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 「それにしてもこの学校無駄に広いね」


 疲れたことを隠すことなくつぶやいた。

 ほんとこの学校広過ぎ。

 学校を歩くだけで足が痛くなるってどういうことなのだろう?

 それともひかりちゃんは運動不足気味な子だったのかもしれない。


 「アイドル学校ならではの設備もあるんだものそりゃ広くなるわよ」


 横に並んで呆れた表情を浮かべながら、まだまだ余裕そうな雅ちゃんを見ながら少し運動をしてみようかと考える。

 汗ひとつかいてないし、雅ちゃんの足腰はいったいどうなっているのだろうか?

 筋トレとかストレッチとか日課とか言ってたし、腹筋割れてたりするのかな?

 腹筋割れてる女子ってなんだなか男的にはちょっと引くな。

 やっぱり引き締まっていても腹筋割れないぐらいがちょうどいい。

 ひかりちゃんの身体みたいに。

 いやまて、これだと自分の身体を褒めるナルシストか、女の子の身体を評価する変態じゃん。

 とどうでもいいことを考え始めるぐらいには集中力を欠いている。

 しかし、シュミレーションルームでの見学のあともいろいろ見て回ってきた俺達は、ようやく3階の真ん中ぐらいまできていた。

 4階はまるごと屋上になっているらしく春先の今は開放されていないらしい。 (雅ちゃん調べ)

 なのであと少しで校内見学を減点無しで乗り切ることができる。

 と思った矢先。


 「ん? これは…………!!」


 少し先を歩いていたあんこちゃんが急に立ち止まり、スンスンとこっちに聞こえるぐらいの音で鼻を鳴らし始めた。


 「あんこちゃん?」


 その不可解な行動に少し離れたところから話かけてみる。

 これはきっとやばいことが起こりそうな気配がする。

 雅ちゃんも何かを察知したようで俺の横から先には進もうとしない。

 女の勘ってやつが俺も働くようになったのかもしれない。


 「近くにパンがいる」


 廊下の先を執拗に嗅いでいたあんこちゃんはその動きをやめると

名推理を、語り始める探偵のように渋い声でそう断定した。

 匂い探偵かよ。

 しかし、匂い探偵さんの頭にはもちろんUFOが乗っているわけで。


 「あんたの頭の上にずっとあるわよ」

 

 流石に我慢出来なかったのか雅ちゃんが、ツッコミを入れてしまう。

 せっかく言わないように心の中で止めていたのに。


 「違うの、焼きたてのパンの匂い。うーんいい匂い」


 首を横振った後、確かめるようにすぅーと深呼吸しながら匂いを堪能した様子。

 ちょっとだけUFOパンがズレた。

 ホントはただ焼きたてパンの香りを嗅ぎたいだけなのでは? と思いつつも鼻を鳴らしてほんとにそんな匂いがするのか確かめてみる。


 「んーーん……? 全然しないよね?」


 「そうね。全然しないわ」

 

 雅ちゃんと二人で顔を見合わせて確認するも、するのは学校の匂いというべき匂い。

 言葉に表すのはとても難しいが、無臭ではなくなにかの匂いはする。

 複数の匂いが混ざった複雑な匂い。

 少なくともあんこちゃんがいうようなパンの匂いはしない。

 あのUFOパンは校内見学の間に学校の匂いを吸収してしまったらしく甘い香りはもうしないようだ。

 

 「あっちからだ!!」

 

 匂い探偵のあんこちゃんは目を閉じて匂いに集中していたらしく、閉じていた目をカッと見開いて廊下を一直線に駆け出していった。


 「あっ、ちょっとあんこちゃん待って」


 その後を俺も遅れて追うことにする。

 もしもほんとにパンがあるならこっそり食べてやろうぐらいの軽い気持ちで。

 歩きすぎてちょっとお腹減ったし。


 「二人とも廊下走っちゃダメ」


 後ろからは雅ちゃんの真面目な声が聞こえて来た。

 後ろから聞こえる音は俺と同じかそれ以上に早いペース。

 雅ちゃんそういう割には自分も走ってるじゃん。


 廊下を走り、角を曲がってすぐのところであんこちゃんは止まった。


 「ここからだよ」


 指さす先のプレートには家庭科室と書かれている。

 しようされているのか電気がついていて中からは複数人の気配も感じる。

 多分調理をしているらしく火加減がどうとか、つまみ食いしないとか賑やかそうな声が聞こえてくる。

 

 「確かにいい匂いだね」


 家庭科室の扉の上にある覗き窓の淵ギリギリのところに三人並んでこっそりと覗く。

 中では先輩達だろう、見た事のない生徒達が大きな鍋を使って大量の料理を作っていた。

 複数の料理の匂いが家庭科室から漂ってくる。

 空腹になって敏感になった嗅覚をダイレクトに刺激され、こみ上げたきたヨダレを飲み込む。

 流石にヨダレを垂らすなんてアイドルらしさの欠けらも無い。

 減点を避けるためにここは我慢しよう。


 「ほんとにパン焼いてたわね」


 奥の方をなんとか見た雅ちゃんは驚き半分呆れ半分といった声音で、つぶやいた。

 どうしてかちょっとだけ悔しそうな感じもする。

 雅ちゃんもしかして匂い分からなかったことが悔しかったのかな?


 「ほら、いったい通り。パンのことで私にわからないことなんてないのだよ」


 あってたことが嬉しいのかちょっと大きめの態度でドヤ顔を決める。


 「匂い探偵だね」

 

 俺も一応褒めておく。


ガラッ扉が空いて俺達の前にはひとが現れた。


「君たちはいったい?」

 

 黒く長い髪に紫色の鋭い瞳。

 顔は可愛いというよりは美人といった印象の女の子。

 綺麗に整い過ぎたような雰囲気は、作り物めいたような美しさに感じられる。

 それでも引き込まれるような吸い寄せられるような不思議なオーラと呼ぶべき雰囲気に思わず息をのむ。

 雅ちゃんもどちらかといえばクールビューティなタイプだけどこの人はそれ以上。

 一つの完成系と言える。

 これが綺羅星学園の先輩アイドル。

 

 「ええと誰ですか?」

 

 見とれている俺を放置して雅ちゃんが切り込む。


 「そうね……ここは名乗っておいた方が良さそうね」


 その先輩? は顎を人差し指で人なでしながらよくわからないことをいう。


 「…………?」


 見とれていたところからなんとか復活した俺は、その謎の間に戸惑う。

 この時間はいったいなんなでしょうか?


 「この綺羅星学園風紀委員長、早乙女ゆり。今日は一年生の校内見学中の監視役でもある」


 「…………えっ?」


 混乱しかけていたところにさらに追い討ち。

 また知らないキャラが出てきたじゃないか。

 風紀委員っていいました? あと監視役とも言ったよね?

 この状況、とってもまずいのでは?


 「それであなた達のその格好はいったい何なのかしら?」


 ゆり先輩は、俺達の格好を1通り見ると首をかしげた。


 「へ、変装です」


 雅ちゃんが反射的には答える。

 雅ちゃんが敬語を使うなんてなんか新鮮だな。


 「どうして校内見学で変装する必要があるの?」


 ゆり先輩は心底変わらないという表情を浮かべ、質問してくる。

 視界には雅ちゃんのみが映っていて、じっと返答をまっている。


 「ちょっとひかり」


 その視線にとっても居心地悪そうに身をよじり、返答が自分では無理だと思ったのか俺を小声呼び、クルッと場所を入れ替えた。

 目の前のゆり先輩の迫力に、少し身震いする。

 やばい眼力怖い。


 「あ、アイドルぽいかなと思いました」


 やや上擦った声でなんとな答える。

 前世の俺だったら絶対逃げ出してるよ。

 ほんとこの人目だけで人を殺せるタイプの人間でしょ?


 「大ありよ。しかも何? その赤い髪のあなたその帽子? パンみたいなそれは?」


 呆れた態度を隠しもせず全面にだしながらあんこちゃんの頭には乗っているものを指さす。

 UFOよ今日はよくツッコまれるな。


 「ん? これですか? もちろんパンですよ」


 「パンをかぶりながら校内見学なんてアイドルらしさの欠けらも無い。3人とも減点をつけさせてもらうわ」


 「もしかしてパンをディスてるんですか? それはあたしへの宣戦布告ととってもよろしいのかね?」


 あんこちゃんの表情がガラリと変わり、目が据わる。

 雰囲気は殺し屋が纏うものに変わり赤黒いオーラのようなものが出ているきがする。


 「ちょっとあんこ」


 先輩へのあまりに無礼な物言いを雅ちゃんはたしなめるようと声をかける。


 「ええ、校内でパンをかぶるっている頭のおかしいような人怖くもなんともないもの」


 ゆり先輩は挑発するようにそんなことをいいだした。

 

 「パンをディスものは残らず滅するそれがあたしの使命。くたばれ」


 もはや止められる雰囲気ではなくなり、あんこちゃんが人間離れしたスピードで殴りかかっていった。

 見ていたはずなのに全く見えなかったんだが?

 あんこちゃんは人間じゃないのか?

 そこから殴り合いの喧嘩に発展してしまった。

 と言ってもゆり先輩は攻撃を防ぐだけで反撃していない。

 

 「ひかりもあんこを抑えるの手伝いなさいよ」


 数分の攻防が繰り広げるられて、流石に危険を感じのかあんこちゃんを抑えようとした雅ちゃんだったが、暴走状態のあんこちゃんは恐ろしいフットワークで雅ちゃんを華麗に交わし続けている。

 しかもその合間にゆり先輩への攻撃もしている。

 パンの恨み怖い。


 「こっちが巻き込まれそうだし、ここは退散するのが正解なんじゃないかな?」


 「止めなかったら後で問題になった方が危険よ」


 「ふんっ!……はっ」


 俺達がもめている間にゆり先輩が動いた。

 あんこちゃんのパンチにパンチを合わせて、弾くと大きくバランスを崩したあんこちゃんのお腹に一撃。


 「ぐはっ」

 

 まるでバトルもののキャラのような綺麗なみぞおちパンチであんこちゃんが崩れていく。

 

 「あっ、あんこちゃんが倒れた」


 バタンと音を立てて廊下に倒れたあんこちゃんを俺達は黙って見送った。

 ゆり先輩ならきっと手加減してくれていると直感的に思った。


 

 「全く口程にもないわね。とりあえずあなた達の減点は10点ということにしておきましょう。全くこっちは新入生歓迎会の料理の準備もあって忙しいのに」


 「新入生歓迎会?」


 「あっ……その今のは忘れてちょうだい。バレたらリリアに怒られてしまう」

 

 先ほどまでのクールな先輩はどこへいったのか、顔を真っ青にして俺達に軽く頭を下げた。


 「あの八乙女先輩取引しましょう?」


 ニッコリと笑って俺はそういった。


 「ひかりの笑顔がとても黒いわ」


 雅ちゃんはいったい何を言っているのだろうか? 

 とってもキュートな笑顔に決まっているのに。


 「減点はマイナス5点ということにしておいてくれたら今のは聞かなかったことにします」


 「いいわよ。でももし他の生徒にもらしたらその時は覚悟しておきなさい」


 「はいっ」


 ピシャリと言って去っていく先輩に頭を下げた。


 ふぅーなんとかなったぁー。


 こうして波乱の校内見学は、マイナス5点で終了となった。


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