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 「なんだろう?」


 薄暗くなった体育館に少しの不安を感じながら雅ちゃんの近くへと移動する。

 らひかりちゃんの身体は暗いのは苦手なようだな。

 どうやら身体と俺の意識はまだ噛み合っていないようだ。

 と他人事のように考えがながら、唯一明るくなったステージの方に目を向けた。

 「ステージに誰が登っていくわよ」


 ステージにたったのは知らない生徒だった。

 薄茶色の髪をしたの方で二つに縛っている。

 顔は遠目だからはっきりと見ることはできないがたぶん可愛い系に違いない。

 少し低い背と髪色からなんだかリスのような印象を強く受ける。

 リス先輩と勝手に呼ばせていただこう。


 「新入生の皆さん、楽しんますかー? ここからは上級生達の演し物のお時間です。今日のためにたくさん練習してきたので最後まで楽しんでいってくださーい」

 

 派手な身振り手振りを交えながら小さい身体に合わない大声でピョコピョコと動きながら司会をするリス先輩。

 なんだか癒されるなぁー。

 見ているだけで一日の疲れが溶けてなくなるような気持ちになる。

 そうそうアイドルってこういうものだよなぁ。

 決してパンの帽子をかぶったり、ブチキレて殴りかかったり、それを返り討ちにしたり、二人揃えば火花を散らし合うような人ではなくましてや見た目は女、中身が男ものでもない。

 こう考えると俺、成り行きとはアイドルやろうなんて思ってたけどアニメの通りに売れっ子になれる自信ないんだが。

 この学校アイドル学校なのに俺の知り合いほとんど、アイドルとしてどうなの? ってやつしかいない。

 アイドルにはキャラ付けも大事って話はあるけど許されてぶりっ子よりきついキャラはどうなんだろうか?

 そうこうしているうちに最初の演し物が始まった。


 「マジックみたいだね」


 最初に出てきたのは二人組の先輩。

 ひとりは大きいシルクハットに白のジャケット。中に赤いベスト、なんだがとっても光を反射してベストが目立つ。

 下はジャケットと同じ色のミニスカート。

 足には大きめ網目のタイツにヒール。

 完全にデザイン重視のちょっと色気のある、ハロウィンでしか見ないようなコスプレ衣装。

 しかも地味に巨乳なところがなんとも悩ましい。

 もし男のままその先輩を凝視していたら完全スケベ認定されていたところだった。

 男の身体じゃないのが今はとてもありがたい。

 続いて出てきたもう一人がもっとやばかった。

 まず目に飛び込んで来たのは布製の黒いうさぎの耳。

 少したれたようにフニャとしていてキュート。

 見にまとうのは胸元と太ももを思い切って出したレオタード型のバニースーツ。

 付け襟には黒の蝶ネクタイ。

 足はとっても薄い黒のストッキングでマジシャンの格好の子より高いハイヒールを履いていて、正しくバニーガールと呼ぶべき子がやってきた。

 横向いて歩いているので少しだけ見える丸く白いしっぽがなんとも素晴らしい。

 しかし着ている先輩は恥ずかしいのか顔を赤くして時々もじもじした風に歩く。

 これはこれでなんか可愛いな。


 「それではまず挨拶代わりにこの種も仕掛けもない帽子から鳩を出します」


 クルッシルクハット一回転させ、手に持った杖で軽叩く。

 シルクハットの中に手を入れ、出すと手には鳩が乗っていた。


 「おおーっ」


 会場から驚きの声が上がった。

 当然俺もその中のひとりなのだが、隣いる雅ちゃんだけは真剣にマジシャンの子を見つめていた。


 「雅マジシャンの先輩どうしたの?」


 「マジシャンって見てるとタネを暴きたくなるのよ、絶対暴きたいから話しかけないで」


 絶対いるよなこういうマジシャンとかのタネをあばこうとする人って。


 「が、頑張ってね」


 ステージとかなり距離があるしたぶん無理だと思うけどな。

 その後もカードマジックやらはや着替えマジックなどとても素人とは思えないクオリティのマジックを見て、1発目でとっても満足してしまった。


 「「ありがとうござましたー」」


 バニーガールとマジシャンが一礼して幕が降りる。

 次の演し物まで少しの休憩時間。


 「で、雅。なにかマジックのタネ見破ることできたの?」


 「残念ながらできなかったわよ。あのマジシャンなかなかいい腕してるじゃない」


 「やっぱり負け犬はいつも負け犬だね」


 「なんですって? そう言うぼっちどうなのよ? タネ見破れたのあるわけ?」


 ああ、また始まったよ。

 どうしてこの二人こんなに相性悪いだろう?

 しれっと悪口でお互い呼びあってるし。

アニメではそこそこなか良かったはずなのに。


 「もちろん。鳩のマジックならわかるよ」


 「どうせハッタリでしょ?」


 「あれは帽子が――」


 「待って、そんな夢のない話、わたし聞きたくない」


 「ひかりちゃんが聞きたくないってるしやっぱり言わない」


 「ちょっと」


 「マジックのタネ明かしとかネタバレとかするやつは滅びればいい。なんでまだ見てない人いるのに平気でSNSにオチを投稿するんだよ」


 「ひかりちゃん?」


 おっと、前世の記憶が溢れてしまった。

いかんいかん。


 「ううん。ちょっと取り乱しただけ」


 「うん」


 次の演し物は燕尾服をきた二人組が漫才をしたが、先ほどマジックならクオリティがすごい過ぎてややウケ止まりになってしまった。

 その次がバンドで、この世界の流行りの曲を演奏してくれたようだが、俺はこの世界のことをほとんど知らないので、ボケーと聞き流して、雅ちゃんは何か思うところがあったのか、微妙な顔をしていた。

唯一喜んだゆずはちゃんは、


「バンド、なんかカッコイイね」


 と、めちゃくちゃテンションを上げて喜んでいた。

 はしゃぐゆずはちゃん。ちょっと微笑ましいな。

 そしてまた数分の休憩時間のあとなんとリス先輩が再び壇上へと登ってきた。


 「では皆さま最後演し物になりました。最後をかざるのはやっぱりわが校のクイーン、月城リリアのライブです」


 その言葉にどっと会場が沸いた。

 友達同士で手を取り合い喜びを確かめあう。

 リリア先輩の人気はやっぱりすごいらしい。

 俺も周りの子達のようなことをした方がいいのだろうかと、ゆずはちゃんの方を向く。

 雅ちゃんは絶対そういうことを人前でやってくれなさそうだし。


 「ひかりちゃんリリア先輩のライブだけど大丈夫?」


 そういえばひかりちゃんはリリア先輩をみて失神した過去がある。

 が俺はひかりちゃんではないのでそんな心配は無用だ。


 「流石にもう大丈夫だよ。ケーキも食べたし、気合い充分。絶対失神したりしない」


 力こぶを作るように腕を曲げて気合をアピールして見る。

 

 「昨日倒れた新入生ってひかりのことだったの?」


 そういえば倒れたってことは雅ちゃんに話したことなかったな。

 いや恥ずかしいし、絶対自分から話すつもりはなかったけど。


 「あっ、そのことは早めに忘れていただけるとありがたいと……」


 「どうしよっかなー」


 「あっ、リリア先輩出てきたよ」


 ゆずはちゃんの声で俺と雅ちゃんはステージの方を向いた。


 リリア先輩はピンチ色の衣装に身を包んでいる。

 特に目立つような装飾のないシンプルなデザインのドレス。

 なのにリリア先輩にとても似合っていて、不思議と輝いてみえる。

 ゆっくりステージの真ん中にたってすっとスタートの体勢に入る。

 しんと、空気が張り詰める。

 そしてそのまま一秒ほど無音の世界が続き、曲が流れた瞬間空気大きく変わった。

 アップテンポの曲に乗せリリア先輩が踊り始める――。

 

 「ふはぁーーーっ。やっぱりすごいね、雅?」

 すごい以外の感想がうかばないまま興奮を誰かと分かちあいたい衝動に駆られて雅ちゃんに話かけた。

 しかし、すぐに反応がなかったので、横目で雅ちゃんを見る。


 「くっ……………………月城リリアっ」


 下唇を噛み締め、悔しそうな顔をして忌々しげにリリア先輩の名前を呼ぶ雅ちゃん。

 明るい雅ちゃんとは違う雰囲気をまとったままずっとリリア先輩を射抜くように凝視する。


 「雅?」


 恨みのこもったような視線に疑問を持った俺をもう1度話しかける。

 ライブを見ているのに迷惑だとは思ったが、親の仇でも見るような視線の人が横にいてはこちらも楽しめないので許して欲しい。


 「えっ? 何か言ったの?」


 慌てたように反応すると、いつもの明るい雅ちゃんに、戻った。


 「ううん、すごいライブだったねって」


 「……そうね」


 そして二曲目がはじまる。


 ライブが終わり、俺達の間にはしんみりとした、というか暗い雰囲気が流れていた。

 たぶん圧倒的な才能ってやつに当てられたのだろう。

 俺も最初はすごいすごいって喜んで、興奮していたけど、3曲あたりからその才能に気が付き、すべて終わった今はこんなすごい人と戦って勝てるわけないと、思いはじめている。

 アニメではリリア先輩と対決ライブして勝つシーンだってある。

 避けて通れない最強の敵でもあるのだ。


 「そろそろ帰ろうか?」


 歓迎会は終わり、新入生が出口に固まり出したころようやく俺はその言葉を絞り出した。


 「そうしよう」


 「そうね帰りましょう」


 仲の悪い二人も意見が合いそのまま寮へ歩き出した。


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