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夜光伝記  作者: 古河新後
13/48

記第十説 平日

 「た、大変ですよ!  天啓君!」

 

 適度に賑やかな教室。リオが騒がしく一枚の用紙を持って、天啓に走り寄って来た。

 

 「どうした?」

 

 冷静に彼女に対処する。天啓も机の上に一枚の紙を広げていた。

 

 「大変です! 見てください。これを!」

 

 リオは、自分の持っている用紙を突きつけるように天啓に見せた。

 

 その紙はテスト用紙であった。入学式が行われて次の日にあったテストである。

 

 「・・・・・・・――点か・・・やったな」

 

 「なにが! やったな。なんですか!」

 

 用紙を振り回しながら体全体で怒りをあらわす。

 

 「お前、小学の頃、勉強しなくても出来る問題で、――点しか取れなかっただろ? それに比べれば高校の問題はかなり難しい。格段の進歩だな」

 

 「――――むっ! そう言う天啓君は何点なんですか!?」

 

 リオはひったくる様に天啓のテスト用紙を見た。そして固まる。

 

 「・・・・・ま、まさか・・・天啓君が・・・・―――点・・・・」

 

 「―――お前みたいに、描写出来ない点数じゃないだろうが。六十二だ。六十二」

 

 ひょいっとリオの手から用紙を取り戻す。

 

 「一体・・・・どうやったらそんな点数が・・・・・」

 

 「明らかに点数が悪いような言い方をするんじゃない。ただ勉強しただけだよ」

 

 と、そこに嵐道が割り込んできた。

 

 「やぁ天啓。何点だった?」

 

 相変わらず爽やかな口調で聞いてくる。

 

 「出たな秀才野郎」

 

 「―――ランランは何点だったんですか?」

 

 なんだそのあだ名? ランラン? 天啓はリオが嵐道に付けたあだ名を聞いて一瞬テストの事が頭から消えた。

 

 「九十八だよ」

 

 「きゅ、」

 

 「九十八だと!?」

 

 まるで絶対信じていない事が目の前で起こったような声で天啓は言った。

 

 「この化け物め! 一体どうやったらそんな点数が取れやがる!?」

 

 その言葉を聞いた嵐道は軽く笑って、

 

 「フッ。君と同じだよ。天啓」

 

 「俺と・・・同じだと!?」

 

 「―――そうさ。ただ、勉強しただけだよ」

 

 「くっ!」

 

 「なんか完全に負けました・・・・・・」

 

 リオと天啓はそれぞれのリアクションをした。

 

 「―――そう言えば、ランラン。サガンは?」

 

 リオが佐川の姿が無い事に気が付く。天啓は、またもリオのあだ名が頭に引っ掛かった。サガン? サタンみたいなあだ名だな。まぁ、あながち外れではないが・・・・・

 

 嵐道が無言で佐川の席を指す。

 

 佐川は燃え尽きたように椅子に座り込んでいた。辺りには、まるで死者の眠る巣窟のような雰囲気が漂っている。

 

 「あれ、死んでるんじゃないか?」

 

 何となくリオに聞く。

 

 「・・・・・死んでますね。違う意味で」

 

 天啓達は佐川の席に寄る。

 

 「サガン。生きてますかぁ?」

 

 リオが燃え尽きている佐川に声をかける。しかし、彼は死体のように動かない。

 

 「まったく・・・・一体どんな点数を――――」

 

 天啓は何気なく机の上に置かれた用紙をとって見る。

 

 「・・・・・。――点なんて取れる奴がいたんだな・・・・・」

 

 横からリオが覗きこむ。

 

 「サガン! このくらいで死んでいたら転生できなくなりますよ!」

 

 「―――何!? ならば、新月! お前はいくつだ!?」

 

 急に復活した佐川がいつもの口調でリオに尋ねる。

 

 「あたしなんか、――点です!」

 

 「なに!? ――点だと! くっ! 俺もここを×にしていれば――点だったものを!」

 

 「その意気ですよ! サガン! なぜならこの世に解けない問題はないんですから!」

 

 「!? な、何と言う名言だ! この世に解けない問題はない。確かにその通りだぁぁぁぁぁぁ! うぉぉぉ。待ってろ問題! 絶対に倒してやるぜ!」

 

 なにか、意図がずれている気がするが、とにかく佐川が完全復活した。確かにリオの言う通りなのだが・・・・て言うか、お前らが解けない問題が多すぎるだけだろ。

 

 「うるさいぞ、お前たち。テスト返しとは言え、今は授業中だぞ」

 

 そこに天月が注意をしに歩いてくる。

 

 「あ、スズちん」

 

 「! スズ―――」

 

 リオのあだ名に思わず口に出してしまった。天月の殺気が混じった視線が天啓に向く。

 

 「スズちんは何点だったんですか?」

 

 「私か? 私は――――これだ」

 

 天啓から視線を外すと、近くにある自分の席から用紙を取り、リオに渡す。

 

 「フ、天月。俺はお前がどんな点数でも驚かないぜ。なぜなら俺はテストの真理を知ってしまったから―――――」

 

 と、用紙を見た佐川が凍った。

 

 「嘘・・・・」

 

 「まいったね。これは」

 

 「なんだ? どうした?」

 

 三人の反応に天啓ものぞいた。

 

 「・・・・・。とれるんだな・・・・・三桁って・・・・」

 

 「あたし・・・・・初めて見ました」

 

 「うーむ。今回は勝てると思ったんだけどな・・・・・・」

 

 「・・・・・・。(再び死体化)」

 

 そんな四人を見て天月が、

 

 「四人とも何をしている? 勉強すればこのくらい出来るだろ?」

 

 真面目な口調で不思議そうに言った。





 「まったくありえないよな・・・・・」

 

 「? どうしたのですか?」

 

 昼休み。天啓は屋上に来ていた。他にも来る予定の者達も居たが、テストの成績が良くないと言う事で担任に、職員室へ連行された(主にリオや佐川)。海砂さんに、佐川やリオを紹介しようと思ったのだが、今は二人だけで昼を食べていた。

 

 「―――あ、いや。俺のクラスで元々頭の良い奴が、限界点をとってたんだ」

 

 「すごいですね」

 

 「――――ああ、しかもそいつはその点を見て、なんて言ったと思う?」

 

 「・・・・さぁ」

 

 海砂は、少し考えてから答えを出した。

 

 「勉強すればこのくらい出来るだろ。ってな。まったく言ってくれるよ」

 

 と、天啓がため息をつきながら言うと、クスクスと静かな笑い声が聞こえた。

 

 「?」

 

 視線を向けると海砂が口元を隠し静かに笑っている。

 

 「―――あ、すいません・・・・・」

 

 悪いと思ったのか、瞬時に謝罪する。

 

 「いや、海砂さんが笑う所を初めて見たからさ。ちょっと新鮮な気分になった」

 

 海砂は恥ずかしそうに視線を外した。

 

 「俺は海砂さんの事は知らないけど、やっぱり笑っている方がいいと思う」

 

 「・・・・・・」

 

 その言葉に彼女は少しだけ暗い表情になった。

 

 「―――その表情はあまり良くないな」

 

 「あ・・・・・はい・・」

 

 無意識下の表情だったのか海砂は、再び恥ずかしそうに視線をそらした。

 

 「・・・・・」

 

 その様子を天啓は妹を見るような目で見ていた。どうやら彼女は他人との、コミニケーションがあまり得意ではないようだ。リオとはまるで真逆の性格。

 

 「海砂さんには友達がいる?」

 

 「・・・・・・一人だけなら・・・・」

 

 暗い口調で話す彼女を見て、天啓は反省した。

 

 「・・・・・ごめん。変なこと聞いて」

 

 「あ、いえ・・・・・・。夜月さんも友達ですから・・・・・二人になります」

 

 「―――――そっか」

 

 「はい」

 

 海砂は笑顔で言った。

 

 一瞬、その笑顔が誰かと重なった気がした。誰だろうか・・・・・

 

 「・・・・・・」

 

 海砂を見ながら少しだけ考える。

 

 「―――どうしました?」

 

 ぼーっと見つめる天啓を見て海砂が尋ねた。

 

 「―――あ、いや、何でもない」

 

 慌てて視線をそらす。

 

 海砂はそんな彼を見て、気になっていた事を尋ねることにした。

 

 「・・・夜月さん」

 

 「ん?」

 

 天啓は彼女を向く。

 

 「夜月さんは、新月さんと付き合っているんですか?」

 

 彼女との会話で一番はっきりとした言葉だった。

 

 「―――新月さんって、リオの事か?」

 

 「! あ・・・は、はい」

 

 何故か、少し驚いたように答える。

 

 「―――付き合ってるよ。じっとしてない奴だけどな」

 

 「―――そう・・・・・なんですか。・・・・・・・・・・・リオか・・・・・・」

 

 落胆した口調で口を動かす。

 

 「?」

 

 その様子を不思議そうに眺めていると、急に彼女は向きなおした。

 

 「あ、あの!」

 

 「―――な、なに?」

 

 予想外の大声に天啓は少しだけ身を引く。

 

 「・・・・出来れば・・・・私の事は・・・・さゆ・・・・と呼んでいただけませんか?」

 

 所々詰まりながら恥ずかしそうに言った。

 

 「―――別にいいよ。それなら俺の事も、天啓でいい。皆からもそう呼ばれてるし」

 

 「あ、はい・・・・・」

 

 海砂は、ほのかに頬を赤く染めながら答える。その時、電子音が鳴った。

 

 「ちょっとすいません」

 

 彼女の方だったようだ。携帯を開くと内容を確認する。

 

 「すいません。友達から頼まれ事が入りました」

 

 「何回も謝らなくていいよ。大切な友達なんだろ? 行って来るといい」

 

 「―――はい。ありがとうございます」

 

 扉に向かって歩いて行く。その背中に、

 

 「――またな。さゆ」

 

 その言葉に彼女は、一瞬だけ歩みを止めたが、すぐまた歩いて行った。

 




 「久しぶりだな。おい」

 

 建設途中のビル。まともに壁も出来ていない通路を一人の男と、それを先導する十二歳程の少女が歩いていた。

 

 男は顔に包帯を巻いており、少女は小さな長袖のシャツにスカートと言う姿。

 

 「百年ぶり」

 

 少女が余計な口数を増やさず要点だけをまとめて返した。

 

 「ん? ああ。百年ぶりだな」

 

 「聞いてる?」

 

 「聞いてるよ。猪口才に『死刄』が俺達を狙っているんだろ?」

 

 「―――狙われた?」

 

 「ああ、一度だけな。燃やしてやったよ」

 

 「火染(ひせん)らしい」

 

 「相手の『死刄』は、相当な過信屋だったからな。色々と情報を聞いても良かったんだが、面倒だった」

 

 「火染らしい」

 

 「まあな。それよりお前はもっと言葉数を増やせ。要点だけじゃ、たまに何を言ってるか分からん」

 

 「面倒」

 

 「・・・・・・―――まったくお前は。考えてみろよ、それだと『霊王』と話す時も向こうが困るだろ」

 

 「これでいいって」

 

 「? 何が?」

 

 「『霊王』が」

 

 「・・・・・・。ほら、今みたいな会話だと、俺だから良いけどな、他の奴だったら分かりづらいぞ」

 

 「・・・・・そう?」

 

 「――そうだ。それにちゃんと、分かる会話をすれば『霊王』も喜ぶ」

 

 「本当?」

 

 「ああ、本当だよ」

 

 「じゃあ努力する」

 

 「・・・・――――まったくこのお子様は・・・」

 

 と、少女は一つの扉の前で止まった。その扉は、周りの建設途中で止まっている外見とはかけ離れた雰囲気がある。

 

 少女が、扉に手を触れて眼を閉じると、ゆっくりと内側に開いて行く。

 

 その様子に男は短く口笛を吹いた。

 

 「四肢特有の『次元陣』か」

 

 完全に開くと、まるで異空間のような広く薄暗い空間が広がっていた。横に道を示す様に並べられた、奥まで続く石柱に足もとは溜まっている密度の濃い煙によって床は見えない。

 

 少女が進むとその後に男が続く。ある程度まで入ると扉が音を立てて閉まった。

 

 「相変わらず、趣味が分からん部屋だ」

 

 辺りを見回しながらそう答える。

 

 「・・・・・」

 

 少女が止まった。男も足を止め正面を見る。目の前には一人の男が立っていた。

 

 「・・・・人間だな」

 

 包帯を巻いた男が、目の前の者を見て答えた。


 目の前の男の周りに、光の集まりが点々と現れる。

 

 「・・・・・・・」

 

 その様子を二人は黙って見ていた。目の前の状況を絶対に邪魔をしてはいけない。その事はどの者達よりも分かっている二人だった。

 

 増えるのが止まると、今度は一つづつ消え始める。そして、一つだけ残った。

 

 「・・・・・・・」

 

 男が手を動かすとその光がゆっくりと近寄ってくる。すると溶けるように下に吸い込まれていった。

 

 「八千九百二十六・・・・・」

 

 男は静かに言うと二人に視線を向けた。

 

 「すまんな。待たせてしまった」

 

 「別にいいぜ『創造者』」

 

 「座わる」

 

 創造者が指を動かすと二人の後ろに椅子が現れた。

 

 「便利な能力だ」

 

 男が椅子に座る。少女も膝の上に手を乗せ、少し高い椅子に腰をおろした。

 

 「褒め言葉として受け取ろう」

 

 創造者も自分の後ろに現させた椅子に座る。

 

 「『炎塵』」

 

 少女が隣に座る男に手をかざし紹介した。

 

 「おい。だからそれだと相手に伝わりづらい―――――」

 

 「なるほど。君が上呪六死の火染か」

 

 低く重々しい口調で理解する。

 

 「・・・・・伝わってるよ」

 

 少し驚いた表情で創造者を見る。隣では、少女が自慢げな雰囲気を無表情で漂わせていた。

 

 「要点さえ分かれば会話と言うものは成り立つものだ」

 

 「そう言うもの・・・かねぇ・・・・」

 

 「暗号でも同じことが言えるだろう。要点が分かればそれが分かる。四肢同士、常に『霊王』をサポートしなくてはならないからな」

 

 「はぁ・・・」

 

 「少し話がずれた。今回、君を呼んだのは『霊王』の召喚に人手不足が発生してしまった為だ」

 

 「――――だったら、こいつの方が俺よりも役に立つし、お釣りも来るぞ」

 

 隣で丁寧に座っている少女を親指で指す。

 

 「―――強すぎる力は『召喚』に支障をきたす」

 

 「・・・・成程ね・・・・・」

 

 「それに、こちら側に部外者も来ているようだ」

 

 「『ハンター』だろ?」

 

 「―――恐らくは。『血痕』が消滅した事から相当な実力を持っていると考えるべきだろう」

 

 創造者の言葉に男は怪訝そうな顔をした。

 

 「はぁ? 四死の『血痕』がくたばった?」

 

 「―――確かな情報だ。それゆえに計画が少しだけ狂った」

 

 「・・・・・あの血液男がねぇ」

 

 「そこで君には『血痕』の代役を頼みたく、ここに来てもらった」

 

 男は血痕の事を考えていた。あの馬鹿。先走ってくたばりやがった。お前みたいな最高死がくたばったら候補の奴らが調子に乗るだろ。己の力を過信しないのは『霊王』の教えだろうが。まったくしょうがねぇな。

 

 「いいぜ。手伝う。候補の奴らが調子に乗る前にさっさと済ませちまおう」

 

 「感謝する。それでは早速だが、やってもらいたい事がある」

 

 「――――その前に『召喚』に必要な霊魂はちゃんと揃っているのか?」

 

 男は気になっていた『霊王』の解放について聞いた。

 

 「問題ない。順調に増やしつつある」

 

 「―――増やす?」

 

 「祖の媒体となる魂が最低数あれば増幅する事は可能だ」

 

 「・・・・・正直にすげぇな」

 

 魂を増やすと言う事は幾多の生命を創り出せると言う事だ。死人の中でも、それができる者は片指で数えるほどもいない。

 

 「霊魂を人間から奪取すれば『ハンター』にここを嗅ぎつけられる恐れがある」

 

 「・・・・ま、賢明な判断だな」

 

 「仕事の話に戻るが、君は複数の死人を引き連れ、こちらに来ている『ハンター』と交戦してほしい」

 

 「いきなり死亡フラッグが立つような仕事だな」

 

 「死人はどこにでも居る。それらの者達を使い、どの程度の実力があるのか調べておいてもらいたい」

 

 「―――――相手は? それぐらい分からないと狙うもんも狙えねぇよ」

 

 すると、男の目の前に机が現れ、その上に一束の資料が乗っていた。

 

 「――新月リオ。まずは、この者から調べてもらいたい」

 

 資料を見るとそこには二十歳にも満たない少女の写真が貼られていた。

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