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 窓から差し込む強烈な朝日に不快そうに顔を歪め、布団を頭まで深くかぶる。

 なんだかとっても身体が痛くてだるいし。

 昨日の雅のトレーニングで筋肉痛になってしまったようだ。

 

 「ひかり、起きないと遅刻するわよ」


 下の方からキリッとした、聞くだけで気が引き締まりそうなクールな声がする。

 だが、今の身体のだるさならきっとまだ寝られる! と根拠のなに自信を胸に布団を抱きしめた。


 「あと……2時間……」


 二度寝を試みようとするのは学生共通の行動だと思う。

 赤信号だってみんなで渡れば怖くない的な理論で二度寝を試みようと、身体を布団の中に頭の先からつま先までを入れ込む。

 これで鉄壁の布陣。


 「バカなこと言ってないで起きる」

 今度は同じ高さから聞こえるようになった。

 だんだん近づいて来ている?


 「じゃああと5分だけ……お母さん」


 少しでも寝ている時間を稼ごうと、妥協に妥協を重ねた提案をしてみる。

 たぶんお母さんなら5分ぐらいなら許してくれるはず。


 「いい加減にしろーーい!!」


 しかし起こしてくれていたのはお母さんではなく、ルームメイトの雅ちゃんだったようで、朝には似つかわしくない大声とともに、布団が一気に剥がされる。

 朝の冷たい空気に身体がさらされる。


 「うおっ、なんだ!?」


 突如起きた身の危険に一気に覚醒。

 寒さは人類の敵。そして、生命の危機だ。

 慌ててあたりを見渡して、めちゃくちゃ不機嫌な顔をした雅と目が合った。

 二段ベッドの縁から鼻から上だけしか出ていないが、鋭い眼力は川で獲物を狙うワニようで、下手なことをいえば食い殺されるような危険な空気すら感じられる。


 「あの……雅さんいったいどうなされたのかしら」


 できるだけ丁寧な口調を使って様子を伺う。

 女の子らしく丁寧で持ってるイメージがお嬢様とは我ながら安易な発想だとは思うが、これも処世術というやつだ。

 今の変なボケを挟んだらとんでもないことになると直感がつげている。


 「ほらさっさと起きる。朝ごはんいらないなら別にいいけど」


 それだけ言うとはしごから降りて、机の上に置いてあるカバンから鏡を取り出してなにやら身だしなみをチェックし始めた。


 「それは困るなぁ」

 

 やや寝ぼけ気味の頭で雅ちゃんの言葉を噛み砕き飲み込んだ俺は呟くように一言、言うと着替えのためにはしごを降りる。

 クローゼットをあけて、昨日しまった制服を取り出す。


 ブラウスを羽織り、制服のワインレッドのプリーツスカートを手に取って固まった。

 

 履きたくねぇー。


 女子風呂に入っておきながらいうことではないのかもしれないが、俺は心は男だ。

 女子の象徴たるスカートを何のためらいもなくはけるほど覚悟が決まっているわけじゃない。

 本音を言うと回避の方向で行きたいと思っている。


 「ねぇ、スカート握りしめてなにしてんのよ。時間ないんだからさっさと着替えちゃいなさいよ」


 背後からは急かす声が聞こえてくる。

 葛藤している間にも朝ごはんの時間はどんどん減っている。

 数秒躊躇して、


 仕方ない今日のところははいといてやる、感謝するいいスカートよ。

 自尊心の維持のために上から目線で心の中でいい、スカートに足をかける。

 ウエストの少ししたのあたりをでファスナーを止めて完璧です。

 やっぱり空腹感には勝てません。


 「お待たせじゃあ行こっか」


 制服に着替えた俺は既に身だしなみを整え終わった雅ちゃんにそう声をかけた。


 「寝癖のままいくつもりなの? 結構すごいことになってるわよ」


 頭の方に手をやり爆発したようなジェスチャーをする雅ちゃんを見て俺は露骨に慌てた。

 女の子で寝癖は絶対あかんだろ。

 ましてやアイドルの卵、見た目に気を使えないなんて論外。

 朝から鏡を見るような生活をしていなかったことがもろに大ダメージを与えてくれた。


 「えっ? どこ? そんなにすごいの?」


 頭をなでる回すように寝癖の場所を確認するが、どうにも見つけられない。


 「あーもうそこ座って」


 なかなか見つけられない俺にしびれを切らしたのか雅ちゃんはモヤモヤした状態から鬱憤を晴らすような声を上げで椅子を指差した。

 出ました雅ちゃんのお姉ちゃん属性。

 ドライヤーと寝癖ウォーターを駆使して髪を整えてもらいながら俺は、どうやら1人前の女の子として身だしなみを整えるのはまだまだ先の話だなと思っていた。



 「うわーやっぱり混んでる」


 券売機にずらりと前に並んだ人達を見てついつい本音が漏れた。

 最後尾に並んだが、ざっと30人ほどが前にいる。


 「全くひかりの寝癖、何であんなに強情なのよ。水で濡らしてドライヤー、当てたのに元に戻るの? 形状記憶?」


 どうやらひかりちゃん髪質的に寝癖が直りづらかったらしく、目立たなくなるまでにかなりの時間をようしてしまった。


 「ほんとごめん」


 「今度からはヘアバンドでも、カチューシャでもいいからつけて寝た方がいいわね」


 「はぁーい、ふぁっ」


 あくびをしながら雅ちゃんの女の子講座おやすみ前の髪の毛編を聞き流していると、ようやく順番が回ってきた。


 「うわっ。結構売り切れるじゃない」


 学生証をかざすと、そこには赤字で書かれた売り切れの文字。

 朝食は数が少ないのだろうか。


 「ほんとごめんってば」


 多少責任を感じて謝る。

 今回は100パーセント寝癖対策をしなかった俺が悪い。

 髪が長かった経験がないから寝る前に束ねた方がいいなんて知らなかった。


 「別に責めてるわけじゃないわよ」


 「あっ、フレンドトーストが残ってるよ」


 これ以上寝癖を引っ張られても困るので、多少強引に話題を転換させる。


 「じゃあそれにするわ」


 何のためらいもなくフレンドトーストのボタンを押す雅ちゃん。

 

 「じゃあわたしは……これで」


 俺は少し迷って、下の方に残っていたメロンパンを選択した。


 「後これね」


 その後、雅ちゃんがその別のボタンを押した。

 出てきた食券2枚を手に取り確認する。


 「ちょっと勝手にサラダ足さないでよ」


 足されいたのは朝のフレッシュサラダといういかにも女子人気高そうなものだったが、晩御飯でもまあり会いたくないやつにわざわざ朝から合う必要もないと抗議をする。


 「子どもじゃないんだから栄養バランス考えた方がいいわよ」


 正論に反論できなかった俺は素直にサラダの食券も一緒におばあちゃんに差し出したのだった。



 「朝からどんだけ食べるのよ」


 運良く空いた席を確保して、朝食を食べ始めた俺に雅ちゃんはちょっとげんなりした風でツッコミを入れてきた。


 「えー朝ごはんは大切なんだよ今日からレッスンだって始まるかもしれないし」

 

 もしもお昼前にレッスンが入っていたら大変だ。


 「それはわかるけど、だからって2つにする必要あったの? 太るわよ」


 「お腹空きすぎてフラフラになるよりマシだよ」


 「それはそうだけど……朝からメロンパン2個はないわよ」


 「初日ぐらいしっかりしたいじゃん」

 

 雅ちゃんと、談笑しながら朝食を食べていると隣から見慣れない赤髪の少女が顔をこちらに突き出して、お皿に残ったパンのカスを見ながら、


 「おや? 朝からパン派の人達がこんなところに。ナイスセンスだね君達!」


 誰だっけこの子?

 モブキャラでしょうか?

 残念なことにアニメではえ詳しく描かれていないキャラに話しかけられてしまった。


 「ええと、あなたは?」


 戸惑いながらも訪ねてみた。

 どうやらひかりちゃんのコミュ力はそのままあるようです突っかからずに聞くことができた。


 「同じクラスの音海あんこ。よろしくね、桜花雅ちゃん、雛星ひかりちゃん」


 パチリとウインクをしながら愛嬌たっぷりな可愛い顔をして自己紹介をしてくれた。


 「どうしてわたしと同じクラスだって知ってるの?」


 「入学式であんだけ派手に倒れた人を普通忘れないって、雅ちゃんはほら優秀だって評判だしね」


 「当たり前じゃないそんなの」


 雅ちゃんはあんこちゃんの説明にとても誇らしげに答えた。

 若干ドヤ顔してる。ちょっと頬も赤い。


 「よろしくね、あんこちゃん」


 ひとまず俺はひかりちゃんらしく返しておく。


 そこから流れで3人で朝食をとることになった。


「「「ごちそうさまでした」」」


 クラスメイトを1人仲間に加えて、教室へと向かうことになった。


さぁーこれから初授業だ。

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