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ロスト・メモリーズ  作者: 由里名雪
鈴白凜
7/33

鈴白凛ー7ー

「悪いな凛。また学校でな」

「凛ちゃん、またね」

「はい、また学校で!」

 私に別れを告げた篠ヶ谷さんは、手に持っていたペンダントをポケットに入れ立ち上がった。

 部屋を出る時、篠ヶ谷さんは私に向かって手を振ってくれた。たったそれだけの事が何だか嬉しくて、私も手を振り返した。

 橘さんも私に会釈をして篠ヶ谷さんの後に続いた。

 ぱたん、と扉の閉まる音。やがて再び静寂が部屋を支配する。

 けれど慣れたものだ。以前はこの不気味な程の静けさが嫌いだった。だったのだけど、いつの間にか気にならなくなっていた。

 これも、彼のおかげなのだろうか。

「…………しゅん、くん」

 呼び慣れないけれど、懐かしい響きのする呼び名で彼の名前を呟いた。

 この場に彼が居たら何と言っただろうか。急にどうした、なんて言われて心配されるだろうか。

 その前に、私が恥ずかしくて彼の前では呼べないだろうけど。しゅんくん、だなんて────。

「……うぅ」

 一人で何を考えているんだろう、私。勝手に赤くなって、何だかおかしい。

 気を紛らわせるため、少し前に起こったことを思い出す。

 篠ヶ谷さんが見つけたロケットペンダントの中に入っていた写真を見た瞬間、突然激しい頭痛に襲われて私は気を失った。

 そして、夢を見た。

 何だか、とても懐かしい夢だった。見ていて、空っぽだった自分の中の何かが満たされていくような気がした。

 夢の内容はぼんやりと覚えている。あれはきっと、私が小さい頃の記憶だ。隣にいた男の子は何という名前だったのだろう。せめて顔だけでも思い出せることが出来たらよかったけれど、夢の中でもあの子の顔はよく見えなかった。

 ……もっと違うことを思い出せたらよかったのになぁ。私があの日目が覚めるまでの経緯とか。そうしたら篠ヶ谷さんに迷惑を掛けることもないのに。

 でもわからないことはしょうがない。手探りでも探していくしかないのだ。私の記憶を取り戻すために。

 夢を見てから、私は少し戸惑っていた。

 それは私が寝ぼけて篠ヶ谷さんに抱きついたからではなく──いけない、また顔が赤くなってきた──さっき目が覚めてから私は篠ヶ谷さんの事をずっと前から知っていたような気がしてきたからだ。

 篠ヶ谷さんと出逢ったのはほんの数日前の事なのに、随分昔から知っているような、懐かしい気持ちになるのだった。

 とはいえこの数日間でいろいろなことがあったから、前から見知っていたような錯覚をしているのかもしれないけれど。

 でもこのどこか懐かしい、それでいて胸が詰まるような、悲しい……ような不思議な気持ちの説明は付かなかった。

 ……そういえば、どうして私はさっきしゅんくん、なんて名前を呼んだのだろう。あまりに自然に自分の口から出てきたので疑問にも思わなかった。

 しゅんくんだなんて、呼び慣れているはずがない。今の私は篠ヶ谷さんと呼ぶ方がしっくりくる。

 それに私は後輩なんだから、しゅんくんなんて呼び方は篠ヶ谷さんに失礼ではないか。おまけに恥ずかしいし。

 なのに、しゅんくんという呼び方が習慣だったかのようにするりとその呼び名は私の中に収まった。

「しゅん……くん……」

 ああ、なんて懐かしい響きなんだろう。呼ぶ度に、篠ヶ谷さんという呼び方よりもしっくりする気が────。

「────!」

 まただ。また自然に口にしていた。

 一体どうしてなんだろう。篠ヶ谷さんとはほんの数日前に会ったばかりなのに。

 なんの見返りも求めずにただ私を助けてくれる。そんな人に会ったのは初めてなのに。

 どうして。

「…………あ……れ……?」

 頬を伝う湿った感触に驚いて、手の甲で拭った。

 気付かない間に私は涙を流していたようだった。

 どうして私は泣いているんだろう。今は悲しくなんてないのに。辛くもないのに。

 自分の事なのにわけが分からなかった。

 涙が止まる気配はない。私はしばらくの間茫然とただ涙を流し続ける他なかった。

 その間私の頭の中でしゅんくんという呼び名がぐるぐると回り続けていた。

 すとんと胸の内にはまり込んだその名前が、私の記憶が無いことによる喪失感を埋めていくような気がした。

 しゅんくんと呼びたい。篠ヶ谷さんの事を、一度でいいからしゅんくんと呼んでみたい。

 気が付けば私はそんな欲求に駆られていた。

 全くわけが分からない。私、疲れておかしくなっているのかもしれないな。

 でも、今度機会があれば呼んでみようか。彼はどんな反応を見せるだろう。

 不思議なことに、もう私はしゅんくんという呼び方を恥ずかしいと思わなくなっていた。

 本当に私はどうしてしまったのだろうか。

「ふわぁ…………っふぅ」

 急に欠伸が出てしまった。涙は既に止まっていた。

 やっぱり疲れているのかもしれないな。少しだけ、仮眠を取ろう。

 そう思い私はベットで横になった。

 睡魔はすぐにやってきた。心地よい疲労感に身を任せ、私の意識は遠のいていった。









 約二ヶ月前。五月の終わり頃だった。唐突に私は目が覚めた。

 長い間眠っていたような倦怠感に包まれながら瞼を開くと、最初に目に入ったのは白い天井だった。

 部屋の中は明るい。今は昼くらいだろうかとまだぼんやりする意識の中で思った。

 体を起こし、辺りを見回す。

 部屋の中央には机が置いてある。部屋の壁に沿ってタンスやクローゼットなどの家具が配置されていた。

「ここは…………どこ?」

 全く、見覚えがなかった。気が付けば、目が覚める前の事を何一つ思い出せなかった。

 思い出せるのはただ一つ。鈴白凛という自分の名前だけだった。

 途端に混乱した。どうして見覚えのない部屋に自分はいるのか。どうして目が覚める前の事を覚えていないのか。今日は何月何日なのか。幾つもの疑問が自分の中で降って湧いた。

 半ば錯乱しながら私は部屋を出た。

 階段を降りて一階へと向かう。親がいるはずだ。そんな当たり前のことを考えてリビングの扉を開いた。

 そんな私の視界に入ったのは、広い部屋の中心に置かれた正方形のテーブルとそれを挟んで置かれた二つのソファのみだった。

 茫然と立ち尽くしてやっと私は親の事さえも思い出せないことに気がついた。

 愕然とした。足が震えて立つ事もままならなくなり、その場にへたり込む。

「なんで……?どうして…………っ?なんで私は何も覚えていないの……?」

 体の震えが止まらない。自分は一体何者なのか、それさえも分からない。

 パニックになりかけたが、じっとしていると気が狂ってしまいそうだった。

 体の震えを無理やり押さえ込み、何とか立ち上がる。

 そして無我夢中で家の中を物色した。

 結果分かったのは、この家にはまるで生活感はなく誰かが暮らしている痕跡すらないということだった。

 半分絶望しながら自分の部屋を物色している時、クローゼットの中に制服があるのを見つけた。どうやら私は学生らしい。

 勉強机に置いてあったのは高校の教科書だった。

 それらを見ていると、何故か何となく学校へ行かなければならないという気がしてきた。

 そう思った途端、学校への行き方、自分の学年、学校の名前、それらが突然「わかった」のだった。

 なぜ「わかった」のかは今でも分からない。

 不可思議な現象に説明がつかず不安になったけれど、思い出したということにして自分を納得させた。

 目的を見つけたことで安心した私は、より注意深く部屋を見渡す余裕ができた。

 改めて部屋を探索していると、勉強机の隅に置いてあったデジタル時計に目がいった。

 時計には、五月二十九日という日付と十二時四十二分という時刻が表示されていた。

 壁にかけてあったカレンダーを見る。平日ということは今日は学校がある日だろう。

 けれど、目が覚めたばかりの私は学校に行く気になれず、行くのはやめたのだった。

 とりあえず今できることはやり尽くした。目が覚める前の事を考えまいと行動していたけれど、手持ち無沙汰になってしまった。

 これからどうしようかとしばらくぼーっとしていたら、自分のお腹がくぅと小さな音を立てた。

 その音を聞いてようやく自分が空腹だったことに気がつく。

 私は思い立って一階へと戻り、キッチンにある冷蔵庫を開けた。

 中には様々な食材があった。数日なら飢える心配をする必要はなさそうだった。

「…………っ、なんで……」

 安心するより先に、不審感を感じた。見た所食材は新鮮で、長い間放置されていた様子はない。

 一体誰が用意したのか。それが一番の疑問だった。冷蔵庫から漏れ出す冷気の所為か、背筋が寒くなる。

 しかし背に腹は変えられない。それを考えるのは後でもできる。

 そうして私は料理を始めた。料理の仕方は体が覚えていた。自分で料理をするのが習慣だったかのように。

 やっぱり自分がいとも簡単に料理ができていることに疑問を感じたけれど、気にしないように努めた。

 だって、気にしたらきっとまた不安で仕方がなくなる。立つ事さえままならなくなってしまう。

 だから今はただ何も考えず、自分を翻弄する状況を受け入れるしかない。ただ生きることだけを考えていればいい。

 そうして落ち着いたら改めて考えればいいんだ。今あれこれ考える必要はない。

 自分の中でそう結論を出した。その後しばらく、機械のように寝て起きて学校に行って帰ってくる、そんな生活が続いた。

 けれど、日を追うごとに冷蔵庫の中は空になっていった。

 もう食料を買いに行かなければならない。けれどそんなお金、どこにあるのだろう。

 切羽詰まった私は再び自室をくまなく物色した。

 そしてやっと、勉強机の引き出しの奥に眠っていた財布を見つけたのだった。

 期待を込めて中を開く。中身は空っぽだった。

 私は落胆した。絶望した。お金がなければもう生きていく事さえできない。何一つ理解できない状況の中で、一人孤独に飢え死ぬ事しか出来ないのだろうか。

 でも、それもいいかもしれない。今自分が何のために生きているのかも分からない。不安で、怖くて、寂しくて仕方がない。

 こんな思いをするくらいなら、いっそ死んでしまった方が楽かもしれない。

 私が生きることを諦めかけた時、空っぽだと思っていた財布から、ぱさり、と何かが床に落ちた。

 何気なく床に落ちたそれを拾う。それは銀行の預金通帳だった。

 もしかしたら────淡い期待を込めて中を開く。

 中には、目が眩むような金額が記載されていた。

 気が付けば私は家を飛び出していた。私の足は、銀行へと向かっていた。

 息を切らしながら住宅街を突っ切る。銀行までの道のりは「分かった」。

 お金のおろし方も分かっていた。難なく必要な分だけお金をおろして、私は九死に一生を得た。

 何故「分かった」のかが分からなかったけれど、同じような体験をもう何度もしていた所為でさほど疑問には思わなくなっていた。

 自分の中に無理やり答えをねじ込まれるような────そんなおかしな感覚に、私は慣れてしまっていたのだ。

 説明のつかない事は考えても仕方がない、そう割り切って私は買い出しに向かった。

 こうして安定した生活が送れるようになってからやっと、自分の記憶について考える余裕が出てきた。

 私は自分の名前以外に覚えていることは何もない。

 目が覚めてから初めて学校へ行った時、クラスの女子が話しかけてきた。昨日はどうして休んだの、と。

 名前も顔も知らないその子に向かって私は、体調が悪かった、と答えた。

 私は内心怯えていた。だってその子は私と以前から友達であるかのように親しげに接してきたからだ。

 いや、友達だったのかもしれない。けれど記憶の無い私にとってはクラスメイトの存在は恐怖の対象でしかなかった。

 私はクラスメイトの顔はおろか名前さえ知らないのに、クラスメイトは私の事を知っている。

 そんな気持ちの悪い矛盾に私は耐えられなかった。

 けれど、親しげに接してくるクラスメイトに対して私は波風の立たないように無難に接することしかできなかった。

 それから、せめて普通の人と変わらないように接することができるように努力した。

 クラス名簿を見て、席と名前と顔が一致するように覚えた。

 一度、一番親しくなった子に私とどうやって知り合ったのか、勇気を出して聞いてみたことがある。

 結果は、忘れてしまった、という簡単な返事が返ってきただけだった。

 それ自体はそんなに気にならなかった。問題はその後だった。

 私はその子に自分の事情について話してみようと思い、目が覚めてからの事を包み隠さず話した。

 私の話を聞いたその子は、まるで信じる様子も無く笑っていた。

 きっと、私の話を冗談だと思ったのだろう。急にそんな話してどうしたの、と不思議そうな顔をして私を見るだけだった。

 考えてみれば当然だとも言えた。急にそんな話をされて、信じろと言われても信じられるような話ではないだろう。

 ……それでも篠ヶ谷さんや橘さんは信じてくれたけれど。

 そんな事があってから私は他人に自分の事を話すのをやめた。

 話をしても私が得られるのはどうしようもない孤独感だけだった。

 幾ら日々を過ごしても記憶が戻る気配すらない。

 得体の知れない環境で過ごす毎日は、私に耐え難い苦痛や不安をもたらした。

 自分の心がどんどん擦り切れて、空っぽになって乾いていくのが分かった。

 涙を流す余裕さえその時は無かった。一人で家に居る時間は何よりも苦痛だった。

 そうして遂に嫌気がさして、七月の真夜中に私は家を飛び出した。

 その日は月が煌々と明るく輝いていた。その輝きが何だか眩しくて、私は目を逸らした。

 俯きながら夜の住宅街をあてもなく彷徨った。行く場所なんて無い。帰るべき場所も無い。あの得体の知れない家が帰るべき場所だとは思いたくなかった。

 気が付けば見覚えのない場所を歩いていた。

 辺りを見回しても、自分がどうやってここまで歩いて来たのかわからなかった。

「ここ……どこだろう…………」

 どうやら迷ってしまったらしい。いい加減歩くのも疲れてきてしまった。

 どうしようも無く元来た道を戻ろうと方向転換した時、誰かの足音が聞こえた。

 こんな夜中に誰だろう、と足音のした方向を向く。

 そこには、中肉中背の刃物を持った男が居た。

 男は虚ろな目で私を見ている。目があった瞬間、原始的な恐怖が私を襲った。

 だらりと力なく下がった右腕の先に鋭利な刃物が握られていた。暗い夜道で鈍く光るそれは何よりも存在感を示していて、私の足を竦ませる。

 街灯に照らされた男の影がゆらりと揺れる。

 男は私に向かって歩いてきた。

 私が声を出すのも忘れ走り出すのと、男が私を逃すまいと駆け出したのは同時だった。

 けれど重くのしかかる恐怖は私の足を鈍らせた。膝が笑ってうまく走れない。

 すぐに私は男に腕を掴まれてしまった。

「────っ!!」

 掴まれた腕を振りほどこうと必死に抵抗する。

 嫌だ、こんなところで殺されるなんて。そんな死に方は望んでいない。

 皮肉なことに、あんなに生きているのが辛かったのにこの時ばかりは生きたいと願わずにはいられなかった。いや、死にたくなかった、の方が合っているだろうか。

 けれど私とて女だ。大人の男に力で勝てる訳がない。

 ほとんど絶望しながら抵抗を続けていた時────現れたのだ。彼が。

 一瞬のうちに男が突き飛ばされ、地面に転がった。

「大丈夫か!?早く逃げるぞ!」

 ああ、私、助かったんだ。

 そう思った途端、安心するあまり全身の力が抜けるのが分かった。

 崩れ落ちそうになった私の体を、目の前の彼は支えてくれた。

 この人は一体誰だろう。ぼーっとする頭でそんなことを思った。

「あなたは、だれ?」

 ────こうして私は篠ヶ谷さんに出逢ったのだ。

 それから必死に夜の住宅街を走り回り、紆余曲折の末私は篠ヶ谷さんに助けられたのだった。

 篠ヶ谷さんは偶然あった私の話を真剣に聞いてくれた。その上助けてくれると言った。

 あの日目が覚めて以来、初めて笑うことが出来た。彼の前でなら、私は自然体でいられるような気がした。

 彼のお陰で私は、救われた。

 いや、今だって救われている。

 空っぽで乾ききっていたはずの私の心は、彼と接することで潤い満たされていった。

 初めて学校へ行くのが楽しみだと思えるようになった。

 私のために篠ヶ谷さんは真剣になって記憶を取り戻そうと頑張ってくれている。

 常に私の事を気に掛けてくれている。……というのは言い過ぎだろうか。

 でも、それでも彼がいれば、私は────。







 ゆっくりと瞼を開く。部屋の中は真っ暗で、何も見えない。

 少しだけ仮眠を取るつもりがだいぶ寝てしまったようだ。

 すぐに起き上がる気になれず、まだ少し残る眠気に身を委ねる。

 部屋には私以外誰もいない。篠ヶ谷さんも橘さんも、とうの昔に帰っている。部屋は静寂に包まれていた。

 心地よい微睡みの中で、ふと篠ヶ谷さんに抱き付いてしまったことを思い出してしまった。

「…………っ」

 どきり、と心臓が跳ねた。

 早まる鼓動に呼応するように顔が熱くなるのがわかる。

 どうして目が覚めたら抱き付いていたのか自分でもよく分からないけれど、彼の体温や感触は鮮明に覚えている。

 何だかいてもたってもいられず、枕を胸元に寄せ抱き締めた。

 休み明け、学校でいつも通りに篠ヶ谷さんと話せるだろうか。

 篠ヶ谷さんは、私が抱き付いてしまったことをどう思っているだろうか。幻滅してたりしなければいいのだけれど。

 ……やっぱり、学校で会ったらもう一度謝ろう。

 気が付けば眠気はどこかに吹き飛んでいて、すっかり目が冴えてしまっていた。

 きっと、まだとくとくと早い鼓動を刻んでいるこの心臓の所為でもあるだろう。

 いけないいけない、心を無にして落ち着かなきゃ。いつまでも気にするわけにはいかない。

 しばらく頭を空っぽにしてぼーっとしていると、くぅ、とお腹が鳴った。静かな部屋の中でその音ははっきりと聞こえ、私をはっとさせた。

「…………おなかすいた……」

 腹が減っては戦ができぬ、と言うし何か食べよう。別に、何かと戦をする予定はないけれど。

 ……いや、自分の記憶に関しては右も左もわからない私にとっては日々が戦かもしれないな。

 でも、今はそんなに辛くない。もちろん、記憶がない事で不安を感じない事はないけれど。篠ヶ谷さんと出逢う前よりは、全然辛くなかった。

 やっぱり、篠ヶ谷さんに感謝しなくちゃ。

 言葉では物足りない。何か具体的にお礼をしたかった。

 そうはいうものの、一体どうすればいいのだろう。

 空腹も忘れ、再びそんな考え事に耽りそうになった私を急かすように、もう一度お腹が鳴った。

 腹ごしらえをしたら、後でもう一度考えよう。

 そう思った私は寝ていた体を起こし、空腹を満たすべくベッドを降りて部屋を出た。

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