首なしライダーって、デュラハンよりも夜行さんの方が場所的に可能性高い気がする。
「この中に一人、人間がいる!!」by僕
驚いたことに、屋敷の中は清潔に保たれていた。というかこれで確定したといっても過言ではない。
何がと問われれば、爺さんが家の中に他にも誰かを連れ込んでいるという可能性だ。
明らかに目の前を堂々と闊歩する鞠江は、家事ができると思えない。おそらく、爺さんは他にも誰かを、連れ込んでいるのだろう。
流石に、気になる。他に何人いるのかとかが。
なので少なくとも僕よりは事情に通じていそうな鞠江に訪ねることにしよう。
「鞠江、聞きたいんだけど」
「――――何」
「ここには、一体何人の人が住んでいるんだ」
その問いを発すると、何故か彼女は俺の部屋に案内しようとする足をぴたりと止めた。
そして僕をじっと見つめてくる。
僕の顔に何かついているのだろうか。
「――――雪村の趣味、知ってる?」
「骨董品集めじゃなかったか? 俺も嫌いじゃないが、集めようとまでは思ったことが無いな」
すると鞠江はふるふると首を横に振った。どうやら違ったようだ。
でも家の爺さん、何かいわくありげな様々なものを集めていて、それで周りの親族から変人扱いされていたような覚えがあるのだが。僕も興味があったので、その自慢のコレクションを見せてもらったことがある。
しかしそれはともかくとして、爺さんの趣味とこの家の住人に何か関係があるのだろうか。
「――――それは、雪村の、趣味の一部。実際の、彼の趣味は、この世の、神秘の、探求」
「…………」
言われてみればそうかもしれない、と僕も思い出した。
何度か見せてもらった爺さんの骨董品のコレクションは、その大部分が、魔術と呼ばれるものに使われる術具や、古代に存在したとされる、伝説の英雄たちの持ち物などの聖遺物が多かったのだ。
まあその特性上、聖遺物の数はあまり無かったのだが。
「――――彼は、この世界に伝わる、ありとあらゆる神秘を、追い求めた。アジアでも、ヨーロッパでも、アフリカでも、南北アメリカでも、オセアニアでも、雪村は、この世の不思議を、集めて回った」
「…………」
そんなことをしていたのか、爺さん。どうりで頻繁に海外からの手紙が来たはずだ。
しかし、それがどうかしたのだろうか。
そんなことが、この家に住んでいる人達と関係があるのか?
「――――そして、雪村が集めたのは、物だけじゃない」
鞠江はこちらに振り向き、表情を変えずにこちらに向けて、淡々と言った。
「――――私は、首無し騎士。この家にはいま、あなた以外に、人間はいない」
「…………ふーん」
「――――」
そういえば、と思い出す。デュラハンは泣き妖精を代表とする死を告げるタイプの妖精の一種であり、近々死ぬ人間の家の前に、乗っている馬車を止め、出てきた家人に桶に入った血を浴びせるという伝承だったな、と。
間違っても黒いバイクに乗っていたりはしない。
すると、拙くないか。
僕は慌てて鞠江に尋ねた。
「デュラハンの伝承によれば、お前、死ぬ人のいる家に現れると、そこの家の人に血を浴びせるんだよな? …………そしてお前、僕に対して出会い頭に思いっきり血を浴びせてきたよな? それってどういうこと? 僕死ぬんじゃないだろうな!?」
一気にそうまくし立てると、鞠江はわずかに表情を変え、驚いたような顔をしていた。僕が一気に問い詰めてしまったことで、驚いたのかもしれない。これはいけない、少し冷静にならなければ。
「――――驚いた。まさかデュラハン、の伝承を、知っているなんて、思ってなかった。でも安心して、あれはちょっとした、サプライズのような、ものだから」
鞠江はそういい、「ついてきて」と僕の部屋の案内を再開した。僕もそれに黙って続く。
それにしても、一体どんなやつらなのだろうか、爺さんとともにここに住んでいるという存在は。
僕は少しわくわくしながら、そんなことを考えていた。
しかしこのときの僕は、今から思えば、考えが足りなかったとしか思えない。
こういうところが、僕とあの爺さんを分ける、最大の点なのだろうなと思う。