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夜光伝記  作者: 古河新後
10/48

記第七説 会桜

 夜と変わり太陽の光が大地を照らす昼。


 青い空。


 所々に浮かぶ雲。


 晴天。という言葉が合う天候だった。


 「・・・・・・・」


 天啓は病院の敷地内でベンチに座りその空を見ている。


 ただ、眺めるだけ。


 呆然と時を忘れ、流れる雲と海のような空を眺めている。何分も、何十分も、何時間も。


 まるで動かなくなった人形のようにその空だけを見ていた。


 「病室に居ないと思ったら、こんな所に居たのか」


 その時、声がかかった。力無く視線を向けると、同じクラスの天月が立っている。


 「・・・・・天月。・・・・・なんか久しぶりに感じるな」


 「能天気な奴だ。お前はまた倒れていたんだぞ」


 と、天月は横に座る。


 「嵐道と佐川を見かけたんで、追いかけていたら携帯が鳴ってな。公園に行けって言われたから半信半疑で言ってみると、血まみれのお前が倒れていたんだ」


 「・・・・・・・・」


 「一週間も昏睡するほど大怪我だったみたいだが・・・・・お前、あの夜何をしていた?」


 天月の言葉に天啓は口を閉じた。


 霞真理諳と名乗る少女との出会い。死人との遭遇、戦い。そして・・・・・


 「・・・・・・・」


 「――――――今起きてる事件の事か?」


 「! なんで・・・・・」


 「? 当たり前だろ。この街で話題になってる事じゃないか」


 「あぁ・・・・」


 「・・・・・・。まったくお前まで事件に巻き込まれたと思ったぞ」


 「・・・・。もう、事件は起きない」


 「・・・・・。何で、そんなことが言える?」


 「―――――何となくだよ」


 天啓は再び空を見る。夕日が傾きオレンジ色に染まっていた。


 どんな理由があったにせよ、俺は生きてる。なぜ彼女が俺を殺そうとしたかは分からないが、もう全て終わったんだ。考える必要はない。いつもの日常が戻って来たんだ。今はそれだけで十分ではないか・・・・・


 「――――――明日には退院だから明後日からは学校に行くよ。嵐道達にもそう伝えといてくれ」


 天啓は立ち上がると、病室に帰って行った。





 一日に何車両ものJRが行き来する大型施設の駅。行き来するのは車両だけでは無く、蟻のような人々も、昼夜問わず駅内に存在していた。


 「どうして皆さん急いでいるのでしょう?」


 一つのJRから降りてきた女性が不思議そうに、絶えず動き回る人々を見てそう洩らした。


 十代後半とも、とれる若い顔立ち。どこかおしとやかな雰囲気を纏っている。腰ほどの長いストレートの黒髪を短い布で、後ろで一つにまとめ、和服を着ていた。


 「白士(はくし)。お前は人間社会に来たことがないのか?」


 女性の後から降りてきた、若者が質問するように言う。


 邪魔にならないように斬られた短い金髪。長袖の上から薄手のコートを着ており、細長い袋を背負っていた。鋭い眼つきを辺りに配らせる。


 「五百年前に父上と来たきりです。その時は皆さん着物を着ていたのでこの格好で来たのですが――――――――」


 白士は辺りを見回す。道行く人々は現代風のファッションである。時折注目する者もいた。


 「――――――どうやら、今はそうでないみたいですね」


 「ああ」


 「そう言えばパーシバルさんは、ちゃんと適応してますね」


 白士はパーシバルの現代風の服装を見て言う。


 「プルトの城に行く時、行けるところまで公共の交通機関を使った。その時に色々とな」


 会話をしていると二人の頭の中に声が入ってきた。


 『俺は未だに信じらんねーよ。人間はあんな鉄の塊のどこがいいんだ?』


 ガウェインである。彼は事情により空からここに向かっていた。


 「だか、普通に飛ぶよりは速い」


 『何言ってんだよ。機械を色々と組み合わせて無理やり、出力を出してんだ。俺はまだライト兄弟の奴がいいぜ』


 「新幹線に乗らずに、鷹化してここに向かってるのも、そんな理由か?」


 『当たり前だろ。あんな鉄の塊が暴走したらどうするんだ? しかも、過去に何度かそう言う事が起こってるみたいじゃねぇか。やだねぇ人間の乗り物は。確実に安全な物がねーからな』


 「そうですね。彼らも私たちほど長生きをすれば、より確実な物が出来ると思いますよ」


 『そんな人間が多けりゃな』


 「―――――フフ。それでは、ガウェインさんは空から何か不審な反応がある施設を探してください」


 『おう』


 「私とパーシバルさんは徒歩で探してみます。パーシバルさん。他の『騎士』はいつほどこちらに?」


 「数ヶ月はかかると言っていたが、恐らくは間に合う」


 「――――――それでは彼らが来る前に、ある程度は目星をつけておきましょう」





 二日後、天啓は学校にいた。


 一週間も入院していたこともあり、違う意味で質問攻めにされたが、それ以外はいつもの日常だった。


 自分が一週間昏睡している間、昏睡事件は起きなくなっていた。それもそうだ。元凶であった死人は、自分が倒したのだから。


 警察は犯人が一時的に犯行を止めていると判断し、夜の警戒態勢は続いている。学校側もそれらの事を考慮して進学期までは引退生徒以外は部活を停止するようだ。


 「うおー、行くぞ。テンケイ!」


 「どこに?」


 鞄に教科書を入れていた途中、佐川が絡んできた。


 「闇の中で蠢く悪を掃討するんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 学校全体に聞こえそうな大声で叫ぶ。


 「俺は居残りだ。一週間も休んでたせいで単位がやばい。この後、渋沢先生に一週間の英語を教えてもらう」


 「そんなに勉強してると、馬鹿になるぞ!」


 「いや、勉強をして馬鹿にはならない」


 「そうだ。馬鹿になるのは、勉強をしていないお前くらいだ」


 横から天月が声をかけてきた。


 「そう言う事は嵐道とやれ。天啓は一般人だぞ」


 「馬鹿野郎! 天月!」


 「何が馬鹿なのかは知らんが、お前にだけは馬鹿と言われたくない」


 「おう! ―――――て、誰がだ! いいか聞け、テンケイは唯一、政治と互角に渡り合った男だぞ!」


 最初に二人と出会った時に、天啓は勘違いされて嵐道から攻撃された。一時間ほど攻防を繰り返していたが、急に発作に襲われ、決着はついていない。


 「そんな事知るか」


 天月は正直に言いきった。


 天啓は自分の手を見る。


 「・・・・一般人・・・・か」


 一週間前の戦いを考えれば、俺は一般人なのだろうか。あの時、死人と対峙した時のあの衝動。それが使命のように、何も疑問を抱かなかった。だが、あれはもう終わった。考える必要はない。


 「どうした天啓?」


 不思議そうな声と顔で天月が尋ねる。


 「己の拳に自信があるんだ! 行くぞ、天啓。悪はそこにいる!」


 「何なら佐川、私が勉強を教えてやろうか?」


 「じゃあなテンケイ。勉強頑張れよ」


 いつの間にか、扉の向こうに移動していた佐川は、走って逃げて行った。


 「・・・・・・そんなに勉強が嫌いなのか? あいつは」


 「学校は好きみたいだが、体育以外は、死体のように静かだからな」


 天啓は鞄を抱え歩き出す。


 「そう言えば、いつも一緒にいる嵐道の姿が無かったな」


 彼の素朴な疑問に、


 「今日は用があるから早退すると言ってたぞ」


 天月は慣れているように言った。


 「早退? あいつも寮生だろ?」


 「色々あるんだろ。それより急がなくていいのか?」


 時計を見る。


 「だった。じゃあな。天月」


 慌ただしく教室を出て行った。


 「・・・・・・寮に帰るか」


 鞄を持つと、誰もいなくなった教室を後にした。





 「今日はまた一段と冷えるな」


 時折吹く風に身を、縮こませながら、天啓は党鹿野荘に向かっていた。


 どうやら決定的に寒気が流れ込んできたようだ。今日は風邪をひかないように温かくして寝よう。


 そんな事を考えながら、ついでに夜飯は何にしようかも考える。


 と―――――


 「ん?」


 天啓は不意に足を止める。そして、公園を見た。


 あの夜戦った公園では無く、自分の家に近い別の公園だ。


 いつの間にかここまで来ていたらしい。後は角を曲がれば党鹿野荘を視界にとらえる事が出来る。


 しかし、天啓の視線は公園に向いていた。そこにいる何かを肌で感じ取る。


 「・・・・・・・」


 不思議と足が公園に進む。一歩、また一歩。そして、不確かな足取りはいつもの歩調に変わって行った。


 コンクリートで出来た階段を上がり、薄暗い外灯を浴びながら奥に進む。


 そして広場に出ると、


 「!」


 すぐに木の陰に隠れる。


 広場には、人だかりが出来ていた。


 だが、その人だかりは人では無かった。





 「やあ、お譲さん。こんな夜の公園に、一人で何してるのかな?」


 囲んでいる五十人弱の男達が、ベンチに座っている少女に声をかけた。


 天啓の位置からでは、男達のせいで少女の姿を確認できない。


 「月を見ていたんですよ」


 夜空を見ながら少女が答える。


 「はぁ?」


 「綺麗ですよね〜月って。あたしは大好きです」


 「何だシカトしてんじゃねぇぞ! コラ!」


 囲んでいる男の中で一人がキレた。


 「――――まぁ待て。なぁ、お譲さん。俺らの頼み、聞いてくれねぇか」


 リーダー核の男が丁寧な口調で、尋ねる。


 「何ですか?」


 「俺らはアンタ。つまり、『ハンター』を殺れば大きく出世できるんだ。まさか、こんなお嬢さんだとは思わなくてなぁ。お譲さんを痛ぶる趣味は俺らには無い。そこで、抵抗せずに死んでくれねぇかな?」


 リーダー核の男は、闇の中に手を入れるとそこから洋剣を取り出す。


 「いいですよ。でも―――――――」


 一瞬、リーダー核の男を縦に何かが通り過ぎた。


 次の瞬間、二つになった男はそのまま倒れる。


 「死ぬのは嫌ですね」


 少女の手には鞘から抜かれた日本刀が握られていた。


 「―――――殺っちまえ!!」


 一斉に殺気が辺りを包む。他の仲間が、少女に得物を向ける。


 少女は得物が自分にとどく前に、高くその場を跳躍した。


 「!?」


 男達の囲いを抜け、少し離れた所に着地する。


 「さて・・・・」


 少女は月光を浴びながら男達を見直す。


 「それでは、始めましょうか? 死人達」





 天啓は木の陰から様子を窺っていた。視界には、『輝くモノ』を捉えている。


 あれは全てこの世の理から外れた者達だ。一体どういう事だ。もう全て終わったはずだ。なのに、何故死人がいる?


 と、その中から少女が跳んだ。


 月光を浴びた姿が夜空に映し出された。


 肩ほどまでの髪に、宝石のような紅い瞳。着ているコートが跳んだ拍子になびき、右手には日本刀、左手にはその鞘を握っている。

 

 「・・・・・・・」


 天啓はその光景に見とれた。


 綺麗だ。


 思わずそう思ってしまうほどである。更に、その少女の『輝くモノ』は今まで見たことが無い美しさを放っていた。


 ソウダ。


 !・・・・


 アレハ、ナガネンサガシツヅケタモノ。


 何を・・・・・・


 アレハ、ワタシガモドサナクテハナラナイモノ。


 何を言っている?


 リユウハ、ヒツヨウナイ。


 ・・・・・・・・


 天啓は木の陰から出ると、少女が戦っている場所に歩み寄る。


 「何だ! テメーは!?」


 少女の仲間だと思ったのか、死人の一人が、天啓に気づき持っているナイフを向けた。


 「邪魔だ」


 影が腕を切り落とす。続けて複数に分かれた影が串刺しにした。消滅していくその腕から、ナイフを取る。


 「テメー!」


 同僚が殺られるのを見ていた、周りの死人は数を半分に分けて天啓にも狙いを定めた。





 少女は返し技を使い、こっちから斬り伏せるのではなく、相手の攻撃を切り返しながら最小限の動きで戦っていた。


 右からくる攻撃を避わし、刀を逆手に持ち変えると、そのまま斬り抜ける。


 斬られた死人は血を上げながら倒れた。


 刀に付いた血を払っている少女に、長剣を一人の死人が振り下ろして来る。


 咄嗟にその剣筋を受け止めた。


 「死ねー!」


 槍と棒を持った二人組が身動きがとれない少女に攻撃を仕掛ける。


 少女は刀を離し、右側に大きく跳び退いた。


 「これで、テメーに武器はねぇな」


 残った死人がぞろぞろと少女の前に集まる。いくら『ハンター』と言えど、武器が無い以上自分達に勝てるはずが無い。死人達は余裕だった。


 「ホントは使いたくなかったんですけど――――――」


 少女は両手を後ろに回した。


 「殺っちまえー!」


 死人達が走って前進して来る。


 少女は素早く両腕を上に掲げると、正面に構えた。


 「!?」

 

 死人達は、彼女の両手に握られている武器を見て一瞬怯む。


 銃であった。SIG SAUER P220。


 9mmパラベラム弾を使用。


 装弾数9発。


 近代的なダブルアクションを先駆けした、自動拳銃の一つである。


 次の瞬間、銃が火を噴いた。次々と死人に被弾する中、数人は咄嗟に木の陰に隠れる。


 本来、死人に銃などという近代武器は効かない。しかし、ハンター達の持つ武器は全て対異人戦用に特別な加工が施されている。


 頭部に銃弾を食らった仲間が、死期を迎えたように力無く倒れると、塵へと消滅していった。





 「・・・・・・」


 天啓は攻撃距離の長い薙刀を持つ死人と対峙していた。


 次々と繰り出される攻撃を紙一重で受け続ける。その度に夜の公園に、小さな火花が散った。


 「ええい! 猪口才な!」


 死人は、なかなか仕留められない天啓に悪態を付くと一歩前に踏み出す。


 「死ねぇい!」


 大きく振られた薙刀は空を切った。


 天啓は転がるように薙刀を避わすと、少女が捨てた刀を手に取る。


 「なかなかいい武器だ」


 品定めをするように刀を見た。僅かに触れたのか、少しだけ切れた頬から一筋の血が流れ落ちる。


 「余裕かましてんじゃねぇぞ!」


 周りから複数の死人が天啓に襲いかかる。


 その時、刀が動いた。


 一閃。二閃。三閃。


 近づいていた死人は血を浮きだしながら後ろに倒れた。


 「やるな。だが、攻撃距離(リーチ)が違う!」


 死人は薙刀を高速で天啓に突き出す。


 「そうだな」


 薙刀は天啓には届いていなかった。先端が鋭利な断面を見せて消失している。


 「な・・・・!?」


 「それでは、ごきげんよう」


 何が起こったか分からぬ間にに刀を振り下ろす。中心にある『輝くモノ』ごと切り裂いた。


 身体が二つに分離すると、粒子へと消滅していった。





 少女と天啓は次々と死人を殺していく。


 そして、互いに次の標的へ狙いを定めた。


 少女の銃口は天啓の顔に向けられ、天啓の持つ刀は少女の顔横で止まっていた。


 「・・・・・・」


 双方沈黙。殺気だけが辺りを通り抜ける。


 「こんばんは」


 少女は銃口を向けたまま、何気なく声をかけた。


 「・・・・・・」


 予想外の言葉に天啓は何と答えていいか少しだけ迷う。


 その時、少女が動く。それに合わせるように天啓も動いた。


 お互いの死角から近づいて来ていた死人に攻撃する。


 少女は後ろを向くと、弾丸をその死人に叩き込んだ。


 天啓はナイフを後ろの死人に投擲し、怯んだ所に影が『輝くモノ』を貫く。


 そして再び互いに武器を向ける。


 「・・・・・・」


 再び沈黙。すると、


 「撃ちますよ」


 少女が言った。


 天啓はその言葉を聞いても怯む様子はない。


 ゆっくりと引き金が引かれた。


 カチ。


 情けない弾切れの音がする。


 「・・・・・・。まったく気づかなかったよ。リオ」


 刀を下げながら言う。


 「あたしもですよ。天啓君」


 少女は銃を後ろ腰のホルスター納めると、にっこり微笑みながら言った。





 「四年ぶりですね」


 天啓とリオは、ベンチに腰を下ろし会話をしていた。


 「違う。五年ぶりだ」


 「あれ? そうでしたっけ」


 小首をかしげて思い出すように言う。


 「ああ。確か、小五以降からだろ?」


 「あぁーあ。そうでしたね」


 「・・・・・相変わらずだな。お前は」


 ため息をつきながら呆れた。


 彼女、新月リオとは小学からの友達である。と言うよりも、最初の友達がリオであった。明るく、社交的な性格をしているリオは、クラスだけでなく学校中に友達がおり、自分もその中の一人だった。


 しかし五年前の事件が起きて以来、自分は支雲の家に引き取られたため、今日の今まで、彼女と会う事はなかった。


 「そんな事があったんですかぁ」


 小六から天啓の姿を見なくなった事に、疑問を感じていたリオはようやく納得した。


 「小五の終業式前の日だったな。事件後は、叔父さんの所で一年ほど療養生活を送ったよ」


 天啓はこれまでの経歴を全て話した。


 「大変ですね」


 「・・・・ああ、すごくな。でも、今はここに戻って来て本当に良かったと思ってるよ。お前とも会えたし」


 「あたしもですよ」


 再びにっこり笑みを見せる。


 「そう言えば、お前はどういう経歴でこんな事をしてるんだ?」


 「・・・・それは・・・・・・」


 リオは少しだけ表情を変えた。


 「・・・・。まあいいさ。お前が話したくないなら聞かないし、話してくれるまで待つよ」


 「・・・・・―――――ええい! 天啓君! あたしは覚悟を決めましたよ!」


 「・・・・・なにが?」


 リオは突然立ち上がると、座っている天啓をビシッと指さす。


 「ちゃんとそこに座って聞いてくださいよ!」


 「・・・・・はいはい。分かったよ」


 天啓は五年前から全く変わらない彼女を見て、微笑を浮かべた。





 「ハンター?」


 天啓は聞くように言葉を返した。


 「そうです。世界には、異端者と呼ばれる者達が存在します。主に、『死人』『人外』『死刄』。この三つに分かれていて、ですね――――――」


 「・・・なあリオ」


 「はい?」


 「俺も正直に喋った方がいいか?」


 「はい?」


 天啓は一週間前に起こっていた昏睡事件の事、犯人と思える死人との戦い、その中で起こった全ての事を彼女に話した。


 「すごいじゃないですか!」


 リオの突然の大声に一瞬驚いた。


 「な、何がすごいって?」


 「彊は、死人の中でも上呪に君臨する『血痕』ですよ。『ハンター』は何度も『血痕』に戦いを挑んでは敗北をしていましたから」


 「そうなのか?」


 「そうですよ。今回、『血痕』がここに居るという事であたしもここに来たんですけど、なかなかやりますね。天啓君」


 その言葉にため息をつきながら夜空を見上げた。


 「化け物を倒して褒められても、あんまり嬉しくない」


 「そうなんですか?」


 「普通そうだろ?」


 「・・・・それでは話の続きですけど―――――どこまで話しましたっけ?」


 「まだ最初あたりだったぞ」


 「―――――あ、そうでした。それで異端者は三つに分かれているんですけど、その中で最も勢力が強いのが、『死人』です。彼らは、主に『霊王』を頂点に組織が構成されています。そして『霊王』と共に戦う二十三の骸が、『上呪二十三死』と、呼ばれています」


 「二十三死?」


 「『二十三の死をもたらす者たち』と言う、意味だそうです」


 「・・・・・・」


 「そして、『霊王』の守護する者として、手足に数えられている『死人』が一人、この街に潜伏しているんです」


 「!? ちょっと待て、昏睡事件の犯人は彊じゃなかったのか?」


 「? 違いますよ。だって『血痕』は、自らの霊魂を増幅、維持するためには、他者の血を自らの血液に変換していた事から、それらを外部から摂取する為にその者を傷つけないといけません。ですけど、事件の被害者は、皆昏睡死をしています。外傷は無いはずです」


 「・・・・・・」


 確かに彊は、外傷を好んでいた。『兵士』は勿論、流した血液自体を己の武器としても扱っていた。


 「・・・・それじゃ、この事件の犯人は」


 「そうですね。それを倒すために、あたしはここに来たんです」


 リオは立って話すのに疲れたのか、再びベンチに座った。


 「・・・まぁ、『死人』の話はいいとして、結局お前はどういう経歴で刀と銃を振り回してるんだ?」


 若干遠ざかった事を尋ねる。


 「最初に言いましたけど、あたしは『ハンター』ですから」


 「それは聞いたよ。その『ハンター』ってのは、何なんだ?」


 「文字道りですよ。世界に悪人がいれば、それを捕まえる警察がいる。『ハンター』は悪人、つまり『異端者』達を取り締まる警察なんです」


 「なら、『ハンター』って言う呼ばれ方はおかしくないか? それじゃ『狩人』だぞ?」


 「別に警察のように捕まえて取り締まる訳ではありません。『異端者』達は全て排除するべきであると、あたし達は言われています。本来は『聖職者』と呼ばれる役職なんですが、対峙すれば、ほぼ確実に排除することから『異端者』達からは、『ハンター』つまり狩人と呼ばれています」


 「―――――だけど、彊みたいな奴が出てきたら、普通の人間(ハンター)じゃ勝てないだろ?」


 「天啓君は自分が普通じゃないって認めるんですかぁ?」


 その言葉に天啓は自分の手を見た。


 「・・・・・普通じゃないだろ。俺は・・・・」


 どんな瀕死の状態でも蘇生したこの身体。自らの意思で矛となる影。そして、視界に映る『輝くモノ』。一体、俺は何者なんだ?


 「あたしも普通じゃありませんから」


 リオは天啓の頬に手を触れる。すると、切れている部分がゆっくりと治癒していった。


 「! ・・・・・」


 天啓は先ほどまで切れていた部分を触る。傷は完全に無くなっていた。


 「治癒能力ですよ。あたしの場合は、生きて動いているモノなら、どんなモノでも傷を治せます。もちろんあたし自身もです」


 「・・・・・・・。昔から持っていたのか?」


 「小学の頃は気味悪がられると思って一度も使いませんでした」


 「人を治す力か・・・・・・。だが、俺は・・・・・・・」


 自分の力は何となくだが、彼女のような人間的な暖か味はない。むしろ、全てを壊す破壊者としての理性に近い。最初に感じた異常なまでの破壊衝動。あの時以来そう言ったことは一度も無いが、いつまた暴発するか分からない。


 「俺は・・・・自分が怖い・・・・・」


 天啓は両指を組むと、うなだれた。異常なまでの破壊的な負の理性。このせいで、大切なモノを失ってしまいそうなそんな気がしたからだ。


 「同じですね。あたしと」


 そんな天啓を見てリオは声をかけた。


 「あたしがこの力に気づいたのは、大切な人が目の前で死にかけてて、どうしても、助けたい、って願ったら始めて発動したんです」


 「・・・・・・」


 「力に気づいてからは、あたしは普通の人とは違うんだ。化け物なんだ。って思うようになりました」


 「・・・・・・」


 「でもあたしの大切な人が、笑顔で、助けてくれてありがとう。と、言ってくれた時に分かったんです」


 「・・・・・・」


 「どんな力を持っていても、あたしはあたし。他の誰でもないあたしに出来る精一杯の事をしようって」


 自分に出来る、精一杯の事・・・・・・


 「天啓君には、そう言う事はありませんか?」


 その言葉を聞いて、天啓の記憶から声をかけてきたのは母の言葉だった。


 いつも、笑顔でいなさい。


 母さんからの最後の言葉。


 俺に出来る精一杯の事。


 天啓は顔を上げた。


 「――――そうだな。くよくよしても始まらない」


 夜空を見上げながらその言葉を聞いたリオは、


 「いつもの天啓君に戻りましたね」


 笑顔で言った。


 「あぁ。ところで、お前の目的はこの街にいる『死人』を倒すことなんだろ?」


 「そうですよ」


 「それじゃあ、そいつも人間じゃないって事か」


 「・・・そうなりますけど、『死人』と人間を見分けるのはとても難しいんです」


 「それなら俺は分かる」


 「? どうやってですか?」


 「なんかなぁ。人の中心にあるなんかこう―――――」


 天啓はそれを両手で形作る。


 「・・・・・魂ですか?」


 「・・・たぶん・・・そうだと思う。集中すれば、それが見えるんだ」


 「それなら、『死人』の魂は生きている人間とは遠くかけ離れた異形の存在ですから、見分けるのは難しくありませんね」


 「だろ? 昏睡事件がまだ終わっていないなら、被害者が増える前に少しでも早く終わらせたい。協力させてくれないか?」


 リオは腕を組み少し考える。


 「――――やっぱり駄目か?」


 「あたしはオールOKなんですけど、あたしの仲間がなんて言うか・・・・・・」


 気まずそうな表情をするリオ。それだけ固い相手のようだ。


 「だったらこうしよう。俺は勝手にお前の近くでその『死人』を探す。これなら俺が勝手にやっている事だから迷惑にならないんじゃないか?」


 「――――――名案ですね。それで行きましょう」


 「それじゃあ、これからよろしくな」


 と、握手の意味を込めて手を出す。


 それを見たリオは、


 「ダメですよ。天啓君。今の時代は―――――」


 どこからか携帯電話を取り出した。


 「――――メルアド交換ですよ! これならどこにいても連絡が取り合えます!」


 「・・・・態々交換する必要があるのか?」


 「大ありですよ! いつどこで何が起こるか分からないんですから、連絡手段は取っといておいた方がいいです。いいに決まってます!」


 天啓は少し考えたが、それなら仕方ないか。と、納得し携帯を出す。


 「――――――これで完了です。これからよろしくお願いします。天啓君」


 リオは太陽のような笑顔を再度、天啓に向けた。

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