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夜光伝記  作者: 古河新後
19/48

記第十六説 来国

 様々なコンテナや数多くの船が滞在している港は、深夜と言う事もあり、不気味な夜の雰囲気に包まれていた。


 「凄かったね。海」


 一つの船から降りた少女が感想を言った。


 桃色の短く切られた髪に、赤い鎧を着ている。背には長い洋剣を斜めに背負っており、活発な雰囲気を纏っている元気な少女である。


 「暗いから足元に気をつけろ。転ぶぞ」


 少女が降りた船から男が同じように降りてきた。


 短い白髪を後ろに流し、傷の付いた紫の鎧を身にまとっている。少女を見る眼は親が子供を見る眼そのものだ。


 「もうっ、子供扱いしないでよ。ランスロット」


 少女は可愛らしく不機嫌な表情を作って男に言った。


 「私からすればお前はまだまだ子供だ。ガラハッド」


 優しい口調でため息をつきながら注意する。


 「・・・・・白士は僕より若いよ」


 「年齢面ではそうかもしれんが、精神年齢はあっちの方が高い」


 「・・・・・・。ま、いいよ。いつか文句を言えないくらいに強くなってやる!」


 夜空を見上げ、月に拳を突き出すように意気込みを入れた。


 「―――その意気だ」


 二人が会話をしていると後ろから声がかかった。


 「ここまででいいのか? ランスロット」


 船から出てきた船長らしき老人が、渋い声で尋ねる。


 「ああ、道中世話になった。私ではあの子の退屈しのぎになる話題は、ほとほと尽きていたからな」


 「気にすんなや。儂も久しぶりに楽しい航海だったよ」


 「・・・たまには白乱のところに顔を見せたらどうだ?」


 「なに。あいつは儂がおらんでもしっかりやる(おとこ)じゃよ」


 「―――聞いているか? 『王』は白士に継承したそうだ」


 「――――知っとるよ。三百年近く大海を回っていても、知るべき情報は知ることができるからの。あのボケナスめ。七百年で継承するか? 儂はもっとじっくり育てるべきだと言ったんじゃが、だいたいあいつは昔から詰めが甘いと親の儂が――――――」


 「その話はまた今度聞こう。その時は、ガウェインとパーシバルも連れてくる」


 永くなりそうな話を途中で打ち切ると歩き出す。


 「―――ランスロット」


 名前を呼ばれ男が振り向くと、咄嗟に飛来してきた物を反射的に受け取る。


 「孫娘に渡してくれ。今回の戦で少しは役に立つじゃろう」


 ランスロットは受け取った物は武器だと直感で感じた。


 「分かった」


 その言葉を確認すると老人は船のエンジンを起動させた。


 「またね〜! おじちゃーん!」


 夜の海に去っていく船を見ながらガラハッドが元気に手を振る。


 「今度は海王との戦の話を聞かせてやるでな。楽しみにしちょけ」


 大声でそう言うと船は暗い闇の向こうに去って行った。


 「行くぞ。街に移動だ。パーシバル達と合流する」


 先に歩くランスロットの後に慌ててガラハッドが追い付く。


 「ねぇ、ランスロット」


 「なんだ?」


 「それって何だろうね?」


 ガラハッドは彼が老人から受け取った物を見ながら言う。


 「さぁな。白士に渡してから彼女に訊いてみるといい」


 「今、開けちゃダメ〜?」


 だだをこねる様な声を出す。


 「だめだ。箱の中身は送り主と、受け取り先しか確認はできん」


 「ぶーぶー」


 「お前も自分に届く手紙の内容を配達人に見られたくないだろ?」


 「そうだけど・・・・・・・」


 不機嫌そうに押し黙る。


 その時、ランスロットは足を止めた。


 「それに永い夜になりそうだ」


 次の瞬間、ザッ、と二人を囲むようにコンテナの上や背後と前方に人影が現れる。


 「・・・・・・」


 ランスロットは予想していたかのように、やっと来たか、とため息をついた。


 「ランスロット卿に、ガラハッド卿ですね」


 警戒する中、一人の男が二人の前に進み出て来る。男は顔半分を片面の仮面で隠し、袖の大きな中国系の服を着ていた。


 「他人に尋ねる前に自分から名乗るべきじゃないか?」


 「そーだ! そーだ!」


 「お前は黙ってなさい」


 ぽん、と頭に手を乗せる。


 「失礼。我が名は(こん)。我々は暗殺刑の者です」


 「・・・わざわざ『死人』の暗殺人(しまつびと)が、私達に何の用だ?」


 「確認しに参上仕った次第。時にあなた方はどちらへ?」


 「街だ」


 「目的は?」


 「『創造者』の確保。もしくは排除の為に来国した」


 「包み隠さずに言うとは・・・・・・しかし、今起こっている事を考えると、嘘では無さそうですね」


 「当たり前だろ! 僕達は本当の事を言わないぞ!」


 と、再びガラハッドが声を上げる。


 「少し静かにしていなさい。用はそれで終わりか? 我々は行かせてもらう」


 「確認は終わりです。あなた方を我々『死人』の敵として認識します」


 昏がそう言うと、周りの者達が一斉に得物を出す。


 「戦う前に聞きたい。お前は『創造者』の差し金か?」


 あることの為にも、最低限それだけは確認しておきたかった。


 「・・・・・いいえ。私達は『騎士』に頼まれたのですよ」


 「そうか―――――」


 ランスロットは闇の中に手を入れると勢いよく引き抜く。その手には身の丈を超える槍が握られていた。


 「ガラハッド」


 「なに?」


 背中の剣に手をかけていた少女はいつもの口調で訊く。


 「ここらは壊れていい物も人もいない。目立たなければ、思う存分破壊しつくせ」


 その言葉に悪戯な笑みを浮かべた。


 「――――わかった。手加減しなくていいんだね♪」


 長い剣を鞘から引き抜き、両手で持つ。


 「攻撃。開始」


 昏が短くそう言うと長い夜が始まった。





 「修学旅行?」


 九月下旬。半袖の夏服がまだ涼しい時期。リオは佐川から季節はずれの言葉を聞いて首をかしげた。


 「そうだぜ新月。この学校は、他校と旅行先が重ならないように、修学旅行はこの時期でキャンプするんだ」


 「へぇ〜いいですね。キャンプファイヤーするんですか」


 「そうだ! キャンプファイヤーするんだ!」


 「いや、キャンプファイヤーはしないから・・・・・・」


 そんな会話をしている二人に天啓が突っ込む。


 「え〜。キャンプファイヤーしないんですか!?」


 「なにっ! 天啓、キャンプファイヤーしないのか!?」


 掴みかかるように二人は天啓に詰め寄る。


 「あ、ああ。計画はされていたみたいだけど、天月が危険だからって生徒会に反対したらしいぞ」


 「ぬぅ、おのれぇ! 天月! 今度と言う今度は、はっきりと言ってやる!」


 「よし! サガン。一緒にスズちんを説得に行きましょう!」


 「おうっ!」


 ドタドタと、二人は走って教室を出て行った。


 入れ違いに教室に入ってきた嵐道は反射的に道を開けると、走っていく二人を見送った。


 「―――――天啓。あの二人なにかあったの?」


 歩み寄りながら不思議そうに尋ねる嵐道。


 「さぁ。なんかキャンプファイヤー、キャンプファイヤーって言ってたぞ」


 「キャンプファイヤー?」


 「そ」


 「意味は?」


 「知らん」


 と、腕を組みながらため息をつく天啓を見て、


 「仲良さそうだね」


 「誰がだ?」


 「リオさんと天啓」


 いつもの爽やかな笑みを浮かべてそう言った。


 「お前から見て、俺たちどう見える?」


 別の方向を見ながらさりげなく聞いた。


 「いいコンビ―――いや、カップルかな? 」


 「――――あいつは行動力はあるんだが、一度巻いたゼンマイが外れると、きれるまで動き続けるからな・・・・・・」


 「――――つくづく手を焼いてるってこと?」


 「いや、それがあいつの良いところだよ。それを含めて俺はあいつを好きになったのかもしれない」


 「・・・・・・。天啓らしい解答だね」


 「どういう意味だ?」


 「ご想像にお任せするよ」


 「このっ! 言ってくれるな!」


 天啓は乱暴に彼の肩に腕をまわす。嵐道は抵抗する訳も無く笑っていた。


 「・・・・・。俺ばっかりフェアじゃないな」


 「――――何が?」


 「お前、好きな奴は居ないのか?」


 その言葉に嵐道は一瞬だけ表情を変えた。だが、ほんの一瞬だけだ。


 「居るよ」


 「誰だ!」


 「天月さん」


 「・・・・・・・・」


 一瞬天啓は凍りつく。


 「・・・・・マジで?」


 「嘘」


 「この野郎!」


 今度は首を絞める形で両腕を使い、嵐道をロックする。


 「いたたた」


 「吐け! この野郎」


 「―――――わかった。言うよ」


 「よーし」


 天啓は拘束を解く。


 「俺の好きな子はこの学校には居ない」


 「――――じゃあどこに居るんだ?」


 と、嵐道はまるで遠くを見るように語る。


 「ものすごく遠くに彼女は住んでる」


 「・・・・・・・」


 「彼女自身それを望んでいるかは分からないけど、俺はどんな事をしてでも、彼女を助ける必要があるんだ」


 「・・・・・好きなんだな。その子の事」


 まるで、自分の事のように語る嵐道を見てそう漏らした。


 「――――そうなのかもしれない」


 「お前らしく無い答えだな」


 「―――そうかな?」


 「ああ。お前に無鉄砲は似合わない。あと、感情的もだ。そう言うのは佐川に押し付けとけ。お前は、冷静に状況を判断して、何が一番必要かを見極める性格だからな。「どんな事をしてでも」なんて言葉はお前には似合わないよ」


 「・・・・・・天啓」


 「だからさ―――――」


 天啓は再び嵐道に肩をかける。


 「どうしても無理だってんなら、俺と佐川でお前を援護してやるよ。俺は出来る範囲でだけどな」


 笑顔で言う。彼を見た嵐道は次第に表情が和らいでいった。


 「天啓らしくないな・・・・・・・」


 ポツリと言う。


 「なんか言ったか?」


 「何も」


 再び、いつもの笑みで答える親友を見て天啓も微笑を浮かべた。


 「くっそ〜」


 その時、佐川が帰って来る。


 「お、帰ってきたか」


 「それで、どうだったの? キャンプファイヤー」


 佐川は二人を見る。


 「新月と一緒に説得に行ったんだが・・・・・・無理だった」


 「ま、だろうな」


 なんとなく予想していた事を言う。


 「なんか・・・・資金面とか、安全面とか、馬鹿正直に説明されて、無理だった・・・・・」


 「・・・・・・・」


 「なんかなぁ〜」


 落胆する佐川。そんなにキャンプファイヤーやりたかったのか?


 「ん? そう言えばリオは?」


 一緒に出て行った彼女の姿がない事に天啓は気づいた。


 「新月なら、急に用が出来たって言って途中で別れたぞ」


 「用?」


 「ああ」


 「・・・・・・・ちょっと探して来る」


 と、言うと天啓は教室から出て行った。


 「あ、おい。天啓」


 その様子を見た佐川は引き留めようとしたが、既に居なくなっていた。


 「なんだ? あいつ」


 彼が居なくなった方を見ていると嵐道から声がかかる。


 「――――吉良助」


 「――どうした?」


 「やっぱりやめるよ」


 予想はしていたが、言う事はないと思っていた言葉を聞いて、佐川は少し真面目な表情になった。


 「いいのか? それで」


 「ああ。天啓と話して吹っ切れた。夜月天啓と言う存在は俺にとってかけがえの無い親友になっていたよ。いつの間にかね」


 「―――――お前がいいなら俺は構わん! 俺はお前と並んで歩いて行くからな!」


 腕を組みながら勇ましくいつもの口調で言った。


 「ありがとう。吉良助」


 「言うなよ」


 佐川は歯を見せて豪快に笑った。





 天啓はリオを探していた。理由は分からないが、なんとなく彼女に会わなければならない。そんな気がしたのだ。天月のところに行ってみれば一度来たきりで来ていないと言う。そのため、教室までの帰り道で探していた。


 「まったく・・・・・どこに行ったんだ」


 その時、リオの声がした。


 「どこで道草くってたんだ・・・・・」


 声のした方に足を進めると、そこにはリオともう一人、さゆの姿があった。





 「ダメだよ。さゆ。ちゃんと休まないと・・・・・・」


 「心配してもらわなくても結構です。自分の事は自分が一番分かっていますから」


 リオの心配そうな言葉を突っぱねるように返すさゆ。


 「わかって無いから、心配してるのよ。さゆは頑張るとすぐ自分の事が見えなくなるんだから」


 「・・・・・・。馴れなれしくしないでください。貴女に私の名前で呼ぶ資格はないはずです」


 「あたしは・・・・・ただ・・・・・」


 さゆは剣幕を作りながら続ける。


 「―――妹が心配だから。とでも言いたいんですか? 貴女は私達を捨てたんです。そんな貴女が今更家族の心配を? それは上から見ている人の余裕ですか?」


 「そんなこと思ってないよっ! あたしは――――」


 「口だけならなんとでも言えます。とにかくこれ以上私に関わらないでください。私は海砂で、貴女は新月なんです」


 「・・・・・・・・・・」


 「失礼します」


 無言で立ち尽くしているリオの隣を、目を合わせないように通り過ぎる。


 途端、立っていられない程の立ちくらみが彼女を襲った。


 「っ!」


 「さゆ!」


 リオは咄嗟に倒れそうになる彼女を支える。


 「さゆ・・・・やっぱり保健室に・・・・・・・」


 「さわらないでっ!」


 勢いよく振り払った手がリオを撥ね退けた。


 「いたっ!」


 咄嗟に振り払われた手に当たり、後方に倒れるリオ。


 「あ・・・・・・」


 さゆは踵を返すと、リオと目を合わせないように走り去って行った。





 「大丈夫か?」


 打った個所を抑えているリオに天啓は手を差し出した。


 「あ・・・天啓君・・・・」


 リオは彼の姿を確認するとその手を掴む。


 「聞いてましたか?」


 少し不安そうに尋ねた。


 「ああ。ごめん」


 「そんな、天啓君が誤ることじゃありませんよ」


 彼女は元気に言う。いつもの口調に戻っていた。


 「さゆは・・・・・お前の妹・・・だったんだな」


 「・・・・・・・はい」


 リオは消えそうな声で答える。


 「・・・・帰るぞ」


 「え?」


 何か聞かれると思っていた彼女は少しだけ驚いた表情を作った。


 「教室にだよ」


 「あ・・・・・はい」


 リオは再び消えそうな声でそう言う。


 彼女が話してくれるまで待とう。


 天啓は心の奥底で、辛そうな顔をして通り過ぎて行ったさゆの表情を思い出しながら、そう考えていた。

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