夢の終わり
出されたお題を基に百分間で物語を作ろうと言う企画で生み出された小説の一つ。お題は「いつか闇に溶ける」と「週末の予定」。
夜の帳が落ちる。明かりは何もなく、世界は少しずつ闇に侵されていく。全ての境界は曖昧になり、人々は朝の訪れを心待ちにする。僕はこの、夜という時間が好きだ。
夜になると、僕はきまって村の近くの山を登る。その頂上には、誰も知らない僕だけの秘密の場所がある。茂みを掻き分け崖を下り、そうやって歩き続ける。
ほら、もうすぐだ。もう少し進むと見えてくる。そこには、薄っすらと仄明るく光る木々が並んでいる。何故、今の今までこれが見つかってないのか、何故こんな風に光るのかは知らないけれど、その光景はたまらなく美しかった。
そんな風にして、僕は毎晩のようにここに入り浸っては物思いに耽ったり、ぼーっとしたりしていた。
でも、今日は違った。今日はもう一人いる。
「ねえ、本当にこの先にそんな場所があるの。」
「本当さ、レナ。もう少しの辛抱だから我慢してくれよ。」
「嘘じゃないでしょうね。こんな崖まで下りさせて。無かったらひどいわよ。」
今日は僕が思いを寄せているレナがついて来ていた。彼女にだけは僕の秘密の場所を明かして、それを共有したいと思っていた。僕は、口をとがらせて不満を言う彼女の機嫌を伺いながら、いつもの道を歩いていく。とはいえ、光は殆ど無いので感覚で、なんとなくこの道だ、という道を進んでいるだけなのだが。
しかし、そうして進み続ける僕の心を不安が渦巻くようになった。辿り着かないのだ。いつもならとっくに辿り着いてもおかしく無い頃なのに一向に見えてこない。レナがついて来ているから少し遅くなっているかもしれないとしても、いくらなんでも遅すぎる。
「ねえ、やっぱり嘘なんでしょ。私もう帰るわ。」
彼女は僕の不安を感じ取ったのだろうか、そう言うと後ろを向いて歩き出す音が聞こえた。
「待って、多分もう直ぐ着くから。」
「さっきから聞き飽きたわよ、その台詞は。この嘘吐き。」
彼女はそう辛辣に言い放つと歩を進める。
「でも、一人で帰るのは危ないよ。僕もついて行くから。」
僕は仕方なく彼女の先導をして歩いていくが、やはりいつもと違う道を歩いていたのだろうか。僕らは道に迷ってしまった。
「ひょっとして、あんた道に迷ったの。使えないわね、全部あんたのせいよ。このまま私が死んじゃったらどうしてくれるのよ。」
「ご、ごめん。そうはならないようにするから。」
この真っ暗闇の世界においては、全てが恐怖の種だった。木々は不気味に腕を組み合い、草木を鳴らす風が僕らを脅かし、獣も虫もありとあらゆる命が僕らを取り巻く。僕らが二人で肩を抱き合うように進み、いよいよもう力尽きて進めなくなるかと思ったとき、夜が明け始め光が僕らを照らし出した。僕らは太陽の光に導かれながら、山を下りた。
結局僕は彼女に手酷く振られてしまった。それも仕方の無いことだろう。だが、僕はそんなことよりもあの場所が見つからなくなったことが悲しかった。
それからというもの僕は毎日のようにそこを探し歩き、休みの週末となると一晩中、それこそ山の中で朝を迎えるほどにさまよい続けたがやはりそこは見つからなかった。何故そこが消えてしまったのか、僕には到底分かりそうには無かったけど、ひょっとしたらそこが僕の、僕だけの秘密の場所で無くなろうとしたことが原因だったのかもしれない。それでも僕は諦めきれずそれを追い求め続ける。いつかまた見つけ出せるときを願って。
最初の三行が書きたかっただけです。話はその後適当に考えました。
そのせいで、「週末の予定」というお題が全く使えてないです。かなり無理矢理ねじ込みました。
世界設定として、星などが無く、夜の光源となるのは火だけという世界を書いたつもりだったのですが伝わったでしょうか。多分伝わってないと思います。