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夜光伝記  作者: 古河新後
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記第三十四説 赤眼

 町外れの住宅街。そこには不思議な光景が広がっていた。

 

 等間隔で設置されている電柱が全て折れ、一か所に山済みになっているのだ。道路の真ん中に瓦礫となって散らばっているのは恐らく、近くの住居だろう。

 

 ありえない光景を目の当たりにしているランスロットは、その様子に驚く様子も無く当たり前のように、見ていた。

 

 「・・・よほど能力がぶつかりあった様だな。相手はそれほどの者たちか・・・・・」

 

 瓦礫の山を見ながらどのような戦いが繰り広げられたか、予想していると――――

 

 「こんばんは」

 

 いつの間にか瓦礫の上に一人の青年が立っていた。位置的に自分を見下ろしている。

 

 「・・・・・・・」

 

 ランスロットは鋭い表情をその者に向けた。

 

 「その鎧・・・・そして、人の魂を固定化した錬成法。『円卓の騎士』だな?」

 

 青い眼で全てを見透かすように言う。

 

 「――――貴様は・・・・」

 

 青年は口を曲げて不敵な笑みを作ると、慣れた足取りで、瓦礫の山を下る。

 

 「『処刑人』天啓」

 

 目の前に立つと青い眼を向けながら言った。

 

 「・・・・・やはりそうか。独特の雰囲気。その眼がもたらす異端者に対する威圧。そして、『暁家』に並ぶ戦闘能力。どれを取ったとしても、人間には持ち過ぎた力だ」

 

 「一つ、聞きたい事があるが、良いか?」

 

 「・・・・・・・」

 

 「――――肯定と受け取る。何故お前達は、俺達を襲った? 態々『混合協定』まで結び、討ちに来た?」

 

 「その力、人間が管理しきれるモノではない。昔は敵が我々だったが、『異端』が朽ちた時、その矛先は次にどこに向けるつもりだった?」

 

 そう言うと、ランスロットは闇の中から身の丈を超える槍をとり出した。

 

 「・・・・さぁ。『処刑人』は本能を優先で判断する。目の前に敵がいれば、それを壊す。居ないのなら見つけるまでだ」

 

 天啓はポケットから折り畳みナイフを取り出すと刃を露出させる。

 

 「だから貴様らは滅んだのだ。今ここで、その血筋を断つ!」

 

 「一介の死人が。なめるなよ」

 




 「――――それでさぁ。みーんな僕の事を子供扱いするんだよ?」


 「あ、その気持ち良く分かるよ。私も同い年なのにお姉ちゃんよりも子供っぽく見られる時があるから」


 森。ガラハッドとさゆは、さゆの先導で町に向かって歩いていた。


 最初にガラハッドを見たさゆは、魂の反応を確認し、人間であったことから、彼女は死人でないと判断した。その後は、ガラハッドは町を目指している様なので、さゆも同行した。彼女が一般人である以上、聖職者である自分が守らなくては・・・・・。そんな事を思いながら今も町を目指して歩いていた矢先、途中道が途切れており仕方なく森を通る事にした。


 そして、辺りに響かない程度に談笑しながら歩いている。


 「そう言えば、僕も友達と比べられるよ」


 と、目の前の景色が開け、石造りの階段が下に伸びていた。どうやら森を抜けたようだ。急な階段であるため、慎重に一歩ずつ下る。


 「――――ガラハッドは、町に行った後はどうするの?」


 階段を降りながらさゆは尋ねた。


 「んー、お父さんを捜すよ。お父さんなら人気のある所を目指すと思うし」


 さゆは、お父さんと言う単語に反応した。


 「・・・・・・」


 自分の父はもうこの世には居ない。今担当している任務を終わらせ、あっちの世界に戻れば、自分は・・・・・・


 暗い思考に向かっている事に気が付き、顔を横に振った。


 今はそのことよりも目の前の事に集中しなくては。私がガラハッドを護らなくてはいけない。迷っていればそれだけ、彼女も危険な目に合わせてしまう。


 「さゆー?」


 ガラハッドの声に我にかえった。いつの間にか歩みを止めていたらしい。


 「あ、ごめん」


 「気をつけてね。階段、急だから」


 「うん」


 タンタン。と、階段を下りきると、そこは廃れたような雰囲気に包まれた滅びた町だった。


 「ここは」


 「・・・・・・・」


 町の様子を見ながらさゆとガラハッドは警戒した。


 「あら? ―――――どちらも普通じゃないわね」


 その時、正面の闇から声がした。見ると一人の女性が歩いてくる。


 鋭い瞳に長い髪。どこか大人びた雰囲気を感じるが、表情は幼さを持っていた。見た所、自分と同じか、一つ上・・・・どちらにせよ自分に近い年齢だろう。


 だだ一つ気になるのは、その女性が赤い眼をしていると言う事だ。


 「―――貴女は・・・・・人間」


 魂の反応を見てそう判断する。


 「当たり前よ。でも貴女は・・・・・少しだけ違うみたいね」


 赤い眼を細めて見定めるように言う。


 「!? ・・・・・見えているの?」


 「その質問には答えないわ―――――」


 気が付けば、既に目の前で足を振り上げていた。


 「きゃっ!」


 手を添えてダメージを軽減するが、まともに吹き飛ぶ。


 「さゆっ!」


 「余所見している暇はないわよ?」


 ガラハッドにも蹴りを叩きこむ。空の段ボールのように軽々と吹き飛び、近くのベンチを砕く。


 「くっ―――――」


 その様子を薄目で見ていたさゆは、何とか立ち上がろうとするが、自分の体ではない重みを感じた。


 これが、実戦。情報調査部である自分は敵と対峙した経験は零だ。こんなにも痛く、辛いとは思わなかった。何かを守ると言う事は、生半可な覚悟では無理なのだ。


 「あら、貴女―――――」


 女は、倒れているガラハッドを見てそちらに近づく。


 「させないっ!」


 ふらふらの足で立ち上がると、刃状に形成した『光』を女に向けて放つ。


 だが、その光は足で払う様に弾き消された。


 「――――この力は・・・・・『光神』?」


 女はさゆに向きを変えると、歩き出す。


 これでいい。ガラハッドが逃げるまで何とか時間を―――――


 最初と同じように既に女は目の前に来ていた。


 「っ・・・・」


 見切る事が出来ない足技を即席で造った光の盾で防ぐ。攻撃が当たる度に粒子となり集束している光が散る。


 「――――やっぱり『光神』・・・・・」


 女は攻撃を加えながら、さゆの能力を見極めていた。

 




 「イテテ・・・・・。普通の人間だったら全治四カ月ぐらいだよ・・・・」


 頭を支えながら体を起こす。


 「そうだ! さ―――――」


 戦っているさゆの元に駆け寄ろうとした時、後ろから誰かに口をふさがれた。


 「んへ?(だれ?)」


 「―――静かにしろ」


 ガウェインだった。恐らく空から自分を見つけて駆けつけたのだろう。


 「ふふぇふん! (ガウェイン!)」


 「静かにしゃべれよ」


 そう言うとガウェインはガラハッドの口を開放する。


 「助けに行かなきゃ――――――」


 「行くな」


 駆け寄ろうとしたガラハッドを制止する。


 「何でさ!?」


 何百年も共に戦ってきた仲間の言葉を聞き入れ、感情を無理やり留める。


 「あいつはハンターだ。助ける義理はない」


 「だって! 友達なんだよ!?」


 「―――だったらなおさらだ。お前の正体に気づいていないのかは知らんが、いつか戦うかもしれないんだぞ?」


 「・・・でも」


 「敵を知ればそれだけ戦いにくくなる。旦那もよく言っているだろ?」


 「・・・・・・・・・・・・・分かった」


 火の消えるような声でガラハッドは言った。





 さゆは、敵の攻撃を受け続けていた。盾は広く強固に作れるが、問題は長く留める精神力だ。形の形成ばかり練習していた為、持続時間はそれほど長くない。


 その時、盾にひびが入る。


 「!?」


 「そこね」


 女は、ひびが入り弱っている所に渾身の一撃を蹴りこんだ。


 「っ・・・・」


 辺りに拡散しながら破壊される光の盾。蹴りの威力はそれだけに止まらず、さゆの体も後ろに吹き飛び、街灯に当たった。その時、ガラハッドの居る場所を見た。壊れているベンチはあるが、彼女は逃げたようだ。


 よかった・・・・・・


 心の底から安堵した。


 「―――こんなモノではないはずなのだけれど・・・・・・」


 女が近づいてくる。


 私は・・・まだ・・・・・


 街灯を掴みながらぎこちなく立ち上がる。


 「芽は小さな内に摘んでおいた方が良いわね―――――」


 攻撃距離にさゆを捉えると、女は腕を振り上げた。


 お姉ちゃん・・・・・


 その時―――――


 「――――そう言うのは止めておいた方がいい」

 

 突風が起き、女の体が後方に吹き飛んだ。


 「っ・・・・・」


 「・・・え?」


 さゆの目の前に一人の青年が、風を受けながらゆっくりと着地した。制服の第一ボタンを外し、爽やかな雰囲気を纏っている。


 「力の差があるのを、見ているのはあまり趣味じゃない」


 女はきれいに着地すると青年を見る。


 「―――貴方は・・・・・『風神』」


 「―――――――その言葉は嫌いなんだ。嵐道政治。それが俺の名前だ」


 相手を見ながら宣言するようにそう言った。

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