表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真導士サキと風渡りの日  作者: 喜三山 木春
第十章 晦冥の牙
17/195

帰り道

 帰ろうと声が上がった。


 茜色の空。

 もう、夕暮れだ。


 また、帰ろうと声がした。

 それを皮切りに、そうだ帰ろう。また、遊ぼうねと続いていく。


「帰るぞ」


 みんなに手を振っていたら、後ろから呼ばれた。

 二人で帰ってきなさい。お父さんとお母さんがいつも言っている。

 うんと小さい時から同じことばかり。

 もう覚えたのに。

 今日もまた、おんなじことを言っていた。


「うん」


 走り出した背中。

 帰る時は二人で競争。でも、せーのを言わなかった。


「ずるいっ」


 背中に括られた棒のはしっこが、夕日を弾いている。

 持ってみたいとお願いしたのに、まだ一度も貸してくれない。男の子はいじわるだ。


 広場から出たら、坂がある。

 坂を下ったら池があって、石の柱と壁が見えてくる。

 石の壁にはいっぱい絵が描かれていて、真ん中にある大きな絵まで競争。壁際の側溝に、さっき流した葉っぱの船が見えた。わたしの船はまだ浮いていて、みんなの船の先頭にいた。

 お祭りが近いから、壁がきれいになっている。

 苔も埃もなくなって、たくさんの黄色が夕日でまぶしい。

 兵隊さんの絵を抜けて。女の人ばかりの壁を通って。文字だらけの石柱の先に、あの絵が見える。


「待ってよぉ!」


 どろんこになったから、今日は怒られちゃうかな。

 お母さんとおばさんが一緒になって怒るから、ちゃんと二人で帰らなきゃ。二人だったら平気だもん。

 いまは壁のどのへんだろう? 横を見て走っていたらつまづいた。

 砂利の上で転んで、いろんな場所が痛くなる。

 起き上がって見てみたら、膝小僧からじわじわと血が出てきていた。

 血が出たとわかったら泣きたくなる。


「痛いよぉ……」


 よく見ると、手の平が砂利だらけ。

 ちっちゃい石が食い込んでいて、これもすごく痛い。


「あー、また泣いた。転んだくらいで泣くなよ」


 痛いのにひどい。

 自分が先に走り出したのにひどい。

 競争だから、せーので走らないとだめなのに。ずるした上にいじわるで、ますますひどい。

 涙がぽたぽた落ちてきた。

 手の平は砂利だらけだから、甲の方でごしごしとする。


「……ったく、しょうがねえなー」


 目の前に、泥だらけの両手が出された。

 手を重ねて、膝小僧が痛くないように足を曲げて立つ。

 二人で服についた砂利を落として、手を繋いだ。


「もう転ぶなよ」


 塩辛い喉でうんと言った。

 つないだ手の間に残ってた石がころころとしてて、くすぐったくて可笑しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ