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夜光伝記  作者: 古河新後
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記第四十三説 終戦

 「・・・・・・・」

 

 天啓達は創造者と対峙して硬直していた。

 

 奴の背後には、燃えている建物、抉れている地面、人々の悲鳴が渦を巻いて視界に飛び込んでくる。

 

 天月は肌で、敵の力量を感じていた。数多くの死人と戦ってきたが、今までのとは別格の雰囲気を纏っている。たった一人でこれ程の惨劇を生み出したのか・・・・・・・

 

 「――――やはり、一人ではなかったか」

 

 と、創造者が口を開いた。

 

 「我が名は創造者! 貴様らが我が身に勝つ事は奇跡と知れい!!」

 

 その瞬間、凄まじい威圧が天啓達を吹き飛ばさん勢いで駆け抜けて行く。

 

 「人間共! 貴様らも聞け!」

 

 全体に聞こえる様に声を張り上げた。

 

 「――――今から、ここに居る生き物全てを殺す! 下等生物共が! 可能なら私を止めてみろ! 私は一人でも貴様ら全員に勝ってみせる! 例え何百人とかかってこようとも、絶対に勝ってみせる!!」

 

 この場に居る全ての人間に告げられる。ハッタリではない。この惨劇を見て誰もがそう思っているはずだ。

 

 天啓は、天臨の柄にゆっくりと手をかけると、力強く握り、抜刀と同時に創造者に刃を向ける。


 神速の抜刀であったが、創造者は既に後ろに跳躍し、回避している。その瞬間、自分達の足元に全員が入いる程の陣が現れた。

 

 「さゆ! リオを安全な所に!」


 「―――――はい!」


 次の瞬間、陣を中心に巨大な爆発が起こった。


 その煙の中から天啓は飛び出すと、創造者に刀を振り下ろす。

 

 だが、創造者は高速で間合いの外に出ると、天啓の背後に回り、彼が次の攻撃に入る前に、吹き飛ばした。


 「がっ・・・・・」


 のけぞりながら飛んでいく。創造者は飛んでいる天啓の前に移動すると、地面に着く前に蹴りを叩きこんだ。


 飛んでくる天啓と入れ替わるように、天月、佐川、嵐道は創造者に向かう。


 各自、各々の攻撃を繰り出すが、速すぎる移動に攻撃は全く当たらない。


 「速過ぎる!」


 その時、最初と同じように陣が現れると、巨大な雷が落雷した。





 「ここなら大丈夫」


 さゆはリオを戦いから離れた場所に座らせた。


 「ありがとうさゆ。でも、あたしはもう大丈夫だから、皆と一緒に戦――――」


 立ち上がろうとした時、力が入らず前によろける。


 「!? 大丈夫!? お姉ちゃん」


 さゆは咄嗟に支えた。


 「―――う、うん。大丈夫だよ」


 「嘘! 顔が真っ青だよ。お願いだからここで休んでて・・・・・」


 彼女の泣きそうな表情を見てリオは息を吐いてそれに応じる。


 「・・・・・分かった」


 「ここに居てね? 絶対だよ!」


 そう言い残すと、さゆも戦場へ駆けて行く。今まで護られてばかりだった。今度は私がお姉ちゃんを助ける番だ。


 と、視界に敵の姿が見えてきた。





 天月がぼやける視界で見たのは、散らばっている自分達の中心に、王者の様に佇む創造者の姿だった。


 なんて奴だ。


 自身の戦闘能力の高さ、陣の形成、発生時間、どれを見ても今まで戦ってきた死人とは比べものにならない。これが屍の四肢・・・・・・・


 奴が勝つには奇跡が必要と言った意味が、ようやく理解できた。


 その時、佇む創造者に天啓は再び天臨を斬りおろす。しかし、同じように避けられると、攻撃を喰らう。更に怯んだ所に上から追いうちが加えられた。


 天月も立ち上がり、攻撃を仕掛ける。しかし、最初と同じく攻撃は当たらない。


 「―――俺は奇跡なんて信じない」


 再び立ち上がり天月と一緒に攻撃を加える。


 「処刑人・・・・しばらくおとなしくしていろ!」


 創造者は天啓の体に掌底を叩きこむ。その瞬間、前方と後方に天啓を縛るように陣が現れ、身動きが取れなくなった。


 天月はその隙をつき攻撃するが、創造者にとってその動作は、隙でさえなかった。甘い太刀筋を避わすと、天啓と同じように掌底を当てる。


 「!? これは・・・・」


 陣に捕縛され、身動きが取れなくなった。


 「人間用とハンター用の捕縛陣だ」


 説明するような口調の創造者に嵐道と佐川が対峙する。


 「――――俺達と、どっちが速いか比べて見るか?」


 嵐道は挑発するように言う。


 次の瞬間、二人の姿が消えた。高速の戦闘で、嵐道は足技を繰り出し、創造者はそれと打ち合う様に戦う。お互いの攻撃が交わる度に辺りに音が響く。


 嵐道が頭部を狙う。創造者はそれを難なく避わすと、下から鉄の爪を振り上げた。嵐道は体を逸らして避けるがその体制は隙だらけだった。


 「――――任せるよ吉良助」


 「!?」


 攻撃を加えようとした創造者に横から佐川が参戦する。


 「行くぜー!」


 ガッガッと重い拳と鉄の拳が混じり合う。そこに嵐道の攻撃も加わって一気に優勢となった。


 二人の連携攻撃は隙がない。嵐道の高速攻撃で敵を誘導し、佐川の攻撃を決定打にする。スピードの速い嵐道が敵を抑えるため、この状況になると、二人にとって勝利は目前だった。


 見切った嵐道の蹴りが創造者の足にヒットする。僅かによろけた所に、佐川は地面を砕かん勢いで踏み込むと、炎を纏った右拳を敵の胸部に定めた。


 しかし、創造者は異常な速度で二人の間を通り抜ける。その際、佐川足元に一秒とかからず陣が現れ、雷がその体を貫いた。


 いくら鬼とは言え、巨大な自然エネルギーをまともに喰らって無事な訳ではない。佐川は一瞬で意識が飛ぶと、黒ずんだ煙を出しながら前に倒れた。


 「吉良助!」


 親友が倒れたのを見て一瞬だけ動きが止まる。


 「戦いの最中(さなか)、動きを止めるとは、まだまだ素人だな」


 創造者はその一瞬の隙をつき、嵐道を蹴り飛ばす。その飛んで行く先に陣が現れた。


 そして、陣と重なった瞬間、巨大な爆炎が嵐道を襲う。


 仰向けに嵐道は倒れる。


 「・・・・・嵐道・・・・・佐川・・・・・うぉぉぉぉ!」


 天啓は影を使った。意志をもつように影は固定している陣の要所に突き刺さると、強制的にそれを破壊する。そして再び創造者に向かった。


 「! ――――待て、天啓!」


 二人がやられたのを見て天月は声を上げた。あの二人がやられた以上、一人では到底勝ち目がない。最低でも二人で掛からなくてはやられる。


 創造者は天啓の周りを高速で移動し、天啓はどこからかかってくるか、視界を彷徨わせていた。高速で繰り出して来る攻撃を何とか天臨で受ける。


 その眼が徐々に青色へと変化していく。


 と、その時、天啓の繰り出した肘打ちが高速で動く創造者の腹部に当たった。予想外のヒットに創造者は僅かに動揺する。


 「当たった!?」


 天月は驚いた。


 「――――おのれぇ!」


 創造者は更に速度を上げ、天啓の後ろに回り込む。その瞬間、天啓は肘を後方にはね上げた。顎にまともに食らい、今度は大きくのけぞる。


 「信じられない・・・・・」


 あの二人でやっと攻撃が当たったと言うのに、天啓は一人で互角に渡り合っている。これが、かつて夜の住人と言われていた、処刑人の力なのか・・・・・?


 「――――身の程を知れ!」


 背後には回らず、天啓の周りを移動しながら創造者は攻撃を加える。天啓はその攻撃を防いでいき、創造者が動く一瞬の隙を捉え、天臨を振り上げた。


 次の瞬間、その攻撃は敵の右腕を切断する。斬り口から鮮血が吐き出された。


 いける!


 天啓はそう感じていた。


 「貴様ごときにっ!」


 その刹那、創造者の左拳がまともにヒットすると、天啓は高く打ち上げられる。そして、そのまま近くの建物の窓ガラス破り内部に吹き飛んで行った。


 「・・・・・・・・・解除」


 天月は完全に捕縛陣を解除すると、落ちた腕を元の位置に戻している創造者を見る。


 「――――私は嵐道ほど速くないが試してみるか?」


 緑色の洋剣を持った天月は挑発するように言う。


 と、創造者が動く。それを追って天月も移動した。


 高速で移動する創造者に剣を振り、無理やり停止させると、その場に止まり高速の剣技を叩きこむ。金属の交わる耳障りな音が辺りに響いた。


 天月は剣を大きくはね上げて無理やり距離を取る。両腕は服が裂け、無数の傷跡が付いていた。


 そこにさゆが駆け付ける。


 「―――――天月さん!」


 「―――海砂か・・・・もう少しだけ待て」


 創造者を見る。自分は幾多の傷があるにも関わらず、相手は無傷だ。


 「どうした? その程度か?」


 創造者は余裕の表情で前に立っている。その時、首に切れ目が入り、勢いよく裂けた。


 「む・・・・・」


 溢れ出て来る鮮血を左手で押さえる。その様子に天月は微笑を浮かべた。


 「――――どうやら、自慢のスピードにも限りが見えて来た様だな・・・・」


 「ほう・・・・・・試してみるか?」


 再び創造者の姿が消えた。天月も追いかけるが、流石に速い。しかし、攻撃は見切れない程ではない。決定的な一撃を叩きこもうと、その隙を狙い攻撃を防ぎ続ける。しかし、不意に創造者の速度が上がった。


 「――――口だけだな・・・・・」


 次の瞬間、天月は体を貫かれていた。


 「・・・がっ・・・・・・・・」


 創造者は貫いている天月をつまらなそうに投げ捨てると、さゆを見る。


 「貴様も死んでもらう」


 敵が歩み寄って来る。現場慣れしていない彼女にとって、創造者と言う相手は強大過ぎた。恐怖で全身が震える。だが、引くわけには行かない。


 震えながらも光の刃を形成すると、創造者に飛ばす。しかし、それは相手に触れる前に消滅した。


 「――――――まるで子供騙しだな」


 そう言うと、さゆの首を片手で掴み、持ちあげた。


 「あ・・・・・・」


 腕を掴み抵抗するが、ほとんど無意味だった。少しずつ息が出来なくなり、意識が遠のいて行く。


 お姉ちゃん・・・・・・・。天啓さん・・・・・・・・。


 その時、建物から飛んで来た天啓は、天臨を創造者の脇腹に突き刺した。


 「!?」


 咄嗟の出来事にさゆを離す。天啓は創造者を貫いたまま天臨を残すと着地した。


 「うぉぉぉぉ!」


 走る。創造者は向かって来る天啓に拳を繰り出した。しかし、最初の様に速さも無ければ鋭さも無い。難無くその攻撃を避わすと、天啓は腹部に攻撃を加える。そして、前かがみに怯んだ瞬間、頭部を殴り上げた。


 創造者も反撃し、攻撃を繰り出す。天啓はそれを避けると、刺さっている天臨に手をかけた。


 「! 貴様ァ!」


 勢いよく引き抜くと、切り口から噴水のように勢いよく血液が流れ出る。


 天啓は創造者から距離を取ると、天臨を構えた。


 「・・・・・ククク・・ハハハハ!」


 創造者は傷口を押さえながら天啓を見る。


 次の瞬間、天啓は勢いよく殴り飛ばされた。凄まじい衝撃が襲う。近くの看板にぶつかり、地面に落ちる。


 その時、全身に激痛が走った。ダメージの喰らい過ぎで、リミッターが解除されたのだ。


 「・・・・・・・く・・・」


 痛みに耐え、何とか体を起こす。持っている天臨が岩のように重く感じる。


 創造者の出血は止まっているが、足下がふらついていた。相手も限界の様だ。


 もう少し・・・・もう少しだ・・・・


 息を吐きながら重い足取りで創造者に近づく。


 「何故だ?」


 「・・・・?」


 創造者は声を発した。


 「そこまでして何故戦おうとする?」


 「・・・・・・」


 「『処刑人』の宿命か・・・・だとすれば、悲しきモノだ」


 「――――違う。俺は・・・・大切な人を護りたいだけだ」


 「・・・・・・大切な・・・人を・・・・」


 天啓は、創造者に向かって走る。相手はほとんど無防備だった。


 その太刀筋は腹部を大きく切り裂く。


 「・・・・・魂を・・・狙わないのか・・・・・?」


 傷を抑える様子も無く天啓に尋ねる。


 「・・・・・・俺は・・・夜雲じゃない・・・・・・・・」


 創造者は天啓を見る。すると、その背中に一人の男が重なった。


 「・・・・・・アル・・さん・・・・」


 次の瞬間、創造者の体は塵へと化した。

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