表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

3匹のむっつりスケベ

 世界中にたくさんいるであろうむっつりスケベ共の夢の能力の一つ、「時間停止能力」を得た三人の益荒男たちの雄姿をご覧ください。

 あるところに三匹のむっつりスケベがいました。


 三匹のむっつりスケベたちがある日、性的欲求不満に目覚めると、それぞれ良く似た異なる特殊能力を厳しい修業でゲットし、家を出ました。


 1番下のむっつりスケベは「時間を停止させる」能力を得ました。


 2番目のむっつりスケベは「周りが止まって見えるくらい己自身がとんでもなく加速する」能力を得ました。


 一番上のむっつりスケベは「自分を除く人間の時間を停止させる」能力を得ました。何に使うかはお察しです。


 そして家を出て、若くて綺麗な女性がいる都会へと旅立って行きました。そして思うがままに己の能力を使おうとしました。スケベな男どもの情熱は実にとんでもないですね。


 しかし、話は思ったようには済まないのが現実のようです。物語はこうして始まりました。




…………



「よし、ここには若くて綺麗な女の子がたくさんいるぞ。よし、時間を停止させる能力を使ってあの子たちを……うふ、うふふふ」


 気持ち悪い笑みを浮かべた一番下のむっつりスケベが下品な笑いを浮かべました。そして周囲の奇異の視線にかかわらず、いきなり両手を上げて叫びました。


「よし、やるぞ。呪文詠唱! ~~~(中略)~~~ 時よ止まれ!」


 一番下のむっつりスケベは長々とした呪文を詠唱して時を停止させる能力を使いました。詠唱自体はあまりに冗長だったので全面カットです。彼の中の中学二年生が大爆発した駄文など、如何に短編といえど小説に載せる気にすらなりませんでした。


 彼の呪文は三文芝居にも劣る卑俗極まるものでしたが、能力自体は本物です。時は止まりました。そして彼は死にました。


 時間はもちろん止まったのです。その証拠に道を歩く人が、綺麗なお嬢さんが、空を飛ぶハトが、無邪気な笑顔の幼女が、喫煙所のたばこの煙が、泣きぼくろが素敵なお姉さんが、そして世界全ての時が止まりました。

 しかしそれと同時に、一番下のむっつりスケベの時も止まってしまいました。彼のピンク色の脳みそを巡るニューロンの動きが、彼の全身及び股間に熱い血潮を送る心臓の鼓動が、卑猥な妄想で荒くなった鼻息で呼吸する肺の動きが、全て止まってしまいました。

 そして時を止める能力を使った彼の全てが止まり、自身の生命を保持できなくなり、即死してしまいました。特に脳による思考の停止が致命的だったようです。


「きゃっ、な、なに!?」

「ままー? このおにいさん大声だしてきゅうにたおれたよ? どうしたの?」

「シッ、見ちゃいけません。早く行きましょう……」


 さらには彼が死亡したことで能力が解除されました。お嬢さんが、ハトが、幼女が、煙が、お姉さんが、そして世界の全てが動きだしました。彼らは時が止まっていたからこそ、時間が止まっていた事を認識できませんでした。


 つまり彼らからすると、いきなり両手を上に突き出して妙な戯言をのたまったあと、急にパッタリ倒れた奇人に見えていました。最近ちょっと暖かいから、こういう人も出るんだなと皆生温かい眼で見ています。

 彼が死んでいることに気付いて騒ぎになるのはもうちょっと後の話です。


 そうして一番下のむっつりスケベは、誰に知られることもなくひっそりとその虚しい人生に幕を引いてしまいました。




…………




「ふむ、ここには美しいお姉さま方がたくさんいらっしゃいますね。では、僕が加速して彼女たちを……フフフ」


 お次は2番目のむっつりスケベさんです。彼は少しだけ賢かったので時間自体を止めるのではなく、己をとんでもなく加速して目にも止まらぬ速さで色々お触りしようと目論んでいました。その頭の回転をもっと別の事に活かせば良いのに。


「では行きますよ。~~~(中略)~~~ 加速! 時よ止まってみせろ!」


 2番目のむっつりスケベさんも長ったらしい無益な詠唱をしてから加速する能力を使いました。なんですかね、そういう年頃なんでしょうか。当然全面カットしたおかげで、原稿用紙3枚半分の文章が省かれました。


 そして2番目のむっつりスケベは加速しました。周りの景色がだんだんと遅くなっていき、気付くと周りの全てがほぼ動かなくなりました。つまり彼の反射神経やその他諸々が徐々に加速され、それに応じて周囲の動体の動きが遅く感じられるようになったのです。


 ……よし、成功だ。この速度なら誰にも見られまい……おや? なんかおかしいぞ?


 2番目のむっつりスケベさんは違和感を覚えたため、自分の体を確認しようとしてやっと気付きました。体が動きません。「時間を直接止めたわけではないのになんで動かないのか?」と疑問に思うと同時に、彼のスケベだけど明晰な脳みそが素早く答えを導きだしました。


 ……そうか、体自体は動かせても、体の周囲にある空気が動かないのか! い、いや、力を込めればほんの少しだけ動く! これならなんとか。


 気体とはいえ超加速された彼の体には粘度の高い水のように全身に纏わりついて来ました。息をするにも全身の力を込めて横隔膜を動かさないと呼吸ができません。

 2番目のむっつりスケベは物凄く苦労してなんとか1歩前に歩き出しました。そしてその瞬間、彼の足と脳みそと心臓にとんでもない衝撃が発生しました。


 ……ぐあぁっ、い、痛えっ!? い、いったい何が……そうか、物凄い速さで動いたからその衝撃が発生したのか! それにしてもここまで強力な衝撃が起こるなんて思ってもみなかった!!


 たとえほんの僅かな一歩とはいえ、時間が止まって見えるほどの超加速空間で動けばそりゃ物凄いエネルギーを生んでしまいます。その衝撃が足や心臓に激痛を生むのは当然の話です。

 痛みで思わず叫ぼうとしたけれど、空気を吐きだすこともまた大変だったので声は声になりませんでした。

 また彼は気付いていませんでしたが、頭に生じた痛みは一歩の衝撃ではなく、脳の中の血液が今の衝撃で偏ったため偏頭痛にも似た症状が起こったためでした。

 ロケットが宇宙へ飛び立つときに起こる猛烈なGより強い衝撃を訓練してない人間が受けたらどういうことになるか、という話です。後々に障害にならないことを祈ります。


 踏ん張った右足も、バランスを取ろうと振りまわした腕も、もちろん一歩を踏み出した左足や胴体、そして頭まで漏れなく激痛に苛まれる中、2番目のむっつりスケベは慌てふためきました。


 ……このままじゃまずい! の、能力解除せねば!


 結論から言えば手遅れなのですが、2番目のむっつりスケベにはわかりません。急いで能力を解除します。

 すぐに周囲の光景が動き出すかと思いきや、なかなか周りが動きだしません。彼は慌てます。


 ……そうか、能力発動するときですらわずかなタイムラグがあったんだ。加速状態で能力解除したら、そりゃ時間がかかるよな。くそっ、早く能力解除されやがれ!


 全身隈なく感じる痛みを必死に我慢して2番目のむっつりスケベは元のスピードに戻るのを待ちます。本当に長い長い一瞬でした。


 体感的に1時間ほど激痛に耐えた彼は、やっと世界が動きだしたのを認識します。

 先程まで目の前で停止していた埃の粒が、ほんの少しだけ場所が変わっていました。目当てにしていた女性のスカートの形が少し変わって見えました。車のウィンカーが光っている状態から消えた瞬間は感動すら覚えました。


 そして時間が流れ出すと同時に、自分の異常を認識し始めました。恐らく、恐怖という意味ではこれからが始まりなのです。


 まず一歩を踏み出した左足が破裂しました。

 コンクリートを僅かに凹ませた左足の靴が爆散し、その下の足から噴霧のような血が噴き出します。そしてその出血は徐々に爪先から足首、脛、膝、太腿にまで上がってきました。

 そしてその形が、今までの自分の足の形から逸脱していきます。ほんの少し膨らんだあと、まるでスイカ割りのスイカの破片のように粉々になって破裂していくのです。この変化も爪先から足首、脛、膝、太腿と変化していきました。痛いとかそんなレベルを超えています。

 しかも、その下手なスプラッター映画よりグロい映像が、なんとスローモーションで見せられるのです。自分の足が粉微塵になって行く様子をじっくり見させられるなんて、2番目のむっつりスケベを同情せざるを得ません。

 こんなの見せられるくらいなら、むさ苦しい男どもの中で汗苦しく死んだ方が遥かにマシです。


 そしてそれで終わりではありませんでした。

 加速された世界で超スピードで動いた結果、彼の体のバランスが大きく崩れました。慣性が働いたのです。

 そのため彼の体は前方に大きくつんのめり、空を飛ぶかの勢いで空中に全身を投げ出し、近くにあった壁に激突しました。まるで背負い投げを投げっぱなしでやられた人のように綺麗に飛んでいきます。

 ぶつかった塀の方もひとたまりもありません。崩れこそしなかったものの大きく凹んでクモの巣城のヒビが入ってしまいました。立派な塀だったのに実にもったいない。


 2番目のむっつりスケベがどうなったかはあまり描写しないでおきます。見るに堪えない惨状だった、とだけ言っておきます。

 しかし幸運にも命だけは助かりました。いや、全身骨折の半身不随、しかも左足切除して心臓と脳に重大な障害を残した状態では、命が助かったのはむしろ不幸だったのかもしれません。くわばらくわばら。


 ちなみに2番目のむっつりスケベは、今はボケた振りをしてナースさんのお尻を狙っています。本能に忠実というか反省しないというか。バカは死んでも治らないようです。




…………




「うむ、我、女体の神秘を見つけたり。なればこそここで我の能力を使うべし……むふぅ」


 一番上のむっつりスケベは一番上に相応しく、最も業が深い者でした。

 そして彼はその深き欲望に従いつつ、己を自制し、最も努力して修行を為し、そして最も難しい能力開発をすることができた。それが「自分以外の人間だけを止める能力」です。

 ここまで複雑な条件を設定するための努力が如何ほどのものか、誰にも想像できないでしょう。思わず悟りを開いてしまいそうなほどの荒業でした。

 この能力を得たのは、まさに言葉の如く想像を絶する厳しい修業と自己鍛錬の極みを為し得たがゆえ、です。これは彼がただどこまでも純粋に、幼くあどけない笑顔の少女をプニプニしたいがためだけに。


 彼は動物の絵柄や公園でよく見かける遊具なんかが揃っている某公的施設の元へと向かいます。そして一つ息を整えて心を鎮めると、己が得た至高の能力を使いました。


「我が意に答えよ、時よ止まれ!」


 彼もまた心は中学生でした。血は争えないということでしょうか。しかしあまりに短い詠唱だったためカットもできず不本意にも詠唱を載せる羽目になってしまいました。まあ長ったらしくない分まだ許せますよね。


 そして彼の望み通りに、彼の周辺全ての人間の時間が止まりました。ピタッと一瞬だけ動きを止め、そして空へと斜めに飛びあがる人々。唖然とするむっつりスケベ。いきなり何が起こったか彼にはわかりません。


「なっ、え、なぜだ!?」


 先程まで楽しく遊んでいた園児たち、笑顔で彼らと遊ぶ保育士の方々、さりげなく佇む1番上のむっつりスケベをこっそり警戒していた園長先生、お互いの子を褒めあうご婦人方。みんながみんな一瞬だけピタッと止まると、そのまま斜め上に吹き飛んでいきました。それはとてもシュールな光景でした。


 慌てて一番上のむっつりスケベが施設に近づきます。本来なら彼は近づいてきた時点で職務質問を受けかねませんが、今は能力発動中で誰にも咎められません。それに能力の効果範囲にいた人は全員空へ飛び立って行ってしまったからです。


 そして一番上のむっつりスケベは愕然としました。誰もいません。室内にも人がいませんでした。そこにあるのは瓦礫の破片と穴のあいた天井だけのみ。天井すら突き破って人々は飛び立って行ってしまったらしいのです。一体何が起きたのか、むっつりスケベは理解不能とばかりあんぐりと口を開けて呆けていました。


 一回住処へと逃げ帰り、何が起こったのかこんこんと悩んでいたところ、あるニュースが目に留まりました。それは「宇宙へ人間が飛び立つ!? 観測衛星からの信じられない映像」というタイトルでした。


『信じられません! ごくごく普通の人間と思われる人々が、宇宙に漂っています! そしてニュースによると、その人々は公転軌道には乗っておらず、宇宙空間のある一点にて静止しているらしいです! 科学者たちは頭を抱えています!』


 答えはすべてテレビが報道してくれた通りでした。つまり、彼が人々の時間だけを止めてしまった結果、その時間を止められた人達は地球の自転と公転に置いてけぼりにされて、結果空高く飛んで行ってしまったように見えた、とのことでした。

 一番上のむっつりスケベは納得すると同時に顔を青ざめさせました。彼が不埒な事を考えた結果、まさか人間を宇宙に放りだすなんてとんでもないことになってしまうとは夢にも思っていなかったのです。

 不幸中の幸いと言いますか、同じ時間を止めたのでも空ではなく地面に向かって行ったら地球自体にも悪影響があったであろうこと、そして彼自身が怯えていたため能力を解除していなかったことにより、人々が空高く舞い上がって行っただけで済みました。それだってとんでもない惨事には違いありませんが、今のところ被害は幼稚園の屋根が全壊しただけでした。


 一番上のむっつりスケベは悩みました。どうしよう、と。

 何食わぬ顔で能力を解除してしまえば、証拠となり得る人は死んで宇宙の藻屑となるでしょう。それにまさか超能力で時間を止めたなどというバカげた話を信じる人はいないでしょうし、当時近くにいたということで不振の目で見られるでしょうけれど、犯罪としては立件されないでしょう。

 つまりこのまま何もしなければ、彼はいつもの平穏無事な生活に戻れるのです。とてつもない誘惑でした。彼は一度その誘惑に屈しそうになりました。


 しかしその時テレビの映像で、時間が止められて笑顔のまま固まっている園児たちの姿が映りました。一番上のむっつりスケベはそれを見てハッとします。

 彼が逃げると言う事は、それはこの幼き罪なき子たちを殺すということです。それに彼と同じように子供が好きで保育士になったであろう無辜の人たちも犠牲になるわけです。それは、彼にとって、とても罪深い事に思えました。


 一番上のむっつりスケベは決意を固めるのはとても速かったです。伊達に厳しい修業をこなして悟りを開いていません。

 彼らを救う事を強い意志で即決しました。そして彼は立ち上がると、「自分を除く人間の時間を停止させる」能力を会得した山へと足を向けました。


 期限は、地球が太陽を一周する1年間でした。




 その後、1年のさらなる厳しい修業により、新たに「空を飛ぶ能力」や「宇宙でも動ける能力」、「対象を安全地帯にテレポートさせる能力」なんかを取得した一番上のむっつりスケベは、1年もの間宇宙で時を止められていた人達を無事救出する事が出来ました。

 その際「現代に現れたスーパーマン」と世界中の人達が褒めそやしましたが、彼は謙虚にもそれを固辞し、田舎の隅っこで密やかに暮らしていました。


 そして今、彼は田舎の学校の校長先生をやっています。そこは人数が少なく、幼稚園生から中学生までの子を一手に集める小さな小さな学校です。

 とても優しい学校長の私室には、赤い顔をした保母さんと、たくさんの笑顔の幼子たちに囲まれて満面の笑顔を浮かべる彼の写真が飾ってありました。彼の夢は、一応叶ったようです。良かったですね。

 あ、作者はむっつりスケベじゃないです。オープンスケベです。おっ○いに貴賎はないと思います。



※9/16にコメディの日間ランキング71位になれました。ありがとうございます。

 世のむっつりスケベたち! 能力を開発するなら時間停止は覚えちゃダメだぞ! 透明化も危なそうだから、やるなら催眠でいこう!!(ぇ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ