胃に穴が飽きそうだ……。
読みやすい文章を心がけてみました。感想駄目出しは、やさしい言葉でお願いします。シャープペンの芯のようなメンタルなので。
「ここは俺に任せて先に行け!!」by爺さん
爺さんが死んだらしい。いや、だからなんだといわれたらそれまでなのだが、とりあえず俺の祖父に当たる人物が死んだのだ。ちなみに母方の祖父である。享年九十九歳。所謂白寿である。子供心に、米寿と白寿の由来はすごいと思ったものだ。まあ、正直些細なことだが。
そして俺はいま、爺さんの住んでいた屋敷の門前に立っていた。
そう、屋敷である。もしくは館。それか邸でも可。
断じて、家ではない。
この大きさの住宅を、家と呼ぶのは、俺の根幹を形成する、中流家庭の意識が許さない。
しかし爺さん、僕が知る限りでは、好々爺とした少々鬱陶しい爺さんだったのだが、一体若い頃はどんな仕事をしていたのだろうか。こんなでかい家を買うとなると、相当な資産が必要なはずだ。
まああの母親の父親という観点で言えば、それこそ、神殺しの魔王とかでも驚きはないのだが。さすがにそれは荒唐無稽が過ぎるか。あくまであれはフィクションだし。
まあ爺さんの生前に紹介された、知人らしき人物達は、爺さんの年齢の割りに、妙に若作りした輩が多かったのだが。…………そういえば、何人かは爺さんの葬式に来ていたな、と思い出す。かつて会ったときと容姿が全く変わっていない気もするので、もしかしたら爺さんの知り合い本人ではなく、その子供や孫なのかもしれないが。
話がそれた。少し軌道を修正しよう。
爺さんが死んだとき、爺さんは僕のことを僕の許可無く勝手に養子にしていたらしく、僕に財産の一部が相続されたのだ。そして、そのもっともわかりやすいものが、今現在俺の目の前に鎮座しているこの屋敷だった。
もう一度言う、屋敷だ。間違っても家じゃない。
住宅じゃなく、邸宅だ。その表現がしっくり来る。
その外見は、推理小説に出てくるような洋館といえばわかりやすいだろうか。二階建ての、あちこち欠けたり黒ずんだり苔生したりした煉瓦で造られた、明治時代からありそうな古びた洋館である。
話を聞く限り、爺さんはここで一人で暮らしていたらしい。正直その話を聞いたときは、床に埃が層を作っていそうだなと思った。話を聞く限りだと、お手伝いさんなどはとくには雇っていないという話だったのだ。
「まあ、期待はせずに、というか最悪の状況を見越しておく、というか、そんな心構えで行けば大丈夫だろう」
僕としては、爺さんの形見に当たる屋敷だ。たとえあちこち穴が開いていたり、埃が雪のように積もっていたとしても、一生懸命掃除し、補修し、修理する所存である。
なんとなく、爺さんの死に目に会えなかったことが、罪悪感として、心を苛んでいるのだ。
僕にそんな感性が残っていたというのは少々驚愕の事実なのだが。
そんなことを考えつつ、どこと無くしんみりしながら俺は目の前にある、大きな樫でできた扉を開いた。間違っても菓子ではない。そんな防犯性が薄く、おまけに虫が寄ってきたり手にべったりとくっつきそうな不便な家は、こっちから願い下げだからな。
そして無駄に議いい、ときしむような音を立て、ゆっくりと内側にむけて開いていく扉。
そして――――
ばしゃあああっ!!
そんな壮絶な音ともに、俺の顔になんか浴びせられました。
つーかなんだこれ! 血じゃないの!? なんか赤くて鉄臭いんですけど、これ、明らかに血だよね!?
そしてそんなことを俺にやってのけた犯人はといえば。
「――――ようこそ、雪村の孫」
「諸手を上げての、歓迎のポーズ、だと…………!?」
馬鹿な、こいつには、俺に悪いことをしたという意識は無いというのか!?
そこに立っていたのは、全身を銀のフルプレートアーマーで覆った腰の中ほどまであるまっすぐな銀髪が美しい若い女性だった。無表情ではあるが、その色白で整った目鼻立ちからして、明らかに西洋人である。
その女はごつい籠手に覆われた手に、古びた桶を持っていた。ふん、わかったぞ。
「犯人は、お前だ!!」
「――――何を言っている、証拠はどこ?」
その手に持っている桶がどう考えても証拠だろうに。
まあその前に、僕は彼女に訊かなくてはならないことがあるのだが。
「うん、なんかすごい直球に聞くけどさ。あの、どちらさまですか?」
とりあえずべたべたして気持ち悪いから、さっさと中に入って着替える、もしくは風呂に入りたいのだけれど。
しかし流石にこの時代錯誤な人物を放っておくのは拙い気がする。そう、俺の直感は告げていた。
そもそもこの爺さんの家には、爺さん以外は住んでいないという話ではなかったのか。
「――――私、雪村に仕えていた、自宅警備員、鞠江。よろしく、雪村の孫」
この子は自宅警備員の概念を理解しているのだろうか。もしかしなくても爺さんが勘違いして教えている気がひしひしとするが、まあ、自己紹介で面白かったので、認めることとしよう。
しかし爺さん、あんた、一人暮らしじゃなかったのかよ。
こんな若くて美人な娘さんを家に連れ込むとか、やるじゃないか、ちょっと頭がおかしい様子だけど。特にこのご時勢に鎧を着込んでいるところとか、歓迎と言いつつ俺に血をぶっ掛けるところとか。
とりあえず中に入れて欲しいと願い出たところ、彼女―――鞠江は快く許してくれたので、僕はようやく爺さんの屋敷の中に入ることができたのだった。
「――――ようこそ、恐怖の館へ」
おい今なんか言わなかったか? この女。