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「じゃあまずは1階を見て回ろうか」
階段からほとんどのクラスメイトいなくなった頃、ようやく作戦会議が終了して動きだそうとしていた。
思ったより変装に手間取ってしまい、だいぶ出遅れてしまっているが、まぁなんとかなるだろう。
「1階ってレッスン室と体育館ぐらいしかないじゃない」
校内のキラドリフォンにある簡易地図を見ながら雅ちゃんがツッコミを入れてくる。
おぉ、アニメ通り空中に映し出されてるじゃん。
やっぱりこの世界のテクノロジーは前世よりすごい。
「それもそうだね。……じゃあ2階からにしようか」
結局俺達も最初に階段を登ることになった。
……混雑を避けられただけ良かったと思うことにしよう。
「ここは理科室みたいだね」
2階上がってすぐに見えたのは理科室だった。
廊下に面している壁の一部が透明になっていて外からでも中を見ることができる。
広さは普通の教室2個分ほどで机は特徴的な蛇口が2つ。
短い透明なホースがついている。
椅子は木製のこれまた特徴的な、背もたれのない座る面が四角いタイプ。
それがひとテーブル4セット。
完璧なまでにどこにでもある普通の理科室だった。
普通でなんかちょっと安心する。
アイドル学校で、アニメの世界だし、なんかもっとポップな感じのメルヘン理科室的なものを想像したが、きちんと教育機関の部分もあるようだ。
壁が全面ピンクでおしゃれに飾り付けられた部屋と、人体模型が可愛いらしいファションに身を包んだ理科室を想像して、思わず身震いする。
確実に集中出来ないだろうな。
そんなファンキーな理科室は絶対嫌だな。
「とりあえず中に入ってみよう。変装してるし多分バレないよ」
入るなとは言われていない。
もしかたら減点するために監視している何かがわかるかもしれないし、ここは入ってみよう。
「ナイスだね。……じゃあ、レッツゴー」
あんこちゃんの後ろに俺と雅ちゃんが続いて理科室へと入っていく。
さすが自由人だ。ためらいが一切ない。
「うわーお、これ人体模型ってやつだよね」
あんこちゃんの声にそちらを振り返る。
そこには顔の半分が大変なことになっている、女児向けの世界にはいてはならないような存在が直立していた。
左脳と内蔵も出して、それどころか皮膚すら剥がされて、筋肉白く細い筋が丸出しになっていて完全にやばい。
授業に必要な道具とはいえこんなのが入口にいるなんて絶対かよわい女の子が見たら泣くに決まってる。
「あんこちゃんコレ見て!」
不気味すぎるそれから意識逸らそうと廊下に側の透明になっている部分の棚を、ひとつを適当に指さす。
「うわっ。これはカエルのホルマリン漬け」
指したのはカエルホルマリン漬けだったらしい。
ひかりちゃんの身体に入った影響なのかカエルと聞くだけで全身に悪寒が走り、嫌な気分になる。
カエルぐらいはなんともなかったはずだったのに。
「あれ? もしかしてあんこちゃんってカエル平気なの?」
思ったより薄い反応にふと疑問がよぎった。
「さわれはしないけどどちらかといえば平気」
「二人ともあまりはしゃがないの」
さっきから静かだった雅ちゃんがようやくツッコミを入れてきた。
もうこのメンツでのツッコミは雅ちゃんで決まったな。
「このやり取りさっきもやったような……」
「それは二人がカフェテリアではしゃいだからでしょ? それより早くここを出るわよ」
出口の方を向き、俺達を急かす雅ちゃんはなんだがとっても焦っているような雰囲気。
さっきから出口以外の方向を一切見ないしこれは何かあるな。
あたりを見回してみるが、蝶の標本とか、試験管とか特に目を逸らしたくなるようなものはないと思うんだけど、もしかして?
「雅ってばもしかしてカエル苦手?」
そう発した瞬間かすかに雅ちゃんの肩が跳ねた。
それからわかりやすいくらいに冷や汗をかいて露骨に出口を歩みを進めようとする。
手と足一緒に出てるし出来の悪いロボットみたいに動きがカクカクしている。
「もうっ、次行くわよ」
廊下に出てからも一切振り返らず後ろ手に手招きして俺達を待っていた。
意外と女の子らしい一面があるんだな。
可愛いとは思ったがやはりキュンとは心臓には来なかった。
「ここは、えーとシュミレーションルーム? なんでここだけ室じゃないんだろう?」
理科室のあといろいろ回った俺達がやってきたのはシュミレーションルームなる教室だ。
リフォームでもしたのか白い廊下の壁はここだけさらに真新しい。
しかもここの扉だけ鉄製の高級仕様。
「プレート新しくなってるわね」
さらにかかっているプレートも今までの丸文字のような可愛い文字ではなく、達筆な筆文字。
あきらにここだけ予算のかけ方が違っている。
「きっと新しく作られた場所なんじゃないかな?」
「とりあえず入ってみよう」
もはや特攻隊長と化したあんこちゃんが、ドアノブに手をかけながらこちらを振り返る。
「そうね」
「そうだね」
サングラスにマスクの3人組が高級そうな部屋に忍び込む図。
バレたら怒られないかな?
と考え気を紛らせつつ、あんこちゃんがドアノブを握りひねる瞬間を凝視する。
そして扉を押し開く。
「わーお、二人とも見てこれって…………」
あんこちゃんの表情がサングラス越しにもわかるくらいにぱぁーと明るくなり、こちらを振り返る。
「ええ、間違いなく、キラドリアイドルライブサポートシステムね」
目の前にはヘンテコな隙間のいくつか開いた機械が置いてあった。
俺の身長よりも機械はモニターやキーボードのようなものが一切なくどう操作するのか見当もつかない。
ヒントを探すためにあたりを見回すと、アイドルがライブするような小さめのステージが配置されていた。
客席がないことをほぼ本番のステージ。
ちなみ今いるのが舞台袖に当たる部分のようだ。
「なにそれ?」
アニメではほぼ語られることないもの。
なのでこれに関しての知識は全くない。
近いうちにこれを使ってライブをする機会だってあるかもしれないのでぜひともある程度の情報は欲しいところ。
「ひかり、それも知らないのにアイドル目指してるの? 流石にそれは……」
「ひかりちゃん流石にあたしも引くかも……」
俺の発言に二人は信じられないようなものをみたという表情をした。
「そんなにっ? ちょっと勉強不足なだけなのに……」
流石に驚き過ぎ何じゃないかと思う。
「はぁ、仕方ないわね。いい? このキラドリアイドルライブサポートシステムは、通称キラドリシステムと呼ばれているわ。
簡単にいうと古代にあったとある文明のアイドルライブシステムの技術を最先端のVR技術を使って再現したものよ。
現実ではできないような演出が出来きるのが最大の魅力ね。まぁ出すにはすごく訓練がいるらしいけど」
「なるほどー。じゃあこの小さい隙間みたいなのは?」
いくつかあるくぼみを指さしながら質問してみる。
この際だから聞けるだけ聞いておこう。
どうせドン引きされているのだから。
聞くは一時の恥ってやつだ。
「それはドレスチップを入れるところよ。昔のアイドル違って今のアイドルのステージ衣装は、ほとんど仮想衣装って呼ばれているここい入れるチップが主流なの。いくつかのファションブランドもドレスチップを優先して作っているわ」
「なんかすごいね」
「で、ドレスチップにはランクがあって、トップアイドルは高いレアリティのチップを持っているわ」
「どうやって手に入れればいいんだろう?」
「基本的にはブランドと専属契約するしかないないわ。でも人気のあるアイドル以外はなかなか厳しいわね。
ライブに呼ばれるようになればステージ衣装は指定がほとんどだしそんなに気にする必要はないわよ」
アニメじゃそんなところは一切説明されていなかったな。
残念ながらアーケード版のキラドリには一切手を出していなかった。
ほとんどブランドのこともドレスチップのレアリティについても知らない。
「でもなんでこんなところにキラドリシステムがあるんだろう?」
「シュミレーションルームっていうぐらいだし本番みたいに仮想衣装を着て練習できる所に決まってるわ」
「それしかないね。でもひとつしかないのに誰も使ってないなんて不思議だね」
こういうシュミレーションできるような施設は絶対人気だと思う。
常に予約でいっぱいでもおかしくないはず。
「確かにあたしがレッスンするなら本番みたいに練習したいって思うけどね」
あんこちゃんも同じくような考えてらしい。
「校内見学のために空けといてくれたんじゃない?」
「それなら納得かも」
「さぁて次行ってみよー」
あんこちゃんまだまだ元気そうだな。
テンション高く歩き出す姿を見ながらそう思った。