記第序説
「いつも、笑顔でいなさい・・・・それと、ごめんね・・・・・・天啓」
ここはどこだろう?
最初に見たのは、つまらない色をした天井だった。
ずっと寝ていたのか、体がうまく動かない。何とか体を起き上がらせる。と、
「せ、先生!」
・・・・・・・
女性の声が慌しく聞こえた。
そちらに目を向ける。しかし、寝ぼけているせいか、視界がぼやけてはっきり見えない。
すると、今度は白衣を着た男が慌しく入ってきた。その後ろには、先ほどの声の主かと思える女性も後ろにいた。
どうやらここは病院のようだ。白衣の男は医師で、女性は看護婦。
「天啓君。聞こえるかね?」
男のはっきりとした声に、小さく返事をする。
「良かった・・・・・」
白衣の男は、横にある椅子に腰を降ろす。
「君の家族は、殺人事件に巻き込まれてね。君は昏睡状態で発見されたんだよ」
「・・・・・・・」
「本来なら君は、あと数年は、起き上がる事が無いと診断していたんだが、奇跡が起きたようだ」
「・・・・・・・」
「大丈夫かね? どこか具合の悪いところでも?」
「・・・・・・・いえ。それより、お母さんは・・・・・・・・」
自分の質問に白衣を着た男は、少し戸惑った様子だった。
「・・・・・・・・真実を聞きたいかね?」
少し間を置いてから白衣の男が口を開いた。その口調はまるで、残りの運命を告げるような重々しい言葉だった。
森に囲まれ、無数の墓石が集まり、その場所の存在を認識させている集合墓地。
少年は、一つの墓の前に居た。
無言でたたずみ、感情の無い目で、墓を見る。
その横には、一人の男がいた。筋骨隆々の全身に、頭にハチマキ。適度に日焼けしている。
「悲しくないか?」
男が少年に尋ねた。
「なんで・・・死んじゃったのかな・・・・・・」
墓石を見ながら、静かに少年は答えを出した。
「人は、生を受けてから死ぬために生きている。それが速いか遅いか、それだけの違いだ」
男は少年に分かるように言う。
「ひどいよ・・・・・・・こんなの・・・・・・」
少年は、墓を見ながら言った。その小さな瞳に涙がこぼれる。
男は、その少年の頭に大きな手を乗せた。
「・・・・・もう帰るか」
「・・・・・・うん」
男の歩く後に少年は涙を拭いながら、ついて行った。




