皆に伝えておくことがある。来週からダンスと歌のレッスンに入る。

 そして5月のはじめにテストライブをする」



 1人のアホぽい生徒が、質問をする。


 「あのせんせー、テストライブってなんですか?」


 「この授業にでの実技評価を決めるテストだ。成績が悪ければ当然補習がある。めったにないことだが成績次第では夏休みが無くなることある」


 「ステージには何人かで立つんでしょうか?」


 まぁ時間短縮のために集団でテストするってことはよくあるし、ひとりよりはそっちの方が、気も楽だしいい質問だ、アホぽい少女よ。


 「当然ながら1人ずつ行うことになるしっかり準備するように」


 先生の話を聞き流しながら、ゆずはちゃんとの約束について思い出していた。

 最初のステージ一緒に立つことできなくなってしまたけど、どうしよう?

それにステージ、ミスなんてしたら絶対笑いものになるじゃん。

 筋肉痛がどうとか言ってる場合じゃなくなったぞ。


 授業が終わってすぐ俺は雅ちゃんに声をかけた。


 「雅、あのさ、追加メニューのことなんだけどさ……」

 

 「自分のペースがあるじゃなかったの?」


 やる気になったことが嬉しいのかちょっとにやけた顔して、先ほどの俺のセリフをいじってくる。


 「テストあるんだし、そんな流暢なことは言ってられなくなった」


 「結構きつくするわよ?」


 「多分、大丈夫。でも、死なない程度でお願いします」


 とうとうステージ立つことになりそうです。

 生きていられるといいな。

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