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夜光伝記  作者: 古河新後
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記第十二説 侵攻

 「『処刑人』か・・・・懐かしい名前だ」


 異形の空間の主、創造者は驚きと喜びを交えた声でそう言った。


 「そんな余裕かましてて、いいのか? 下手すれば、『ハンター』よりも最悪な相手だろ」


 そんな様子を見ていた火染は呆れたように聞く。


 「計画に障害は付きものだ。気にするほどの範中ではない。むしろ計画の一番の問題が解消されたと言ってもいい」


 「――――お前は一度『処刑人』に負けてるんだろ?」


 火染の言葉に創造者は懐かしそうな笑みを浮かべた。


 「確かにな。肉体が滅び、攻撃する手立てがなければ負けと言えよう」


 「『ハンター』と奴らの違いはそこだろ?」


 「『ハンター』は我々『異端者』の消滅を望むが、奴らは純粋に我々を破壊しようとする」


 「――――それが、『王』を動かすことになった・・・・・か」


 火染は何かを思い出すように言う。


 「破壊は消滅よりも達が悪い。そして、火染。お前はその身で恐怖を感じたことがあるか?」


 「・・・・・・・・」


 「私は有る。かつて『処刑人』と対峙した時だ。『異端者』に対しても怯まぬ、独特の雰囲気。表情を崩さぬその青い瞳は、百獣の王が獲物を見つけた際の眼に近い。その眼で見られれば本能で危機を悟り、その場からいち早く逃げたい衝動に駆りたてられる」


 「・・・・・ま、やばい相手って事は分ったよ」


 「覚えておくといい火染。かつて夜で一番恐ろしい存在は『処刑人』であったという事を」


 再び懐かしむように創造者は笑みを浮かべた。





 学校。


 昼休み。天啓は一人で校舎内を歩いていた。


 貴様自身、どちらにも立ってない。


 暇さえあれば、あの時の死人の言葉を思い出す。


 ・・・・・・・・


 俺は一体、何をしているんだろう?


 少しでも早く日常に戻りたい。


 その事だけを考え、リオに協力してきた。


 だが、その考えは、今の現状を正当化させる理由になるのだろうか?


 甘い考えだ。つくづくそう思う。


 リオは、思念を持って戦っている。詳しくは語らないが、『大切な人』の為に。


 なら、俺は何だ?


 彼女に比べれば、ただ日常を取り戻したいという単純な理由だ。


 戦いに理由が必要ならばいくらでもあった。しかし、あの死人が言ったもう一つの言葉。


 自分達は同類だ。


 自分達は物を食べるという事で自らの生態活動は機能している。なら、それは自らの魂が他の魂を摂取する、と言うことではないのか? この世に生きていて魂のないモノはない。


 集中すれば見る事が出来る魂。人はもちろん。木、草、道端で見かける猫や、散歩中の犬。全てに平等に存在している魂は、鏡を見ることで自分のも確認できる。


 ならば魂とは一体何のためにあるのだ?


 生きる為か?


 喰らわれる為か?


 「・・・・・・・・」


 天啓はいつの間にか来ていた中庭で手ごろな木影に腰を下ろす。


 死人の魂を何度も消滅させてきた。そのことに今まで何も疑問を抱かなかった。


 それが当然。


 人としての道を外したモノ達への制裁で有るかのように。


 生きるために殺された者達への報いであるかのように。


 当然だと思っていた。


 そう、全て当たり前の事なのだ。


 ならば何故、人間に報いはないのか?


 俺にもいつか報いを受ける日が来るのだろうか?


 その時、頭の上から水のようなものをかけられた。


 「・・・・・・・」


 視線を上げるとリオが笑顔を向けている。


 「お前なぁ、笑顔でいれば何でも許されると思っているのか?」


 静かな怒りを含んだ口調で言う。


 「天啓君が何度も呼びかけているのに自分の彼女を無視するからですよ!」


 水筒を持ったリオは、びしっと指を向けて勇ましく言った。





 「なぁリオ」


 「はい?」


 麦茶を頭にかけられた天啓は水道で洗いながら彼女に尋ねた。


 「―――戦うのに、覚悟とか、決意って必要なのかな・・・・・」


 「・・・・・・天啓君」


 「ん?」


 「何か変なものでも食べましたか?」


 神妙な面持ちで言うリオ。


 「アホか」


 「だって、今まではちゃんと戦ってきたのに、急にそんなこと言い出すから・・・・・・」


 「・・・・・昨日の戦いで相手の死人が言ってたんだ。『お前は、どこに立っている?』てさ」


 「・・・・・・・」


 「正直な気持ち、お前に協力する時、そこまで考えなかった。ただ、少しでも早く日常を取り戻したい。そう思ってたんだ・・・・・・でも――――」


 「らしくないですよ。天啓君」


 リオは彼の言葉を中断するように声を入れた。

 

 「――――リオ?」


 「戦う理由とか、戦う必要性とか、確かに理由があれば、戦える人もいます。でも天啓君はそう言うのはあまり考えない人でしょ?」


 「・・・・・・・」


 「目の前に困っている人がいれば、その人を助けたい一心で手を差し伸べる。あたしはそういう天啓君を好きになったんですよ」


 「・・・・・・・」


 天啓は蛇口を止めると顔をあげた。


 「はい」


 そこにリオがタオルを渡す。


 「ありがと・・・・・」


 その言葉に笑顔で応じる彼女。


 「ごめん。リオ」


 「・・・・・・・」


 「それと、ありがとう」


 天啓は少し恥ずかしそうに再び言った。


 「照れているんですか? 可愛いですよ」


 からかう口調で言う。


 「う、うるさい。もうすぐ掃除が始まるな。教室に戻るぞ」


 多少早口で言うと急ぎ足でその場を去る。


 「あ、待ってくださいよ!」


 リオは慌てて天啓を追いかけた。





 夜。


 ガウェインは人気のない道端で一人の男と対峙していた。男は頭にバンダナを巻いている。

 

 連日連夜と上空から不審なモノを探していると、それを見つけたのだ。白士とパーシバルにも連絡を入れた。もう間もなくここに来るだろう。


 「『円卓の騎士』・・・・か」


 バンダナの男はガウェインの着ている鎧を見て判断する。


 「ご名刹だよ。まさかこんな所でお前に会えるとはな」


 ガウェインは背中に背負っている剣の柄に手をかけた。


 「おいおいやめようぜ。今はそんな気分じゃない」


 「なめてくれるな。この場で貴様を喰い殺してやろうか?」


 柄に手をかけたまま、普段見せない鋭い目つきを向ける。


 「――――あんたと殺りあっても無事ですまないのは俺の方だからな。立場はわきまえてるよ」


 「なら質問に答えろ」


 「――――その話、私達にも聞かせてもらえますか?」


 男の後ろから着物を着た女性と、ガウェインと同じ形をした鎧を着ている男が現れる。男は隙をついて逃げようと思っていたのだが、どうやら無理のようだ。


 「やれやれ。『白竜王』も御出現か・・・・・ついてないねぇ〜」


 「質問に答えてもらいますよ」


 完全に諦めたように男は肩をすくめる。


 「なら最初に言うが、答えられないモノは答えられないからな」


 「結構です。では、あなたは何故ここに?」


 「―――呼ばれたからだよ」


 「――――誰に?」


 「言わなくても、直々に調べているんなら、分かるんじゃないか?」


 「・・・・・・・」


 「そういうことだ」


 「・・・・では、『創造者』はどこに?」


 「さぁ」


 男はふざけたように喋る。


 「俺は呼ばれただけだ。まだ案内はされてない」


 「・・・・・・・」


 「知っていても喋る気も無い。俺達『死人』は、同族同士で殺し合いはするが、仲間は裏切らない」


 男の口調は軽いが、その言葉自体には、絶対に曲がることが無い思念が混じっていた。


 「・・・・・・・」


 白士は微笑を浮かべた。あんな人だが、『霊王』も『王』として、下から率いて行く者達をちゃんと導いている。今は彼と会う事が出来ないが、禁年を解かれたらじっくり話をしてみたいものだ。


 「・・・・・今度は俺が聞こう。貴様は、『騎士』を知っているか?」


 パーシバルが睨むように尋ねる。男はその視線に返すように、


 「――――ああ。今回の件に関わっているのは既に聞いてるよ」


 隠す様子もなくアッサリと答える。


 「なら、そいつらに伝えておいてくれよ」


 ガウェインがいつもの口調で言った。そして、次の瞬間には再び口調が変わる。


 「『円卓の騎士』は、お前達を許さない」


 「・・・・・・・・。伝えとくよ」


 男は立ち上がり歩き出す。


 その背中を三人は見送る形で眺めた。


 「いいのか? 白士」


 その様子を見ていたパーシバルが尋ねる。


 「彼は約束通り答えてくれました。なら、私達も人義を通すべきです」


 「人義・・・・・ねぇ・・・」


 小さくなっていく男の背中を見ながらガウェインはそう言った。





 「ここでいいんだろ?」


 学校。天啓は資料室にいた。


 「はい。すみません。私が済ませなければならない事なのに・・・・・」


 「別にいいよ。俺が自分から手伝うって言ったんだから、気にする事じゃない」


 廊下を歩いていた天啓は、前が見えないほど山済みの資料を運んでいるさゆを見つけた。かなり危なそうに歩いていたので、手伝う事にした。彼女は自分の仕事だから迷惑はかけられない、と言ったが、なら半分だけ勝手に手伝うと言い、上から三分の二ほど取ると、資料室までに運んであげた。


 「えーっと」


 さゆは、名簿のような紙を取り出と、資料室を眺めまわすように見回す。


 「まだ何かやる事があるのか?」


 「あ、はい。先生がこの名簿と同じ紙を持ってきてほしいって言っていましたので」


 「ふーん」


 天啓は横から覗きこむようにさゆの持っている紙を見る。


 「・・・・・・」


 「この中から探すよりコピーした方が早くないか?」


 段ボールや紙が山のように積んである資料室を見て天啓は言った。


 「―――わ、私もそう思ったんですけど、見つけられたらでいいって言っていたので、探してみようかなと」


 「でもこの中から見つけるのは、正直言って気が進まないな・・・・・」


 「大丈夫です」


 自信を持った声を出す。


 「・・・・・。それじゃ、さゆに任せようかな。届かない所があったら俺が取るからさ」


 「はい。それでは、右端にある棚の上に乗ってる段ボールを見てもらえますか?」


 「右端ね」


 天啓は言われた棚の前に移動する。


 「・・・・少し高いな」


 辺りを見回し、手頃な踏み台が無いか探すが役に立つ物はなかった。


 「ありました?」


 さゆが寄ってくる。


 「少し高くて、俺でもちょっと届かないな」


 「―――それじゃ、仕方ありません。隣のクラスで椅子を借りてきましょう」


 「いや、少し調べるだけに借りてくるのは効率が悪い」


 「―――それもそうですけど・・・・・」


 「俺に、いい方法がある」





 「・・・あの。天啓さん」


 「ん? 見つかったか?」


 「あ、いえ・・・・・そうではなくて」


 「どうした?」


 「・・・いえ・・・でも・・・・肩車は・・・・」


 彼女は、耳まで赤くして恥ずかしそうに言った。


 現状は、さゆ上、天啓下。という位置取りである。最初は天啓が踏み台になって、その上に彼女が乗り調べたのだが微妙に高さが足りず、肩車に切り替えたのだ。


 「なんだ? さゆは高所恐怖症か?」


 「・・・・・いえ・・・・・・そんな事は・・・・ありませんけど・・・・・・」


 「?」


 心底鈍感な男である。


 さゆは今にも湯気が噴き出そうな頭で、目的の物があるか確認すると自分の考えた通りにそこにあった。


 「見つけたか?」


 「・・・・あ、はい」


 「後ろに降ろすぞ」


 自分の背中を使い、彼女を後ろに降ろす。


 「ありがとうございます」


 資料室を出ながら、彼女はお礼を言った。


 「・・・・ごめんな。俺って無駄にお節介だろ?」


 「あ、いえ。そんな事はありません。お陰で目的の物を見つけられましたし・・・・・」


 「・・・・・・・。結果オーライってとこかな」


 と、入口で話をしていると、


 「天啓く〜ん。そこで何しているんですかぁ〜?」


 自分の姿を見つけたリオが後ろから走り寄ってくる。


 「・・・・・・・」


 「彼女を手伝ってたんだよ。さゆ、紹介するよ。彼女は新月リオ」


 「――――知っています」


 その言葉を発した彼女の口調は、先ほど自分と喋っていた時とすこし違がった。


 そして、彼女の前に立ったリオも少しだけおかしかった。


 「・・・や、やあ。さゆゆ」


 「・・・・・・・・私は海砂です。名前で呼ばないでください」


 まるで宿敵を見るような目でリオを見る。


 「―――あ・・・う、うん。ごめん」


 「・・・失礼します」


 リオと目を合わせないように髪で視線を隠しながら、彼女は歩いて行った。


 「・・・・・・。お前、さゆと知り合いだったのか?」


 その様子を見ていた天啓は少しだけ暗い表情をしているリオに聞く。


 「・・・・・・あ・・・・・・はい。始業式で最初に友達になった人ですよ」


 「仲が悪そうに見えたけど、喧嘩でもしたのか?」


 「えっ? いや、そんな事ありませんよ。今日はちょっと、機嫌が悪かったんじゃないですか?」


 「・・・・・・そうか」


 天啓は、さゆが去って行った方を見ながら何かを考えるように言う。


 「それじゃ、あたし達も教室に戻りましょう! もうすぐ掃除ですよっ!」


 「ああ」


 元気に歩き出す彼女の後に天啓は続いた。

三日に一度のペースで更新していきたいと思います。

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