記第九説 新期
男は逃げていた。
一体何なんだ? 急に現れた二人に他の仲間は全員殺られた。五十人近くいた仲間すべてだ。今は自分も死にたくない一心で逃げている。
その時、何かに足をとられた様な感覚が襲い、前に倒れた。
後ろから走ってくる足音が聞こえる。
まずい。このままでは追い付かれる。
男はなんとか立ち上がろうとしたが再度前に転倒した。不思議に思い足を見ると、鋭利な断面を見せて両足が無くなっている。
「―――――な!?」
いつの間に斬られたのか全く見当がつかない。
目の前に影が現れる。
「ま、待ってくれ! 殺さないでくれ!」
必死に生を懇願するが、目の前にいる人影は武器を向けた。
「二度も死にたくないなら『死者』の時点で成仏すればよかったんですよ」
そう言うと人影は引き金を引いた。
遠くまで聞こえそうな銃声が辺りに響く。
「・・・・・・」
男の死体は、ゆっくりと塵へと変わって行った。
「こっちは終わったぞ。建物の中を詳しく調べよう」
無言で佇んでいる人影に声がかかる。
「はい」
人影は銃を後ろホルスターに納めると、声のした所に歩いて行った。
「まさか『死人』がいるなんて思いもしなかったなぁ」
辺りを調べながら天啓がぽつりと言った。
場所は街から少し離れ、森に囲まれた廃工場。今日はそこを調べると言う事で向かったのだが、死人と遭遇し、全滅させた上で改めて探索を開始している。
「主に彼らは団体で行動します。人間だってそうでしょ? 人数が集まればより大きなことができますから」
「確かにそうだな」
「まれに『血痕』のような、早々と永久機関を手に入れてそれなりの強さを持っている『死人』もいますけどね」
「これから先、『創造者』以外でそう言うのに出くわさない事を祈るよ」
床や壁などを見逃さずに懐中電灯を当てる。
「――――そう言えば、お前はいつも俺に刀を貸してくれるが、銃は『死人』に有効な武器なのか?」
天啓の質問にリオは得意げに答えた。
「そうですね。あたし達『ハンター』が使っている武器は全て『異端者』には対して特別な加工が施されているんです。――――――たとえば、天啓君に貸している『エクスカリバー』は『聖器』と呼ばれて、人外なる者達を滅する武器の一つなんですよ」
「でも、アーサー王は使っていたんだろ? こいつを」
「それは彼がまだ、生きていた頃ですよ。元々聖なる加護を受けているので、人間以外には使えません」
「じゃあ、その銃は?」
「これは、弾丸に聖水加工が施されていますから『死人』には効果絶大ですよ」
「それ以外は効かないのか?」
「はい、ほぼ無効です。ですから聖水加工が施されていない武器では『死人』を倒すのは難しいですね」
「なるほど・・・・」
と、天啓はある所でライトを止めた。
「なぁ。あれって何かの図形じゃないか?」
天井付近のパイプにはっきりとは分からないが、何か書かれているのは見れる。
「少し上に登ってみましょう」
天啓とリオは近くにある階段を使って上に登った。
「ふーむ」
リオはまじまじと、その図形を見ていた。
「・・・・何か・・・・・分かったか・・・」
下で壁に手を付き彼女の台になっている天啓は、苦しそうな声を出した。
「下りますよ」
一言断ってからリオは天啓から下りた。
「ふぅ。・・・・で、何か分かったのか?」
「全然わかりません。何かの陣である事は確かなんですが、あたしは専門外です」
「なんじゃそりぁ」
「でも大発見ですよ。陣があると言う事は、何かをする為の準備です。一通り見ましたが、発動した後でも、これから発動する様子もありませんでした」
「それって、陣として役目を果たしていないんじゃないか?」
「いえ、遠隔で陣を発動させるのは簡単なんです。でも、距離を置けば置くほどその効力は落ちてしまいます。今はただ書かれているだけの状態ですね」
書かれている図形にライトを当てながら言った。
「まだ、幾つかの陣が他の場所にもあるはずです。今度はそれらを探してみましょう」
「ああ。―――――っと、そうだリオ。明日は始業式だから、今後は手伝うのは夜だけになる」
既に春休みに入っており、その間ほぼ一日中天啓はリオにつき合っていた。
その言葉に何かを思い出したようにリオは相槌を打った。
「―――――そうでしたね。そうでした」
「? なんか、今の会話はおかしくないか?」
リオの返答に、違和感を感じた天啓は何気なく尋ねる。
「べ、別にそんな事はないですよ」
「? ならいいんだが」
天啓は上って来た階段を下る。その後にリオが続いた。
階段を下りきると、大きく開いている錆びた扉に向かう。その時リオが口を開いた。
「・・・・・天啓君」
かなり聞き取りづらい小さな声だったが、天啓には聞こえていた。
「なんだ?」
立ち止まり天啓が振り向くと、彼女は慌てて視界を外した。顔も僅かに赤くなっている気がする。
「・・・・あのー天啓君って・・・・・その〜・・・・・・・」
リオの顔がさらに赤くなる。天啓は彼女に近づくと、その額に手を当てた。
「!」
「熱はないな。どうした? どっか調子でも悪いのか?」
何気なく尋ねたら、なぜか怒りだした。
「どこも悪くないですよっ!」
早足で天啓を追い越す。
「? なに怒こってるんだ?」
「怒ってません! おやすみなさい!」
そう言うと天啓を残して早足で廃工場を出て行った。
「・・・・・・・・」
なんだ? あいつ。
天啓も廃工場を出ると、何気なく夜空を眺める。すると、ある事を思い出した。
「・・・・・そうだった。あいつは覚えてるかな・・・・・」
ポケットに手を突っ込むとアパートに向かって歩き出した。
長ったらしい学校長やその他の教員の話で、天啓はすっかりまいってしまった。
学校。進学期を迎えた天啓は、本日から高二になった。部活動でもやっていれば後輩の出来た楽しみなどもあるのだが、身体上の理由で部活動をやっていないため、少しだけ残念だった。
そして、変わらぬことも数多くあった。
「天啓。また同じクラスだね」
「よっしゃぁぁぁ! 今年もそろったぜぇぇぇぇぇ! 行くぞテンケイ。三人で、悪を倒しに!」
嵐道と佐川である。
「今日から部活が再開するんだろ? そんな暇はないだろ」
冷静に突っ込みを入れる天啓。
「そうだぞ。なんで私がお前達と同じクラスになったのか。ようやく分かった気がする」
佐川の後ろから天月が声を出した。
「ぬぉ! おのれぇぇぇ天月! お前も同じクラスだったのか!」
まるで、永劫の宿敵を見つけたような声で佐川は言った。
「文句ならクラスを決めた先生に言え」
「天月さんは、今年もクラス委員長を?」
嵐道が尋ねる。
「なる予定だ。そうした方が取り締まりやすい奴が二人いるからな」
「くっ! 今年最大の敵が近くに居ようとは!」
佐川は相変わらずだった。
話していると、担任の先生が入って来た。
「ハッハハハハ! グッドモーニング! 我が新しい生徒たち!」
渋沢である。(無駄にテンション以下略)
「なんか一年前と何も変わらない学校生活が送れる気がするな・・・・・」
何となく思った事を口にする。
渋沢が入って来た事を確認すると、他の生徒もいそいそと自分の席に着いた。
「今回は我が生徒達に、新しい仲間を紹介する! カモーン!」
パチンと渋沢が指を鳴らすと、入口が開き一人の生徒が入って来た。
肩ほどまで髪に、宝石のような紅い瞳。学校の制服が見事に似合う女子生徒だった。
「・・・・・・・」
他の者が注目する中、天啓だけは違う意味で注目していた。
「新月リオです。皆さんよろしくお願いしますよっ!」
と、元気に挨拶する。なんで、あいつがここにいるんだ?
思いっきり尋ねたかったが、不審に思われるので今はこらえる。
「彼女のご両親は日本人だが、外国にいる。彼女自身、日本の高校で文学を学びたいと言う事で、先週帰国した帰国女子だ。今日から皆でよろしくやってくれ」
なんであいつが学校に?
朝から何十回と同じ事を頭の中で復唱していた。
あいつはハンターとしてこの街に来て、死人を倒すためにこの街に来て、なんで学校に通うんだ?
頭の中で次々に疑問が生まれる。それら全ては彼女に正面から尋ねれば、解決しそうな問題ばかりだが、何となく尋ね難くもある。
「はぁ・・・・・」
天啓は階段を上っていた。今日は午前授業であるため、既に下校時刻である。アパートに帰っても約束の時間まで暇なだけなので、上から部活の様子を見ようと屋上に向かっている。
一番上にある外への扉を開けると、風が吹き抜けて行った。
「―――――っと」
真上から少しずれた位置にある太陽が屋上を照らしている。少しコンクリートに反射して眩しかったが次第に慣れて来た。危険の無いように高い金網のフェンスで囲まれている。
そこに、
「ん?」
先客がいる事に気がついた。女子生徒である。短く斬られた髪に、暗い表情をしていた。
天啓は彼女を一度見る。下の景色を楽しむわけでもなく、何か自分の中で別の事を考えているようだ。
視線を外し、少し離れた位置から下を眺める。
「・・・・・・」
気まずい・・・・・
野球部の練習を見ながらそう思った。まるで息が詰まりそうなほど、圧縮された空間にいるようだ。何か話しかけるか? いやダメだ。せめてあっちが、こちらに気が付いてからの方がいいかもしれない。
ドサッ
その時、何かが倒れるような音がする。
不思議そうに音のした方に視線を向けると、横にいた女子生徒が倒れていた。
「二度とないわね。天啓君が女子生徒を保健室に連れてくるなんて」
回転椅子に座りながら保健室の先生が言った。
「一体どうしたの? 襲いかかったら気絶でもした?」
「変な誤解をしないでください。怒りますよ?」
「冗談よ。冗談。本当は君が運ばれてくる場所なのにねぇ」
「・・・・。それで、彼女は大丈夫なんですか?」
天啓は白いカーテンで覆われたベッドで寝ている女子生徒に視線を向けた。
「軽い熱中症よ。日のあたり過ぎね。何してたのかしら?」
「・・・・・・屋上で何か考え事をしてましたよ」
必要な事を伝えると、椅子から立ち上がる。
「あら。もう行くの?」
「はい。友達と約束をしているので帰ります」
「――――ふーん。それって誰のこと? 嵐道君達?」
天啓は扉を開けようとして一瞬止まった。
「・・・まあ。そうです」
まさか、本当のことを話すわけにはいかない。
「あの子の名前聞いておいてあげようか?」
薄ら笑みを浮かべながら先生が聞いた。
「いや、いいですよ」
「――――つまらないわね。もう高二なんだから恋の一つや二つは、経験しておいたら?」
その言葉に後ろを向きながら天啓は答えた。
「・・・・昔から忘れられない奴がいるんですよ」
その言葉に先生は少しだけ驚いた表情をする。
「―――――あら。驚きね。天啓君にも好きな子が居たの?」
「ええ。でもかなり昔の事なので向こうはどう思っているか分かりませんけど」
「――――ふられるのが怖いのは男じゃないぞ! 当たって砕けろ!」
何故か先生のテンションが上がっている。
「当たって死なないように気をつけますよ」
そう言うと天啓は保健室を後にした。
次の日。
リオはすっかりクラスに溶け込んでいた。昔から明るく行動力がある社交的な性格である為、友達がいなくても作ることは彼女にとってしてみれば朝飯前だった。
更にクラスの生徒を妙なあだ名で呼ぶため、より一層友達が増えている。
正直な気持ち、自分が中継ぎになって紹介できる友達は限られているため、彼女が自分で友達を作れるのは嬉しいことだった。
「・・・・・・・」
今も相変わらず友達と話しているリオを見て改めて考えてしまう。
何故、彼女はハンターと言う過酷な事をしているのだろうか?
同級生であるため、どこかの学校に通っていても何ら不思議はない。むしろそうでなければいけないのではないか? 友達を作るのは得意な彼女だ。学校生活が苦になったわけでもないだろう。なのに、何故あんないつ死ぬか分からない事をしているんだ?
と、視線に気づいたリオがこちらに笑顔で手を振って来た。
「・・・・・・・」
自分も軽く返す。そう言えば前にその事を尋ねた時に、大切な人のため。と言っていた。考えてみると、自分は彼女の家族を一人も見た事が無い。小学の頃はまるで気には留めなかったが、今彼女がやっている事は彼女の家族も同意しているのだろうか?
「・・・・・・・ふぅ」
椅子にもたれかかり、軽く息を吐きだした。やめだ。余計な事を考えるのはやめよう。予想とは言っても自分の事を探られるのはいい気持はしない。一生無いかもしれないが、彼女が話してくれるまで待とう。
「どうしたんですか天啓君? ため息なんかついて」
上から見下ろすような形でリオが天啓の顔をのぞいていた。
「何でもないよ」
視線を外し机に肘をつける。その視線を追って彼女は誰も居ない前の席に移動した。
「――――そうですか。それより聞いてくださいよ! あたし新聞部に入りました!」
「・・・・・・部活もいいけど本業の方を忘れるなよ」
「分かってますよ! 出来るだけ学校生活は楽しく過ごしたいじゃないですか!」
「―――――ま、言っている事は外れないな」
「―――天啓君は何も部活をしていないんですか?」
「身体上の理由でな。お前も知ってるだろ?」
「―――――そう言えばそうでしたね」
笑顔を向けて言う。
「・・・・・・・」
天啓はため息をつきながらその笑顔を見送る。その時、
心音。
「!」
急に胸が苦しくなった。発作だ。
「・・・・・・はっ・・・・」
「大丈夫ですか!? 天啓君! 天・・・・・・君・・・・・・」
意識が徐々に遠のいて行くのがリオの声で分かった。
しばらく・・・・・無かったから・・・・・・少しつらいな・・・・・
天啓はゆっくりと全身に力が抜けて行くのが分かった。
「・・・・・・・」
天啓は眼を覚ました。いつも学校で倒れた時に運ばれるおなじみの保健室である。
「お、やっと起きたわね」
二日連続でお世話になっている保健室の先生がカーテンを開けて自分を見ていた。
「・・・・・・・」
少し高い所にかかっている時計を見る。
四時三十分。
「・・・・・。え、嘘?」
改めて時計を見直した。
四時三十一分。
「―――――君は半日以上気を失っていたわよ」
「・・・・・・」
自分の頬をつまむ。今まで、こんなに長い時間気を失っていた事はなかったからだ。
痛い。夢ではないようだ。
先生は何やら資料を書いている。
「すいません」
天啓は半日も迷惑をかけた事を誤った。
「ああ、気にしない気にしない。もう大丈夫なら早く帰りなさい。それと、体力が低下しているから今日は早く休むことをお勧めするわ」
「分りました」
ハンガーにかけてある上着を着ると、ボタンを掛けながらそう答える。
「それじゃ」
手をヒラヒラさせている返答を確認すると保健室を出て行った。
「今まで来なかったのが、一気にツケで回って来たのかな」
天啓は教室に向かいながら思った。
あれほどの長時間気の間、失っていた事は一度も無かった。そのため多少は気になったが、原因が分からないのなら無理に考えても意味はない。
「とりあえず。もう帰るか」
後でリオにはメールしよう。今夜は下手をすれば足手まといに、なる可能性がある。
「ん?」
その時、廊下から窓の外を眺めている女子生徒がいた。あの子は確か、自分が保健室に運んだ生徒だ。
「・・・・・・・」
外を見ているが、同時に何かを考えている、暗い雰囲気を持っていた。
「・・・・・・・」
天啓はそのまま素通りをした。別に話す必要もない。何かを考えているなら邪魔をしない方が一番いいだろう。
「・・・・・・・あ、・・・・あの・・・」
しばらく歩いたところで、その子から声がかかった。
天啓は辺りを見回す。
「・・・あ、えーっと・・・貴方ですよ」
「俺?」
女子生徒の言葉に天啓は自分を指さした。
「・・・・はい。・・・・・・貴方ですよね。わたしを保健室まで運んでれた方は」
「――――あ、ああ。急に倒れたから少しびっくりしたけど、大丈夫そうで良かったよ」
「・・・はい」
あまり人と話したことが無いのか、少しぎこちない喋り方だ。
天啓は何となくきりだす。
「俺は夜月天啓。君は?」
彼の自己紹介に彼女は少し恥ずかしそうに眼をそむけながら、
「・・・・海砂・・・・さゆです」
「――――海砂さんか・・・・よろしく」
微笑を浮かべて言った。
「それじゃあ、さようなら海砂さん」
天啓は踵を返して歩き出す。
「あ・・・・あの・・・」
「?」
天啓は再び呼び止められ、さゆを見た。
「・・・・私は・・よく屋上にいるので・・・・良かったら・・・・・また会ってもらえますか?」
「―――ああ、いいよ。俺もよく屋上に行くから。それじゃあ海砂さん」
軽く手を上げると、その場を後にした。
「ん?」
既に誰もいなくなった教室で帰る用意をしていた天啓は、鞄の中に入っている手紙に気づいた。だが手紙と言うよりも、
「・・・・・・なんで?」
漢字で果し状と書いてあった。そして開けてみると内容はこうだった。
『聞きたい事があるので、五時に体育館の裏で待つ』
と、広い用紙の真ん中にぽつんと書いてある。書いた人物が、いかに面倒くさい性格をしているかがよく分かる一文だ。
「・・・・・・・」
いつの間にか、懐かしい笑みを浮かべていた。確かあの時もこんな感じだった。友達が来て邪魔をされたが、今度はちゃんと伝えることが出来るかもしれない。
天啓は手紙(果し状)を丁寧に元に戻すと鞄に入れ、決闘場所に向かった。
外まで聞こえるドリブル音。今日はバスケ部が、体育館で練習をしているようだ。
体育館は薄く木々に囲まれた林の中にある。裏は森であった。
「さて、何所かな・・・・・」
裏と言っても範囲はかなり広い。とりあえず適当に奥に進んでみる。
しばらく進むと少し広い空間に出た。
「ここかな・・・・・」
立ち止まっていると、どこからか声が聞こえる。
「ふふふ・・・・罠とも知らずにここへ来ましたね・・・・・」
「何やってんだ? リオ」
ガサガサと、茂みからリオが現れた。頭には葉っぱや小さな枝が付いている。
「何で分かったんですか?」
「誰でも分かるわ」
天啓は冷静に答える。
「で、聞きたい事ってのはなんだ?」
その言葉にリオは一瞬固まったが、静かに声を出し始めた。
「・・・・・・あの・・・その・・・・・ですね・・・・・天啓君って・・・・・・その・・・・・」
「? はっきり言え。よく聞こえない」
「・・・・・・天啓君には、好きな人はいますか?」
視線を外し、恥ずかしそうに頬を赤めながら、彼女は詰まったモノを吐き出すように言った。
「・・・・・・・。ああ」
その言葉にリオは少し驚きながら、
「・・・・・そうですよね。天啓君も男の子なんですから、好きな人の一人や二人はいますよね・・・・・」
「――――お前の聞きたい事はそれだけか?」
「・・・・・・・はい」
リオは落胆しながら答えた。
「なら、今度は俺からの質問だ」
「・・・・・」
「お前、好きな奴はいるか?」
天啓は恥ずかしそうに聞いた。
「い、いませんよ。いるわけないじゃないですか。ハハハ」
苦笑いを浮かべる。
「・・・そうか。俺はお前に答えていなかった事がある」
「・・・・・・・」
「覚えてないか? あの事件の日の事だ」
リオは、記憶をたどった。
最初は、本当にただの友達だった。だが、年月を重ねるに継げて自分の心は徐々に引かれて行き、そしてあの日の夕方、帰る時に自分はその人に聞いた。
「俺って馬鹿な奴だから、お前と会ってからしばらく過すまで忘れてた・・・・ごめん」
天啓はリオを見る。
「リオ。俺は・・・・・お前が好きだ。・・・・よければ俺と付き合ってくれないか?」
リオは彼が何を言っているか理解するのに少しだけ時間がかかった。
「・・・・・・・ええ!? て、天啓君! 今なんて・・・・・」
「恥ずかしいんだから二度も言わせるなよ。だから・・・・・・よければ俺と付き合ってくれないか?」
「・・・・でも、さっき好きな人がいるって・・・・」
「――――それはお前だよ。リオ」
リオは一気に体温が上昇していくのが分かった。だが、僅かに理性処理は出来る。
彼はいつもずるい。何故か知らないが、とにかくずるいのだ。少し懲らしめてやらねば・・・・・・・
「―――――実は私も好きな人がいるんですよ」
リオは少しだけ意地悪な口調を交えて言った。
「! そう・・・・なのか」
「はい。優しくて、強くて、自分よりも他人の事を心配するとってもいい人です」
「・・・・・そうか」
「ですから―――――」
リオは天啓に向きなおす。
「大好きですよ! 天啓君!」
笑顔で言ったその言葉が彼女の答えだった。