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真導士サキと風渡りの日  作者: 喜三山 木春
第一部終章 希望の巣立ち
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蒼天に比翼

 転送の(ほこら)を収束させ、慧師の間へ急ぐ。

 ほかのふたりは、すでに所定の場所へ向かったはずだ。

 任務と呼ぶには軽い責務を負い、大階段をのぼる。


「キクリか」


 入室してすぐ、呼びかけてきた慧師に一礼をし、例年通りの口上を発する。

「今年、里に(かえ)りました導士。無事に巣立ち終えました」

 巣立った雛は四十八。

 追放者一名と、 "郭公" の雛を除いたすべてが、元気に巣立っていった。

 大仕事を終え、肩の力が抜ける。

 毎年のことではあるが、雛を送り出すと、どうしても気がゆるんでしまう。

 空になってしまった学舎は、あとで収束させにいこう。今日を逃すと、無駄に日を伸ばしてしまいかねない。


「ご苦労だった」


 例年通りの返答を出したその方は、大窓の向こうにある踊り場に立っていた。

 開かれた窓から、風が通ってくる。

 厳しい季節を、おだやかに迎えられたことが、何よりも喜ばしい。


「――ムイ正師、ナナバ正師。お願いします」


 報告を終え、即座に同僚たちへ連絡を入れた。

 本来、自由である生き物を長く留めておくのも大変だ。今年は数が多いゆえ、なるべく早く放ちたい。

 昨日、ムイ正師はそのようにおっしゃられていた。

 だが、如何に苦労が多くとも、彼女が数を減らすよう進言することはなかった。

 彼女も、慧師のお心を汲んだのであろう。


 サガノトスでは、雛の巣立ちに合わせ放鳥が行われる。

 雛の数と同じだけの冬鳥を、中央棟の屋上から解き放つのだ。

 今年は、ただでさえ雛の数が多いのだが。慧師の指示により、さらに羽数が増やされた。

 凶事が起きたため、放鳥が行われなかった十二年前。

 その時に、飛び立っているはずだった六十を足し。今年は、百八の冬鳥が用意されている。


 これほどの数は、過去に例がない。

 それは壮観な眺めとなるだろう。



「こちらは準備が整いました。ナナバ正師、お願いいたします」



 ムイ正師からの通信が入ると、間を置かず鐘が大きく打ち鳴らされた。


 サガノトスに深い音が渡る。

 その音色を追いかけるかのように、鳥の群れが空へ飛翔していった。


 神話の中で、希望を運ぶと語られているエンガルダブは、その真っ白な翼を広げ、里の上空を旋回するように泳いでいる。

 鐘は、まだ鳴らされ続けていた。

  "巣立ちの鐘" は、放つ鳥と同じ数だけ鳴らされる。

 風のない空へ伸びていく音色は、天に昇った雛たちにも届いてくれるだろう。


 鐘が鳴り出すと、里のあちらこちらから声があがった。

 巣立ちを祝う声に応えるかのように、エンガルダブたちが優雅に回りながら高みを目指しはじめる。

 ひとり踊り場に立ち、その飛翔を見守っていた慧師が、両手を掲げて瞑目した。

 大気が震えたかと思えた瞬間、外円が弾かれて消える。

 空への道が解放された。

 それを悟ったらしい鳥の群れが、いきおいよく上空を駆け回りはじめる。

 はしゃぐように飛ぶ百八の鳥を見つめながら、慧師が祝辞を述べた。



「神鳥の祝福を受けし愛し子たちよ、だれよりも高くゆけ。望むがまま猛く行け――」



 蒼天に向かう、白き鳥の群れ。

 群れが頭上へと差しかかったとき、先頭を飛んでいた二羽が、頂点で輝くパルシュナへ進路を変えた。

 ほかのどれよりも雄々しく羽ばたくその二羽は、光のなかで重なり合い、溶け合うようにしてひとつの影を形作る。


 風のない蒼き(そら)を、女神に愛された希望の比翼が飛んでいく――。


長らくお付き合いいただき、ありがとうございます。


このお話で、サガノトス編、二つ星編、風渡り編と続いてきた『蒼天のかけら 第一部』が完結となります。

第二部以降の更新については、準備が出来次第、活動報告でお知らせします。


これまでのお話について、ぜひ感想や評価をお聞かせください。

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