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ロスト・メモリーズ  作者: 由里名雪
鈴白凜
21/33

鈴白凛ー21ー

 凛を家に送り、無事何事もなく俺も家に帰ってくることができた。その事に安堵しつつ玄関の鍵を開けて家の中に入る。

「ただいまー」

 呼びかけてみたものの、返事は無かった。父は言わずもがな仕事だが、どうやら母も外出しているらしい。

 リビングに入ると食卓の上にメモが残されていた。どうやら今日も神社の方に呼び出されたようだ。

 それにしても二日連続で呼び出しなんて珍しいな。祭りが近いからいろいろと忙しいのかもしれない。

 とりあえずする事もないのでそのまま二階へ上がり、自室に入った。制服から着慣れたジャージに着替え、ベッドに寝転がる。

「………………」

 そのままぼーっとしていると、ふと昨日の事を思い出した。この部屋で起こった事だ。

 いろいろあったせいで少し混乱気味だが、凛に起こった異変は忘れる事は出来ない。

 凛の発した不可解な言動は、何度考えてみても何を意味しているのかさっぱりわからない。あの瞬間だけ、俺と凛の間で日付の認識に齟齬が生じていた。

 一体どういう事なのだろう。そう疑問には思ったが考えてみた所でわかるわけがなかった。

 相変わらず凛には謎が多い。多すぎるといっても過言じゃない。だからこそ、もっと凛の事を知りたいと思うのだが。

「────っと」

 突然鳴り響いた携帯の着信音のせいで思考が途切れた。

 制服を脱ぐ時移しておいた携帯をポケットから取り出し画面を見ると、橘からの電話のようだった。

 これも珍しいな。一体何の用事だろうか。そう思いつつ電話に出る。

『もしもし、瞬?』

「ああ、どうした?」

『あー、えっと』

 橘にしては妙に歯切れが悪い。何か言いにくい事なのだろうか。

『昨日、瞬のお母さんに夏休みに手伝いに来てくれないかって言われたんだけどさ』

「あー、そういやそんな話してたな。これなかったら断ってくれて全然いいからな」

『………………』

 何故か急に橘が黙り込んだ。電話の向こうで盛大にため息を吐いたのが聞こえたが、何故だろう。一応橘の予定を気遣ったんだけどな。

『……はぁ。…………バカ』

「なんでだよ!」

 理解できん。何故俺が罵倒されなくちゃいけないんだ。

 そんな俺の内心をよそに、少し不機嫌そうに橘は続けた。

『とにかく!私も行きますって瞬のお母さんに伝えておいて!』

 橘はそれだけ言うと、早々に電話を切ってしまった。耳元で電子音が虚しく響いている。

「…………なんだったんだ」

 あいつもあいつで謎が多い。なんで怒ってたんだ……。

 それはさておき、私も行きますと言ったか。今年は俺の負担が減りそうで助かるがなんか申し訳ない気もするな。

「────ただいまー」

 下から母の声が聞こえた。今帰ってきたようだ。実にナイスタイミングだった。

 先ほどの橘の意向を伝えるため、俺はベッドから降りてリビングへ向かった。

「母さん、さっき橘から電話があったんだけど」

「このえちゃんから?」

「ああ。私も行きます、だってさ」

 思いっきり主語を省いたが、母はそれだけで理解したらしい。

 何やら買ってきた食料品などを整理していた手を止め、表情をぱっと明るくして言った。

「あら!それはよかったわ!巫女装束はあるから安心してって伝えておきなさい」

「別に巫女装束が目当てなわけではないと思うけどな……」

 もはやこの母親、巫女装束を着たいが為に巫女になったのではなかろうか。どんだけ好きなんだよ。

「まあいいか。俺寝てるから飯になったら起こしてくれ」

「はいはい」

 やる事がなさすぎて眠くなってきた。基本的に勉強はしない主義なので寝る事にする。

 俺はリビングを後にし、再び自室に戻った。






「………………」

 篠ヶ谷さんに送ってもらった後、私はずっと自室に篭っていた。何だかいろいろとやる気が起きない。夏バテだろうか。

 保健室で篠ヶ谷さんとした事が目を閉じると鮮明に浮かび上がってきた。

「〜〜〜〜っ!」

 思い出した途端に猛烈に恥ずかしくなってきた。思わずベッドの上で身悶えてしまう。本当に、なんで自分からあんな事をしたのだろう。

 橘さんが出て行って、二人きりになった事を意識し始めたら止まらなくなって、結果暴走してしまった。

「…………はぁ」

 私、変な子だと思われてないかな。にわかに心配になってきてしまった。

 まぁ、やってしまった事は仕方がない。ここは割り切ってしまおう。そうしないとまた恥ずかしさやら不安やらで悶える羽目になりそうだった。

 それにしても、最近は気がつけば篠ヶ谷さんの事を考えている気がする。昨日の今日だし仕方ない事ではあるけれど。

 やっぱり私は篠ヶ谷さんの事が好きみたいだ。

 昨日の事を思い出してみる。勢いでキスをして想いを伝えた事はもちろん覚えている。

 けれど────その少し前の記憶が飛んでしまっているのだ。

 ペンダントの中を見て、そのまま頭痛が激しくなっていった所までは覚えている。しかしそのあたりから記憶が何だか曖昧なのだ。

 意識を失っていたのか、それすらもわからない。

 篠ヶ谷さんや橘さんが私の家に来て以来、自分の身には何も起こっていなかったから少し安心していたけれど、こういう事があるとやっぱり不安になる。

 篠ヶ谷さんは無事家に着いただろうか。早く篠ヶ谷さんに会いたい。

「…………ふふ」

 気付かないうちにまた篠ヶ谷さんの事を考えてしまっている自分が何だかおかしかった。

 このままじゃいけないよね。そろそろ何か行動しないといつまでもこうしてだらけてしまいそうだし。

 気持ちを入れ替えて、自分の夕食でも作ろうかとベッドから起き上がろうとした時だった。

 ────視界の隅に、何かが映り込んだ。

「────っ!」

 自分以外この部屋には誰もいないはずなのに。何か人影のようなものが見えて思わず顔を向けた。

 しかし、視線の先には何もいない。壁があるのみだ。

 心臓がバクバクと激しい鼓動を刻んでいる。なんで私こんなに驚いてるんだろう。

 人影のようなものが見えたのは気のせいだったようだ。少し神経質になっているのかもしれない。

 こういう時、一人暮らしが嫌になる。篠ヶ谷さんがそばにいてくれたらいいのに。

 もちろん、そんな事叶うはずもないけど。苦笑しながら私は自室を後にした。

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