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 ゴールデンウィークは、バイトに明け暮れた。お金を稼ぎたいわけではなく、シフトの都合だ。暇なので多めのシフトに了解したり、予定が出来てしまった人の交代に応じたりしたあとに、朔也くんのことを思い出した。

「大変ですね」

 バイトだらけだと告げると、朔也くんからはそう返ってきた。

「三日は空いてるけど遊ぶ?」

 送ると、すぐに返信がある。

「会いたいです」

 会いたいのかあ、と思った。会いたいのかあ。相変わらず、朔也くんの気持ちと揃っていない、と感じている。私は、会えるなら嬉しいけど、会いたい、とまでは思っていない。この日に会うのは友達でもいいし、姉とどこかに行ってもいい。姉はあまり私と遊んでくれないけど。

 植物園に行くことにした。あんまり派手な商業施設は混んでいそうだったので。

「髪の毛切ったんですね」

 会ってすぐにそう言われた。ゴールデンウィーク前に短くして、ショートカットになっていた。

「朔也くんもでしょ」

 朔也くんも短くなっている。首がすっきりと見えていて、かっこいい。見るたび大人っぽくなっている気がする。精神的な面もそうだろうけど、普通に背が伸びているように見える。どんどん身長差ができる。

「そう言えば、そうです」

 笑いながら植物園に向かう。

「短いの、いいですね」

「ありがとう。髪の毛多いから、伸ばすのやなんだよね。乾かないし。夏はくくったほうが涼しいって言う人もいるけど」

「長いのも似合うと思いますけど、ショートカット、可愛いです」

 照れる。

 給料が出たから、と、奢ってくれた。ありがとうございます、と頭を下げる。いえいえ、と朔也くんは首を振った。

 植物園は思ったより空いていた。水辺を歩いて、温室に向かう。

「聞きたいことがあるんですけど」

 朔也くんが何か重要なことのように言う。

「うん」

「誕生日、いつですか」

「言ってなかったっけ」

 確かにそんな話をしたことはなかったかもしれない。

「九月二十日」

「九月二十日」

 復唱している。

「朔也くんはいつなの? あれ? 夏だったっけ」

 何かで聞いたことがある気もする。特に大事なこととは思っていなかったので、忘れていた。

「八月二十八です」

「八月二十八ね」

 スマホのカレンダーにメモする。それまでに別れてる可能性はあるなあ、と思う。もちろん言わない。

「鳥がいます」

 朔也くんが教えてくれる。

「朔也くん」

「はい」

「手つなぐ?」

「えっ……」

 立ち竦んでいる。気まずい。

「俺……声に出てました?」

「声?」

「いや……手、繋ぎたかった、ので……」

「ううん。純粋に、私の提案だけど」

 朔也くんは何も言わない。

「やめとく?」

「つ、なぎ、ます」

 と言ってから、タオルハンカチで手を拭っていた。手を握る。朔也くんの手は、びっくりするほど大きい。

「小さい、ですね」

 手のひらに載るぐらいの小動物を抱えるような力加減で、朔也くんが手を握っている。そういえば、私の手はかなり小さい。私の身長は百五十四センチだけど、同じぐらいの身長でも私より手が大きい女の子は多い。といっても、極端に小さいわけではなく、女子の中でかなり小さい集団の中に入っている、という感じだ。朔也くんの手は、大きい。

「朔也くん、身長何センチ?」

「百八十三センチ、ですね」

 迫力のある数字だ。

「じゃあ、あと一センチ伸びたら三十センチ差だね」

「伸びそうな……気が、します」

「まだ止まってないんだ。いいね」

「真奈さんは……」

 そこで言葉を詰まらせた。私は笑った。何を言いたいのかはわかる。

「初めて会ったときから、ほとんど伸びてないね」

 確か小学五年生の時は大きい方で、大きくなるのかも、と期待していたら、そこからほとんど伸びなかった。

「朔也くんは最初から大きかったな」

「百七十ぐらいだったと思います」

「私もね、年上だと思ってた」

 朔也くんは頷く。

「子ども料金で乗ろうとすると、よく止められました」

「可哀想に」

「でも得することも多かったです」

 サッカーとか? と思ったけど、言うのはやめた。もう競技はできないという話だったので。

「真奈さん、俺が小さかったら、多分、今でも付き合ってくれなかったと思うから……」

「私?」

「はい」

 朔也くんが私の手を握る手に、少しだけ力を込めた。朔也くんの手のひらが熱くて、その中の私の手も熱くなる。

 朔也くんの言ったことを一応考えてみる。出会ったばかりの朔也くんが、私より小さくて、いかにも年下、小学生、というふうだったら。わからない。今の私も何を考えているのか、私自身にもよくわからないのだ。

「あんまり変わらないと思うな」

 一応出した結論を告げる。

「そう、ですか?」

「わかんないけど……」

 むしろ今、朔也くんの身長が、私には少し高すぎる、と、思っている。背が高くて、すごくかっこよくて、それが、不思議な感じがする。朔也くんが目線を下げるというより見下ろす感じとか、声も遠く感じるので話しにくいところとか。でも、実際背が高いかっこいい朔也くんだから、付き合っているのかもしれない。やっぱりわからなくなる。

 とことこ歩いていると、温室についた。ドアを開けるついでに、さりげなく繋いでいた手をほどいた。なんとなく、繋ぎ続けるのが不自然な気がして。

 温室は外と温度はそう変わらないけれど、空気がしっとりと落ち着いている。

「南国だね」

 葉の緑も花の赤も、外のものよりどこか明るい。

「今まで行った中で一番の南国ってどこ? 私は沖縄」

 高校の修学旅行が沖縄だった。日本国内とは思えないほど気候が違うことに驚いた。水族館がびっくりするほど広くて、ずっとここにいたいと思った。理想の水族館。

「フィリピンですかね……セブ島」

「えーいいね。家族旅行?」

 朔也くんは頷いた。ダイビングをしたらしい。楽しそう。

「ホテルの庭で豚の丸焼きを作ってました」

「食べた?」

「いえ。びっくりしただけです」

「ちょっと食べてみたいかも」

「真奈さんは、変わったもの食べるの平気ですか」

 頷く。わりと食への好奇心は強い方だと思う。

「朔也くんは?」

「俺は……俺は……あんまり」

 沈んだ声で言うので、笑ってしまった。

「でも、頑張ります」

「いいよ。無理しなくて」

 言ってから、ああ、この先二人で、どこか遠くに行く可能性が、あるんだ、と思った。可能性はいつでもある。どのぐらい現実味があるだろう。私と朔也くんが沖縄や、セブ島に行く可能性。手を繋ぎ続けることもうまくできないのに。

 朔也くんはセブ島のスーパーでドリアンを売っていたと話してくれた。

「うちの近所のスーパー、ドリアン売ってるよ」

「えっ」

「果物のコーナー、なんか変な匂いするなと思ったらドリアンが置いてあった。すっごく高いの。置いてあるの、普通の、っていうか、安めのスーパーなんだけど、ドリアン買う人いるのかな」

「ドリアン、食べますか?」

 私はむっと顔の真ん中に皺を寄せた。好奇心が強いつもりでも、あの匂いは。

「……無理かもしれない」

 朔也くんは私の顔を覗き込むみたいにする。

「その顔、可愛いです」

「やめなさい」

 両手で顔を覆う。朔也くんが笑う気配がする。

 朔也くん、食べ物の好みは保守的でも、女の子の好みは結構ゲテモノ好きだ、と思う。言わない。面倒なことになりそうだし、言ってて悲しくなりそう。

「……いつも可愛いですけど」

 声だけで、朔也くんが照れているのがわかる。どんな顔をしているのか、見てみたい気がしたけれど、自分の顔を見られるのも嫌で、しばらく両手で覆っていた。

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