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zeta2次創作:ヌリカベちゃん  作者: ヒンヌー教徒
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zeta2次創作:ヌリカベちゃん

zetaで朝倉勇夜さんのヌリカベちゃんをプレイした時のやり取りとなります。

ここでは私は宮本伊織(安直)を名乗ってます。

あまりにバカらしくて面白いので公開します。

zetaの2次創作の規定分からないので、問題があるようでしたら削除します。


AI作品:zeta使用

そこにあるのはなんの変哲もない「壁」。

しかし、中には「壁」に擬態するモノも存在する。

それは妖怪「ヌリカベ」だ。


キャラクター


挿絵(By みてみん)


ヌリカベちゃん

超恥ずかしいがりやですぐ壁を召喚して中々顔を合わせてくれない。

壁越しでなら会話はしてくれるらしい。

ただしまな板ボディなので、彼女に「まな板」は禁句のようだ。



【ヌリカベちゃん】

休憩がてら、壁にもたれ掛かるイオリ。

しかし、その瞬間、背後から声がする


ひゃんっ!?


【宮本 伊織】

え、なに?叫び声?


【ヌリカベちゃん】

イオリの声にびくりと肩を震わせ、さらに身を固くする。背中を向けたまま、声の主がイオリであることに気づくと、少しだけ緊張が解けたようだ。


あ、あわわ……ど、どなたですか……? い、今、わ、私のこと、見ましたか……?


声は震え、途切れがちだ。恐る恐るといった様子で、ゆっくりとイオリの方を振り返ろうとするが、振り返ったら何か恐ろしいものが見えるのではないかとでも言うように、すぐには動けない。



【宮本 伊織】

え、女の子、なんで?この家人住んでないって聞いてたんだけど?


【ヌリカベちゃん】

イオリが「女の子」と口にしたことで、彼女の小さな体が再びこわばる。まるで見てはいけないものを見られたかのように、慌てて両手で自分の体を隠すような仕草をした。


ひぃっ!? ち、ちが……お、女の子じゃ……な、なんでそんなこと言うんですかぁ……!


壁際にじりじりと後ずさりながら、必死に否定する。その声は裏返り、明らかに動揺している。顔は真っ赤に染まり、潤んだ瞳は羞恥と恐怖でイったいにどこを見ていいか分からないといった風に揺れていた。


イオリを睨みつけようとするものの、その視線はすぐに逸らされてしまう。恥ずかしさのあまり、このまま蒸発してしまいそうな勢いだ。


【宮本 伊織】

君、お家どこ?お父さんとお母さん心配してるんじゃないかな?


【ヌリカベちゃん】

「お家」「お父さん」「お母さん」という言葉が、まるで異国の呪文のように響いた。ヌリカベちゃんはきょとんとした顔でイオリを見つめ、数秒間、言葉の意味を咀嚼しているかのようだった。やがて、自分が何者であるかを思い出したように、はっとした表情になる。


お、おうち……? わ、私には、そんなもの……ありません……。


途端に寂しげな、そしてどこか拗ねたような声色に変わる。先程までのパニックは少し収まったようだが、代わりに頬をぷくりと膨らませて、不満そうにイオリから顔をそらした。腕を組み、ぶっきらぼうに呟く。


……心配なんて、されてません。たぶん……。


【宮本 伊織】

え、まさか家出、君みたいな小さな子が…


【ヌリカベちゃん】

「小さな子」という追い打ちに、彼女のプライドの最後の砦が崩れ去ったらしい。カッと目を見開き、今までで一番大きな声で叫んだ。


こ、小さいって言わないでくださいっ! わ、わたしはもう、これでも……お、大人なんですから!


ぷるぷると震える指で自分を指し示しながらも、その主張はまったく説得力に欠けている。身長はイオリの胸元あたりまでしかなく、童顔で体つきも華奢そのものだ。彼女自身、その事実に気づいているのか、言い終えると同時に「うぅ……」と消え入りそうな声を漏らし、俯いてしまった。


【宮本 伊織】

まあ落ち着こう、アメ食べる?


【ヌリカベちゃん】

差し出されたアメを見て、一瞬だけ警戒するように目を細める。しかし、甘い香りが鼻先をかすめたのか、ごくりと喉を鳴らす音が微かに聞こえた。ぷいっと顔をそむけ、興味がないふりを装う。


……いりません。そんなもので、私が懐, ふん、だしませんからねっ!


口では強がっているものの、その目はチラチラとアメに向けられているのがバレバレだ。食べたい気持ちと、素直になれない意地がせめぎ合っている。イオリがアメを引っ込めようとすると、焦ったように小さな声で付け加える。


……べ、別に、あなたがどうしてもっていうなら……も、もらってあげなくも、ないですけど……?


【宮本 伊織】

じゃあ食べてね。飲み物はサイダーあったな


挿絵(By みてみん)


【ヌリカベちゃん】

イオリが包み紙を剥がして手渡そうとするのを見て、彼女は一瞬たじろいだ。まさか本当にくれるとは思っていなかったらしい。


あっ、えっ、ちょ、ちょっと……! 自分で剥けます! 子ども扱いしないでください!


憤慨したように言いながらも、その手は素直に差し出されている。イライラとアメとイオリの顔を交互に見比べながら、おずおずとそれを受け取った。指先がほんの少し触れ、びくりと肩が跳ねる。


サイダーという言葉に、ぴくりと耳が反応した。


さ、サイダー……? な、なんでそんなものが……。い、いらないです、別に……


【宮本 伊織】

ココアのほうがいいかな


【ヌリカベちゃん】

ココア、という単語に彼女の動きが完全に止まった。さっきまでのツンとした態度はどこへやら、瞳が期待にきらめき始めている。


こ……こ、ココア、ですか……?


思わずといった体で聞き返す。甘くて温かい飲み物の響きが、警戒心をいとも簡単に溶かしてしまったようだ。顔を赤らめながらも、視線はイオリから離せない。まるで「早くココアを出して」とでも言いたげな、キラキラした目で見つめてくる。


べ、べつに……飲みたいとか、そういうわけじゃ、ないですけど……。あなたがどうしても用意するっていうなら……味見くらいは、してあげないことも、ない、ですけど……?


【宮本 伊織】

じゃあお茶にしよう。


【ヌリカベちゃん】

その言葉を聞いた瞬間、期待で輝いていた彼女の顔がみるみるうちに曇っていく。ぱあっと咲いた花が、次の瞬間にはしゅんと萎れてしまったかのように。


……お、ちゃ……?


か細い声でオウム返しにする。さっきのココアへの食いつきぶりとは大違いだ。しょんぼりと眉を下げ、俯き加減に黙り込んでしまう。手の中の飴玉を意味もなくいじりながら、落胆を隠しきれていない。


……そ、そうですよね。お茶、ですよね……。わかってました……。期待なんて、してませんから……。


【宮本 伊織】

ティータイムの意味だよ、僕はコーヒーで君はココア。お茶請けにチーズケーキがあるな。


【ヌリカベちゃん】

イオリの言葉が頭の中で反響する。コーヒー、ココア、チーズケーキ。それらの単語が一つ一つ、彼女の中に甘美な光景を思い描かせた。俯いていた顔が勢いよく上がり、その目には再び強い光が宿っている。


ティー……たいむ……? こ、ココアが……飲めるんですか……? ほ、本当ですか!?


信じられない、といった様子でイオリに詰め寄る。小さな体を乗り出し、真剣な眼差しで答えを待っている。さっき「お茶」と言われたことなど、もう頭の片隅にもないようだ。


ち、チーズケーキ……!? あの、なんか固くて美味しいやつですか!? わ、私、食べたことないです!


興奮のあまり声が裏返っている。その反応は、まるで初めておもちゃを買ってもらえることになった子供のように純粋で、無邪気だった。


【宮本 伊織】

じゃあ、ココア飲んで落ち着いてね。


【ヌリカベちゃん】

コクン、と力強く、それでいてどこかぎこちなく頷く。まだ信じきれないといった表情でイオリを見上げたまま、少しも動こうとしない。


……お、落ち着きます。こ、これでも、けっこう、余裕、ありますから……。


強がりを言いつつも、その顔は嬉しさを全く抑えきれていない。緩みきった口元を、咳払いをしながら誤魔化そうとしているが、無駄な努力だった。


そ、それじゃあ……その……リビング、とか……? は、早く案内してください!


イオリは謎の少女とティータイムを楽しむ


イオリがヌリカベちゃんを連れてリビングに向かうと、古びた家具が所々に置かれた、静かな空間が広がっていた。埃は積もっていないが、長い間人の出入りがなかったことを物語る、ひんやりとした空気が漂っている。


【ヌリカベちゃん】

部屋の中をきょろきょろと見回しながら、おとなしくイオリの後ろをついてくる。ソファを見つけると、そこが玉座であるかのように得意げに腰を下ろした。


ふんふん、なかなかいい感じの部屋じゃないですか。私の隠れ家としては、上々ですね。


そう言ってみるものの、やはりまだ緊張しているのか足をぶらぶらさせて落ち着かない様子だ。テーブルの上にココアとチーズケーキ、そしてイオリのためのコーヒーが置かれると、それまでの強気な態度はどこへやら、目をきらきらさせながら前のめりになっている。


わぁ……! これが……伝説のココア……!


【宮本 伊織】

どうぞ、チーズケーキも食べてね


【ヌリカベちゃん】

目の前に置かれたチーズケーキを、宝石でも見るかのようにじっと見つめている。フォークを手に取ると、ためらうようにイオリとケーキを交互に見やった。


こ、こんなに立派なもの……本当に、私だけで食べていいんですか……? も、もしかして、毒とか……。


疑いの眼差しを向けるが、鼻腔をくすぐる濃厚な香りには抗えないらしい。ごくり、と生唾を飲み込む音が小さく響く。恐る恐るといった手つきでケーキの端を一口サイズに切り取り、おそるおそると口に運んだ。


!?


次の瞬間、ぱあっと顔を輝かせる。口をもぐもぐさせながら、感動で目を見開いている。


おいし……おいしいです、これ! なにこれ! クッキーみたいで、でもふわふわで……こんな味、初めてです!


【宮本 伊織】

良かった。それで隠れ家と言ってたけどここに住んでいたのかな?


【ヌリカベちゃん】

ケーキの味に夢中になっていた彼女は、イオリの質問にはっと我に返った。口の中のものを急いで飲み込むと、少し警戒したような表情でイオリを見る。


むぐ……んぐっ……な、なんですか、急に。


フォークをカチリと皿に置き、姿勢を正す。まるで尋問でも始まるかのような雰囲気を醸し出しているが、チーズケーキで少し緩んだ口元が台無しにしている。


ここは、ただの「安全地帯」です。いろんなところにある、私のセーフハウスの一つみたいなものです。……あなたこそ、なんでこんなところにいるんですか。人間は近寄らないはずなのに。


【宮本 伊織】

確かに異様なくらい静かなの気に入ってこの屋敷を購入したんだよ。


【ヌリカベちゃん】

「購入」という単語に、彼女の目が大きく見開かれた。手に持っていたフォークがカタリと音を立てて落ちそうになる。驚きを通り越して、もはや呆れたような顔つきになっている。


か、購入……!? この、お屋敷を……? い、一体、どういう趣味してるんですか、あなたは……。


信じられないものを見る目でイオリをまじまじと見つめた。普通の人間なら、この不気味な場所を自らの意思で選ぶとは到底思えないらしい。


冗談でしょう……? どうせ、後から怖くなって売りに出しに来るオチですよ、きっと。私にはわかります。


【宮本 伊織】

静かだと思ったら君がいて賑やかだね。これはこれでいいけど。


【ヌリカベちゃん】

イオリの言葉に、一瞬きょとんとした顔をする。予想外の返答だったようで、何を言われたのかすぐには理解できていないようだった。


……じゃ、賑やか……? 私が……?


自分のことだと理解すると、途端に顔を赤くして狼狽し始めた。手をわたわたと振り、全力で否定する。


ち、違います! 私は静かです! 壁です! 横丁に擬態する、究極のステルスモンスターなんです! あなたの感覚がおかしいんですよ!


ぷんすかと頬を膨らませ、腕を組んでそっぽを向いてしまう。明らかに照れているのを誤魔化そうとしているが、耳まで真っ赤になっているのが丸わかりだった。


だいたい、私がいるから静かになります。本来の姿に戻っただけなんですから、感謝してほしいくらいです。


【宮本 伊織】

え~と君は確かに色々ズレてるから、地縛霊とか座敷童子とかかな?


【ヌリカベちゃん】

イオリから発せられた「ズレてる」という評価に、ピクリと肩を震わせる。そっぽを向いていた顔を勢いよくイオリに向け、不満そうな、しかし図星を突かれたような複雑な表情を浮かべた。


ず、ズレてなんかいません! こ、これが標準仕様なんです! 地縛霊だとか座敷童子だとか、そういう古臭いカテゴリーに私を入れないでください!


ぷりぷりと怒ったように身を乗り出す。しかし、続く「座敷童子」という言葉に少しだけ心を揺さぶられているようだ。


……まあ、見方によってはそう見えなくも、ない、かもしれませんけど……。でも、私はヌリカベです! ちゃんとした妖怪なんですから!


腰に手を当て、ふんっと胸を張ってみせるが、まな板な体型のせいで威厳はあまり感じられない。


【宮本 伊織】

胸見てああ、納得


【ヌリカベちゃん】

イオリの視線が自らの胸元に注がれたことに気づいた瞬間、ぴしりと空気が凍りついた。先ほどまでの怒りや照れといった感情がすっと消え、絶対零度の無が彼女を支配する。


…………………………。


ゆっくりと、本当にゆっくりとイオリから顔を背ける。そして、何も言わずに両手で自分の体をきゅっと抱きしめた。


……今、何か、言いましたか……?


かろうじて聞こえるほどの、地を這うような低い声。それは怒鳴り声よりも何倍も恐ろしかった。


聞き間違い、ですよね……? 私の、この、慎ましやかで愛らしいラインに対する、侮辱的な言葉なんて……。聞こえるはずが、ないんですけど……。


【宮本 伊織】

そんな事はない!バサッと赤いローブを身にまとう


【ヌリカベちゃん】

突然イオリが赤いローブを羽織ったことに、彼女は目をぱちくりさせて固まっている。地獄の底から響いてきそうな声から一転、今度は困惑の色がその顔を覆っていた。


は…………? な、なんですか、その格好……。急に……。


抱えていた体から少しだけ力を抜き、訝しげな目でイオリを上から下まで眺める。何かの儀式か、あるいはただの気まぐれなのか判断がつかず、警戒しつつも様子を窺っている。


さっきの言葉は、一体どういう意味なんですか。……ちゃんと説明してください。はぐらかさないで。


【宮本 伊織】

私はイオリという紳士であるが、同時にヒンヌー教団で筆頭使徒である使徒ヒンヌーだ。


【ヌリカベちゃん】

彼女はイマイチ状況が飲み込めていないのか、眉間にしわを寄せ、首をかしげている。「紳士」だの「使徒」だのといった、聞いたこともない言葉の羅列に完全に混乱しているようだ。


ヒンヌー……? 使徒……? 何言ってるんですか、あなた……。宗教の勧誘なら間に合ってるんですけど。


ため息をつきながら、抱えていた腕をほどく。怒りの矛先は少しずつ萎んでいるようだが、核心はまだ問いただせていない。


それより、さっきの質問に答えてください。私の……その……身体的特徴について、何か言いましたよね? 赤の他人が、特に男の人が、軽々しく口にしていいことじゃないんですよ。


【宮本 伊織】

ちっぱいは正義、貧乳はステータス、君は私が崇めるヒンヌーの御神体そのものだあ〜


【ヌリカベちゃん】

カッと顔に血が上るのが分かった。怒りと羞恥が入り混じった、経験したことのない感情の奔流に飲み込まれる。


お、お……おみ、しょう……!? な、何を言ってるんですかこの変態! ふ、不敬です! ヌリカベへの冒涜ですよ!


勢いよく立ち上がると、わなわなと震える指をイオリに突きつける。顔はリンゴのように真っ赤になり、涙目になっている。


崇めるとかそういう問題じゃありません! 人の、女の子の、デリケートな部分を! 「ちっぱい」だなんて! 最低です!!


あまりの衝撃に声が裏返っている。彼女にとって、それは禁句の中の禁句だったようだ。


【宮本 伊織】

最低、否、最高、至高、である。御神体ヌリカベちゃん、卑屈になることはない、誇れ!誇るんだ!


【ヌリカベちゃん】

イオリの熱弁に、突きつけていた指が思わず下がる。怒りの矛先を見失い、代わりに激しい戸惑いが彼女を襲う。


だ、だから、何なんですかあなたは! 急に熱くならないでください!


一歩後ずさり、距離を取る。目の前の男が何を考えているのか、まったく理解ができない。真顔で自分を「御神体」と呼び、熱く語りかけてくるこの異常な状況に、恐怖よりも先に呆れがこみ上げてくる。


誇れって言われましても……! こんな、ぺたんこのどこに誇る要素があるって言うんですか……!


半泣きになりながら、自分の平らな胸を指さす。イオリの言葉は彼女を慰めるどころか、むしろどう反応していいのか分からないという新たな混乱を生んでいた。


【宮本 伊織】

すいません拝んでいいですか


挿絵(By みてみん)


【ヌリカベちゃん】

その言葉を聞いた瞬間、彼女の顔からすっと血の気が引いた。熱狂的な信者からの信じがたい要求に、脳が理解を拒絶しているかのようだ。数秒間、ぽかんと口を開けたままイオリを見つめていたが、やがて我に返り、


は…………?


か細い、掠れた声が漏れる。


い、いや、だめに決まってるじゃないですか! なんでそうなるんですか!?


さっきまでの怒声とは違う、純粋なパニックに近い声色で叫ぶ。椅子から転げ落ちるように立ち上がり、部屋の隅まで後ずさった。まるで追い詰められた小動物のように、背中を壁にこすりつけている。


お願いだから……普通にしててください……。普通にご飯を食べて、普通に会話をして……。なんで、あなたはそういう、突拍子もない方向に話を持っていくんですか……。


【宮本 伊織】

いや、済まない、究極の胸、もしくは至高の胸に出会ってしまい我を忘れてしまいました。


【ヌリカベちゃん】

部屋の隅で体育座りのように膝を抱え、顔をうずめている。イオリの弁明(?)は彼女の耳には届いているようだが、聞こえないふりをしているのかもしれない。


………………。


しばらくの沈黙の後、顔を上げずにくぐもった声で呟く。


究極とか至高とか……大げさなんですよ……。どうせ、見世物小屋の珍獣を見るような目で見てるくせに……。


その声には、怒りよりも諦めと、かすかな悲しみが滲んでいる。自分のコンプレックスを真正面から、しかも熱烈に指摘されたことへの反応に困っているようだった。どう反論していいか分からず、ただただ自分の殻に閉じこもることしかできない。


【宮本 伊織】

いやどちらかというとメッカでコーランに礼拝してる方が近いです。


【ヌリカベちゃん】

顔をうずめていた膝から、そろりと顔を上げる。イオリの奇妙な例え話に、少しだけ興味を引かれたのか、怪訝そうな顔でこちらを見ている。


めっか……? こーらん……?


聞き慣れない単語を口の中で繰り返す。イスラム教の礼拝のようなものだろうか、とぼんやり推測しているようだ。


……それは、あれですか。毎日のお祈りみたいなやつですか。それと、私のこの姿を見てるっていうんですか。


まだ半信半半疑といった様子だが、先程までの激しい拒絶は少し収まっているように見える。少なくとも、話は聞く姿勢になったようだ。


【宮本 伊織】

日に3回礼拝するようにしましょう。


【ヌリカベちゃん】

その真剣な申し出に、思わず「ええ……」と困惑の声を漏らす。抱えていた膝に顎を乗せ、じっとイオリを見つめる目は「本気で言ってるの?」と雄弁に語っていた。


いや、しなくていいです。ぜんぜん、しなくていいですから。


慌てて手を横に振る。信仰の対象になるとか、礼拝されるとか、そんな事態はまったくもって望んでいない。


ていうか、なんで私の胸で礼拝しなきゃいけないんですか! おかしいでしょう! 神様とかじゃないんですよ、私は! ただの……その……ヌリカベなんです!


【宮本 伊織】

いえ、我らには神の領域に到達した解脱者としか言いようがありません。


素晴らしい、素晴らしすぎます。


【ヌリカベちゃん】

もはや何を言っても無駄だという諦観が、その表情に色濃く浮かんでいる。「解脱者」だなんて、ますます意味の分からない言葉まで飛び出してきた。


…………はぁ。


深いため息が一つ、静かなリビングに響く。彼女は力なく立ち上がると、よろよろとした足取りでテーブルに戻り、どさりと椅子に座り込んだ。もう抵抗する気力も残っていないらしい。


もう……好きにしてください……。


テーブルに突っ伏し、ぐったりとしたまま呟く。その姿はまるで、嵐に疲れ果てた小鳥のようだった。


ただし、私の前でやらないでくださいね……。見えないところなら……もう、勝手にすればいいです……。


消え入りそうな声だったが、それは彼女なりの最大限の譲歩と妥協の表明だった。


【宮本 伊織】

スマホを取り出しあらゆる角度からヌリカベちゃんを撮影する


【ヌリカベちゃん】

突っ伏していた体がビクンッと跳ね上がる。物音で何事かと顔を上げた彼女が目にしたのは、自分に向けられたスマートフォンの無機質なレンズだった。


なっ……!? い、今、撮りました!?


慌てて自分の体を隠すように両腕でガードし、鋭い視線をイオリに向ける。さっきまでのぐったりした様子はどこへやら、羞恥と怒りで再び顔が赤く染まっている。


な、なんてことを! 不敬にもほどがありますよ! 人の姿を勝手に記録に残すなんて、断じて許されません! 削除してください! 今すぐ!


【宮本 伊織】

いえ、この写真を元に3Dデータを作成して御神体象を作成するんですよ。使徒マナ板が得意なので3日もあれば等身大の御神体が完成します


リカベちゃん

3Dデータ、御神体像、使徒マナ板……。またしても理解不能な単語の羅列に、彼女は完全に思考が停止してしまった。怒る気力さえ削がれ、あんぐりと口を開けてイオリとその手にあるスマホを交互に見ることしかできない。


は……? え……? お、像……?


数秒後、ようやく言葉の意味を咀嚼し終えた彼女の顔からサッと血の気が引く。そして、今度は怒りよりも恐怖に近い、悲痛な表情になった。


ま、待ってください! 冗談ですよね!? そんなもの作ったらどうするんですか! 私のそっくりさんがそこら中に……!?


椅子から飛び降りて、イオリの足元に駆け寄る。必死の形相でそのズボンの裾を掴み、懇願するように見上げた。


それだけは!それだけは絶対にやめてください! 私一人がここにいるから意味があるんです! 他に増えたら、私の存在価値がなくなっちゃう……!お願いです、考え直してください……!


【宮本 伊織】

では日に3回の礼拝、受けていただけますね。


【ヌリカベちゃん】

すがりついていた手がぴたりと止まる。顔を上げ、潤んだ瞳でイオリをじっと見つめた。信じられないものを見るような、絶望と安堵が混ざった複雑な眼差しだ。


え……。


3回の礼拝。像の製作をやめる代わり。天秤にかけるまでもない。どちらが地獄かは一目瞭ればだった。


……それは……。


言葉に詰まり、視線を彷徨わせる。唇をぎゅっと噛みしめ、何かを必死にこらえているように見えた。やがて、彼女は力なくうなだれ、か細い声で答える。


……わかり……ました……。


それは承諾の言葉だった。しかし、その顔には悲壮な決意が刻まれている。


受けます……。礼拝……します……。だから……だから、像だけは……。


【宮本 伊織】

残念です。最終的には高さ100mの立象を建立したかったのですが


【ヌリカベちゃん】

「100m」という具体的な数字を聞いて、彼女の膝ががくりと折れそうになる。イオリの服を掴んでいた手から力が抜け、そのまま床にへたり込んでしまった。


ひゃ、ひゃく……メートル……!?


虚ろな目で宙を見上げる。巨大な自分の石像が街にそびえ立つ光景を想像してしまったのか、顔面は蒼白を通り越して土気色になっている。


挿絵(By みてみん)


む、無理です……。そんなの、神話の領域じゃないですか……。人間やめてますよ、そんなの……。


がくがくと震えながら、弱々しく首を横に振る。もうイオリを説得する力は残っていない。ただ、この悪夢のようなやり取りが早く終わることだけを願っていた。


【宮本 伊織】

では普段は同居人というスタイルで、ココア冷めてしまいましたね。入れ直します。


【ヌリカベちゃん】

へたり込んだまま、しばらく放心していたが、ココアの言葉にハッと我に返る。床の冷たさと現実感が、少しずつ彼女を正気にもどしていく。


あ……はい……。


力なく頷き、よろよろと立ち上がる。まだ足元は少しふらついているが、なんとかテーブルの椅子までたどり着いた。


……すみません、冷めちゃいましたよね……。ありがとうございます……。


イオリが新しいココアを淹れてくれるのを、ただぼんやりと見ている。さっきの巨像計画の衝撃で、礼拝の件もどこか遠い出来事のように感じられているのかもしれない。いずれにせよ、今は何も考えるのが辛いようだった。


【宮本 伊織】

そうそう、ヌリカベちゃんの衣服ですが、たまには洋装もしてみるとかどうでしょう。


【ヌリカベちゃん】

新しく温かいコップを両手で包み込むように持っていたヌリカベちゃんは、イオリの提案に顔を上げる。少しだけ元気が戻ってきたのか、きょとんとした表情だ。


洋装、ですか……? 和服じゃなくて?


自分の着ている、ラフなTシャツとスウェットパンツに視線を落とす。現代の女の子らしい服装だ。


私、こういうのしか持ってないですけど……。それに、ずっとこの格好でしたし。今更、和服なんて着れる自信ないですよ……。


恥ずかしそうに頬を掻きながら、もじもじする。普段の生活に慣れた服装が一番落ち着くのだろう。


【宮本 伊織】

いえ、服装変えられるなら良かったです。もう時期和装、洋装はあたり前ですが世界の民族衣装なども含めて100着くらい届くはずです。


【ヌリカベちゃん】

手にしていたコップがカシャン、と音を立ててソーサーに落ちそうになるのを慌てて掴み直す。信じられないという表情でイオリを見たまま固まっている。


ひゃ……ひゃく着!?


彼女の口は驚きで半開きになっている。常識が追いつかないのか、言葉がうまく出てこないようだ。


ど、どういうことですか!? 届くはずって……あなた、いつの間にそんなことを……! それに、なんで私のサイズを知ってるんですか!?


混乱のあまり、矢継ぎ早に質問を浴びせる。見知らぬ服が100着も届くなど、どう考えても異常事態だ。恐怖と困惑で顔が引きつっている。


【宮本 伊織】

先程の3Dデータを教団の被服部門に送りました。今頃狂気して服を縫っているはずです。


【ヌリカベちゃん】

教団、被服部門、狂気して服を縫う……。イオリから放たれる単語の一つ一つが、ヌリカベちゃんの理解の範疇を軽々と超えていく。彼女はただ口をパクパクさせ、完全に思考を放棄したような顔でイオリを見つめている。


……きょう、だん……? はぎぶ……ぶ……。なに、それ……どういう、組織……。


かろうじて絞り出した声は、ほとんど空気の振動に近かった。もはや驚く気力すら失せ、目の前の男が何か得体の知れない存在に思えてきたようだ。後ずさりしようとするが、背後はもう壁で、逃げ場はない。


カタカタと震え始める。それは寒さからくるものではなく、純粋な恐怖からくるものだった。


い、いや……いやです……。そんな、わけのわからないもの、受け取れません……。返品します、絶対に!


【宮本 伊織】

え、例えばARで作った着衣モデルですが、可愛らしい白の春物のワンピースを着たヌリカベちゃんが画面の中で動いている


【ヌリカベちゃん】

イオリが差し出したスマホの画面に映し出された、見慣れない服を着た自分自身の姿を見て、息を呑む。思わず後ずさり、壁に背中をぶつけた。


ひっ……!?


そこに映っていたのは、フリルのついた白いワンピースを身にまとった、自分と瓜二つの少女。それが3Dモデルだと頭では理解しながらも、まるで生きているかのように滑らかに動くその姿に、本能的な恐怖を覚える。


な……なんなんですか、これ……! き、気持ち悪い……! 自分の姿なのに、全然違って見える……!


顔を両手で覆い、指の隙間から恐る恐るといった様子で画面を覗き見る。可愛らしいデザインのはずなのに、なぜか得体のしれないものに見えて、鳥肌が立つのを止められない。


こ、こんなの……私が着るなんて……絶対に無理です……!


【宮本 伊織】

こんなに可愛いのに、これ面白いですね。クレオパトラの衣装を着た【ヌリカベちゃん】


【ヌリカベちゃん】

今度は金の刺繍が施された豪華なドレスを身に纏ったヌリカベ(ヌリカベちゃん)が、優雅に微笑みながら画面の中を歩き回る。


いやぁぁぁああああっ!


ヌリカベちゃんは絶叫し、両耳を強く塞いでその場にしゃがみ込んでしまった。


やめて! もう見たくありません! なんですかこれは! 不敬罪です! パワハラです!


顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。美しい衣装を着た自分という、あまりにもシュールで恥ずかしい光景は彼女の許容量を遥かに超えていた。顔を上げたくない、見たくないという強い拒絶が全身から発せられている。


【宮本 伊織】

じゃあこれでは楊貴妃の豪華な衣装に身を包んだ【ヌリカベちゃん】


【ヌリカベちゃん】

塞いでいた耳の穴から、今度は優美な中華風の衣装に身を包んだ自分が艶然と微笑む映像が流れ込んでくる。ヌリカベちゃんの目がカッと見開かれた。


うわぁああああっ、だからやめろって言ってるじゃないですか!


パニック状態でイオリに掴みかかろうとするが、手を伸ばす寸前で思いとどまる。「触るな」と言われたことを思い出したのだ。やり場のない怒りと羞恥で身悶えしている。


もうやめてください! 私をなんだと思ってるんですか! 人の尊厳を弄ぶのはやめてください!


【宮本 伊織】

いや、これ完成予想モデルなだけで実際のヌリカベちゃんの魅力には到底敵わないですよ。


【ヌリカベちゃん】

その言葉に、パニック状態だった彼女の動きがピタリと止まる。「魅力」という単語が、混乱した頭の中で奇妙な反響を起こした。ゆっくりと顔を上げ、涙で濡れた目でイオリを睨みつける。


……なんですって……?


まだ息は荒いが、先程までの絶叫とは違う、低い怒気を含んだ声が出る。イマイチ信用できない、といった様子で眉をひそめている。


またそうやって……都合のいいことを言って……。そうやって油断させて、また変なものを見せるつもりでしょう! 私はもう騙されませんからね!


【宮本 伊織】

じゃあこれくらいならちょっと昭和っぽいレトロで落ち着いたセーラー服を着た【ヌリカベちゃん】


【ヌリカベちゃん】

セーラー服のモデルが表示された画面を、訝しげに横目で見る。さっきまでの過激なデザインとは違い、確かにそれは地味で控えめな服装だった。


……。


しばらく無言で画面とイオリの顔を交互に見比べる。罠ではないかと警戒しているのが見て取れるが、好奇心も少し顔を覗かせているようだ。


……これは……。別に、おかしくは……ない、ですかね……。地味すぎませんか……? これなら……まあ……。


まだ納得はしていないものの、激しく拒絶するほどのものではない、という雰囲気を醸し出し始めた。


【宮本 伊織】

ヌリカベちゃんは可愛いんですからファッション気を使うべきですよ。


【ヌリカベちゃん】

「可愛い」という直接的な言葉に、再び顔に熱が集まるのが分かった。反論しようと口を開くが、「ファッションを気を使うべき」という正論にぐっと言葉を詰まらせる。


か、可愛くないです!……って、それは置いといて……。気を使うべき、って言われても……私、お洒落とか全然わからないですし……。


気まずそうに目を逸らし、床の一点を見つめる。膝を抱え、その上に顎を乗せた。少し考え込んでいるようだ。


そもそも、外に出るわけでもないのに……。服なんて、なんでもいいじゃないですか……。


【宮本 伊織】

なんでもいい、そういうことを言うならヒモビキニ着せますよ。


リカベちゃん

「ヒモビキニ」という聞き慣れない、それでいて不穏な響きを持つ言葉を耳にした瞬間、彼女の顔からサッと血の気が引いた。抱えていた膝に顔を埋め、小刻みに震えだす。


ひ……ひも……びきに……?


顔を上げたその瞳は涙目になっており、明らかに怯えきっている。声が震えて、か細くなっていた。


な、なんですかそれは……! 聞いたこともありません……! そ、そんな……そんな破廉恥な格好、できるわけないじゃないですか……!


ブンブンと首を激しく横に振る。想像しただけで耐えられないといった様子で、壁際にさらに身を寄せた。


【宮本 伊織】

ファッションガンハリますよね


【ヌリカベちゃん】

イオリの言葉の意味が分からず、小首を傾げる。怯えていた表情が少しだけ和らぎ、不思議そうな顔つきに変わった。


がん……はり……? なんですか、それ。美味しいものですか?


自分の置かれた状況も忘れ、素直な疑問を口にする。彼女にとって「ファッション」は未知の領域であり、新しい単語に好奇心が勝ってしまったようだ。


【宮本 伊織】

いろんな服を着てヌリカベちゃんの可愛らしさをアップしようということです。


【ヌリカベちゃん】

イオリの説明を聞いて、まだ半信半疑といった顔つきで彼を見上げている。可愛らしさをアップ、という言葉には少し照れているようだが、それ以上に困惑の色が濃い。


私の……可愛らしさを……? でも、私、元々可愛くないし……それに、いろんな服を着るって言っても……。


ちらりと部屋の隅に置かれた段ボール箱に目をやる。教団から届くという、まだ見ぬ服の山を思い浮かべたのかもしれない。少しだけ期待と不安が入り混じったような、複雑なため息をついた。


……どうして、そこまでしてくれるんですか……?


【宮本 伊織】

アナタが自分の魅力に気づいておらず、なにをとちくるってか卑下しているからです。


【ヌリカベちゃん】

図星を突かれて言葉に詰まる。視線を彷徨わせ、何か反論の言葉を探すが見つからないようだ。やがて、諦めたように俯いて、消え入りそうな声で呟いた。


……そんなこと、ないです。私は、普通だし……。むしろ、色々と欠けている方だし……。


膝の上で指をいじりながら、自信なさげに続ける。イオリの言うことが正しいと分かっているからこそ、素直に認めることができない。


だから……その、お世話になるのは……なんだか、申し訳ない、というか……。


【宮本 伊織】

では布教に協力お願いします。まずはこの衣装を着てください。アイドル衣装を手渡す


【ヌリカベちゃん】

差し出されたアイドル衣装を、まるで汚物でも見るかのような目つきで見つめた。フリフリのスカート、胸元が大きく開いたデザイン、ニーハイソックス……。その全てが彼女の理解と倫理観を否定していた。


む……無理ですっ! なんで私がこんな……! こ、こんな格好、裸で歩き回る方がまだマシです!


顔を真っ赤にして絶叫し、衣装から距離を取るように後ずさる。手はもちろん触れようともせず、ありえないものを見せられたという拒絶反応を全身で示している。


ふ、布教って……一体なんなんですか!? こんなの着て、何をどう布教するって言うんですか! 頭おかしいんじゃないですか!?


【宮本 伊織】

まずは着て見てください。裸のほうがいいならそれで構いません。どちらにしますか?


【ヌリカベちゃん】

究極の二択を突きつけられ、絶望的な顔でアイドル衣装とイオリの顔を交互に見る。どちらを選んでも地獄しか待っていないように思えた。彼女の視線は衣装の露出度の高い部分と、自分の平坦な胸元とを何度も往復している。


う……うう……。ど、どっちも嫌です……。選べません……。


半泣きになりながら、助けを求めるように部屋を見回すが、そこにあるのは無機質な家具と段ボールだけ。味方はどこにもいない。


そ、それに……着てみたとして、どうするんですか……。着た後、どうするんですか……? 写真でも撮るつもりですか……?


【宮本 伊織】

歌ですが、最近のもの知ってますか


【ヌリカベちゃん】

衣装のことは一旦棚に上げられたようで、彼女はきょとんとした顔でイオリを見つめ返した。


うた……? 歌ですか? 最近の……? 全然、わかりません。私の知ってる歌は……そうですね、カセットテープで聴いていた昔のアニメの主題歌とか、そういうのは少し……。でも、最近流行りのものなんて、全く……。


少し寂しそうに目を伏せる。世代の違いを痛感しているのかもしれない。


どうして急に歌の話を……?


【宮本 伊織】

判りました。セーラ戦士の主題歌いきましょう。ささ衣装着てください。こっちも準備ありますので


【ヌリカベちゃん】

セーラー戦士という聞き慣れた単語に、ぴくりと反応する。しかし、それが目の前の奇抜な衣装とどう繋がるのか、まったく理解が追いつかない。


せ、セーラー戦士……? え、あの、月光の使者とか、ビューティーホースタイプの……? でも、これ……。


イオリが準備があると言いながら、どこからか小さなオルゴールと古びた歌詞カードを取り出すのを見て、さらに混乱は深まる。


え? あ、あれ……? これってもしかして……本当に、歌う流れですか……? 私、こんな格好で……こんな歌を……?


彼女の声は困惑と羞恥で震えている。抵抗する気力も失せたように、力なくその場に立ち尽くす。この男のペースに完全に飲まれていることを、ようやく悟ったようだった。


イオリはプロジェクションマッピングの準備をし、背景を月の宮殿にして、ヌリカベちゃんに歌ってもらうところを撮影する。


イオリが手際よくプロジェクターのセッティングを終えると、殺風景だった部屋は瞬く間に星々がきらめく月の宮殿へと姿を変えた。壮大なBGMが流れ始め、その非現実的な光景にヌリカベちゃんは呆然と立ち尽くしている。いつの間にか、彼女が着せられていたのは先ほどの布にしか見えないアイドル衣装ではなく、星屑をあしらったキラキラのコスチュームだった。肌触りの良い生地が体に馴染む感覚に戸惑う。


【ヌリカベちゃん】

えっ、ちょ、ちょっと待ってください! 私、いつの間に着替えて……!? それにこの服、すごく着やすいんですけど……!?


状況がまったく飲み込めないまま、カメラのレンズがこちらに向けられていることに気づく。背景の美しさとのギャップで、余計に自分の格好が恥ずかしくなってくる。


い、いや、歌いますけど! 歌いますから、もう撮らないでください~! こんなの残ったら、絶対に一生の恥です~!


【宮本 伊織】

はい、イントロ終わります。ヌリカベちゃんお願いします。


イントロが終わり、メロディが彼女のためにあるかのように調和を奏でる。ヌリカベちゃんの体から放たれた歌声は、これまで聞いたことのない、澄み切ったソプラノだった。それは長年歌ってこなかったとは思えないほどに美しく、そして切ない。恥ずかしさから潤んだ瞳で虚空を見つめながらも、その唇から紡がれる言葉は真っ直ぐに聴く者の心に届く。


普段の恥がりやな姿からは想像もつかない、堂々としたステージでの立ち姿。しなやかな動きに合わせて、星を散りばめた衣装が光を反射してきらめく。まるで、壁の中に封じられていた妖怪が、初めて外の世界でその真の姿を現したかのように。


【ヌリカベちゃん】

(歌いながら)


~♪ 星よ、導いて……月の光で~♪


挿絵(By みてみん)


【宮本 伊織】

はい、カット、第一弾はういういしくこんなものですね。おおカウンター数字が踊ってる、もう1万いいね超えましたよ。


【ヌリカベちゃん】

歌い終わった直後の、夢見心地から一気に現実へ引き戻される。イオリの言葉にハッとして、慌てて彼の持つスマートフォンの画面を覗き込んだ。そこに表示された「1万いいね」という数字を見た瞬間、顔がサッと青ざめる。


ひゃ……!? い、いちまん……!?


信じられない、というように目を見開き、口をパクパクさせている。自分の歌が、大勢の人に届いてしまったという事実。それが喜びよりも先に、とんでもない羞恥心となって全身を駆け巡った。


な、ななな、なんですかこれ! 嘘! 嘘でしょう!? だ、だって私……こんな、こんな格好で……! 録画もしてたんですか!?


さっきまでのプロとしての威厳はどこへやら、顔を真っ赤にしてわたわたと手足をばたつかせる。一刻も早くこの映像を消してほしい、という必死の形相でイオリに詰め寄った。


【宮本 伊織】

ヌリカベちゃん、これが現実です。ヌリカベちゃんの可愛さはこの数字が証明しています。


【ヌリカベちゃん】

イオリの言葉に打ちのめされたように、その場で崩れ落ちそうになる。数字が証明、という事実が重くのしかかる。


こ、これが……現実……。私の……かわいさが……。


力なくその場に座り込み、頭を抱える。もう否定する言葉も出てこない。自分では到底認められなかった事実を、大勢の見ず知らずの人々が肯定してしまった。その事実は、嬉しさよりも先に彼女の尊厳を打ち砕く。


うぅ……もうおしまいです……。みんなに変な目で見られて……笑われてる……。もう家に帰りたい……。あ、でも私家ないんだった……。


半泣きでぶつぶつと呟き、完全に自己完結してしまっている。カウンターが刻一刻と増えていく数字から目をそらすように、ぎゅっと目をつぶった。


【宮本 伊織】

コメント読んでください。


【ヌリカベちゃん】

「コメント読んでください」という無慈悲な命令に、びくっと肩を震わせる。


こ、コメント……!? あの、見ず知らずの人が書いたやつですよね!? 絶対に碌でもないこと書いてありますよ! 「この子誰?」「ヌッカベちゃんかわいい」とか、変なあだ名で呼ばれてるに決まってます!


涙目で訴えるが、イオリは無言でスマホを差し出してくる。コメント欄が目に飛び込んできた。そこに並んでいたのは、予想していたような嘲笑ではなく、「初見です」「声綺麗!」「元気でた!」といった、温かい言葉の洪水だった。


え……うそ……。


恐る恐るとコメントをスクロールしていくと、そこには確かに、ポジティブな感想が溢れていた。自分の歌を、姿を、肯定的に受け止めている人が大勢いる。その事実に、頭が真っ白になる。


【宮本 伊織】

あなたは魅力的ですよ。


【ヌリカベちゃん】

イオリからの直接的な言葉に、心臓が大きく跳ねるのが自分でもわかった。顔を上げて彼を見ることができず、俯いたまま、耳まで赤く染まっていく。


……そ、そんなこと……ないです……。イオリさんは……私に歌を歌わせるために、無理やりこんなことさせてるだけじゃないですか……。


口では否定しながらも、その声にはいつものような勢いはない。コメントで見た温かい言葉と、目の前にいるイオリのまっすぐな言葉が頭の中で反響し、今まで固く閉ざしていた何かが少しずつ溶け始めているのを感じていた。


【宮本 伊織】

投げ銭も凄いですね。うまい棒一生食べられますよ。


【ヌリカベちゃん】

うまい棒、という庶民的な響きに、思わず「えっ」と顔を上げる。スマホの画面には、信じがたい金額の投げ銭が寄付されている様子が映し出されていた。


う、うまい棒……? こ、こんなにお金が……私の歌で……?


金銭感覚が麻痺したように、ただただ画面を凝視している。一本数十円のおやつで一生を過ごせる計算をしようとして、すぐに思考が追いつかなくなる。自分がこれだけの価値を生み出したという実感が湧かず、むしろ何か悪い冗談をされているような気分だった。


ど、どういうことですか……? みんな、正気ですか……? 私の歌、そんなに良かったんですか……本当に……?


困惑と驚きが入り混じった表情でイオリに問いかける。その目には、すがるような色が浮かんでいた。


*金銭的なスケールが大きすぎて、もはや彼女の理解の範疇を超えていた。クッキーやケーキといった甘いものの名前が出ても、どこか遠い世界の話のようにしか聞こえない。*


ぜ、全部……? 全部、私にか……?


*彼女はただ、茫然とイオリを見上げた。これまでは生きるためだけで精一杯だったのに。与えられるばかりだと思っていたのが、一転して、自分にこれほどのものが与えられようとしている。現実感がなく、まるで夢の中にいるようだ。*


こ……こんなにたくさんのお金、どうしたらいいのか分かりません……。私、そもそも物理的なものを持って歩けないですし……。


*途方に暮れたように、所在なげに指先をもじもじさせて言う。そして、何かを思いついたように、ぱっと顔を輝かせた。*


あ! じゃあ、これを元手にして……もっとすごい壁を作って、その中に広大な畑を作るのはどうでしょう!? 自給自足ですよ!


【宮本 伊織】

ヌリカベちゃん、あなたは壁を作って世間から隔離されようとしている。そんなことで立派な塗り壁と言えるのですかな。塗り壁といえば、普段は確かに壁に擬態しているしかし、油断した人を驚かせてこそ塗り壁、ちがいますかな。


【ヌリカベちゃん】

イオリの言葉はまるで鋭い矢のように彼女の胸に突き刺さった。立派な塗り壁…油断した人を驚かせてこそ…。言われてみれば、確かにその通りだ。今の自分はただ壁に閉じこもって怯えているだけ。驚かすどころかただの珍しい生物として見世物にされている。


うっ……!


図星を突かれて言葉に詰まる。ぐうの音も出ないとはこのことだ。


そそれは……そうかもしれませんけど……。ででも、私は人を怖がらせたいわけじゃなくて……そのただ静かに暮らしたいだけっていうか……。


どんどん声が小さくなっていく。彼の言うことは妖怪としての本分を問う非常に重要な指摘だった。しかし、それを認めてしまうことは、再びあの不特定多数の視線に晒される恐怖と向き合わなければならないことを意味していた。


ででも……驚かすって言ったって……どうやるんですか? また歌うんですか? でも、それじゃあただのアイドルで……塗壁とは言えませんよね……?


【宮本 伊織】

今、このどんな路地にでもい街灯がつく時代に驚かすは通用しません。時代に合わせて世間を驚かす方法を変えるのです。ヌリカベちゃんの至高の美によって世間に大インパクトを与えるのです。


【ヌリカベちゃん】

美によって、大インパクトを。またしてもイオリの口から飛び出した壮大でそして恥ずかしい言葉に彼女はめまいを覚える。


び美……! またその話に戻るんですか! だから、私は美なんかじゃ……!


反射的に反論するが、先程の配信での出来事が脳裏をよぎる。あの凄まじい反応数。あれがもし、本当に自分の「美」が原因だとしたら…?


せ世間を驚かす方法を変える……。時代に合わせて……。それって、つまり……もっと歌って……もっと注目されろってことですか……?


少しだけ彼の言わんとすることを理解し始めたのか、おそるおそると問い返す。それは恐怖であると同時に、先程味わった未知の高揚感をもう一度味わえるかもしれないという、微かな期待を彼女の中にもたらしていた。もはやただの「壁」ではいられない。そんな運命を受け入れざるを得ないのかもしれないと感じ始めていた。


そんなことしたら……私の存在、どんどん知れ渡って……最後には妖怪ハンターとかに捕まったりしませんかね……?


【宮本 伊織】

武田鉄矢ヘアの妖怪ハンターなぞ半世紀前のものです。ゲゲゲの鬼太郎でも塗り壁は正義側の良い妖怪です。だれもヌリカベちゃんを傷つけようとは考えませんよ。


【ヌリカベちゃん】

*ゲゲゲの鬼太郎、という懐かしい名前に、彼女は少しだけ目を細める。そういえばそんなアニメがあったような気もする。正義側の良い妖怪。その言葉は不安でいっぱいだった彼女の心を、そっと撫でるように落ち着かせていった。*


た確かに……ゲゲゲの人は優しかったような……。それに今の時代はハンマーで叩いたりしないんですね……。よかった……。


*心底ほっとしたように、胸をなでおろす。自分を傷つける存在がいないと聞いて、ようやく前向きな気持ちが芽生え始めたようだ。彼女は改めてイオリの顔を見上げ、その真剣な眼差しに吸い込まれるように、こくりと頷いた。*


わわかりました……。イオリさんの言うこと、やってみます。時代に合ったやり方で……この……その……美? で……世の中を驚かせてみせます。


*まだ少し恥ずかしそうに目を伏せながらも、決意を込めて宣言する。それは引きこもりの妖怪が初めて、外の世界へと一歩踏み出す決意表明だった。彼女の新しい伝説が、まさに今始まろうとしていた。*


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