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夜光伝記  作者: 古河新後
11/48

記第八説 探索

 「悪い。少し遅れた」


 夜。天啓は走り寄りながら、街の中央広場で座り込んでいるリオに声をかけた。


 「別にいいですよ」


 リオはスッと立ち上がる。


 十二月当初。季節は冬。人々は完全に冬服へと衣替えをしていた。


 マフラーや、防寒着を着た者達が多くなった街を二人は歩く。


 「ここ一ヶ月でお前の考えた場所は、全部空振りだったな」


 二人はただやみくもに死人を探しているのではなく、怪しい建物や空間などをリオの指摘で回っているのだ。


 「でも、まだまだありますからね。後五十くらいは」


 歩きながらリオが言う。この街に巣食う『創造者』は極めて特異な死人であった。活動しない時は、ほぼ永遠の眠りに付いている。しかし、『霊王』の指示を受けると、その魂を呼び起こし、他者の魂を上から自分魂として書き換え行動する。ほとんど人の魂を維持しているため発見が遅れ、毎度ごとに、とてつもない大事件を起こしていた。


 「なぁリオ」


 天啓は歩いている彼女に声をかけた。


 「何ですか?」


 「『創造者』は転生するんだろ?」


 「はい」


 「どんな奴に転生するんだ?」


 「人間ならどんな人にでも転生します。正確には純粋に寿命を持つ生き物じゃないといけません。あと高度な知能を持つ生き物の方が活動がしやすいんです。この二つを優先すると人間は最適の転生先ですね」


 「それじゃあ俺に転生している可能性があるんじゃないか?」


 「―――――それは考えられませんよ。純粋な魂である必要があるんです。あたし達のような特異な力を持った人間はその魂も特異であるため転生はしません」


 「なるほど」


 「ですから、事を起こしてからじゃないと特定できません。その為、現れる度に後手に回っていますから、なかなか捕えることも倒すことも出来ないんです」


 「なら、今回は倒せるかもしれないな」


 「――――当たり前ですよっ! 絶対倒します!」


 「全面協力するよ。ま、俺の出来る範囲だけどな」


 「―――――それじゃあ、今日は蓋来狭ビルに行ってみましょう」


 リオは元気にそう言った。





 「ここが例の蓋来狭ビルか・・・・・・」


 十月に起きた大量殺戮事件のせいで、警察に歯止めをかけられ、今は営業停止となっている。


 黒くたたずむ不気味な建物を見てガウェインが言った。入口には進入禁止の紐が巻かれている。


 「情報では、『血痕』がここを襲撃したようです」


 少し後ろをパーシバルと白士が歩いて来た。


 「・・・・・・・・微かにだが、霊魂の残骸が感じ取れる」


 「お前が言うなら当たってるな。まだ何か分かるか?」


 「・・・・・・・・・・。分からん。だが中に入いれば、何かしら『情報』が残っているかもしれん」


 「それでは、ガウェインさんは上から、私達は下から調べていきます」


 「OK。それじゃあ、始めるか」


 ガウェインは鷹化すると大きく屋上に向かって羽ばたいて行った。





 「ここが例の蓋来狭ビルですか。ものすごく不気味ですね」


 明るい夜の街に一つだけ雰囲気の違う建物を見上げてリオは思ったことを口にした。


 「ああ。でもここに本当に手掛かりがあるのか? 彊は力を強めるためここに来ただけかもしれないし・・・・・・・」


 「確かにそうかもしれませんけど、調べて損はありませんよ」


 と、リオは背負っている日本刀を天啓に渡す。


 「持っていてください。何かあった時は無いよりはマシです」


 天啓は僅かに抜いて刃を見る。


 「でも、おまえはいいのか?」


 「あたしには、これがありますから」


 コートをめくって後ろ腰にある銃を見せた。


 「一緒に行動しますが、何かあった時のためです。護身用と思ってください」


 「分かった」


 「それじゃあ、行きましょう」


 リオと天啓はビル内部に足を進めた。





 「嗅ぎ慣れた・・・・死の匂いだ」


 三階事務室。白士とパーシバルは墓場以上に不気味な部屋にいた。


 「そうですね。恐ろしいほどに・・・・・」


 机の上に広げられた資料や割れているカップに乾いたコーヒーを見ると、どうやら作業中に襲われたらしい。


 白士は辺りを見ながら『物の記憶』を辿った。


 「・・・・・・・・」


 「―――――何か分かったか?」


 目を閉じ集中している彼女に尋ねる。


 「残念ながら。『血痕』以外の情報はありません」


 「・・・・・・・そうか、こっちは興味深いモノを見つけた」


 パーシバルは部屋の隅に白士を誘導する。そこには小さく複雑な図形が描かれていた。


 「これは・・・・・」


 白士が図形に触れる。


 「ただ描いてあるだけだ。時間式で起動するわけでもなく、他の者が利用できるモノでもない。『創造者』特有の『私法術式陣』だ」


 陣には、即時機動型、時差機動型、反応型の三つがある。主に使われるのは即時機動型で、自らの力を強めたり、相手を捕縛するのが基本的な術式であった。


 創造者が最も厄介とされているのが、自分だけの陣を展開すると言うことである。


 いつどのような状況で発動するか分からない上に、本人しか知らない術式であるためどのような効果があるのか発動するまで分からないのだ。


 「これを解読できれば、どのようにして『霊王』を召喚するか分かるかもしれませんね」





 「なんか・・・・居るよな」


 一階ロビー。視線を左右に向けながら天啓は言った。


 「―――何か見つけましたか?」


 少し離れた所で一階の惨劇後を調べていたリオは尋ねる。


 「―――――魂って人の中限定じゃ無かったみたいだ」


 「それはそうですよ。浮遊霊とかそう言うのが――――――・・・・天啓君?」


 喋っている途中でリオは表情を変えた。


 「なんだ?」


 「もしかして・・・・・何か見えてます?」


 「? ああ。色々とな、お前の後ろにも居るぞ」


 「キャー!!!」


 音速の勢いでリオは天啓の後ろに回り込む。


 「どこに!? どこにいるんですか!!」


 後ろに隠れると銃を片手に視界を彷徨わせている。


 「・・・・お前、『死人』とか問題なく斬り捨てるくせにこう言うのはダメなのか?」


 僅かに彼女が震えるのを感じながら天啓は尋ねた。


 「それはそうですよ! こっちが干渉できる相手は倒すことが出来るのでいいんですが、それが出来ないのは一方的に攻撃を受けるだけなんですよ!」


 右に左に視界を彷徨わせる。見えない為、撃ちはしないが銃を構えながら早口で言った。


 「でも、普通の霊魂には害はないんだろ?」

 

 「それはそうですけど・・・・・・」


 「・・・・・・・」


 ここまで怖がるとは思いもしなかった。そう言えば小五の修学旅行では、旅行先の遊園地で皆がお化け屋敷に入った時も出口から出るまで隣にいた自分の腕をずっと掴んでいたような記憶がある。


 「・・・・・。大丈夫だ。もう消えたよ」


 「ほ、本当ですか?」


 「ああ」


 まだ辺りにウヨウヨといるが、ここは嘘をつかないと進むものも進まない。


 「・・・・・絶対に?」


 今にも泣き出しそうな表情で天啓に尋ねる。


 「ああ。もう居ないよ(実はかなり居るけど。ていうか増えてる様な気もするが・・・・)」


 リオはその言葉を聞いてようやく銃を収めた。


 「よし、探索を続けるか」


 「天啓君」


 再開しようとすると、リオが話しかけてきた。


 「なんだ?」


 視線を向けると、なんだが恥ずかしそうに、


 「・・・・・一階は、帰る時でも調べられますから、先に二階から調べませんか?」


 「・・・・・・・。そうだな。そうするか」


 彼女の気持ちを察し、階段に向かう。その際に実体が無いとはいえ、幽霊と接触しないように避けて歩いた。


 「・・・・・・天啓君」


 その様子を見たリオは静かに口を開く。


 「なんだ?」


 「なんで、そんな避けて歩いているんですか?」


 「ぶつからないようにだよ」


 「誰と?」


 「そりゃ――――――」


 そこまで言いかけて天啓は声を止めた。


 「キャー!!!」





 「ん? 銃声か?」


 屋上から六階の部屋全てを調べていたガウェインは高く聞こえた音に耳を傾けた。


 パーシバルと白士は拳銃の類は持っていないはずだ。そんな物を持たなくてもそれ以上の戦闘能力がある。自分達にとって銃など戦闘時の、不利有利にはならない。


 「後はここか」


 ガウェインは資料室と書かれた扉に手をかける。しかし、鍵かかかっているため開かなかった。


 「仕方ねぇな」


 出来るだけ自分達の来た証拠は残したくなかったのだが仕方無い。ドアノブを掴むと力任せに回す。何かしら壊れるような音がしてとれた。そして勢いよく蹴り破る。


 「さて、当りだといいが」


 先ほどパーシバルから情報を受け取った。創造者の私陣を発見したとの事だ。どんなモノにせよ陣は一つでは起動したときに大きな誤差を生じる。その為、どんな強力な陣でも正確に発動するには最低二つは必要であった。


 散らかった資料室の床を見逃さないように探して行く。


 しばらく探したが無かった。


 「陣らしき図形は六階には無い。他の階を当たってみる」


 『・・・・・分かった。気をつけろよ。先ほど銃声が聞こえた』


 「ありゃ、俺の勘違いじゃなかったか?」


 『白士も聞いた。どうやら俺たち以外にも『創造者』の事を調べている奴らがいるようだ』


 「十中八九。『ハンター』だな。手回しが速いぜ。相変わらず」


 『一階から聞こえた所を見ると、まだ下だ。今はどこにいるか分からんが・・・・・・』


 「OK気をつけるよ。いざとなったら俺は空に逃げられるからな」


 『俺達も気づかれない内に建物を脱する』


 「分かった」


 と、ガウェインは何気なく天井を見た。


 「! ・・・・・・おい。パーシバル」


 『なんだ?』


 「白士と一緒に六階に来い」


 『・・・・・・何か見つけたか?』


 「ああ。目的のモノを・・・・な」


 『分かった。急いで向かう』


 ガウェインは再び天井を見た。そこには天井一面に陣が描かれていた。





 「まったく。普通撃つか?」


 「――――人間は、危機を感じると自分の身を必死に守ろうとするんですよっ!」


 二階の廊下を天啓が先行して歩き、その服をリオは掴みながら歩いていた。


 「・・・・・。まぁ嘘をついた俺も悪いんだが」


 「そうですよ!」


 「それじゃあ、正直に言った方が良かったか?」


 「う・・・・それは嫌です・・・・」


 そんな会話をしながら二階の探索は終了した。


 「次は三階だな」


 「そうですね。気をつけて行きましょう」


 天啓の服を掴み、銃を構えたままリオはそう言った。





 「これは下の陣より大きいですね」


 六階の資料室の天井を見て白士はそう言った。


 「・・・・・・・下の陣をそのまま大きくしただけの様だな」


 「『連鎖術式』だろ?」


 「そうですね。それならこの陣よりも、もっと大きなモノがどこかにあると思います」


 「・・・・・・」


 と、パーシバルは三階にいる二つの霊魂反応に気づいた。


 その様子を見た白士は、


 「探索はまた後日にしましょう。パーシバルさん状況は?」


 「反応が二つ。三階だ。だが、これは・・・・・・・」


 深刻な顔をするパーシバルにガウェインが尋ねる。


 「どうした? 『賢者』か?」


 「いや・・・・・『ハンター』と『処刑人』だ」


 「!」


 「おいおい。冗談だろ。『ハンター』はともかく。『処刑人』は百年前に全滅しているはずだ。今さら出てきて過去の清算でもしようってか」


 「分からん。だが、この独特の反応は『あの事』以来だ」


 「・・・・・パーシバルさん。彼らの位置は分かりますか?」


 「今は薄いが、近づけば、はっきりと分かる」


 「・・・・・・・少し、状況が悪いですね」


 白士は陣の事はひとまず置き、近づいている彼らの事を考えた。ハンターに加え、処刑人まで来ているとは、創造者の存在がそれだけ者達を引き寄せていると言う事・・・・・・


 「・・・・・・白士とガウェインは通路を通って建物を脱出しろ」


 パーシバルの言葉にガウェインが抗議する。


 「おいおい。いつも良い所取りかよ。囮役なら俺の方が適してるだろ?」


 「いや、銃声が聞こえた所を見ると、どちらかは銃を所持しているのは確実だ。空に逃げれば的になる」


 「・・・・それならお前の方がいいな。俺まだ死にたくねぇし」


 「・・・もう一度死んでいるだろ?」


 「それは言うなよ」


 「それでは、こうしましょうか? 私とガウェインさんは建物を脱出します。パーシバルさんは後から無事に合流してください」


 「分かった・・・・・」


 「―――――ごめんなさい。『処刑人』は私が排除しなくてはならない存在なのですが・・・・・」


 「気にするなって。今ここで大事になれば『創造者』に俺達の存在を気づかれる事になる。ま、最良の選択ってやつだ」


 「――――――ガウェイン。そっちは任せる」


 「ああ。お前も死ぬなよ」


 白士とガウェインは非常口に向かった。





 「そう言えば、何でお前は『ハンター』なんかやってるんだ?」


 三階の廊下を歩きながら天啓が尋ねた。自分の服を掴みながら歩いているリオに、少しでも恐怖心を間際わらす為の何気ない質問だった。


 「大切な人を、守りたいから・・・・・・・」


 「大切な人?」


 「はい」


 「それって―――――――」


 その時、正面から何かが迫って来た。


 「リオ!」


 彼女を庇うように前に出る。迫っている血の様な衝撃波は、通路いっぱいに広がり避ける事が出来ない。衝撃波が二人を飲み込んだ。


 「・・・・・・・」


 その様子を通路の向こう側から見ていたパーシバルは紅い刀身をした剣を鞘に収める。


 衝撃波が通り過ぎると目の前に黒い物質が存在していた。それが溶けるように消滅すると、銃を構えた少女の姿があった。


 「・・・・・・」


 弾が発射される前に横の部屋に隠れる。


 精密な射撃が扉付近に被弾した。


 ほどなくして静寂が通り抜ける。


 リオはトリガーを捨てると、新しいのを弾装に入れた。


 「・・・・・・」


 パーシバルは相手の様子を窺う。やはり銃を持っている奴がいた。先制攻撃で仕留めるつもりだったが、あの程度の攻撃では倒せなかったようだ。


 「いいラグだ。リオ」


 「!?」


 低い位置から刀を逆手に引き抜いた。


 銀色の一閃が襲う。


 パーシバルは瞬時に後ろにステップをすると刀の攻撃範囲外に出る。


 天啓は反撃の隙を与えずに刀を持ちかえると、袈裟がけに振り下ろす。


 その攻撃をパーシバルは、剣を鞘に入れたまま受けた。


 「・・・・・いい太刀筋だ」


 相手の初めての一声。天啓はパーシバルの魂を捉えていた。


 「・・・・・・あんた、人間か?」


 パーシバルの魂は、そこらにいる人間と何も変わらない色をしている。


 「答えよう。だがこちらも質問をする」


 勢いよく弾き返した。


 天啓は刀を横に寝かせ油断なく構える。


 「俺は『死人』だ」


 「――――て、ことはお前が『創造者』か!」


 「・・・・違う。『霊王』は俺の『王』ではない」


 「・・・・・・・」


 「こっちの質問だ。何故その剣を持っている」


 パーシバルは天啓の構える日本刀を見て尋ねた。


 「剣? これは刀だ」


 「違うな。その『剣』は我が主君の剣エクスカリバーだ」


 「・・・・・エクスカリバーは洋剣だろ」


 「確かにその通りだ。しかし、その剣は百年ごとに所持者が望む形に変わる。今は日本刀の様だな」


 「これは借り物だよ」


 次の瞬間、影が死角からパーシバルに襲いかかる。


 「なめているのか?」


 苦もなくその攻撃を避けた。


 天啓はその好機を逃さず踏み込む。


 影も交えての乱撃。


 しかし、パーシバルは普通の死人とは違う強さを持っていた。


 鞘からも抜かないまま影と刀の斬撃を受けていた。


 余裕の表情も、苦となる表情も浮かべていない。変わらぬ表情のまま見切る事さえままならない攻撃を全て受けているのだ。


 刀の攻撃を大きくはじいた。


 「っ!」


 僅かに後ろによろける。その間も隙をおかずに影で攻撃を繰り出す。


 「甘い」


 剣でそれを弾く。


 「この力・・・・・普通の『死人』ならば相手にならないだろう。だが―――――」


 紅い剣にゆっくりと何かが纏わりついて行く。


 「貴様と俺では戦う理由が違う」


 パーシバルが剣の柄を握った。


 「天啓君!」


 その時、リオが部屋の入口に現れる。


 「――――まずい!」


 危機を察知した天啓は、刀を捨てるとリオに向かって走った。


 次の瞬間、抜かれた剣から紅い衝撃波が二人に向かって襲いかかる。


 天啓はリオを抱えて部屋から出ると横に跳ぶ。


 「きゃあ!」


 「くっ!」


 衝撃波は爆風のように横に広がって来た。


 咄嗟に影で保護する。


 先ほどの比ではない威力が二人を襲った。


 パーシバルの持つ紅い剣には 刃から雷のような黒い電気が走っている。


 「・・・・・・・・」


 無言で鞘に納めると、まるで何事も無かったかのように部屋を出て歩いて行った。





 「・・・・・・・生きてるか? リオ」


 影を解くと横に隣で同じような体勢で、寝転がっているリオに尋ねた。


 「・・・・はぁい。生きてます・・・・」


 ゆっくりと立ち上がる。


 「いつもあんなのと戦っているのか?」


 彼女の手を引きながら尋ねた。


 「ほとんどは一般的な『死人』を居るだけ倒すんですが・・・・・・・まれに量より質のある『死人』がいるんですよ」


 天啓は部屋に戻り、捨てた日本刀を拾い鞘に入れた。


 「エクスカリバーか・・・・・・」


 「どうしました?」


 銃を収めたリオが天啓に歩み寄る。


 「この剣って、元々はエクスカリバーって言う名前なんだろ?」


 「元々と言うか・・・今もそうですよ。五世紀から六世紀の間で伝説の王が使用していた。今は理由があって形が違いますが、確かにアーサー王が使っていた剣です」


 「・・・・・・・。さっき戦った奴。この剣の事を知ってた」


 「あたしも見ました。一瞬でしたけど、あれは『円卓の騎士』の一人パーシバル卿です」


 「『円卓の騎士』ってあのアーサー王の?」


 「はい。ですからエクスカリバーの存在は知っていて当然です。」


 「・・・・・・・」


 天啓はパーシバルの魂に疑問を持った。あれは明らかに死人としての魂ではない。どちらかと言えば人に近い色をしていた。


 「なぁリオ。『死人』ってのは自らの魂を維持するのに他の生命を吸収しないといけないんだろ?」


 「そうですよ。人間だって時が経てば魂が滅びて行きます。『死人』と人の違いは他者の魂を奪えるか、奪えないか差です。この世の存在である人は魂を奪うなんそことは出来ませんけど、『死人』はこの世の理から外れた存在ですから魂を食らう事が出来るんです」


 「あいつの魂は、人に近い――――いや、人と同じだった」


 「! 本当ですか?」


 「ああ。『死人』は絵具を混ぜたような色をしているけど、あいつは街を歩いている人と同じだったよ」


 「大発見ですね。・・・・となれば『王』が違うからかな・・・・・」


 「――――――確かにあいつもそんな事を言ってた。『霊王』は自分達の『王』じゃない、って」


 「・・・・・。天啓君には話しておきましょう。『死人』には『霊王』のほかにもう一人『王』がいるんです」


 「もう一人?」


 「名前は『剣王』。彼は自らで騎士達を率いているんです」


 「・・・・・・・! まさか、その『剣王』って――――」


 「御名答です。『剣王』の本名は、アーサー王。この剣の二代目の持ち主です」





 「遅かったな。殺られたかと思ったぞ」


 ビルから出てきたパーシバルをガウェインと白士が迎えた。


 「ああ。実力を確かめてみた。『ハンター』と『処刑人』。手を組んでいると見て間違いはないだろう」


 「厄介ですね・・・・・」


 「そうでもない。『ハンター』の方は気をつけなければならないが、『処刑人』は素人だった」


 「だが、奴らは血が沸騰した時が一番危険だぞ」


 「そうなる前に、こちらの力を存分に見せつけておいた。牽制になったはずだ」


 「ご苦労様です」


 「ああ。それとガウェイン」


 「ん?」


 「エクスカリバーと遭遇した。持ち主は書き換えられていたようだが・・・・・・」


 「おいおい。エクスカリバーまで敵かよ。やる気うせるねぇ」


 と、うんざりしたような声を出す。


 「今日はもう休みましょう。詳しくは後日」


 白士は黒く佇む不気味なビルを見てそう言った。





 「まったく。怪我しているなら怪我してるって言え」


 「迷惑をかけないのが、あたしの流儀なんですよっ!」


 リオを背負いながら天啓は建物の出口に向かっていた。パーシバルの攻撃から、彼女をかばった時に足を負傷したようで、本人は大丈夫と言っているが、彼は背負っていた。


 「・・・これは俺が勝手にやってることだ。迷惑には思ってない」


 「・・・・・・すいません」


 「―――――人間素直が一番。今日の探索はもう終わりだろ? これ以上は回れないからな」


 「そうですね」


 と、程なくして一階のロビーに戻って来た。


 リオは瞬時に銃を抜く。


 「そんな耳元で、引き金を引いたらここに置いて行くぞ」


 「えーん。天啓君のいじわる〜!」


 「何とでも言え」


 リオが眼を閉じて必死にしがみつくのが分かる。


 「・・・・・・・」


 やっぱりどんなに成長しても変わらない奴はいるんだな。


 懐かしい笑みを浮かべるとビルを後にした。

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