記第二十一説 始終
「いたぞ。報告通りだな」
町中で巨大な地竜の姿を正面から見ている者が言った。
「禁止区域が分からねぇ奴らだ」
四足歩行で巨大な岩山がゆっくりとこちらに侵攻してくる。地竜とはまさに太古より生きる生物であった。竜の中でも珍しく本能への進化を優先した知能の低い種類である。縄張り意識はあるのだが、強いとは言えず、時に今回のように町を横切る事があるのだ。
「チッ。迷惑な野郎だ」
隣に居る女が悪態をつきながら言う。シャツにその上から軽くひっかけている程度の上着。ロングスカートにブーツと言う姿だ。
「手っ取り早く済ませるか」
隣に居る者がそう言った。その者はまさに何なのか分からなかった。目に当たる部分にセンサーのような眼が付いており、全身を覆う堅固な装甲、聞こえる声から男である事は何となく理解できる。しかし、姿が以上だ。人間のようなヒューマン型よりもより戦闘に特化しているアンドロイドの様な外見をしていた。
「時間稼ぎなんて生ぬるい事はしねぇ。この場で叩き潰してやる!」
女は怒りをあらわにしながら言う。
「――――それじゃいつも道り行くか。ただし市街地戦だからな。高火力は控えろよ浅倉」
「分かってるよ。お前もしくじって喰われるなよ真川」
真川と呼ばれたアンドロイドは一直線に地竜に向かう。浅倉と言う女は低い位置を跳び継いで高所へと移動する。
グオオオオオ!!
地竜は亀裂の様な口をいっぱいに開くと辺りが吹き飛ばさんばかりの咆哮と、突風が襲いかかる。
「軽いな」
突風が飲み込んだその時、真川の背中が開き勢いよくブーストする。
「うおおお!」
突風を抜けるとブーストを解除し、足でコンクリートを削りながら地竜に接近する。
地竜は真川を飲む込もうと大きく口をあけた。
「喰われるかよ! 破壊拳!」
ガシャっと、腕の手首から下が僅かに展開される。
勢いよく踏ん張り強引に前に進む力を止めると、そのままの反動を勢いよく展開している右腕に乗せて突き出す。
次の瞬間、巨大な振り子に正面から叩きつけられるように地竜は後ろに吹き飛ばされる。
体がひっくり返るほどの攻撃を受けて、大きく後ろに倒れた。
「浅倉!」
真川が叫ぶ。
「叫ぶな! 言われなくても、もう終わりだ!」
大声で返答する。その時、
空から飛来してきた何かが倒れている地竜に直撃する。次の瞬間、大きく爆発した。
「念のために三十発にしておいた。さすがに死ぬだろ」
一発にとどまらず次々と飛来するモノはミサイルであった。
ほどなくして爆撃が終わると、そこに残ったのは死体と化した地竜の姿である。
浅倉は慣れた足取りで上った高所から降りると、そこに声がかかった。
「浅倉。あまり高火力は使うなって言っただろ・・・・・」
煙の中から、真川が姿を見せる。
「オレはチマチマ計算するのが苦手なんだよ」
「せめてロケット弾にしとけよ」
そんな事を言いながら真川は辺りを見回す。先ほどの視野とは違い赤外線で映し出されている光景は、被害にあった者が居ないか探していた。だが、ミサイルの所為で著しく温度が上がっている周囲はほとんどオレンジか赤で表示されている。
「わかんねぇよ!」
「何がだ!」
「お前の所為でだよ!」
「ちゃんと仕留めただろ! なんでオレに落ち度があるんだ!」
「後の事も考えろって言ってんだ!」
まるで子供のように言い争う二人。そこに、
「『アヴァロン』の『聖職者』ですか?」
声がかかった。短い髪をして背にショットガンを背負った女だ。
「急いで、町の外に来てください!」
二人は走っていく女の後について走る。
「外で何が起きてる?」
真川が走りながら尋ねた。
「地竜が外にも現れています」
女の言葉に浅倉は首をかしげる。
「はぁ? 報告じゃ地竜は一体。オレとこいつで倒したあいつだけだろ?」
「地竜の特性を知っていますか?」
更なる言葉に浅倉は首を横に振った。
「専門外だ」
「・・・・・・まさか」
理解した真川を見て浅倉は尋ねる。
「なんだよ。真川。教えろよ」
「地竜は、岩石などを喰らいそれを栄養とするためにあんな外見に進化を果てた。それと同時に地竜本来の特性を忘れていた」
「本来の特性?」
「奴らは、地中に住んでいるんだ」
と、町の外に出ると目の前の光景は信じられないものだった。
巨大な地竜が何十匹も町に向かって行進しているのだ。
「誰もが見ても絶望的に見えるな」
浅倉が言った。だが、その眼その表情は心底うれしそうな表情をしていた。
「同感だ。久しぶりに思い切った仕事が出来そうだ」
真川も嬉々とした声で言った。
森元は改めて『聖職者』と言う者達に対して凄さを感じる。目の前のこの状況で二人は楽しそうにしているのだ。
「森元・・・・」
その時、横から三人の男が現れた。
「みんな!」
森元は幽霊のような足取りで歩いてくる三人を見て声を出した。
「まずいぞ。隊長が・・・・」
海砂は上原の肩を借りているがどこかぐったりとしている。見ると左腕が無くなっていた。
「急いで、緊急処置を!」
「大丈夫! 出血は止まってる。しかし、この状況・・・・ヤバすぎるだろ」
目の前の地竜の大群を見て上原が言う。『聖職者』が来ているとはいえ、この状況は危険すぎた。自分達が時間を稼いだこともあって村人の避難は終えている。ここは一刻も早くこの場を立ち去るべきだ。
上原を手伝うように森元も肩を貸す。しかし、聖職者の二人はその場を動こうとしなかった。
「何やってるの! 早く逃げるのよ!」
森元の言葉に対し二人は、
「逃げる? はっ、そんなつまらないこと出来るかよ」
「ここで引いたら、SARの名が廃れる」
楽しそうに断った。
「行くなら早く行ってくれ。守りながら戦うなんて器用な事はオレ達には出来ないぜ」
「俺達が収拾を付ける。あんた等はさっさと逃げろ」
「・・・・・・・」
そんな二人を見ている森元に上原は、
「森元。行くぞ」
急いでその場を後にした。
「廃れる・・・か。もっともだな」
「このくらい、軽いだろ?」
二人は、目の前の現状を再び見た。行進してくる巨大な大群。考慮する事がない荒れた野。まさにお膳立てはすべて揃っている。
「久しぶりに全力でやるぞ!」
「言われるまででもない! トマホークも使う!」
浅倉は高所に移動し、真川は大群に向かってブーストして行った。
屋上には相変わらず人が居なかった。少し肌寒い時期である為、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「よう」
天啓は屋上の常連であるさゆに声をかけた。
彼女は本を読んでいた為か、彼が言ってから少し遅れて視線を向ける。
「天啓さん」
そんな彼女を見て天啓は、
「元気ないな? 後、少しだけ顔色が悪いぞ」
正面の柵に寄りかかりながらさゆの様子を見て尋ねる。
「・・・・あの人と同じことを言うんですね」
「・・・・・俺はお前の友達だからな。友達が友達を心配するのは当たり前だろ?」
「・・・・・・・・」
「良くない顔だ」
天啓は顔を伏せたさゆを見てそう言った。
「・・・・天啓さん。いつか言ってましたよね。笑っている方がいいって」
「―――ああ」
「・・・・私、心の底から笑顔を作った事はないんです」
「・・・・・・」
「昔、大好きだった人に裏切られたんです。その人はゴミでも捨てるようにあっさりと私を裏切りました」
違う。そうじゃない。
さゆの言葉に何かを感じた。絆が・・・・切れ始めている。このままでは、二人は永遠に戻る事が無くなってしまう。天啓は全てを話す決意をした。
「さゆ。俺の話を聞いてくれないか?」
「なんですか?」
「リオは――――――」
言いかけたその時、どこからかリオが現れた。
「ああ! 天啓君! こんなところに居たんですか!」
「なっ・・・・」
「あ・・・・」
驚く二人に関係なく彼女は歩いてくると近くで止まる。
「探しましたよ」
「リオ! なんでここに?」
リオの姿を見たさゆは、
「・・・・彼女が来ましたね。私はこれで失礼します」
眼を髪で伏せると、本を持ちその場を後にした。
「・・・・・・・」
さゆが去っていく様子を見ている天啓にリオが話しかける。
「屋上を探しに来たらさゆが居てびっくりしましたよ」
「・・・・・・お前、タイミングを見計らって入ってきただろ?」
「・・・・・・・」
天啓は無言を肯定と認識すると話を続けた。
「なんでだ? 本当の事を言わないと、お前達はこのままだと――――」
その言葉にリオは、スカートを強く掴みながら堪えるように言った。
「・・・・ダメですよ」
「リオ・・・・・」
「天啓君が本当の事を話したら、あの子は貴方の事も嫌いにならないといけなくなる。そんな事になったら、あの子は誰にも心を開かなくなっちゃうよ」
「・・・・・・だが、お前は」
リオはいつもの笑顔を作ると天啓を見る。
「あたし? あたしは寂しくないですよ。友達が居ますから、天啓君が居るから。これで寂しいなんて言ったら神様に怒られちゃいますよ!」
なんでだ。なんで、笑顔で居られるんだ?
天啓は彼女のその表情が心に強く刻まれた。辛さを隠すための造られた悲しい笑顔。こんな笑顔を作るリオは見たくなかった。
「だから、天啓君はあの子と今まで通りの関係でいてあげてください」
「・・・・・・・わかった」
リオは再び笑顔を作る。
「それにしても、いい天気ですね」
空を見ながらそう呟く彼女。俺はそんなリオの横顔を見ながら、心の底で何もできない無力な自分を罵っていた。
「そろそろじゃない?」
旅館の部屋で窓から夜空を見ていたガラハッドは同室の白士に尋ねた。
「そうですね」
瞬時に何が言いたいのか察した白士は電気を消す。
「あっ! ちょっと待ってよ!」
ガラハッドは慌てて布団に入った。
「・・・・相変わらず。嫌な所だ」
火染は相変わらずの異形空間に慣れない様子だった。
永遠に続きそうな錯覚を受ける通路を歩き、創造者のところへ向かう。理由は、最後の戦力の合流を伝えるためだ。
「ん?」
目的の所にたどりつくと、最初に来た時と同じょうな光景が広がっていた。即ち魂を増やしているのだ。
ほどなくしてその儀式が終わると、頃合いを図って話しかける。
「『創造者』。『暁家』が到着。予定の戦力は整った」
「―――こちらもだ。終わった」
その言葉の意味を火染は理解した。
「それじゃ――――」
「次の年になる前に『霊王』は降臨する」
創造者は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。




