17
キーンコーンカーンコーンと、授業終了を告げるチャイムが鳴る。
「はい、今日はここまで。明日は続きをてやって行きます」
担任の教師が出ていくのを確認すると、教室に弛緩した空気が流れ込む。
クラスメート達は教科書類を片付けると、数人のグループを作って教室の外へと繰り出していく。
もう友達作ったのかよ。最近の若い子は進んでるなぁーと、妙におじさんじみたことを考えながらも、
「たはぁー、つっかれたー」
俺もその空気に乗り、思いっきり机に上半身を乗せて、腕を伸ばして、息をはいた。
もう無理、限界。お腹空いた。
座りぱなしで腰と腕が痛い。
それに女の子の身体とはいえ中学1年生。育ち盛りの胃袋は消化力も凄まじいらしく、1時間目に残っていた食べ物達は2時間目に半分程消化され三時間目にはなくなって4時間目には音を立てて鳴りはじめた。
誤魔化すのすごい大変で、不意に大きな音を立てられるとなんだが恥ずかしかったし。
そして現在、胃袋の中が完全に空になっているのがわかる。
「まだ4時間目じゃない。むしろレッスンが始まるのはこれからよ。アイドルとしてはここからが本番」
「そうそう、本番はここから」
両隣からまだまだ余裕のありそうな声がする。
「なんで二人ともそんなに元気なの?」
机につけていた顔を上げ、二人を見ると声以上に元気そうに教科書をしまい、腰を反らしたり腕を伸ばしていたりストレッチをしている。
「ひかりの集中力が足りないだけでしょ」
「パンタイムだもん元気になるさ」
「ああ、そういえばお昼ご飯の時間だもんね」
待ちに待ったお昼ご飯の時間だと思い出した俺はガバッと上半身を机から離し、勢いのまま椅子から立ち上がった。
「まだ元気そうね」
「むしろ学校の楽しみと言ったら給食だよ」
苦笑いした雅ちゃんの方を見ながらそういい、妄想の世界へと飛び立とうと翼を広げた矢先、
「うちの学校寮に戻って学食かカフェテリアのどっちかだけどね」
あんこちゃんにその翼をへし折られた。
しかし空腹の俺はそんなことでは折れない。
「よし、カフェテリアにいこう」
「ひかりなら絶対学食にいこうって言い出すかと思ったわ」
高らからに宣言すると雅ちゃんから意外そうな声が上がった。
「学食は今朝行ったしカフェテリア見てみたいじゃん」
「まぁいいけど」
「もちろん大賛成」
2人の同意も得られたので俺達はカフェテリアに向かうことになった。
そういえば俺にも友達と呼べる存在出来ていたな。
この学校のカフェテリアスペースはレンガ造りの明るい印象ので、テラス席が10程あるが、2人席も、4人席も埋まっていて、入口付近には10人ほどの列が出来ていた。
「天気いいから混んでるねぇー」
「それだけじゃないわよ。カフェテリアは一般に開放にされている数少ない場所で、人気アイドルに会えるかもしれないとあってお昼には近くで働いているOLさんもかなりの数、利用しているらしいわ」
確かに言われて見れば制服姿の女の子に紛れてレディーススーツを着た明らかに学校の先生ではない人の姿も見て取れる。
流石に男は入る勇気がないのか姿はない。
「へーぇ雅ちゃんよく知ってるね」
「雅、物知りだね」
あんこちゃんとほぼ同時に雅ちゃんを褒めた。
「二人が知らなさすぎるだけよ」
そこからしばらく無言が続きようやくカフェテリア内部に入ることができたが、中もかなり混んでいて、レジまではまだ先のようだ。
「ストロベリーパフェだって。すごく美味しそう」
「ワーオ極厚ピザトーストっ、なんて魅力的なんだ。パンンタスティック」
レジを済ませてテーブルへと運ばれていく品物を眺めながらついつい口に出してしまう。
このカフェは自分で席に品物運ぶスタイルらしくて、制服姿の子達が嬉しそうにパフェとサラダとピザトーストを運んでいった。
いくらサラダを食べようともパフェ食べたら意味無いんじゃないかな。
脳内で冷静なツッコミを入れていると、
「二人ともはしゃぎ過ぎよ、こんなカフェテリアなんかで」
「そういう雅ちゃんだって身体震えているよ」
あんこちゃんに言われて雅ちゃんの方を見れば、興奮を、抑えるように小刻みに震えている。
態度に出さないだけで、どう見ても雅ちゃんもはしゃいでいる。
「なっ、ちがっ……これはそう、足がしびれたのよ」
「その言い訳けっこう厳しめじゃなかね?」
微妙に偉そうな口調に変えたあんこちゃんが雅ちゃんに問いかけた。
指摘されて顔を真っ赤にした雅ちゃんは視線をさまよわせ、まともな言い訳をだそうとしているようだが、思いつかなかったのか悔しそうに歯を食いしばった。
「うぅーっ。はしゃいでなんかないもんっ」
「雅の口調がおかしくなった」
反論ができないと雅ちゃんはこうなるのか。
なんだが可愛らしいな。
「おお、意外と子どもっぽい口調も可愛いね。パンダフル!!」
「とにかく私ははしゃいでないなわ」
「まぁしょうがないし、そういうことにしとこうか」
恋愛感情とは違う何かキュンと来るものを感情た俺は雅ちゃんイジリを終了させる。
「そうだね」
「ほら順番来たわよ」
それぞれが食べたいものを注文して、出来上がりを待つ。
あんこちゃんがピザトーストとコーヒーのセット。
雅ちゃんがオーガニックなんちゃらとかって長い名前のサラダパスタ。
そして俺はいちごパフェをたのもうとしたのだが、雅ちゃんにそれはデザートでしょと怒られて泣く泣く、パスタにした。あと誠に遺憾ながらトマトとレタスのサラダも追加させられた。
本当はガッツリとコメ系を食べようかと思ったのだが、女の子向けのカフェには男が好むようなものはなかったよ。
まあアイドルの卵を育成する学校のカフェにハイカロリーなものがあるわけないのだが。
品物を受け取り (学生証を見ればここもタダで食べられる)4人がけの席の空きを探して、またまた食べ終えた、OL2人組の席と空いてる2人用の席を後できちんと戻すという条件のもと合体させた席で食事をはじめた。
「やっぱりパンは最高だね」
ピザトーストをナイフで切り分け1口運んだあんこちゃんが感想を漏らす。
とても幸せそうな表情していて、気の所為かもしれないが背景にキラキラしたエフェクトのようなものが見える。
「流石に毎食パンはきついでしょ」
素直に思ったことを口に出した。
「私も同感」
雅ちゃんも賛同した。
ここまでは和やかな食事だったが、ここから空気が変わる。
「二人ともパンへの愛情が足りないね。いいパンはたくさん種類があるからご飯やパスタと違って飽きることは無いのだよ」
パン好きのあんこちゃんはパンの布教もしているのかほかの主食をディスリながらパンの素晴らしいをつまびらかに語りだす。
「でもご飯なら丼にすれば、種類豊富になるよ? それにふりかけとか、白米だって工夫しだいで組み合わせは無限大だし。それにおかずとセットで食べるのが基本。おにぎりすれば持ち運びの良さはパンにも負けないよ」
それに負けじと俺も米の素晴らしさを語る。
たぶん朝のパンにしたし、今もパスタを食べているおかげでいつも以上にお米が恋しくてついつい熱くなってしまっている。
「ちょっと二人とも熱くなりすぎじゃない?」
「「雅 (ちゃんは)はどっち派なの?」」
「私はどっちかって言うと麺派よ」
なんとここで第三勢力の登場だ。
ここからさらにヒートアップしそうだなと思ったところで、
「お前ら、さっきからうるせーんだけど」
どこかの学校の制服に、帽子。サングラス、マスクの明らかに制服を着た不審者のどちらかの出で立ちをした男に声をかけられた。
背も俺達より高く、少し威圧感がある。
「ごめんなさい」
「ほかの客の迷惑になってから静かに食え」
「はい反省しています」
「よし、次から気おつけろよ。後輩達」
「は、はぁー」
背中を丸めて小さくなった俺達は注意を素直に受け、不審者の姿が完全に去っていくのを確認してから静かに席に座り直した。
確かに俺は友達と昼食という憧れのシチュエーションにテンションを上げすぎていたのかもしれない。
「…………」
反省して、静かに食べ始めるてすぐに、あんこちゃんが口を開いた。
「…………いまのってさ」
「うん、間違いなくうちの男子だったね。後輩達って言ってたし」
「え? うち女子校じゃなかったの?」
アニメでは男キャラなんてほぼ出てきていない。
だからアニメに出ていればすぐに気がつくはず。
変装を見破るのは得意だし。
「ひかりほんとにパンフレット読んでなのね」
「はい活字は苦手分野でございます」
「ワオ」
ゆずはちゃんから聞いたひかりちゃんの情報をしっかり生かして敬礼しながら答えると、あんこちゃんがびっくりしたという顔でこちらを見た。
「一応説明すると、うちの学校は街に面した女子部、つまり私たちがいる校舎と山を挟んだ向こうに男子部に別れているの」
「え? 何でわざわざ分けたんだろう」
最初から同じ校舎にすれば余計な建築費を節約できるだろうに。
「それは一応アイドルとして恋愛を控えさせるためって噂だけど、男子部が街に面してたらろくなことが怒らないからじゃない? うちの弟も中学生になって送り迎えがなくなった途端にゲームセンターに入り浸って成績落ちて怒られてたし」
確かに中学生、高校生ぐらいの男子といえばゲーム、アニメ漫画と下ネタと最近あった笑える話ぐらいしか頭にないだろうし間違いではないのかも。
放課後ゲーセンよって帰ろうぜは定番のセリフだし。
「でも何で男子部の人がこっちに来てたんだろう?」
「さぁこそまではわからないけど……って時間やばいわね」
雅ちゃんのみた方向を見ると次の授業中まで30分程しかなくなっていた。
レッスンで着替え必要だと考えると、ぎりぎり足りない可能性もある。
「ほんとだ急ごう」
慌ただしい昼食になってしまったがなんだかワイワイやる昼食も悪くない。




