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夜光伝記  作者: 古河新後
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記第四十一説 夜月

サブタイトルは、『よつき』と読みます。

 「頭首!」


 慌ただしく男が屋敷内を叫びながら走る。そして、一つの部屋に入ると立ったまま本を読んでいる男がいた。和服に中肉中背の体つき、持っている本を片手で閉じると、男に視線を送った。


 「――――『霊王』『剣王』『白竜王』が町を超えてここに向かっています!」


 「他の同士はどうした?」


 「皆、『屍の四肢』、『円卓の騎士』を抑えるので精一杯です! 頭首は早くお逃げください!」


 「・・・・・・・・・空羅、『処刑人』にも寿命が来たのだ。我々は理由無で、戦い続けなければならなかった。夜月の言う通りだ、あの時、彼の言葉を皆が聞き入れていれば、このような事にはならなかっただろう」


 「頭首・・・・・」


 「―――だが、散って逝った同士達の借りは返さなくてはならないな」


 「――――はい!」


 「収集をかけろ。残った我々で、『王』の首を取る」





 黄金の月。その下で、鈍く、鉄と鉄が混じり合う音が、広く辺りに響いていた。


 天臨を巧みに振るう夜雲。


 その攻撃を見切り、致命的な一撃を狙う天啓。


 一つの魂にあった二つの意思は、ただ相手を破壊する為に攻撃を繰り出す。


 無言の打ち合い。攻撃距離の差などはまるで関係がない。


 風が吹き抜ける。


 その時、夜雲が一気に距離を詰める。


 天啓はナイフを突き出した。


 生々しい音を立ててナイフが夜雲の肩に侵入する。だが、まるで意に返さない様子で更に接近すると、天啓の腹部に拳を叩きこんだ。


 それと同時に夜雲の水月に天啓の蹴りがめり込んでいる。


 「がはっ・・・」


 お互いの攻撃を受け、間合いが開いた。


 「―――――ククク。なかなかやる・・・・」


 夜雲は体制を立て直すと、天啓を見る。


 「・・・・・・・」


 天啓は油断なくナイフを構える。すると、夜雲は楽しそうに、


 「――――中途半端だな。やはり」


 「・・・何がだ?」


 「お前の存在が、だよ」


 夜雲は風のように近づいてくると、再び打ち合いが始まった。


 「まったくもって中途半端な存在だ! 夜月なら、処刑人なら! 何故闇に生きようとしない!? 夜に住もうとしない!?」


 「・・・・・・・」


 「――――学校で戦った死人の話を覚えているか?」


 「・・・・俺はどちらにも立っていない」


 「そうだ! 覚悟も無ければ、志も無い! ただ、他人が歩く後をついて行くだけの存在だ!」


 打ち合いの数が増す。


 「片方の足を光に突き出し、もう片方の足を闇に漬ける。お前は・・・・弱い!」


 その時、返した刀がナイフを弾く。高く舞い上がり、草むらのどこかへ落ちる。


 「―――っ・・・確かに俺は弱く、何も知らなかった。生きている意味、父さんと母さんが言った言葉、自分の運命さえも―――――」


 振り上げられた刀が天啓に向かって振り下ろされる。だが、天啓は黒い刀でそれを受けた。


 「!? 影を・・・・武器に――――」


 「お前の言う通り、俺は光と闇の間に立っている中途半端な存在だ。――――だが!」


 今度は天啓が刀を跳ね上げた。夜雲は怯み、後ろによろける。


 「光に居るからこそ、大切なモノが見えてくる。闇に居るからこそ、知る事が出来る!」


 よろけた所に更なる追撃をかけた。


 「光が強いなら闇へ、闇が深いなら光へ、俺の進むべき明日に進んでみせる!」


 次の瞬間、天臨が高く弾き飛ばされる。


 「―――な!?」


 「終わらない夜はないんだ!」


 黒い刀が斜めに夜雲の体を両断した。


 ジジッと映像が、ぶれる様にゆっくりと姿が薄れてくる。


 「・・・・負けか・・・・俺の・・・・」


 舞い上がった天臨が目の前に突き刺さった。天啓は浅く地面に刺さっている天臨を抜くと、落ちている鞘に直す。


 「―――どんな苦しみや悲しみも、過ぎ去ってしまえば笑える日が必ず来る。夜雲、もう苦しむ必要はない。この地で、安らかに・・・・」


 そう言い残すと、踵を返して歩き出す。


 風に溶けるように、もう一人の自分は、大地へと還って行った。





 「――――どうだ?」


 海岸。アヴァロンの調査団は灰原の指示の下、待機していた。


 「――――この陣は、次元が違いますよ」


 即席で設置した機械をいじりながら男が画面から目を離さずに答える。


 「どんな術式を組んだのか知りませんが、陣内は別次元に存在しています。こちらから干渉しても全くの空振りですよ」


 既に凄さを通り越して、呆れたように言う。


 「――――どうにかならないか?」


 「―――やっては見ますけど、難しいですね。何重にも絡まった紐を解くようなものですよ。展開者が解除するか、この陣内から消えない事には・・・・」


 灰原は森に視線を移した。こんなことが出来るのは創造者だけだ。


 「・・・・・・・」


 何が目的かは知らんが、これ以上好き勝手はやらせん。


 「出来るだけ早くの解陣を頼む。―――――真川、浅倉、もしもの為に海岸で待機していてくれ」





 「――――ここ」


 さゆは一つの階段の前で止まった。全員、百段以上はありそうな階段を見上げる。


 「ここに居るのか?」


 天月が再確認する。


 「うん。ここから一つ、反応が――――――こっちに向かって来る」


 その言葉に天月は黒い剣を取り出し、嵐道と佐川は階段の上に視線を送った。


 視野で確認できる範囲まで人影が現れる。


 それは天啓だった。片腕に一本の日本刀を持っている。


 「ふぅ・・・」


 全員安堵の息をもらす。


 「―――――ん? 皆・・・なんでここにいるんだ?」


 「―――それはこっちが聞きたい」


 「とりあえず詳しい話はリオさんの所に移動しながら聞こう」


 嵐道が提案して、今度は町に移動を始めた。





 病院跡地。


 「やあ!」


 「・・・・・・・」


 ガラハッドは勢いよく突きを繰り出す。パーシバルは苦も無くその攻撃を避けると、隙だらけの頭にポコンと竹刀を当てた。


 「これで三十九回目だな」


 数を数えていたランスロットは軽く息を吐きだす。


 「まだまだ!」


 鋭い打ち合いが始まる。その時、


 「楽しそうですね」


 入口の門から待ちわびた声がした。


 「やっと来たか」


 ガウェインは重たそうに腰を持ち上げる。


 「あ、白士ー!」


 ガラハッドが目を外したその時、やれやれと、言わんばかりにパーシバルの竹刀が、またもやポコンと頭に当たった。


 「四十。帰ったら稽古だな」


 そう言うと木に寄りかかっていたランスロットは白士を向く。


 「遅いぞ。創造者の所に乗り込もうかと思ってたところだ」


 ガウェインが冗談を混じえて言う。


 「―――――やるべきことは終わったのか?」


 その後ろからパーシバルが尋ねた。


 「はい。無事に」


 「―――これからどうする? 正直なところ、お前の指示待ちなのだが・・・・・」


 ランスロットは受け取った竹刀を直しながら言う。


 「―――――帰りましょう。幸いここはロストです。このままこの陣から出て、とりあえずは私の家へ行きましょう」


 「やったー。白士の家、本当に広いんだよね〜」


 「おいおい。俺達の城も広いだろ」


 「あそこ狭いんだよ。しかもボロいし。前なんか寝ようと思ったら天井にびっしり蝙蝠が張り付いてたよ!」


 「―――ふふ。それでは帰りましょうか」


 優しそうな笑顔を浮かべると、一同は島の南に向かって移動を始めた。

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