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「そう言えばあのかっこいい人って、芦谷さんの彼氏なんですか」

 と、白鳥くんに聞かれて、驚いた。二人でバックヤードで雑誌に付録のセットをしているところだった。白鳥くんは高校三年生で、眼鏡の線の細い男の子だ。真面目だけど、真面目すぎないので、話しやすい。

「あのかっこいい人とだけ言われても困るけど、私の彼氏はかっこいいよ」

「背が高くてかっこいい人です」

「背も高い」

「じゃあ、多分そうですね」

「違ったらどうしよう」

「芦谷さんにはかっこいい彼氏とかっこいいストーカーがいることになりますね」

「ええ……手に余るな……」

 雑誌の付録つけは重労働だ。なんで出版社であらかじめつけておいてくれないんだろうね、と、みんな言っている。

「でも彼氏、ここには一回しか来たことないと思うけど」

「一回……一緒に帰ってましたね」

「うん」

「でもその前に二回ぐらい見ましたよ。だから一緒に帰ったときにあの人芦谷さんの彼氏だったのかと思ったんですけど」

「え」

 手が止まる私に、白鳥くんが眼鏡の向こうの目を細めた。

「もしかして彼氏とストーカーいるパターンですか?」

「え、いや……多分一人だと思う」

「一人で彼氏とストーカーを兼ねてるパターンですか?」

「……」

「黙らないでくださいよ。怖いな」

「いや、彼氏、私のこと好きなんだなーと思って」

「その納得の仕方怖いですよ」

 私も納得はしてない。

「いや……うーん……」

 私は白鳥くんに、朔也くんが前にバイト先に来たことを話した。

「つまり、それまでに空振りしてたってことだよね。面白い」

「面白いで済ませていいんですか?」

「まあ……彼氏だし……」

「兼ねてるパターンでは」

「う、うーん……あ、白鳥くんもしかして心配しててくれたの? どうもね」

「いや、さっき前田さんと山崎さんがあのかっこいい人もう来ないのかなって言ってたんで」

 前田さんも山崎さんもバイトの女の子だ。女の子から見て、やっぱり朔也くんってかっこいいんだな、と思い、なんかお腹が重くなる感じがする。嫉妬、ではなく、朔也くんの彼女、という目で自分が見られることに対して。

「私の彼氏って、ばれてるかな……」

「ばれてる感じはなかったですね。一緒にいるところ、バイトだったら俺しか見てないんじゃないですか」

「セーフ」

「ばれてても俺が言ったわけじゃないですからね」

 猜疑心が強い。白鳥くんのこういうところが話しやすいのだった。私も猜疑心が強いので。同類、と勝手に思っている。

「来ないように言わないとな……」

「言うこと聞く彼氏なんですか」

「聞かせるしかない……」

「気をつけてくださいね」

 白鳥くんの中で、朔也くんのイメージがややストーカーになってしまっている気がする。まあ、自業自得だろう。


 電話がかかってきた。ゆたんぽがじゃれついてくるのを抑えながら、出る。

「すみませんでした」

 朔也くんである。家に帰ってから、白鳥くんに言われたことが本当か聞いて、もう来ないようにメッセージを送っていた。

「あ、本当に来てたんだ」

「すみません。行きました」

「うーん……やってしまったことは仕方ないけど、もうやらないでね」

「申し訳ないです。仕事先に……」

「というか……えっと、朔也くんって、目立つじゃない?」

「そうですね……」

 自覚あるんだ、と思った。そりゃ、あるか。

「私はそうじゃないから、噂されたりするの、あんまり好きじゃなくって。ごめんね。なんか、勝手な都合で」

「いえ……俺……俺……」

 落ち込んでいる。どうしよう。何か言わなくちゃ、と思うのに、何も言えない。ただじゃれついてくるゆたんぽを抱っこしてあやしている。

「俺……自分のことしか考えてなくて……真奈さんの職場なのに……すみません……」

 朔也くんのせいじゃないよ、と言いかけて、言えなかった。私が卑屈なせいだった。でも、これが私なんだよ、とも思う。これが私なんだから、急に変えなさいと言われたって、困る。でもそんなこと、朔也くんに言うのは、なんだか、ちょっと、残酷な気がした。気持ちが対等じゃないことを突きつけるみたい。

「朔也くん」

「はい」

「私……私、朔也くんが私のこと、好きでいてくれるの、嬉しいよ」

 何言ってるんだろう。朔也くんが息をのむのがわかった。

「……真奈さんは、優しすぎます」

 そんなことはない。全然そんなことはない。

 私はもっと、めんどくさくて、怒りっぽい。多分、好きな男の子に対してだけ、すごく。

「……そう?」

「本当にすみませんでした」

「うん。ごめんね」

「困らせてたら、すぐに言ってください」

「うん」

 電話に飽きたのか、ゆたんぽが膝に頭を載せてきたので、ただ撫でている。

「朔也くん」

「はい」

「私が優しくなくなっても、平気?」

 朔也くんは少し黙った。

「あんまり想像つかないです」

「今、そんなに優しい?」

「ものすごく優しいです。昔から」

 バーベキューでは、小さい子の面倒を見ていた。今も、ゆたんぽを可愛がっている。面倒を見るの、好きかもしれない。でも、バーベキューのときだけ小さい子の面倒を見るとか、賢い小型犬を可愛がるとか、そういうことしかできない。

「おねえちゃんぶるのが好きなだけかも。妹だから」

「それ、可愛いです」

「何それ」

「真奈さんならなんでも可愛いです」

 困る。

「わがまま言われたら、すごく可愛い、と、思います」

 そんなことを言うので、

「馬鹿」

 と言ってみた。朔也くんが笑う気配がして、ものすごく恥ずかしくなった。


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