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夜光伝記  作者: 古河新後
23/48

記第二十説 守者

 深夜。


 青白い月光に照らされている夜の街はゴーストタウンさながら時折ある電柱の陰や、光の届かない裏路地には濃い闇が堆積していた。


 「不気味な街・・・・・・」


 辺りを見回しながら、夜闇に浸かる街を一人の女が歩いている。周囲を見る眼は恐れている眼ではなく、少しだけ詰まらなそうな表情をしていた。


 「・・・・・・。まったく、せめてどこに居るのか、情報がほしいわ」


 そんな事をつぶやきながら歩いていると、明るい光が横から道を照らしていた。


 「あら、コンビニ。こっちの世界にも在るのね」


 あても無くさまよい続けて一時間半、丁度喉が渇いたところだった。よかった。自動ドアに近づくと規則的な動きで開く。


 店内は少しだけ騒がしかった。バイクのヘルメットを被った男が、レジに居る定員にナイフを突きつけ何かを叫んでいる。


 「金だ! とっとと金を出せ!」


 コンビニに入った第一声がそれだった。なんとも規則が成っていない世界だろう。自分で思うのもなんだが、お客が入って来たら、いらっしゃいませ、が常識だというのに。まったく。


 しかも、コンビニには他の客がおらず、ヘルメットの男はまだうるさく言っている。


 「・・・・・・・」


 「さっさと金を出しやがれ! 殺されてぇのか!?」


 何と言う間違った言葉使いだろう。その言葉では、殺すか殺さないか、即座の理解に苦しむ。どうせならもっとはっきりしてほしいものだ。


 その時、店員はレジを開けると慌てて札を取り出した。


 あまり目立つ事をするなと、お兄様から言われている。ここは見なかった事にして何か飲み物でも買おう。でも、この状況、あの方ならどうするだろうか?


 「・・・・・・・・どうしようかしら」


 頬に手を当てて考える。天秤が現れてあの方とお兄様が左右に乗った。平行に保っていたが、ゆっくりとあの方の方に片寄り始める。


 そうね。やっぱり見過ごすのは良くないわね。


 札を受け取った男が入口で考えている女を見る。


 「なんだ? テメーは! どきやがれ!」


 男の突き出して来るナイフを右手で弾き軌道を逸らす。そのまま流れるように体を回転させると左肘をガラス部分に勢いよく叩きつけた。


 男は後ろに倒れると鼻血を出しながら昏倒する。


 起き上がりまだ攻撃を仕掛けてくると思っていた女は昏倒したのを見て、


 「・・・・・・・・あっけないわね」


 詰まらなそうに言った。


 「あ、ありがとうございます!」


 店員がレジ越しにお礼を言って来る。その時、


 「茶」


 横からまるで何事も無かったように、顔に包帯を巻いた男がお茶のペットボトル持ってレジに来た。


 「あ・・」


 「火染さん。居たなら何とかしてくださいよ・・・・・」


 店員がレジを操作しながら言った。


 「脅しただけじゃ犯罪にならないからな。盗んでから天誅を下す」


 火染はレジを待っている間、男を倒した女を見た。素人とは言え、武器をもった相手にあそこまで圧倒的するとは・・・・・・


 「――――中々強いなあんた」


 「―――な!?」


 その言葉に対し、女は驚いた表情をした。


 「どうぞ。お釣り」


 「サンキュー。早く警察に連絡しとけよ」


 火染は女の横を通り過ぎた。その時、何故か女はワナワナと震えていたが、気にしない事にした。


 女は肩が震えていた。なんと言う事! まさか・・・・・・本気で?


 「あのー」


 「―――忘れてるー!」


 そう言うと女はコンビニを出て、歩いている火染に背後から声をかける。


 「そこの貴方! 待ちなさい!」


 その声に火染は立ち止まった。


 「なんだ? 何か用―――――」


 女の顔を見て火染は言葉を止める。きりっとつり上がった目に強い意志を感じさせる瞳。この眼は―――――


 「もしかして、緒夏か?」


 女は腕を組みながらやれやれと息を吐いた。





 「アハハハ」


 「・・・・・・・」


 「あまり笑うなよ心蝉」


 火染は買ってきたお茶を飲む。隣には緒夏が座り、心蝉は街灯を背にして立っていた。


 「年じゃねぇのか? 火染。老人ホームでも行くか? アッハハハ!」


 どうやらこいつはそんなに俺が彼女の事を忘れていた事が可笑しいらしい。


 「――――っと・・・・どうやら俺は『創造者』に呼ばれてる。お嬢さんは後でそいつと来るといい。じゃあな火染。ポロポロ記憶を落とすとマジでボケるぞ? アッハハハハ――――――」


 足元が光ると心蝉は姿を消した。


 「―――まったく。あの野郎・・・・・」


 「―――まったく、ひどいですわね。忘れるなんて」


 皮肉そうな口調で緒夏が言う。


 「・・・・悪かったよ」


 「何故気付かなかったのかしら? よろしければ理由をお聞かせくださらない?」


 そこまで言うとは、相当根に持っているようだ。


 「―――――あまり突くなよ。色々とあったんだ」


 「そうかしら? 私も色々とあったけど気づいたわよ。貴方に」


 「そりゃ、俺の姿は三年前と変わってないからな。気付かない方がおかしいだろ?」


 「・・・・・・それもそうね・・・」


 火染は立ちあがると飲み終わったペットボトルをゴミ箱に捨てる。


 「髪。伸ばしたんだな」


 「―――――そうかしら?」


 緒夏は髪を触りながら言う。


 「どうも長生きをしているとな、細かい事ばかり気にしちゃうんだよ」


 くくっと、笑みを浮かべながら火染は煙草を取り出す。


 「あら? 貴方煙草を吸うの?」


 「ああ、金と体に悪いからレイからは一日一本って言われいる」


 煙草をくわえると、火をつけていないにも関わらず先端が燃えだす。


 「―――吸うか?」


 「私は普通の人間よ。早死にはしたくないわ。―――――――あ・・・ごめんなさい」


 「別にいいさ。俺は生前も人間じゃなかったからな」


 「―――本当にごめんなさい。私そんな意味で言ったんじゃ・・・・・」


 しょげる緒夏を見て、相変わらずかと煙を吐き出す。


 「まったく変わらないお譲様だ」


 彼女の頭に手を乗せると昔を思い出すように再び苦笑する。


 「〜〜〜〜〜〜〜」


 緒夏は恥ずかしそうに視界を隠す。


 「気にしてない」


 「ほ、本当に?」


 「ああ。心を広く持たないと長生きは出来ないからな」


 「・・・・・・」


 それでも彼女は申し訳なさそうに目を伏せている。


 「それでは、行こうか。お譲様?」


 その言葉に緒夏は顔を上げるとクスッと笑った。


 「――――貴方が言うとやっぱり合わないわね」


 「―――萱野のさんの様にはいかないな」


 ため息をつく。


 「―――それじゃ案内してもらおうかしら」


 「―――了解」


 火染は歩き出すその横に緒夏が続いた。





 風が吹き抜ける。


 天啓は中庭にいた。時間が立つのはものすごく速い。修学旅行はあっという間に終わり、季節はすでに秋下旬。落ち葉が積もる季節である。


 「・・・・・・・・」


 木を背に寄り掛かると枝と葉の隙間から秋の空を見ていた。


 思い出すのはさゆとリオの話。


 家庭の事情でそうしなければならなかった。大好きな家族、そして妹と引き裂かれ、あいつは何であんな笑顔でいられるのか。


 俺には耐えられなかった。


 母さんを失い、笑顔でいる事なんて出来なかった。支雲家に引き取られて、おじさんとおばさんがどんなに話しかけても、俺は笑顔を作る事が出来なかった。あの頃はよく分からなかったが今なら分かる。


 世界にただ一人だけだと思っていたからだ。


 心から頼れる人が居なくなってしまった事から、笑顔を作る意味なんて忘れていた。


 俺はまだ良い方だ。心を閉ざしても開こうとしてくれた人がいたから。


 だが、あいつは、一人になってもそれをする事さえ許されなかった。ただ笑顔で、つまらない事で笑って、つまらない事を追求して、そうするしか、さゆの為にも生きる事が出来なかったのだろう。あいつは俺なんかよりもずっと強い。


 そんな彼女が初めて見せた涙だった。誰にも言えなかった。誰も頼れなかった。心の叫び。


 さゆの表情にも見えた、辛く悲しい心の表情。


 本当にこのままでいいのか?


 確かめなくても近くで二人の顔を見れば分かる。


 リオは、優しい笑顔の裏に計り知れないほどの悲しみをため込んでいる。


 さゆは、本当に言たい事が過去の記憶によって塞がれ、苦しんでいる。


 このままでは二人の絆は本当に断ち切れてしまう。


 「―――――俺は・・・・どうすれば良いんだろう・・・・」


 腕で両目を覆い、僅かにずらして片目で空を見る。


 そう言えば前もこんな事があった。


 あの時は―――――


 天啓君らしく無いですね。天啓君はあまりそう言うのを考えない人でしょ?


 「――――・・・・・」


 一瞬彼女の声が聞こえて天啓は体を起こした。


 風が吹き抜ける。


 「俺らしくない・・・・・か」


 空を見上げる。


 そうだな俺らしく行こう。


 天啓は屋上に行くために校舎に向かって歩き出した。





 町。荒れ地と森の境界線の近くに造られたこの場所には多くの者が住居を築いていた。


 いつも祭り以外は静かなこの村は今、混乱に包まれている。


 誰もが焦ったように走り回り、急いでこの場を離れようとしていた。


 反対側の入り口では、用意されたトラックの荷台に多くの村人が乗っている。


 「押さないで! 荷物は置いてください! 全員乗りきれません!」


 指揮している者が居るものの混乱は収まる気配がない。誰もが一刻も早くここを離れたいのだ。当然と言えば当然である。


 そんな混乱の中、トラックに向かう村人とは反対方向に歩く者がいた。


 眼鏡をかけ、普段は今のような険しい表情をあまり作らない男だ。


 男は建物の一つに入ると通信機で連絡をとっている女に声をかける。


 「森元。『アヴァロン』は何と?」


 「―――海砂隊長。今こちらに向かっています。後三十分ほどで着くそうです」


 「そうか・・・・・・」


 三十分。微妙な時間だ。


 海砂は腕を組み現状を考えた。


 奴らの唯一の弱点は進行速度が遅いと言う事だ。しかし、三十分もあればここに到達するのは容易だ。


 「森元。上原と岩切は?」


 「地竜を少しでも足止めしようと交戦していましたが、先ほど武器の弾薬が切れてこちらに撤退してるそうです」


 「・・・・そうか」


 もう少しだ。あと十分ほど足止めが出来れば・・・・・・・・


 その時、慌ただしく上原と岩切が入ってきた。


 「隊長。まずいですよ。このままじゃ避難が終わる前に、みんな死体になります」


 「『アヴァロン』は一体何をしているんですか!」


 海砂はその言葉に決心した。剣を取り、ショットガンを背負うと入り口に向かって歩き出す。


 「後二十五分で『聖職者』が来る」


 「それじゃ間に合いませんよ」


 「そうだ。間に合わない。私が足止めをする」


 「!」


 その言葉に全員が固まった。


 「皆は避難している人たちを頼む」


 扉を開けて出て行こうとすると、


 「嫌ですね。俺は」


 上原が口を開いた。銃に弾を入れて装填する。


 「水臭いっすよ隊長。俺はあんたと一緒に行きます」


 「上原・・・・」


 「右に同じです」


 RPG―7を肩に担いだ岩切も同意する。


 「隊長一人で死亡率を上げるよりは私達全員で行って、生存率を上げる方が無難じゃないんですか?」


 森元はショットガンの弾を装填しながらそう言った。


 「・・・・・全員で生きてあの子が帰る場所を守る」


 「了解!」


 四人は建物から出ると巨大な怪物が待つ荒れ地へと繰り出して行った。

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