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夜光伝記  作者: 古河新後
17/48

記第十四説 回天

 部屋。この任を受けて既に一年と半年。


 変わった所に来たものだ。目の前にある厚手のコートを見ていた。


 私にこのコートは大きすぎる。体格的にもそうだが、背負っていくモノもだ。


 今の地位に、最初は不安や不満などを視線でぶつける者が多かった。だが、自身の能力を、実力を、任務で明かして行く毎に、これまで不満だった者達の視線も次第に変わって行った。


 しかし、逆にそれが、私の実力に対しての仕方のない視線に思えて苦痛だった。組織内でただ一人の肉親で私と一緒に組織に入ったおじさんだけが、問題を起こした時や、間違えた私の事をホォローしてくれたり、本気で叱ってくれたりした。


 だが、ここにはおじさんも居ない。そして、この任の最高責任者は私である。


 無言でクローゼットに掛けられているコートを見ていると歪な気配を感じた。感知タイプでない私でもはっきりと肌で感じる事が出来るほどの気配。どうやらそれ相当の敵が現れたらしい。


 「・・・・・行くか」


 大きすぎるコートを羽織る様に着ると部屋を後にした。





 「おかしいな」


 頭にバンダナを巻いた男は、むせながらゆっくりと立ち上がるハンターを見て、不思議そうに首をかしげた。


 「いてて・・・奇襲とは、やってくれますね」


 一番強く打ったのか、腰を押さえながら立ち上がった。


 「即死級の威力だったはずだが?」


 まるで珍しい動物を見るような口調で言う。


 「残念でしたね。『ハンター』は奇襲に対して、いてて、強いんですよ」


 「説得力が無いよ。『ハンター』」


 リオは腰に能力を集中した。あまり時間がかからず痛みが無くなる。


 「さて」


 腰を回し、完全治癒を確認すると今度は軽く体を伸ばす。


 「自己紹介をしようか」


 その様子を見ていた男は、ポケットに手を入れながら暇を潰すように言った。


 「必要はありませんよ。あたしはいちいち倒した死人の事なんて覚えてられませんから」


 「それは俺も同じ思考だよ。だが俺の命は限られているのでね。その間に戦った奴の名前は覚えておきたいんだ」


 「・・・・・・・」


 何かが違う。リオは経験から目の前に立っている死人が他の死人と、何か違うモノを感じた。まるで寿命がある人間のような言い方だ。


 「―――反論が無いなら。俺の名前は心蝉(しんぜん)、礼は、上呪十三死『回天王(かいてんおう)』」


 「!?」


 その名前を聞いたリオは表情を変えた。


 回天王。ハンター内でも畏怖するべきとされている死人の名前である。


 様々なハンターが、この死人と戦い敗れていた。殺された者もいれば、見逃された者もいる。それがハンター達を煽り、更なる被害を出していた。

 

 「・・・・・」

 

 睨むように目の前の死人を凝視する。

 

 「いい眼だ。幾度なく俺を殺しに来た者達と同等の眼――――」

 

 「・・・・・。――――ふぅ」

 

 リオは表情を和らげると、

 

 「あたしは新月リオ。異名は『白生(はくせい)』です」

 

 自己紹介を返す。

 

 「『白生』・・・・聞いた事があるな。戦術、剣技において、トップクラスの実力を持ち、これからの組織を引っ張って行くであろうと思われる者の一人――――」

 

 「へぇ〜。あたしってそんな評価を受けていたんですか」

 

 「―――その魂は特に異質であり、その純度は『死刄』を上回るほどだと言うが・・・・・ほんとかな?」

 

 「・・・・・さぁ。どうでしょうか?」

 

 刀を鞘から抜きながら答える。

 

 「そしてその剣『エクスカリバー』の三代目所持者にして、日本刀『桜臨』の使い手」

 

 「・・・よく知ってますね」

 

 「『エクスカリバー』は聖器として『死人』も警戒しているんでね。備えあれば憂いなしってやつだよ。おっと今は『桜臨』だったか――――」

 

 「別にどっちでもいいですよ」

 

 両手で水平に桜臨を構えた。

 

 「―――これの切れ味を試してみますか?」

 

 一呼吸も乱れていない構えに、心蝉は逆に笑みを浮かべた。これほどの技量を身に付けるには一朝一夕とは行かないはずだ。だが、まだ奴を超える技量ほどではない。

 

 「その判断は正しい。弾丸は俺には効かないからな。だがその前に――――」

 

 心蝉はトン、と軽く地面を踏んだ。

 

 「支配【伍の死活】」

 

 辺りの景色が灰色に包まれていく。

 

 次の瞬間、リオは深く心蝉に対し踏み込む。平行に保っていた桜臨が神速の一閃となし、突き出される。

 

 「―――――なかなかの先制攻撃だ」

 

 心蝉は瞬時に身体をひねると、その攻撃をかわすと同時に近距離にいるリオに掌を広げ掴むように腕を繰り出す。

 

 「甘いですよ!」

 

 その攻撃が届く前に桜臨の刃を横にし、逆手に持ち変えると神速の二閃目が、心蝉の胴体を両断しようと襲いかかる。

 

 攻撃速度は俺の方が遅いか・・・・・。コンマ一秒あろうかと言う戦いの中で、そう判断する。

 

 桜臨が身体を切り裂く。しかしそれは残像となり消えうせた。

 

 少し離れた所に、心蝉は最初に対峙した時と変わらぬ様子で立っている。

 

 「―――――今のを避けますか。流石は『回天王』・・・・」

 

 リオの頬に一筋の汗が流れる。確実に捉えたはずだ。最初の突きを避わしたところを見ると、そこに本体が居たのは確実。だが、二断目は空を斬った。あの距離で一瞬にして攻撃外に移動した・・・・・・?

 

 「危ない危ない。あれほどの速度をまともに受けるのはちょっと危なかったぜ」

 

 少しも慌てた様子が無く言った。

 

 「・・・・・」

 

 支配の効果? とすれば、自分はとても不利な状況に立っている。効力が分からない上に相手は無尽蔵にそれが使えるからだ。

 

 リオは構えを解くと、桜臨を逆手で持ち開いた片方の手で銃を抜く。

 

 「警戒してるか・・・・・。安心しろ。この支配の効果は一時的な時間停止にある」

 

 「・・・・・・」

 

 「この遊地内にいる俺達、『化け物』以外はすべての時間が停止し、俺たち以外は誰も動けないし、この戦いも一瞬の元で行われたモノとなる」

 

 「・・・・・・・」

 

 「だから、さっきのは俺の能力だ」

 

 リオは引き金を引く。銃口から飛び出した弾丸が心蝉に向かって音速で襲いかかる。

 

 だが―――

 

 「・・・・・・」

 

 「――――無駄だよ」

 

 弾丸は心蝉に到達した時、銃から生まれたにしては弱すぎる力となって地面に落ちた。

 

 「一直線に進もうとする物体は通用しない」

 

 「・・・・それが・・・『回転』・・・・」

 

 リオは過去に見た事があるファイルを思い返した。

 

 回天王。世界に回る、と言う運動がある限り、かの者との戦いにおいて、近代武装は全くの無力である。


 その名の通り能力は回転。一見単純に聞こえるその運動こそ、全てにおいて最強と言える能力の一つだ。先ほどの弾丸もそうである。銃は弾にジャイロ効果を加えることでその威力と飛距離が増す。しかし、その回転とは逆方向に回転を加えればその威力事態も無力となる。


 「もちろんだ。全ての運動は『回転』の次にカウントされる」


 リオは再び踏み込んだ。逆手に構えた桜臨を斜め上から袈裟がけに振り下ろす。


 「聖器・・・確かに脅威だが――――」


 その攻撃を心蝉は掌で受け止めた。刃と手が接触した刹那、凄まじい勢いではじき返される。


 「決定的な一撃が無ければ、意味の無いモノだ」


 「――――っ!」


 後退すると同時に先ほどより近い距離で弾丸を撃ち込む。だが、その弾丸も力を失い、心蝉に当たっただけだった。


 「無駄。どんな攻撃でも、形がある限り俺に攻撃は届かない」


 「・・・・・・・」


 強い。正直にリオはそう思った。ハンターとして生きていると、敵に対して二つの事が分かってくる。一つは、自分達に見つからないように力を蓄えている者達。これは面倒な部類に入る相手であるため、感知タイプがいなければ膨大な時間を要する。


 もう一つは、好戦的に自分達に仕掛けて来る方だ。特に多いいのが自らの力を相手より上回っていると過信している者達だ。こう言う者達はアッサリと片付ける事が出来るが、中には己の能力を知り、技量を高め、自分達の前に現れる者がいる。こう言った者達との戦闘は、取り逃がすが、敗北と言う場合が多い。ハンターもそれなりの者達が多く前線にいると言う訳ではないため、被害を受けてから力のある者が動かされる。


 そして、目の前にいるこの死人は後者に値する者でも特に手を焼いていた。数々のハンターが送り込まれ、数々の作戦が練られ、長き年月の中でも自分達の攻撃をかいくぐって来た者。名前に相当する実力を持つ死人。それが回天王であった。


 「どうしてもダメージを与えたいなら、零距離で攻撃しないとな」


 「・・・・・・。ふっ」


 「?」


 途中、何やら不敵な笑みを浮かべたリオを見る。


 「その必要はありませんね」


 その時、背後から気配を感じた。心蝉は咄嗟に振り向くと、零距離に青年が入っている。


 いつの間に・・・・


 気配をまるで感じなかった。・・・・いや違う。ハンターが一人しか居ないと判断していた為に出来た初歩的なミスだ。


 天啓は逆手に持っているナイフを瞬時に持ち変えると、魂を狙う。これを突ければ・・・・


 刃が服を貫き、心蝉の身体を一閃に串刺しにする。しかし、それは残像となり揺らぐと消滅した。


 「!?」


 「―――おしいおしい」


 少し離れた所で心蝉は拍手をしている。


 「・・・なぁリオ」


 寄ってくるリオに対して心蝉から視線を外さずに尋ねた。


 「あいつの能力は瞬間移動か?」


 あくまで真面目に聞く。


 「違います。あの死人は『回天王』。能力は『回転』です」


 「『回転』? あの、螺旋とか、そう言うのか?」


 「はい。直に触れたモノ全てに強力な回転運動を加える事が出来るんです。その為、物理攻撃の類は一切、効果がありません」


 「なら、お前と俺の武器じゃ、倒しようがないだろ。俺の能力も相手の『魂』を突けないと意味が無い」


 「―――一つだけ、通じる攻撃があります」


 「?」


 「影ですよ。天啓君。貴方の影は幸い相手に見られていない。いくら物理攻撃を弾かれると言っても、相手が意識していない所に攻撃を食らわせれば・・・・・」


 「影で魂を突ける」


 リオは笑顔でその言葉に答えた。


 「話は終わったかな?」


 律義に話が終わるまで待っていた心蝉は二人に尋ねる。


 「いいですか? チャンスは一度だけ。見られてしまえば距離が無くても避けられる可能性があります」


 天啓は先ほど、完全な奇襲であったにも関わらずに避けられたことを思い返す。


 「ああ・・・・チャンスは一度きりだ」


 ナイフを構えると正面から向かう。


 「見せてもらおうか。お前たちの力を」


 自分の攻撃範囲に心蝉を捉えると、ナイフの連撃を繰り出す。


 心蝉は無駄に受けようとはせずに一撃目と二撃目を避わし、三撃目を受け止めた。


 ギィン!


 金属に斬りつけたような音がすると、攻撃が右下に流される。


 「甘いぜ」


 そこに心蝉は天啓を掴もうと手を繰り出す。


 彼は低い体勢で身体を反回転させると、足払いをかけた。


 「チッ」


 直に触れなければ『回転』は作用しない。心蝉は少し後ろに跳び離れる。


 「待ってましたよ」


 背後からリオが桜臨を突きだす。着地態勢では僅かに隙が生じる。そこを付いた神速の攻撃だ。避ける事はほとんど不可能である。


 心蝉は掌でその先端を受け止めた。耳障りな金属音が辺りに響く。聖器は破壊する事が不可能な物質であるため、勢いを止めるので精一杯だ。


 「そこだ!」


 リオの攻撃を止めている隙に天啓はナイフを突き出す。だが心蝉は空いている片方の手でその攻撃を受け止めた。


 「同時攻撃か」


 余裕の口調で二つの攻撃を止め続ける。だが、彼らの真の目的は回天王の注意を自らの攻撃に引きつける事にあった。


 天啓の影が瞬時に鋭利な槍として地面から心蝉に襲いかかる。


 「終わりだ! 『回天王』!」


 二人は影に貫かれた心蝉の姿を目にした。


 しかし――――


 「きゃっ!」


 「うおっ!」


 完全に捉えたと思った瞬間、心蝉の姿が消えた。突きを繰り出していたリオは突然の消失に桜臨前に突き出した。天啓は紙一重でそれを回避する。


 そのままバランスを崩すと天啓にぶつかり二人は仲良く倒れた。


 「いたたた・・・・・」


 「―――早く・・・・どけ・・・・・」


 リオの下敷きとなっている状態で苦しそうに言う。


 「! あ、すいません」


 頬を僅かに赤らめながらリオは身体を起こす。


 「いててて・・・・」


 強く打ったのか、後頭部を押えながら立ち上がる。


 「流石に驚いた。まさかそんな隠し玉があるなんて思いもしなかった」


 少し離れた所で自分達の様子を観察する様に心蝉は言った。


 「どうする? リオ」


 「どうしましょうか・・・・」


 既に万策が尽きた。せめて、奴の魂に一撃でも攻撃を当てることが出来れば・・・・・・


 「面白いなぁ・・・お前達は。一つ賭けをしようか?」


 「――――賭け?」


 天啓はナイフを構えたまま心蝉に聞き返す。


 「そう・・・・賭けだ」


 次の瞬間、リオを包むように球体が現れる。


 「!? リオ!」


 「ルールを説明しようか。俺とお前で今から殺し合う。どちらか最後まで生きていた方が勝者。そして、景品は彼女だ」


 「ふぇ?」


 リオは球体の中で首をかしげる。


 「信用できないな。俺が勝っても彼女は解放しないんじゃないか?」


 「その捕縛陣は、俺が認識している限り一生閉じ込められる。俺がこの世から消えれば話は別だが」


 「・・・・・・・」


 「やるかやらないかは、お前次第だ」


 明らかに相手が有利だ。自分は全て手の内を明かしている。それに比べ奴の咄嗟の移動法の謎は解けていない。危険すぎるが・・・・・


 天啓はリオを見る。桜臨を使い内側から破れそうで破れない膜をつっついていた。


 その様子を見た天啓は一回息を吐き出すと、微笑を浮かべる。


 戦うだけの価値はある。


 「いいだろう。くだらないゲームだがつき合ってやる」


 「―――へぇんへぇいふん!」


 音を通し辛いのか、無駄に変に聞こえた。


 「ならさっさとかかってこい」


 余裕の表情で佇む心蝉。


 「ああ、そうさせてもらうよ」


 「!?」


 その時背後から声が聞こえ、心蝉は咄嗟に後ろに手を回す。紙一重でその攻撃を受け止めた。


 「――――速いな。コンマ一遅れていたら、まともに食らってたぜ」


 「そうか」


 天啓は自らナイフを引くと瞬時に持ち変え踏み込み、喉や関節部など効力の薄そうな所を狙う。戦いは天啓が有勢に進めていると思われたが、心蝉は一瞬の隙を見抜くと強烈な蹴りを天啓に叩き込んだ。


 「がはっ・・・・」


 凄まじい勢いにベンチを吹き飛ばしながら木にぶつかって停止する。


 「当てた瞬間に『回転』を加えた。威力は通常の三倍程だが・・・・・死んだか?」


 倒れたまま起き上がる様子の無い天啓を見て心蝉は少しだけ落胆した。


 と、ゆっくりと手を付き、錆びた機械人形のような動きで天啓は身体を起こす。


 「効かないな・・・・・・」


 弱々しく瀕死の足取りで立ちあがった。


 「強がるなよ。普通の人間ならそれで即死だ」


 「なら・・・・お前の攻撃は弱すぎるな・・・・」


 腕を押えながら何とか足を立たせる。


 「ほう? 確かに弱すぎたようだ。なら次は五倍にしようか。同じ口が叩けるか見届けるのも悪くない」


 心蝉は天啓に歩み寄る。


 天啓は見た目以上にダメージを追っていた。臓器類は無事だが肋骨は何本かやられている。左腕も感覚が無い。意識も少し不味い・・・・・


 向かってくる心蝉に天啓は力無くナイフを振る。


 「どうした? 先ほどより遅いが?」


 軽く避けると、胴体部に拳を叩き込む。


 「ぐっ・・・・」


 「悪いな。また『回転』を入れた」


 力無く自分に寄りかかっている天啓に耳元で言う。


 「・・・・悪いな・・・・さっきより・・・・・弱くなった・・・・ぞ?」


 「はっ! 言うねぇ〜! 人間風情が!」


 次々と一方的に拳が叩き込まれる。しかし、天啓は倒れなかった。


 心蝉は首を掴むと足がつかないように持ち上げる。


 「なかなか楽しませてもらったが・・・・ここらで終わりにしようか!」


 片方の腕を構える。その時、心蝉は天啓の眼を見た。


 「!?」


 その眼は、決して忘れてはならない恐怖の眼だった。巨大な見えない何かが自分を喰らい尽くそうとする、忘れようとも忘れられないあの感覚。天啓を掴み上げた状態で金縛りにあったように停止する。百年前のあの時、奴らと戦った眼だ。青い眼が見下すように自分を見ている。


 心蝉は天啓を力無く落とした。


 「っ・・・・・」


 天啓は後ろにある道の塀に背中を預けると座るような体制をとる。


 心蝉は数歩後ろに下がった。そして、理解した。これが・・・死人として生きていく上での無くてはならない恐怖。


 「なるほど・・・・・・確かに、無ければ絶対に気づかぬモノだ」


 ようやく分かった。あの時『霊王』が言っていた意味が・・・・・。そしてこれは脅威に値するモノだ。今この場で排除しておく必要がある。


 「・・・・俺にしては、よくやった・・・・・方だろ? リオ・・・・・・」


 近づいてくる心蝉を見ながらそう呟く。


 「上出来ですよ!」


 「!?」


 咄嗟に後ろから来た攻撃を受け止める。


 「貴様は! どうやって抜けた!?」


 「創られたモノは破壊されるのが共通の説理です!」


 その時、心蝉の足元に陣が現れた。


 「これは・・・・・」


 「しばらく静かにしていなさい!」


 次の瞬間、すいこまれるように心蝉は光に吸収された。


 「天啓君!」


 リオは、塀に寄り掛かっている天啓に急いで駆け寄る。


 「あまり・・・・・でかい声を出すな・・・・・」


 痛みをこらえながら彼女に向かって言う。


 「いくら時間を稼ぐためとはいえ、あたしがもう少し遅れたらどうするつもりだったんですか!」


 「・・・・・・・中途半端な引きつけで気づかれたら終わりだろ。確実に注意をそらすにはこれしか――――――」


 「無いなんてことはありませんよ!」


 「―――リオ・・・・」


 「もし・・・あたしが遅れて天啓君が死んじゃったら・・・・・・あたしは・・・・・」


 涙ぐみながら自身のスカートを強く握る。


 彼女の様子を見た天啓は、やっと悲しませてしまったと言う事に気が付いた。


 ああ、そうか。この命は俺だけのモノじゃないんだったな・・・・・・


 天啓はリオの頭に手を乗せる。


 「悪い・・・・」


 その時、光が弾けた。


 「なかなかだったよ。下手をすれば半永久的に閉じ込められるところだった」


 心蝉が光の中から這い出すように出てくる。


 「だが、術式が甘い。即席過ぎるぜ」


 リオは桜臨を持つと立ち上がった。


 「・・・・そうですね。甘すぎですよ」


 「・・・・なに?」


 彼女の言葉に心蝉は何かを感じた。


 「仕留められるところで仕留めておけば、良かったのに、そうしなかったのが貴方の一番の敗因です。『回天王』」


 「!?」


 次の瞬間、空からの飛来物に心蝉は後ろに跳び退く。


 凄まじい音を立てて元いた位置に一本の黒い剣が突き刺さる。


 「遅いですよ。スズちん」


 目の前に立っていたのは、全身を覆う程の茶色いコートを着た同級生の背中だった。

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