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真導士サキと風渡りの日  作者: 喜三山 木春
第十二章 譎詐の森
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森の亀裂

 オレ、まずいことしちゃったかな?


 会った時には、もうぼろぼろになっていた二人。

 気が合いそうで合わない難儀な二人には、この半日ほどで変化が出ていた。間にあった垣根は取り払われ、ローグの仏頂面もイクサの鉄仮面もなくなっている。

 イクサってそういう奴だったんだなと指摘したら、「しまった」とか言って顔色変えたもんだから笑ってしまう。

 別にいいのに。

 人間、隠し事して生きると辛いばっかりだ。いまのイクサと今朝方のイクサなら、断然いまの方が楽そうだし。やっと治療効果が出てきたか。

 普段とはちょっとばかり。……いいや、結構な落差があるけど。それはそれ、これはこれってね。

 森に飛ばされて、一人ぼっちでうろうろして。ようやく人に会えたと喜んだのに、二人がかりで問い詰められてはたまったもんじゃない。矢継ぎ早過ぎて、聞き取るのもやっとやっとだ。

 何をした。どうしてやった。いつから気づいた。息せき切って聞かれても、答えは一つ。


 何となく。


 これに二人して頭を抱えた。

「……ヤクス、お前……恨むぞ」

「ええっ、何でだよ!」

 ローグに恨まれるいわれがない。というか恨まれたくない。何にも悪いことしてないんだから、そんな目で見ないで欲しい。

 そりゃあ森に飛ばされた時は驚いたさ。でも輝尚石はあったから、すぐに戻れると思ってたんだ。

 皮袋を開けて、ありゃ暗いなと思って真眼を開いてみた。

 思えばそこでちょっと……いや、だいぶおかしかった。変な感触がしたからね。森の真力以外の何かを押し出したような奇妙な感じ。

 真円を描いてみたのは、さっき伝えたとおりで何となく。

 罠とかあったらやだな。そのくらいしか考えてなかった。オレだってびっくりしたさ。だって地面が消えるんだから。

 気持ち悪くて飛び退いたら、飛んだ先の地面も消えて――。


「……ああ、ここって真術でできてるんだって思ったんだよね」


 他の連中も、きっとどこかにいる。

 これはローグ達も同じ風に考えていたみたい。だけど真術だってことは知らなかったから、ここまでぼろぼろになったらしい。

 吐けと言われるまま、吐けるだけ吐いて。ああ、疲れたと息を吐いたら、二人はぐったりした顔でまだオレを睨んでた。

 ……こわっ。

 勘弁してくれ。覇気あまり過ぎな二人を敵に回すほど、無謀な生き方してないってば。


「どう思う……」

 聞いたのはローグ。驚いたことに自らイクサに話しかけた。

「どうって……、君と同じだ」

 答えたイクサは、髪をぐっしゃぐっしゃにかき回す。

 その仕草にびっくりする。まさしく荒れていると表現するに相応しい行動だ。やっぱりこいつも燠火ってわけか。

 ほんと、何があったんだろ? あんなにこじれてたのに仲良くなっちゃってさ。

 焚き火を囲んで、燠火二人は黙りこくった。

 不思議だけど、真術のくせに焚き火が作れる。どういう理屈か、何の真術か、これもさっぱり。

 まあいいや。あったまれるならそれで。

 "風渡り"の夜は冷える。白楼岩があるなら屋内だと思うけど、寒いのは寒い。

 どうでもいいことを考えて、意識を逸らす。だって二人して目がぎらぎら光ってる。

 おっそろしい光景だ。

 あんまり視界に入れたくない。そう思って縮こまっていたら、いきなりローグとイクサが笑い出した。もう可笑しくて可笑しくてという大笑いなのに、やっぱり目だけがぎらついている。

 まずい。

 気付け薬――じゃない鎮静剤の方だ。オレが慌ててどうする。落ち着かないと親父に怒られる。


「やられたな、ローグレスト」

「ああ、まんまとやられた」

 ひとしきり笑って、二人はいきなり立ち上がった。

「イクサ、手分けするぞ」

「ああ、そうしよう。オレはこちら、君はそちらを」

 言うだけ言って、イクサはナイフを手に、右側の道を走っていった。同じように左の道を行こうとするローグを、大慌てで引き止める。

「待てってば、ローグ。お前達どこに行くつもりだ!」

「ヤクスはここにいろ。すぐに戻ってくる」

 聞いたことはまるっと無視され、指示だけ返ってきた。

「答えになってないだろ。何する気なんだよ」

 重ねて聞いたら「ああ、そうか」という顔をした。意味不明だけど、こいつなりに気が急いていたらしい。

「男達を集める。道に沿って歩けば、転送から逃れられるからな。ヤクス、お前はここを広げておけ。男が二十入る場所が欲しい。頼んだぞ」

 言うが早いか、全速力で駆け出していった。


 しばらくして、道に沿って男達がやってきた。

 口々に寒い、喉が渇いた、腹が減ったと騒ぐので、お嬢様のため用意していた茶と食い物を振舞う。そろそろ備蓄が尽きそうだというところでジェダスとダリオが辿りつき、燠火四人とクルトも姿を見せた。

 ブラウンとエリクから、お嬢さん方の状況が語られる。

 すると疑問と疑惑が湧き上がった。何故、どうしてという疑問は当然のこと。事情を深く知っているオレ達に対して、あやしさを抱くのも無理はない。

 秘密にしておくのは不可能と悟り、ジェダスが現状についての説明をはじめた。

 導士地区に行き渡っていた術具。ギャスパル達の事実。里に秘められていた真実と、暗躍していた一派について。話を聞いた同期達の反応は様々だった。


 相棒を心配する奴。里からの救援を願っている奴。何もかもを諦めて、女神に祈り出した奴。挙句の果てにからんでくる奴までいて、あわや乱闘というところまできた。冷静にといっても難しく、罵声と怒声が激しく行き交う。

「生贄だって!? 冗談じゃない。何をのんびりしているんだ。いますぐ助けに行かないと!!」

「無理だ、こっちは真術が使えない。輝尚石も少ないのにどうやって戦うつもりだ!」

 ブラウンが手も足も出なかったと言えば、他の場所で不安が噴出する。

「じゃあ、勝てっこないじゃないか……! ギャスパル達は山ほど輝尚石を持ってるんだろ?」

 弱気がこぼされれば、あちこちの気配がたなびき出す。こりゃやばいと励ましてみたけど、話をまともに聞いてもらえない。

 そうこうしていると最初に食って掛かってきた奴が、落ち込んでいる奴を責めはじめる。

 ダリオとフォルが間に入ったけれど、状況は改善せず。坂道を転がるように全部が悪化していく。

「ふざけんな、この弱虫! お前なんか、ずっとここで怖い怖いって言ってればいい! オレは行くぞ。あいつを見捨てるもんかっ!」

 血気盛んな男に同調して、何人かが立ち上がる。去って行こうとする連中の腕をつかみ、友人達と必死になって引き止めた。

 いま行かせるなんて言語道断。

 作戦なしに行けば、犬死するに決まってる。

「待てってば!」

「離せよ!!」

 正面からぶわっと気配が出てきた。

 この感じ。どうやらこいつも燠火のようだ。揃いも揃って血の気が多くてまいってしまう。強行突破するつもりでいる同期を留めつつ、オレにも馬鹿力があればと嘆いていると、固まっている二人の男が見えた。

 一人は弱虫と罵倒された奴。もう一人は、そいつの相棒らしき男。

「……勝手な奴等だな」

 慰めながらの批難は、血の気あふれる男の火に油を注ぐ。

「うるせえ! 戦うつもりがないなら、持っている輝尚石を寄こせ。そこの弱虫の代わりに戦ってやる!」

「断る。渡したらこっちの守りが薄くなるじゃないか」

 お前達はいいさと言って、震えている背中に手を置く。弱虫と罵られた相棒を励ますように。

「こいつは天水だ。女の子達を助けに行って、逆に捕らえられでもしたらどうする?」

 乱闘寸前だった場が、一言で沈静した。

 静かになった森に、小さく鼻をすする音が響く。

「……何だよ、生贄って。…………昔の導士が全滅したなんて、正師達は教えてくれなかったじゃないか」


 好きで天水になったわけじゃない。そもそも真導士になりたいと思ってなかった。

 故郷に帰してくれ。家族の元に戻してくれ。


「……意気地なしで結構だ。戦いたい人だけ戦えばいいさ。もう……放っておいてくれよ」

 泣き言を聞いていると、いつの間にか視界に色が増えていた。

 輝く金。

 真眼を閉じて近づいてきたイクサは、同期の話を聞き、じっと考え込んでいる。

 そんなイクサの後ろから、ローグも姿を見せた。史上最大と評される真力が湿っぽさを吹き飛ばし、止まっていた時間が動き出す。

 他の連中も二人に気づく。

 混沌とした場にあっても、動じる素振りを見せない目立つ二人に、視線はいやでも集中する。

「みんな、まずは落ち着いて」

 口火を切ったのはイクサ。

 人前に出ることがなくなっていたから、こういった姿は久しぶり。求心力はいまも残っているようで、場がわずかに整った。

「現状は悪い。けれど、混乱すれば状況をさらに悪化させる。方策は残されているから、どうか落ち着いてくれ」

 なだめているイクサの後ろでローグが腕を組み、光景を眺めている。

「体力と気力を回復させよう。朝を迎えるまで時間がある。交代で仮眠を取って備えることにする」

 あれ? と思ったのはオレだけじゃなかったみたいだ。

 友人達は一様に似たような感情を出したし、クルトに至っては、いまにも文句をつけそうになっていた。どうにか口を閉じていたのは、ローグが合図をしたから。

 少し黙っていろとの目配せを見て、考えがあるんだと理解する。


「心配しなくていい。何度も言うけど策はある。いまは休憩に専念してくれ」


 念押しするように言って、鉄仮面が美麗に笑う。見届けたローグも不敵に笑んでいる。ちょっと危ないようにも思うけど、二人が手を組んだならやり通してくれるはず。

 さあ、お手並み拝見といきましょうか。

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