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夜光伝記  作者: 古河新後
20/48

記第十七説 旅行

 生い茂る木々。飛び立つ小鳥たち。枝の隙間から照りつける太陽。

 

 修学旅行で遠くの山に来た天啓は、辺りの風景を新鮮なものに感じた。

 

 まさに大自然。見渡す限り緑しか無い。敷地内にあるのは、麓にある入浴兼宿泊施設ぐらいだ。ちなみにここは三日目に利用する。

 

 「あーあー、空気が美味しいな」

 

 バスから降りた天啓はゆっくりと身体を伸ばす。その後ろから続々とクラスの者達が降りて来る。

 

 「四組はこっちだ。何やってる、さっさと並べ」

 

 天月が蟻のように散らばるクラスメイトを慣れた動作で整理していく。天啓も注意される前に並ぶ。

 

 一組から五組まで整列が完了すると先生達からの話と日程。そして注意が言い渡された。

 

 「えー、何度も確認したとおり、キャンプは三泊四日です。一日目と二日目は、この自然の中でテントを張って班ごとに過ごしてもらいます。三日目は近くの宿泊施設で一泊した次の日に学校に帰ります。皆さん楽しい思い出を作ってください。それでは解散」


 



 「ここにしようか」

 

 かなり広い敷地内の森で嵐道が選んだのは川沿いである。

 

 「うーん。涼しいからいいか」

 

 少し悩んでから天啓は承諾した。

 

 「よっしゃー、テント張るぜ」

 

 佐川が肩に担いでいたテント用具を下ろすと組み立てを始める。

 

 「――――そう言えば、女子もテントを張るんだよな」

 

 ロープを引っ張りながら尋ねた。

 

 「彼女達のは折り畳み式だからね。ちょっと骨組みを整えるだけで簡単に出来るようになってるってさ」

 

 杭を地面に打ち付けながら嵐道が言う。

 

 「便利なもんだな。ま、この重労働は女子にはきついか」

 

 引っ張ったロープを杭に結び付ける。

 

 「こっちは終わったぞ」

 

 一人で二倍の働きをしている佐川は、二人が二か所固定する前に残りを終わらしていた。

 

 「さすが。体格に合った働きをするな」

 

 天啓は感心したように言葉を漏らす。

 

 「三人だから天月さんも考慮してくれたみたいだね」

 

 本来は五人か四人の班だが、クラスの数が合わずに出席番号順から、テント班は天啓と嵐道は二人だった。だが、そこに佐川が、助太刀するぜ、と天月に提案したところ人数的な不足もあったため彼女も承諾した。

 

 「よし、完成」

 

 「おお」

 

 目の前にはこれから二日世話になるテントが出来ている。

 

 「荷物も入れたし、これからどうする? 食事時間にはまだ時間があるけど」

 

 「木の上に第二の砦を築くぜ!」

 

 と、意気揚揚に佐川が言う。

 

 「・・・・・・・」

 

 「俺も暇だし、吉良助の案にのろうかな」

 

 「マジか?」

 

 「おお! 流石は我が親友(とも)!」

 

 「――――俺は木の上が大丈夫か確認するよ。天啓。お前はどうする?」

 

 「うーむ」

 

 真剣に悩む。いや、悩むことの程ではないのかもしれない。て言うか、絶対そうだ。断ろう。

 

 「ならば天啓は俺と一緒に薪集めだ!」

 

 「え? 俺は―――――」

 

 「じゃ、頼むよ二人とも」

 

 「おう!」

 

 「え、俺は―――――」

 

 「行くぞ天啓! 他の奴らを上から見下ろす日は近ーい!」


 襟を掴むと佐川は天啓を連れて爆走して行った。





 「おかしいですね・・・・・」


 リオは天月に言われて嵐道達を呼びに来た。もうすぐ夕食時である。食事は好例のカレーを班で作る。テント班と食事班は違う。自分の食事班はランラン達と、あたし達の五人だ。


 他の友達の話だと、川沿いにテントを張る三人を見たと言っている。


 「うーむ。居ませんね」


 情報通りに川沿いにテントはあった。付近も捜すが三人の姿はない。


 「こうなったら! 最後の手段ですよっ!」


 リオは携帯を取り出すと、天啓に電話をかける。


 と、近くで着信音が鳴った。


 「? あれ」


 辺りを見回すが彼の姿はない。


 『もしもし?』


 見つけるよりも先に彼が出る。


 「天啓君ですか?」


 『――――リオか? どうした? 何か用か?』


 「もう、夕時ですよ。カレー食べないとリオっちはおなかペコペコです」


 しばらく間があって答えが返ってくる。


 『―――――とっ、悪い今すぐ行くよ。―――――おい! もう調理所に行かないとまずいぞ!』


 「? 二人もそこにいるんですか?」


 『ああ、すぐ近くに―――――おいっ! 佐川! そこの薪を貸せ! このままじゃ降りられない!』


 「・・・・・・・」


 『うわ! 嵐道! 動くな! いま動くとバランスが――――――』

 

 電話の向こうから、バキッと何かが割れる音がして後ろの茂みに何かが落下してきた。

 

 「・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 覗くと落ちてきたのは天啓と佐川だ。

 

 「この程度で死ぬ二人じゃないよ」

 

 嵐道が枝を伝ってリオの隣に降りる。

 

 「死ぬとこだったぜー!」

 

 佐川が復活した。

 

 「いててて、茂みに落ちてなかったら死んでたな・・・・・」

 

 後頭部を押えながら天啓は立ち上がる。

 

 「ほら、三人とも急ぎましょう。スズちんが待ってますよっ」

 




 「早く切り終われ。時間がかかり過ぎだぞ」

 

 必死に玉ねぎと攻防戦している天啓は、相手の反撃を喰らいながら玉ねぎを切っていた。

 

 「くそ。天月、お前わざと玉ねぎをとってたな・・・・・」

 

 涙を流しながら訴えるように言う。

 

 場所は、今では大半の生徒が集まる屋外の調理所だ。八列に分けられた最後列に天啓達は居た。

 

 「班全体に迷惑をかけるからだ。他の班は既に、ルーを入れているぞ」

 

 人参を切っている包丁を向けながら言う。

 

 「まぁ、遅れた俺達も悪かったんだし、仕方ないよ」

 

 嵐道は横で普通に切っている。

 

 「お前・・・なんで平気なんだ?」

 

 「うーん。特に理由はないよ」

 

 「――――その余裕な表情に対して初めて腹が立った」

 

 「天啓。話してる暇があったらさっさと終わらせろ」

 

 会話を聞いていた天月が声をはさむ。

 

 「スズちん。ご飯、終わったよ」

 

 「天月、薪を持って来たぞ」

 

 持って来すぎと言わんばかりの薪を佐川は横に降ろす。

 

 「よし。佐川、火をかけろ。嵐道、火が付いたら調整を頼む」

 

 「分かった」

 

 「天啓。終わったか?」

 

 「今終わったよ。くそ、視界が―――――」

 

 「よし、こっから先はチームプレイだ。全てを同時に行い他の班に追いつく。各自各々の持ち場でミスをするな」

 

 おおー、と乗り気のリオ達。

 

 天啓は目を洗いながら、なんか天月性格変わってない? と、思った。





 夜。三人が十分横になって眠れる程の広さを持つテント内で、天啓達はトランプをしていた。

 

 「誰だ、四持ってる奴!」

 

 七並べをしていると、急に佐川が声を上げる。

 

 「あまり大声を出すなよ。消灯時間は過ぎているんだぞ」

 

 月明かりを頼りにカードの配置を見る。ほとんど並んでおり、二人の枚数は少ない。無論自分もだが、ここはあえて、ジョーカーは最後作戦で行くか・・・・

 

 「よし! 俺はここに――――――」

 

 作戦を決行しようとしたその時、テントの入り口が開いた。そこから首だけを覗かしているのは担任の渋沢先生である。

 

 「あ・・・・・」

 

 三人は同時に目が合い、蛇に睨まれた蛙のように停止した。

 

 「ハーハッハハ。夜更しは若さの証だ。私は一向に構わんのだが、皆への立て前もある、今日はそのくらいにして続きはまた明日にしたらどうだね?」

 

 いつものノリとテンションで遠まわしに注意すると、去って行った。

 

 「・・・・・・」

 

 「もう寝ようか?」

 

 さすがにこれ以上続けるのは悪いと考えた嵐道が提案する。

 

 「そうだな・・・・」

 

 三人は、入浴後に個々に配られた毛布を、上からかけると横になった。

 

 「おやすみ。二人とも」

 

 「明日、リベンジするぜ!」

 

 「ああ、おやすみ」

 

 



 「・・・・・・・・」

 

 既に就寝宣言をして数時間。天啓は眠れなかった。

 

 隣では、予想以上に静かに寝息を立てている佐川と、死んでいるかと思うほど静かに寝ている嵐道の姿があった。

 

 目が冴える。妙な高揚感を覚えた。

 

 「・・・・・・」

 

 横に寝がえりをうつ。満月の月明かりは普段より強いものだ。そのせいで中々眠気に襲われないのだろうか。

 

 眠れない夜は特に嫌なことを思い出す。いつもみたいにすぐ眠ってしまえば、そう言った事を考える暇はない。しかし、時よりこのように眠れない夜が来る日がある。よりにもよって修学旅行の日にそれに当たるとは思ってなかった。

 

 思い出すのは、嫌なこと、忘れようと思った事が殆どだ。

 

 その時―――――

  

 「・・・・・・」

 

 天啓は声が聞こえた気がして体を起こした。寝ている二人を起こさないように辺りを見回す。

 

 当然の事ながら誰もいない。

 

 と――――

 

 向カエ。

 

 「!?」

 

 はっきりとささやくような声を捉えた。

 

 静かに外に出る。月の光を川が反射していた。

 

 向カエ。

 

 再び聞こえる声。天啓は言葉に出さずに心の中で尋ねた。

 

 どこに?

 

 彼女ガ待ッテイル。

 

 リオが・・・・・・?

 

 ソウダ。

 

 ・・・・・・・・。

 

 

 


 頂上高所。

 

 「・・・・・・・」

 

 満天の星空。宝石のように輝く星々。

 

 手を伸ばせば届きそうな夜空に、ベンチに腰をおろしているリオはおもむろに手を伸ばす。

 

 しかし、届くはずも無く、力なくゆっくりと手を下した。

 

 また、昔みたいに、あの子とこの星空を見る事が出来るのだろうか・・・・・・

 

 「・・・・・・・」

 

 叶わない願いを思いながら再び夜空に手を伸ばす。

 

 その時、頬に冷たいモノを感じて一瞬跳び上がった。

 

 「――――ひゃあ!」

 

 瞬時に後ろを振り向く。

 

 「――――隙だらけだよ。ハンター」

 

 両手にジュースを持っている天啓は少しからかう様に言った。

 

 「て、天啓君? なんでここに?」

 

 まだ早鳴りでなっている心臓をなだめながら、目の前に居る、居る筈のない青年に質問をかけた。

 

 「――――正直。俺にもよく分からん」

 

 そう言うと、片方のジュースを差し出す。

 

 「あ、ありがとうございます。―――――答えになってませんよ?」

 

 「―――悪いな。本当によく分からないんだ。何となくお前に会いたくなったからかな?」

 

 天啓はベンチに腰を下ろす。

 

 「ふ〜ん。そっか・・・・・・気を回してくれたのかな・・・・・・」

 

 「―――なんか言ったか?」

 

 「いえ。あたしも、天啓君に会いたいな〜って思ってたんですよ」

 

 リオは天啓の隣に座った。

  

 二人でしばらく夜空を眺める。

 

 「・・・・・・。辛いか?」

 

 唐突に天啓が話を切り出した。

 

 「・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・」

 

 「・・・そうですね。あたしでもきつかったですよ」

 

 少しだけ暗い口調で、リオは話し出す。

 

 「――――大好きな妹に言われると、いつもの倍はダメージを受けます。さすがにあたしのベルリンのハートでもひびがピキピキですよ」

 

 「・・・・・・泣かないのか?」

 

 辛そうに話す彼女を見て天啓は言った。

 

 「泣けませんよ。辛い思いをしたのは、あたしじゃありませんから」

 

 「・・・・・そうか。お姉ちゃんは大変だな」

 

 「――――そうですよ〜。とっても大変なんです!」

 

 笑顔を浮かべ言うリオ。天啓は逆に彼女が感情を抑えているように見えた。

 

 「・・・・・・・話してくれないか?」

 

 「え?」

 

 「知りたいんだよ。辛そうなお前達を見ていると―――――――」

 

 そこで天啓は言葉を止めた。ダメだ。自分が検索していい事ではない。彼女達には、彼女達の事情があるのだ。それを横から探るような事は絶対にしてはいけない。

 

 「ごめん。俺が、とやかく言える事じゃないな・・・・・・・忘れてくれ」

 

 自分の顔を見ているリオにそう告げる。

 

 「・・・・・・・忘れませんよ」

 

 「・・・・・・」

 

 「――ですから、今から少し昔の話をします」

 

 「リオ・・・・・」

 

 「勝手にしゃべらせてくださいよ。つまらなかったら寝てもいいですから」

 

 「・・・・・・・。分かった」

 

 その言葉を聞くと、リオは笑顔を作った。

 

 そして、ゆっくりと思い出すように話を始めた。

次話では、リオの過去を明らかにする予定です。

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