表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真導士サキと風渡りの日  作者: 喜三山 木春
幕間 真導士の特訓
92/195

真導士の特訓(1)

 真眼が、まばゆい光に塗れている。

 水面のようにゆらめいて輝く円。冷めた輝きを出している真眼に、神経を集中させる。見つめ続けてどれほど経ったことだろう。その瞬間は、目の乾きと共にやってきた。

 乾きで張りつきそうになりながらも、明瞭な視界を求めて何度も瞬き――その輝きを認める。


「あ……」


 一度視えてしまえば、もはや元の水面を視る方が困難となる。

 よくよく視れば、真眼の輪郭もただの円とは違う。その形は人の目とほぼ同じ。左右にちょっとした尖りがあり、瞳のような内円もある。そして――

「どうだ、視えたか」

「はい。この模様が旋風ですか」

 風になびく青い前髪の隙間から、描かれた模様を凝視する。

 半年もかかって、真眼の本当の形が視えた。奇跡の力はこのような姿をしていたのか。


「多重真円だと模様は変わりますか」

「変わらぬな」

 静かに言って、バトは眼下の景色を見渡した。

「多重真円にすれば濃くなるのみ。遠方へ放とうとすれば鋭くなる。それだけだ」

 ただし、複数の真術を組み合わせれば模様が変わる。

 複数の真術が展開されている時は、その模様から質を想定することもあるそうだ。

「片生や淪落を追う任務は、通常であれば追跡隊を組む。戦力で圧倒し、相手の反撃を許さぬため。相手の真術を見極めるためでもある」

 片生はともかく、淪落は取り逃がす可能性も高い。次に相対した時のため、得意とする真術を把握しておく必要がある。隊を組めば、感知に長けた者がその任にあたる。

「戦場で見分けるのは難しい。戦いながらであればなおのこと。ゆえに、相手の得意とする真術を、あらかじめ知っておくのが肝要。知らぬ相手ならば、先手を取って仕留める」

「重要なことですよね。どうして座学で習わないのです?」

「まだ習っておらぬだけだ。習おうが習うまいが、真眼に慣れるまでは何も視えぬ」

 まずは真術の展開に慣れること。

 ほとんどの場合、輪郭と模様を視認できるようになるのは冬。それまでは、座学で習うこともないらしい。

「真力の高い人が遅い……とか」

「違う。高低差は影響せぬ。真術に慣れているかどうかだ」

 言ったろうとの視線を受けて、思い出すのは日々の苦言。確かに何度も言われ続けていた事柄ではある。

「では"珠卵"だった人は、とっくに視えているのですね」

「無論。今年も一人入ったと聞いたが」

 語りながら視線が飛ぶ。

 警戒の仕方が、任務の時とまったく同じだ。その動きが気になって、自分もついつい下方を見た。

 鮮やかな色が広がるサガノトス。

 ところどころに、葉がすべて落ちてしまった樹木がある。その姿がとても寒々しい。

「はい、ヤクスさんとは番なのです」

 名を伝えたら、納得の表情となった。

「ガゼルノード家の娘か……。なれば"珠卵"であっても当然だ」

「やっぱり知ってましたか」

「さすがにな。あの家は父母共に令師だったはず。その娘なら並みの高士より力を持っているだろう」

 そうなのか。

 お嬢様は実家嫌いなので、あまり詳しい話をしてくれない。


 令師は慧師の次に位が高い。

 でも、サガノトスには一人もいない。理由は単純。令師となった時点で所属が変わるからだ。


 四大国にある五つの里。"第一の地"から"第四の地"までは、各国の聖都に存在している。

 "第三の地 サガノトス"もその中の一つだ。慧師を頂点として正師と高士が運営にあたり、雛とも呼ばれる導士の育成を行う。

 では令師はどこにいるのかといえば、全員が"第五の地"に属している。別名"空白の地"とも呼ばれるその里は、慧師と令師だけの里なのだ。

 令師となるには、まず各里の慧師からの推薦が必要。推薦された後は、"空白の地"にいる慧師の承認が必要となる。つまり、最低二人の慧師が「適した人物である」と言わなければ、令師となることはできない。

 だからこそ難関であり、令師を目標としている真導士も多いという。

 両親揃って令師なら、レアノアの実力の高さにも頷ける。


「今年の雛は、つくづく変種揃いだ。……おい、そろそろ放せ」

 また警戒の仕草をしたバトだったが、何かをつかんだ様子で命令してきた。だからこそ、あえて指示とは逆の行いをして身を固める。

「……いやです」

 右手をより絡ませて、がっちりと握った。

 この行動には、呆れ果てたような吐息が返ってきたが頑として握り、命綱の確保に努める。

 はっきり言って、はしたない行いだ。

 下手したら、また妙な誤解を受ける可能性もあった。それも十分承知している。

 しかし。

 しかしだ。やはり身の安全には代えがたい。

「娘らしさを放棄して、よくも娘扱いしろと言えたものだな」

「何とでも言ってください。全部バトさんが悪いのです。これに懲りたら、人の扱い方を変えるべきだと思います」

 皮肉を振り払ってから思いっきり膨れてみた。

 そう、バトが悪いのだ。

 あんな高所から人を落とす方が絶対に悪い。もう二度と落とされてなるものかと胸に刻み、右手で捕らえている青い後ろ髪を引っ張った。


 ……いざとなれば、この髪もろとも心中するつもりだ。


 色々と気が利かない青銀の真導士でも、後ろ髪をごっそり抜かれるのはいやなようで、いまのところ丁重な扱いを受けている。

 膝に乗せられているのも、痛みがあるからだろう。

 自分はまだ、高所で浮くのに慣れていない。場所に問題はあれど、着地していられることが重要だったので、これについては文句をつけないでいる。誤解が絡まろうが何だろうが安心が第一。

 落ちた時の感覚は、それはそれは恐ろしかった。胃に限らず内臓という内臓が浮いた挙句、ぐちゃぐちゃに振り回された感じだった。あれを味わうのは二度とごめんだ。

 きっと次は心臓が止まってしまう。絶対に絶対にお断りなのである。

「そもそも犬扱いをしている人が、娘扱いなどするわけないでしょう。する気もないことを言って、逃れようとしても無駄ですからね」

 騙されるものか。誤魔化されるものかと意志を岩のように固めて、青い髪を拘束し続ける。

「吠え癖が悪化しているのは、何の影響だ」

 語るに落ちるとはこのことだろう。

 失礼な男性には、それなりの対処で構わないと、かのご令嬢も言っていた。だから後ろ髪をむしったところで問題はない。

 パルシュナだって、お許しくださるはずだ。

 そう考え、また力を入れた時、その気配を感知した。

 秋に埋もれた世界の中、勢いをつけて飛んでくる風がある。


「――きたか」


 冷たく言ったバトの左側の口角が上がり、凍えるような真力が多量に吐き出された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ