記第三十八説 屋敷
天月は程なくして森を抜けた。その間、用心していたのは、重武装をしたあの敵だ。
あれは一体何なのだ?
森を抜けた後でも、振り返り森を見る。今にも森の中から襲いかかってきそうだ。奴からは歪な気配は感じたが、殺気や闘気などは感じられなかった。つまり、戦いの最中でも奴は平常心を保ち続けていると言う事か? そんな生物がこの世に存在するとは思えないが、実際に組織内でも、吐気のコントロールを出来る者は数多くいる。自ら発する気を読まれれば、相手がどう行動するか見当が付く。しかし、それらが無いと言う事は、先が読めないと言う事だ。後手に回る戦いは危険すぎる。一刻も早く海砂達と合流しなくては彼女が襲われればかなり危険だ。
更に整備された道を歩き、高い所に出た。
「おっ」
どうやらこの島で一番高い所であるようだ。前方には更に下りの道が続いている。その道に反るようにした無数の民家が並んでいた。
「駄作だな。21点と言ったところか・・・・・・」
そこから見える風景を趣味で採点していると、下の道から歩いてくる人影が見えた。
額に手を当て、視界を定めると、歩いてくる人影を遠目で確認する。すると、向こうは気づいたのか、手を振り始めた。
「――――あれは・・・・・」
「うおーい! 天月ぃ!」
遠目でもはっきりと分かる、筋骨隆々の体格。佐川であった。大きく手を振りながら近づいてくる。
「――――何だ。佐川か・・・・」
はずれかぁ・・・。と言う風に息を吐いた。
「おぉい! 親友と再会できて、それはねーだろ!」
大声を出しながら反論する。
「――――大声を出すな。どこで敵が聞いているか分からんのだぞ」
「ぬぅ。すまん。それよりも政治を見かけなかったか?」
「―――――嵐道の事か? 見ていないな。やっぱりあいつもこっちに来てるのか?」
「おうっ。恐らくどこかで悪の敵と雌雄を決っして、戦っているに違いない! うぉぉ今行くぞ戦友よ! 待っていてくれぇぇ!」
走って行こうとする佐川を後ろから服を掴む。
「―――まて、そんな大声をまき散らしながら移動するんじゃない」
「―――ならば天月! どうすればいい? 今も政治は、過酷な戦いを強いられているはずだ!」
「・・・・・・・」
天月は頭を抱えた。厄介なのと再会してしまった。かと言って、そこらに放置しておくと、創造者にこちらの存在が気付かれる可能性がある。豪快でパワフルな佐川だが、隠密性0が一番痛いところだ。仕方ない・・・・・
「――――私は今海砂を捜している。彼女は探知能力が優れているから、合流出来れば嵐道の位置もすぐ分かるぞ」
「――――なるほど。いい考えだ」
「―――そうと分かれば行くぞ。早めに合流して対抗できる力を集めないとな」
「おっしゃー! 分かったぜ!」
「・・・・・・・。大声は禁止だ馬鹿者」
ため息をつきながら天月はそう言った。
島の末端、病院跡前。
ランスロットとパーシバルは、その敷地内で待機していた。辺りには火薬の臭いと無数の針が壁に突き刺さっている。
「・・・・・・・・。ここで戦いがあった様だな」
ランスロットが針を取ると、形を忘れたように塵になった。
「―――『死人』の武装か・・・・」
「どうやら、ここで戦ったのは一般人では無いようだ」
針の様子や、周りの状況を見てそう判断した。
「・・・・・・。『ハンター』・・・・・か」
パーシバルも何と何が衝突したか気づいたようだ。
「―――――どうやら『創造者』は、我々の他に、知らぬゲストを招いてしまったようだ」
「・・・・・・・・・危険だな」
「ああ。奴が直々に出てくれば我々も交戦しなくてはならないだろう。一刻も早くこの『陣』から抜け出す事が最優先だ」
と、その時、上空から何か滑空してきた。
気づいたパーシバルは顔を上げる。
「・・・・やっとか・・・」
一メートル以上にも及ぶ巨大な鷹は、獣化を解くと着地する。
「よう」
「やっと見つけた・・・・」
ガウェインとその背中に掴まっているガラハッドは二人を見た。
「遅かったな・・・・」
パーシバルが言う。
「案外広いんだぞ・・・」
「――――楽しかったー。また乗せてよ」
ガラハッドは楽しそうに言う。
「―――一人で飛ぶより二倍疲れるんだ。頼まれてもごめんだね」
「残るは白士だな。―――――二人とも、彼女の姿を見なかったか?」
「―――僕は見てないよ」
「一旦合流したが、やる事があると言って別れた」
ガウェインはその時の様子を詳細に説明する。
「・・・・・・・。危険は無いか・・・・」
ランスロットは白士の戦闘能力を認識した上で結論を出した。『王』の名を持つ者は測らずとも一般の異端者では相手にならないほどの力量を持っている。継承する際にそれらの事も全て必要な能力として身に付けのだ。
「そう言えばランスロット。白士にあれは渡したの?」
「ああ、渡した。彼女は訝しそうな顔をしていたが・・・・・」
「あれって何だ? 聞いてないぞ」
ガウェインは二人の会話に割り込む。
「刀だ。白空から渡すように預かった物だ」
「白士は剣術を嗜んでいたのか?」
パーシバルが尋ねる。
「そんな事は聞いてはいないが、白空も無駄な事をするとは思えん」
「―――それじゃこれからどうする? 白士を迎えに行く?」
「いや、動くのは得策ではない。ここで時が動くまで待機する」
「時が動く?」
ガラハッドは不思議そうに頭をかしげた。
「勝負に流れがあるように、戦場にも流れがある。今は動いていないが、それが動き出した時に我々は動く必要がある」
「・・・いまいち、よく分からないな・・・・」
「とりあえず、待っとくって事さ」
理解に苦しむガラハッドにガウェインが答える。
「分かった。じゃあ、パーシバルまた稽古つけてよ」
「・・・・別に構わないが真剣だと危険だ」
「これを使え」
と、横からランスロットが二本の竹刀を出した。
「・・・・何で持っているんだ? 旦那」
「どんな時でも訓練できる態勢を作る事は大切だ」
真面目にガウェインに答える。
「騎士の鏡だよ・・・・ホントに・・・・」
息を吐きながらガウェインはそう言った。
「・・・・これは」
リオは森を南へ歩いていると丁寧に造られた古い石造りの階段を見つけた。寺の様に長く続くその階段を上がると縦に、大きく割れている門が入り口として配置されている。
隙間から中に入ると、そこには一つの大きな影があった。
暗くて分かりづらいが、それは巨大な屋敷のような建物だ。黒い木材を使っているのか、月明かりに反射せず黒い影としてそこに存在している。
正面の扉に近づく。門と扉の間には開けた庭が存在しているが、斜めに両断されている石細工の置物や、焼け跡だろうか焦げた木材などが散乱していた。建物全体もよく見ると、様々なところが黒く焦げているのだ。
リオは近くの柱を触る。黒い墨が手に付くが、触った位置を見ると肌色の木肌が見えていた。表面しか燃えていないのだ。恐らく、ここだけではなく屋敷全体がそうなのだろう。いたる所が破壊され、内部が露出しているが、崩れる気配はまるで無い。まるで屋敷全体が、生きているようだ。
「土足で失礼しますよ」
横戸式の扉を開くと中に入る。崩れている床や、内側に吹き飛んでいる壁、そして―――――
「! ・・・・・・・」
人の骨だ。可能性は考えていたが、実際に的中すると恐ろしいモノを感じる。一つではなく、二つ、三つと、うつ伏せに倒れている物や、壁に寄りかかるようにしている物など、それら全てが古く劣化した和服を着ている所から古い時代の人間で、何らかの戦いに巻き込まれたと言うところか?
しかし、リオは即座に自分の考えの矛盾に気が付いた。もし、この屋敷の者達が古い時代の人間だとすると、島の至る所にある住居や町の説明がつかない。町自体も破壊されている所が至る所にあったが、死体は一つも無かった。最初からこの屋敷だけを狙ったように、ここ以上の破壊被害は確認できていない。一体この島で何があったのか・・・・・?
「――――ほぅ・・・・偶然か?」
リオは声のした方に視線を向ける。
「! ・・・・・貴方は・・・・」
そこに立っていたのは天啓だった。しかし、普段彼が持つ雰囲気とは、遠くかけ離れている。
「黒邸に光れて来たか? 新月李桜・・・・それとも海砂李桜と、呼んだ方がいいかな?」
「!? 何故その事を・・・・」
「―――――そいつは矛盾と言うモノだ。俺は天啓。君と話した会話、君と過ごした記憶、嘘偽りなく覚えているよ」
スッと天啓の眼が青く変わる。
「でも、貴方は天啓君じゃありません!」
リオは銃を向けた。
「―――――ククク・・・ハハハ! 流石にそこまで否定されると、夜月ぶるのが馬鹿らしくなって来る―――――」
天啓はリオに向かって走りながらナイフを展開する。
発砲。室内で銃声がうるさく反響した。しかし、弾は当たらない。
「狭い空間では銃より接近戦の方が分がある! 戦いの基本だぞ!」
下からナイフが銀色の閃光を引きながら襲ってくる。リオは破壊されている横の壁から部屋の中に避けた。僅かに触れていた斬撃が銃先を斬りおとす。
「っ・・・・」
リオは跳び退くと同時にもう一丁の銃を向けた。しかし、既に至近距離まで来ていた天啓は勢いよく蹴りあげる。
弾丸は斜め上に外れた。
「その魂、斬痕の元に服すがいい」
次の瞬間、七つの銀閃がリオに襲いかかる。瞬時に桜臨を取り出し、防ぐが最初の二撃までは間に合わず、まともに受けた。服が切り裂かれ、血が前方に飛ぶ。
更に天啓は身体を回転させ、蹴りの追い打ちを叩き込んだ。それを桜臨で防ぐが、あまりの衝撃に、後ろの壁を破壊し、外に吹き飛ぶ。
「―――――!?」
吹き飛ばされた先に地面は無く空中だった。
「救われないな・・・俺も、お前も・・・」
リオは奈落の森へと落下していった。
崖から落ちて行った、リオ生死を確かめる様子も無く、天啓は屋敷の置くへ歩いていた。ただの偶然か・・・・違う、屋敷に引き寄せられたのだ。でなければここに近づくことさえしようとはしない。奴にも薄く『血』が流れていたか・・・・
天啓は楽しそうな笑みを浮かべた。その時、自分の身体が、ジジッと一瞬だけぶれた。
もう時間が無いらしい。究極の一を体現するには、あの桜庭でなくては・・・・・
「待っているぞ。リオ」
そう呟くと、奥の闇に飲み込まれるように姿が消えた。
「いたたた・・・・」
リオは頭を押さえながら立ち上がった。かなりの高さから落ちたと言うのに、頭を強く打った以外怪我をしていなかった。
上を見上げると枝が空を覆っており、どうやらクッションの役目を果たしたようだ。
「――――参りましたね・・・どこかに上に上る道は――――」
その時、木に寄りかかるように座っている人影に気が付いた。気配が無かったため、気づかなかったらしい。武器を出し、警戒しながら近づくと、そこにいたのは天啓だった。
「!? 天啓君!」
武器を置くと慌てて走り寄る。だが、彼は虚ろに目を見開いたまま意識は無かった。加えて着ている制服の至る所が裂け、傷を負っている。
一つ一つ治していては時間がかかる。
リオは死んでいるように冷たい天啓に身を寄せると、治療に集中した。




