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夜光伝記  作者: 古河新後
16/48

記第十三説 遊地

 「早く天啓君。こっちですよ!」


 「ちょっとは歩けよ。移動するのが速いぞ・・・・・」


 リオは、天啓の手を引っ張りながら強引に次の施設に向かう。二人とも私服を着ている。


 「何言っているんですか。急がないと全部回れませんよっ!」


 「やっぱり・・・・全部乗るのか?」


 凄まじく曲がりくねった、これから全て通るであろうコースを見て、やる気が一気に下がった。


 「当たり前ですよっ!」


 もの凄く楽しそうに言う彼女。


 場所は、街からかなり離れた所にある新しく出来た遊園地だ。


 天啓はリオに引っ張られながら昨日の事を思い出していた。





 「ちょっと待て天啓」


 帰ろうと鞄を抱えたら、急に天月に呼び止められた。


 「なんだ?」


 向こうから話しかけてくるのは少し珍しい。


 「お前、明日は暇か?」


 「・・・・・・。ああ」

 

 少しだけ考えてから答える。


 「なら、これをやる」


 と、彼女はカラフルに塗られた二枚の細長い紙を差し出してきた。


 「・・・・・・遊園地?」


 それはチケットだった。近年に出来た遊園地である。JRで行ける範囲でもあるため、この街にいる大半の人は行っている者が多かった。


 「もともと、リオと一緒に行こうと思っていたんだが、私の方が急に都合が入ってなってな。代役で行ってくれないか」


 「俺は別にいいけど・・・・・・これ明日までじゃないか?」


 「だから明日どうしても行きたかったんだが、私は無理だ。だからお前がリオと行って来てくれ」


 「別にいいけど。明日休みじゃなかったら、どうするつもりだったんだよ」


 天啓はチケットを見ながら言った。明日は、平日で他の学校は登校日である。しかし、自分達の学校は、一夜にして校内の窓ガラスの大半が割れると言う謎の事件が起きたため、一日で全て治す事から明日は休校と言う事になっていた。


 「その時はその時だ」


 「・・・・・・・。それじゃ、行けない五十鈴さんの分も楽しんできますか」


 ポケットにチケットを入れる。


 「―――それとリオに伝言を頼む」


 「伝言?」


 「ああ、サボるなよ。って言っておいてくれ」


 「? 分かったよ。そう言えばいいんだな?」


 「ああ。それじゃよろしく頼むぞ」


 天月は軽く手を挙げると歩いて行った。





 そして、現在に至る。


 「・・・・・・・」


 「楽しかったですね〜」


 ぐったりしている天啓の横でリオは元気にジュースを飲んでいる。


 先ほど乗ったアトラクションは、「ソニックジェット」と言う、無駄に長いジェットコースターである。天啓は病弱なためか、実際に肌で速さを体験する乗り物などは苦手であった。それに比べてリオは乗る前も乗った後も、無駄にテンションが高い。現に今もいかに凄かったか天啓に話している。


 「・・・・・・」


 楽しそうな彼女を見て、ある事を思った。いつ創造者が現れるか分からない現状で、街を離れても良いのかと言うことだ。リオとこうやってデートするはとても楽しいのだが、楽しい分だけ、もしもの事が起こった場合の不安も大きくなる。


 「・・・・・なぁリオ」


 「? なんですか?」


 「遊びに来ててこんな事を言うのも場違いだと思うんだが、街を離れても大丈夫なのか?」


 彼の意見にリオは少しびっくりしたように言った。


 「何言っているんですか。ここに来たのは、創造者を捜すためですよ」


 「・・・・・・・はぁ?」


 「今まで街で事件が起こっていたので、その近辺を徹底的に調べましたよね?」


 「―――ああ。見つけたのは廃工場にあった『陣』だけだったけどな」


 「――それと、あたしの仲間が蓋来狭ビルで二つ『陣』を見つけました」


 「・・・・・お前、仲間がいたのか?」


 「それはそうですよ。一人では『創造者』を見つけるのは不可能に近いですよ」


 「・・・まぁ・・・言われてみればそうか・・・」


 「ですから、今は仲間が街にいるので、もし『創造者』が現れたとしてもあたしが駆け付けるまでは何とかしてくれますよ」


 「・・・・仲間は強いのか?」


 「はい。能力的にはあたしを遥かに上回ります」


 「・・・・・。それで、次はどこに行くんだ?」


 「そうですね・・・・・・・」


 リオは、あごに手を当てると考え込む。


 「天啓君は宝石を盗んだとしたら、どこに隠しますか?」


 考えながら言う彼女を見て、


 「―――――そうだな・・・・・・・ほとぼりが冷めるまで、どこか人目のつかないところに隠すかな」


 「いい答えですね。確かにそれが一番安全で確実な方法ですけど、後ろから追って来る者がいれば、そう時間を立たずに見つかってしまいます」


 「―――それじゃ・・・・逆か?」


 「正解です。木を隠すなら森と言います。人と同じ形状をしている『創造者』は自らが設置した陣を確認する為に、人混みに紛れて移動するんです。そして、事件の起こっている街から遊園地は移動範囲である上に、近年に建設されたため人も多く、まさに格好の餌場なんですよ」


 淡々と説明する。


 「・・・・・・・・成程。探索を始めて、初めてお前が『ハンター』って気がしてきたよ」


 「・・・・何か引っかかる言い方ですね」


 「気のせいだ。それで、今から何をするんだ? 『創造者』を探すのか?」


 「――――いえ、『陣』を探します。一般の人が見てもほとんど気づかないものですし、そう言った不審な物があれば係員の人が、見てるかもしれませんからね」


 と、真面目に言う彼女を見て、


 「お前、本気で遊んでただろ」


 その言葉にリオは少しだけ動揺しながら、


 「―――そ、そんな事はありませんよ〜」


 「本当か? さっきと真面目度が違うからな俺はてっきり―――――」


 「あ! 天啓君。あそこに係員のおじさんがいましたよ! 早速聞いてみましょう!」





 「ここですか?」


 天啓とリオは、掃除員の男に案内されて、一つの不気味な建物の前にいた。


 「ホラーダンジョン」


 でかでかと不気味に書かれたその看板が、遠くからでもよく見えるほどの迫力がある建物だ。


 単純にお化け屋敷なのだが、それではひねりが無いと言う事でさらに迷路を組み込んだ事で、遊園地内でもトップの人気を誇るアトラクションである。


 「そうだべ。二日前の深夜にここら辺を掃除していたら、中から奇妙な声が聞こえて来たんださ」


 「奇妙な声?」


 天啓が尋ねる横で、リオは警戒するように入口を除いている。


 「んだ。なんか歯ぎしりするような不気味な音だべ」


 「・・・・歯ぎしり・・」


 「なんか気味が悪くなってな、皆で調べたんだども、何もなかったんだ」


 「・・・・何も無かった・・」


 その時、客の恐怖心から生まれる悲鳴が聞こえてきた。入口に近かったリオは全身で驚くと光のごとき速さで天啓の後ろに隠れる。天啓と男は悲鳴で一度だけ建物を見ただけだったが、再び会話を再開した。


 「んでな、最近は毎晩のように起こるでな、さすがに―――――」


 「さすがに?」


 「気にしない事にしたべ」


 「・・・・・・・・」


 「んまぁ。ワシが知ってるのはこれだけだ。それじゃ、ワシは仕事に戻るでな。楽しんでってくれや。お若いの」


 そう言うと男は去って行った。


 「リオ。今の意見を聞いて、お前はどう思った?」


 天啓を盾に、銃を構えながら建物を必要以上に警戒しているリオは、


 「え? は、はい! とりあえず何か出てきそうですね!」


 まったく聞いてなかった。


 「・・・・・」


 ため息をつく天啓。だが、彼の話だけではまったくもって情報不足だ。歯ぎしり・・・・。歯ぎしりって一体なんだよ。それだけがひどく頭に張り付いていた。


 「くそっ! なんだよ歯ぎしり! 気になって寝れねぇよ!」


 苛立つように髪をかく。


 「・・・・・お客さん。入るの? 入らないの?」


 不審な行動をとっていた二人に、営業の邪魔になると判断したのか、受付の男が設置されたカウンターの向こう側から話しかけてきた。(リオの銃はモデルガンか何かと思っているらしい)


 「あ、すいません」


 「なんか、色々と考えているみたいだけどさ。一度は入ってみれば?」


 と、入場を進める受付の男。確かに入れば、情報ゼロの今の状況で少しは何か分かるかもしれない。


 「分かりました」


 「!」


 ためらいも無く進んで行く天啓の服を、リオは強く引っ張った。


 「だ、だめですよ! 異世界に連れて行かれます!」


 「何言ってんだ? この中にあるのは異世界じゃなくて迷路だぞ」


 「何か出てきたらどうするんですか! 大きな口とか! 大きな手とか! 大きな足とか!」


 「大丈夫だ。その三つなら迷路で撒ける」


 「そう言う事じゃありませんよっ! 死んだらどうするんですか!」


 「こんなもんで誰が死ぬか」


 「こんなものだからですよ!」


 よほど混乱しているのか、彼女は喧嘩口調になっていた。


 「いいか? リオ。俺達にはやらなきゃならない事があるだろ?」


 リオの肩に手を乗せると眼を合わせ真剣な口調で言う。


 「そ、そうですけど・・・・・」


 急に真剣な眼差しを向けられて、少しだけ恥ずかしそうに眼を背ける彼女。


 「いつまでもこのままじゃだめだ。この機会に克服するべきだろ?」


 プロポーズ染みた言葉に更に顔を赤くした。すでに後ろの建物の事は忘れているようだ。


 「・・・う、うん・・・天啓君が・・・そう言うなら・・・・・」


 彼女の了承を確認すると手を握りリードする。


 「それじゃ、行くぞ」


 と、「ホラーダンジョン」に入ろうとしたその時、再び絹を裂くような悲鳴が聞こえた。


 「やっぱりいやー!!」





 「―――剣の間合いはせいぜい一メートルかそこらやろ。そいつな、一直線に突っ込んで来たんよ。明らかに攻撃距離が違うんのに、突きやで? ただのアホやったわ」


 「――――そうか」


 昼。ほとんど人のいない学校の屋上で天月は携帯の相手に対し懐かしむように話していた。


 「皆変わらんよ。旦那も、姉貴も皆元気や」


 「それは良かった」


 「旦那と姉貴はそっちに行ってたらしいんやが、会うたか?」


 「職業上、会えば敵だな」


 「―――あはは! そうやね。その通りや。そっちはどうや? おっちゃんは元気か?」


 「『鉄刃』の噂は聞いてるだろ?」


 「その噂はあっちこっちで聞きよるよ。どれも凄まじいモノばっかりやけどな」


 「―――それが丁度いいんだ。組織内でも、あの人のおかげで一バランスが保ててる」


 「それでも、『賢者』にはならんのか?」


 「――――『賢者』の素質は力でも能力でもない」


 「――――ふーん変わっとるな。そっちは」


 「ファザーの方針だよ。なかなかの尊敬に値するほどだ」


 「・・・・・ま、たまにはこっちに帰って来るとええ。家の位置は変わっとらんからな」


 「―――ああ。そうするよ」


 「ウチの上達した槍さばき見せたるで」


 「そっちも楽しみにしておく」


 「―――おっと。旦那が呼んどる。そいじゃな、五十鈴。政治と吉良助に死んでもいいけど化けて出るなって言っといてくれんか?」


 「―――――分かった」


 「頼んだで」


 と、電話が切れた。


 「あいつも相変わらずか・・・・・・」


 携帯をポケットに入れると屋上を後にした。





 「まだですかぁ〜」


 外のベンチで正面の「ホラーダンジョン」を見ながら三十秒に一回の感覚でリオは独り言をつぶやいていた。天啓が内部に消えてまだ十分もたっていないが、彼女にとって待つという事はとても長く感じた。


 「・・・・・・・」


 暇すぎるため、敵について改めて確認し直す。


 異端者の中でも、特に多い死人を束ねる『霊王』。その右腕に値するのが今回の事件の先行者、『創造者』である。


 霊王は、あまりに多い死人を自らが定めた規則の元に、二十四の同士を集った。それが『二十三死』。俗に『王』と共に戦う兵士のようなものだ。しかし、彼ら以上に『王』が認めた者達を『屍の四肢』と呼んでいる。

 

 現段階で、確認されている四肢は創造者のみである。過去幾度かに亘って、ハンター達は創造者と対峙したことがある。しかし、結果はすべて取り逃がすか、返り討ちに会うかのどちらかで、創造者は毎回尋常ではないことを起こしている。


 一番の事件は、百年前に起こったアメリカの消滅である。


 この大事件は一夜の元に行われ、日が昇るころにはアメリカは消えていた。前夜に数多くのハンターが導入されたが、創造者は最後に彗星を()んだ。


 その後、霊王率いる死人達は煙のように姿を消すと夜に帰って行った。


 朝を迎えたアメリカは焦土と化していた。全てを破壊した彗星は大地に後遺症を残し、今でも都市は再建中である。実質、消滅したと言えるほどの大被害であった。


 その事件から組織は死人の力に脅威を覚え『二十三死』を優先排除対象として『屍の四肢』を最優先排除対処として登録した。


 そして、今回も創造者は何らかの事を起こそうとしている。去年の秋に起こり、今は沈静化している『昏睡事件』。街で見つかった複数の『陣』。自分の考えでは、何らかの目的でこちら側にダメージを与えるのであれば、時間がかかり過ぎている。過去の記録を見る限り、アメリカ消滅の際、首都ワシントンに一瞬にして、巨大な誘導陣が現れたことが確認されている。つまりアメリカのように破壊が目的ならばいつでも可能なのだ。


 これほどまでに時間をかけるのは、正確かつ確実に行いたい事柄・・・・・・つまり―――


 「―――――やぁ。『ハンター』」


 「!?」


 その時、リオは勢いよく吹き飛ばされた。

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