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「ここが教室?」


 「そうよ」


 朝食を終えて、教室のドアを開けた俺は困惑に満ちていた。

 確かにここは教室だが、俺の知っている所謂中学校の教室とは大きく違っている。

 どうやら机が1人1人にあたえてられいないらしい。

 あるのは木製の長机が10台。

 それが階段状に並べられている。

 後ろが高く、黒板側が低い、大学にあるような形だ。

 生徒はまだ時間が早かったため数名まじめそうな子が前の方に座って教科書だろうか? 大きめのサイズの本を読んでいた。

 そして時々ノートに何かを書き込んでいる。

 その子達の邪魔にならないように後ろの方の席に移動する。

 どうやら大学と同じで自由席らしい。


 「おお、確かにこれはすごい、だってこれフランスパンみたいに長いし」


 あんこちゃんはテンション高く、木製の長机を撫で回して、頬擦りをする。

 しかも恐ろしく目が輝いている。

 

 「あんこってばどんだけパン好きなのよ」


 今朝話しかけて来たのもパンがきっかけだったわけだし、今もパンに例えてくるし、教室に来るまでもマシンガンの如くパントークをかましてきてあんこちゃんがパン好きだということは痛いほどに伝わっている。

 今、席に座りながら、ツッコミともぼやきとも取れる発言した雅ちゃんは既にちょっと疲れが見えている。

 それだけ俺達はパンについて熱く語られたのだ。

 10分にも満たないプレゼンなはずだが、しばらくパンはいいかなと思うほどにはお腹いっぱい。

 見ているだけでお腹いっぱいって体験はしたことあるが聞いただけでお腹いっぱいは初めての経験だ。


 「好き好き、大好きだよ! 小さい頃からパンに囲まれて育ったたんだもの、無いと生きられないパンがない生活は考えられないよ。ノーパン、ノーライフ!!」


 派手な身振り手振りと大声で、己にとってのパンがどれだけなものか表現しようと試みるあんこちゃん。

 でもねあんこちゃん、ノーパンとか大声で言うのは女の子としてどうかと思うよ。

 ツッコミでもやぶ蛇になりそうなので敢えて何も言わずに放置。


 「あんこ、あんたねぇ、大声で何言ってんのよ」


 「およ? なにか変なこと言った? ノーパンノーライフおかしいかな?」


 キョトンとした顔で心底不思議そうに雅ちゃんの顔をのぞき込むあんこちゃん。

 次第にやぶ蛇をしたことに気がついたのか雅ちゃんの顔が赤くなる。

 しかし、説明だけはしっかりしたいようで、どんどん赤くなりながらも口を開いた。

 がんばれ雅ちゃん。

 こっちをチラチラ見ても俺は絶対何も言わないぞ。


 「……ほら、……の、……ノーパン、って別の意味にも捉えられるから」


 「おお、確かに履いてないって意味にも聞こえるね」


 何でもないようにサラリとそう口にした後、ようやく理解したのか瞬間湯沸かし器のように一瞬で赤くなった。

 年頃の女の子がいくら人が少ないとはいえノーパンじゃないと生きられないなんて宣言をしていた

(ように聞こえる)話しを無自覚とはしていたらそりゃ恥ずかしくもなる。

 前の方のクラスメート達をよく見れば、数人の耳が赤くなっていた。

 本が細かく震えているし笑ってる子もいる。

 こりゃ完全に誤解されたな。


 熟したりんごのように赤くなるふたりはとても可愛いらしくもう少し見ていたかったが、それはかわいそうなので話題の修正のために質問をした。

 さっきは助けなかったわけだしこれぐらいはしておかないと雅ちゃんの仕返しはなんだか怖そうだし。


 「ところで、どうしてそんなにパンが好きなの?」


 残念ながら俺は音海あんこというキャラについてあまりにも知らなすぎる。

 アニメにも登場していないこの世界にきて本当に初対面からスタートのキャラ。

 これが心を踊らずにいられるだろうか? 否である。

 アニメファンとしてぜひともどうしてこの子が登場しなかったのか知りたい。

 そういう興味もあった。

 あ、でもこの空気をなんとかしたかったのも事実です。


 「うちがパン屋でね、お父さんの焼くパンがメチャクチャ美味しくてね。

 商店街でもすごく評判で、いつかお父さん以上に美味しいパンを焼いてやるって技術を盗もうとお店のお手伝いをしてるうちにパンが生活の一部になって、もうなくてはならない存在なったのだよ。それに焼いた試作品は自分で食べないと行けないしパンが嫌いだと生きていけないわけよ」


 微妙に説明口調になりながら、思い出しているのか目を瞑り上を向き語る。

 あっ、ノーパンノーライフって言わなくなった。

 やっぱり恥ずかしかったんだ。


 「それじゃ何で綺羅星に受けたのよ? パン屋になりたいならアイドルやる必要なくない?」


 雅ちゃんってはっきりものごとを言うタイプだとは知ってたけど、その発言は関係に溝を作りそうなのでやめた方がいいのでは?

 まぁ冷静なツッコミではあると思うが。


 「ふたりはあんぱん探偵って知ってる?」


 雅ちゃんの刺のある返しにあんこちゃんは馴染みのない単語で返してきた。


 「知らないけど」


 当然この世界の住人ではない俺は知らない。

 生活していないがったのだから知りようがない。

 まずいな、昨日激動すぎてテレビとか漫画とかこの世界の娯楽を調べる暇がなかった。


 「え? ひかり知らないの?」


 俺の発言にツッコミを入れたのは意外にも雅ちゃん。


 「え? なんかまずかった?」


 「あんぱん探偵っていえば探偵のもの中でもかなり続編が作られる人気作だよ」


 「そうそう、しかも探偵役は毎回人気のアイドルからオーディションで選ぶらしくて、その時、勢いのあるアイドルが選ばれることが多いわ。ちなみに今やってるシリーズあんぱん探偵18thはあの、月城リリアがやってるわ」


 「決めゼリフは、あんぱんを一気に食べて、『謎はすべて解けましたこのあんぱんのように』ってやつだよ? ほんとに知らない」


 「へぇー、たぶん見たことあるけどあんまり覚えてないかな?」


 流石に見たことすらないというのは怪しいすぎるのでそういうことにしておこう。

 この場にゆずはちゃんがいなくてほんとうに良かった。

 たぶんこの瞬間にいたら確実にバレていたに違いない。

 アニメのひかりちゃんはリリア先輩の大ファンだから。


 「ひかりってほんと変わってるわね」


 「うんうん、あたしもびっくりで、あたしはそのあんぱん探偵の主役になりたいの」


 と、あんこちゃんが言い切ったところで、タイミングよくここでホームルーム用のチャイムが聞こえきた。


 「はい、ホームルームを始めます。まず今日の連絡事項から――」


 昨日のうちに担任の先生の自己紹介は済ませてしまっているようで、そのまま淡々と話しを進めていく。


 「では今日から君達は中学生としてもアイドルも一歩を踏み出したわけだが、ここはあくまでスタートだ。それを忘れないように、では号令」


 担任の先生ありがたいホームルームも終わり、ようやくアイドルのレッスンが始まるのか。

 レッスン室の場所も知らないし早めに調べておこう。

 そう思い、おもむろに席を立つ。


 「ひかりどこいくの?」


 雅ちゃんに声をかけられて足が止まる。

 というか二人とも何でも座っているのだろう。


 「レッスン始まるんじゃないの?」


 俺はあざとく小首をかしげて尋ねる。


 「午前中は普通の座学だよ。もしかて……ひかりちゃん」


 えっ? 嘘でしょ。

 アニメで君達勉強してるシーンないからてっきり全寮制のアイドル養成所かと思っていたのだが……。

 まさかそんなところを現実に寄せてくるだなんて。

 神様め、転生を拒否したからってなんてひどい仕打ちをするんだ。

 理不尽に神に怒りをぶつけてみたが当然ながらなんの解決にもならない。


 「うん、教科書忘れた」


 当然勉強なんてするとも思っていない俺のカバンには一応の筆記用具とノートが1冊。

 それとキラドリフォン、学生証あとはレッスン用の着替えのジャージとレッスンシューズ。

 教科書なんてものはないし、何なら勉強する気も持ってきていない。


 「バカ」


 どうやら雅ちゃんには勉強をする気を忘れたのを見抜いようでのシンプルかつ強力な罵倒を放ってきた。


 「雅、ごめぇーん」


 いつもなら平気なはずなのに涙目になってしまっていた。

 乙女心ってやつなのか、勉強したくないからなのかそれとも雅ちゃんに嫌われたのがショックだったからなのか、今の俺には判 別できない涙目だった。


 「しょうがないから教科書見せて上げるわ」


 「ありがとう、雅」


 涙目だった瞳からしずくがこぼれ落ちた。

 ひかりちゃんって涙もろかったもんな。

 そんなわけで俺の中学生生活のスタートは思い切り踏み外してしまった。


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