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推し活令嬢は腐らない

「文章は用いる言葉の選択で決まる。日常使われない言葉や仲間内でしか使われない表現は、船が暗礁を避けるのと同じで避けねばならない」(ユリウス・カエサルの言葉 ローマ人の物語Ⅳより引用)


 作品ほぼ書き終わった後で見つけちゃいました。

 やべ、推しに怒られてるじゃん。


 オッス私転生者!

 生まれ変わったら公爵令嬢だなんてもー大変☆



 この世界は私が大好きだった小説「ロマンティック王国物語」にそっくりだった。



 私はこの世界での当て馬的な役割。

 わがままなお嬢様で婚約者の王子や家族を困らせてばかりいるの。


 でも転生したら両親は妹の方ばっかりかわいがるって事情に直面。

 ドアマットヒロインってほどじゃないけど私ことアイヴィー・オクタがわがままなのって両親に振り向いてもらいたいからじゃない。


 婚約者の第二王子のアントニー様は外国からの留学生で可憐な王女ヒロインにメロメロで私のことはほぼ放置。



 うんこれ私悪くない。



 まあ使用人にいばり散らすのは申し訳なくてさすがにやめた。

 クレパ王女への嫌がらせもストップ。

 散財もそこそこにして、残った予算は自分名義の口座に振りこむ。


 物語の通りだと、婚約が破棄されて家からも追い出されるからね。

 その時のために準備は怠ってはいけない。


 この世界で生きていくために勉強は真面目に取り組むけれど、淑女教育なんて面倒くさいったらありゃしない。やるけどさ。




 未来を考えると暗くなるけど、今現在はそこまで辛くはないんだ。


 なぜなら今の私には推しがいるから。



 オタクがマンガもアニメもない世界に転生したことに気がついて絶望していた14歳の時、あの方に出会った。


 この国の第一王子ジュリアス様に。


 婚約者とのお茶会で邪険にされて、落ちこんで帰る所にバッタリ遭遇したのが初めての出会い。


「どうしましたか、レディ。かわいらしいお顔に悲しみは似合いませんよ」

 優しくほほ笑んで下さった彼は、持っていた花束から一輪ぬき出して私の髪に飾って下さったのよ!


 もう一瞬でハートを撃ちぬかれたわ! o((>ω< ))o


 原作で好きだったキャラに会えて声をかけてもらって優しくされるなんて‥ 最高じゃん♡


 ヒロインに一途なアントニー様と違ってチャラ男なジュリアス様だけど、逆に自分でもチャンスあるんじゃね? って勘違いできる人気キャラ。二次創作の夢小説も結構あったわー。



 推しに出会えた私はそれ以来、王宮に呼び出されるときはいつもジュリアス様を探し、見つけた時は狂喜乱舞しながら観察し、屋敷ではお姿を描き職人に石像を発注し、完成品を日々愛でる生活を送っていた。


 つまりは幸せ。



「お嬢様にはアントニー様と言う婚約者がいらっしゃるのですよ」

 侍女が仏頂面で注意しても気にならない。


「ジュリアス様にも婚約者がいらっしゃるわ」

 お母様が困惑顔で釘をさすけど受け流す。


「我が家が第二王子派であることを忘れるな」

 お父様が圧強めで説教を始めるけど真面目に聞くわけない。


 だってジュリアス様の魅力とかカリスマ性がとんでもなくて、弟君がかすむレヴェルなんですもの!


「アントニー様がかわいそう。素敵な方なのに」

 妹のルヴィアが悲しそうにつぶやいている。 


 だったら代わってくれればいいのに。

 転生者の元庶民には公爵夫人は荷が重いって。



(大体私が婚約者の時点でアントニー様に我が家を継がせる気マンマンじゃん。第二王子派って言っても王座を狙えないの分かってやってるよね?)


 つまりはジュリアス様に万が一が起こった時用の棚ボタねらいである。



   ****



「やあ、アイヴィー嬢は今日も美しいね」

 はう!

 ジュリアス様と鉢合わせてしまったわ。

 幸運の女神様、ありがとうございます。


「あなたの髪は絹糸のようだ」


 ジュ、ジュリアス様が私の髪を手に取っているぅぅぅぅ!

 一年分の運を使い切ったわ。(一生分か?)



「兄上、お戯れを」

 あらアントニー様、いたのね。


「は、お前は兄上にもてあそばれているだけだ。気がついていないのか、愚かな」

 私には興味なかったはずの婚約者様でも他に盗られるのは嫌みたい。


「不貞は嫌いですけど、ジュリアス様ならアリですわ♡」

「嬉しいね。こんな美しい人に誘われるのは」



 ちなみにジュリアス様が女性をほめるのは日常茶飯事なので、後ろの侍従たちは何も言わない。



「もしあなたに逃げられたら弟は不幸に沈むことだろうな」


 ああジュリアス様、これはアントニー様に向けて婚約者を邪険にすると捨てられるぞ、誰かに盗られないようにつなぎ止めておけってたしなめて下さってるっ。

 何て深謀遠慮‥ 好き♡



 この方の義妹になれるのなら、私いくらでも王子妃教育頑張れちゃう。

 後ニ・三年でお義兄様って呼べると思うとにやけが止まらんぜ。


 やべ、よだれが出る。

 まあその前にアントニー様から婚約破棄されちゃうだろうけど。



 しかし運命は複雑だった‥



   ***



「お前は何を考えている!」


 部屋のグッズがお父様にバレちゃったのよ。

 以前の私が意地悪していた侍女がチクったらしい。


「王太子殿下はもうすぐ婚姻が決まっているのだぞ。それなのにお前の横恋慕が外に漏れてみろ、我が家は社交界の笑い者になってしまう!」


「え~ ジュリアス様にあこがれる令嬢なんてそこら中にいるじゃないですかぁ」

 一応反論してみた。


「度が過ぎる!」


 はい。まあこの世界の人間がオタク部屋を見たらドン引きだよね~。

 知ってた。でもあふれる思いは止められなかった。てへぺろ☆ (≧∀≦)ゞ



「絵画や彫刻はまだ分かる。が、何だあの破廉恥な文は」

 やっべお父様に自作の同人誌読まれた。


 本棚と壁のすき間に隠しておいたのに。

 汗が、冷や汗が止まらん。(⊙_⊙;)


「ジュリアス様の日常を細かく書き記すなど、見つかったら間諜の疑いを持たれて反逆罪で死刑だ」


 私はふうっと息をはいた。

 それ王宮の侍女を買収したり同志に巻きこんだりして作っていた正史の方だった。

 あー 良かった。隠している方じゃなくて!



 しかしまさか正史の方を(とが)められるなんて。


 こっちは自分の趣味だけじゃない。

 絶対に後世の歴史家が欲しがると思ったから頑張ったのに破廉恥だなんて。


(まあジュリアス様が女性を口説くセリフも残さず書いちゃったからね☆)


「確実に歴史に名を残す方なのですから今のうちに伝記を用意しただけです。お願いします、捨てないでくださいぃ!」



 歴史的価値を熱弁して、何とか破棄は免れた。


 その代わり、アントニー様との婚約は妹のルヴィアが代わり、私は修道院に送られることが決まった。

 婚約者に捨てられる前に実家から捨てられちゃったわ。



 しょうがない。

 ある意味覚悟していた流れだし、正史は我が家で秘蔵されることが決まったから、後悔はなかった。



   ***



 そしてジュリアス様と婚約者のセルリア様の結婚式が華々しく執り行われる。


 結婚式への参列が認められたのは、お父様の情けと言うより幸せな新婚夫婦を見て頭を冷やせって意味らしい。


 輝く式典に興奮しまくりの私にはあんまり効果なかったけど。


 

 私に用意されたのはトランク一つ。侍女が身の回りの品を最低限つめてくれる。

 でもめげない。馬車に乗りこむ私は荷物を持てるだけ持った。


 ふ、元日本人だぜ?

 シーツを風呂敷にして押しグッズと個人資産をつめこんだのよ。


 石像だけは泣く泣くあきらめたけど。



 修道院は原作に登場した僻地じゃなくて、王都に近い所だった。バタフライエフェクトだろうか?

 ともかく、ここでは殊勝にふるまうフリをしながら密やかに同志をつのる。


 だって女子修道院なんて女ばっかりの場所じゃん。

 男も娯楽もわずかなこの閉ざされた世界を、私が掌握するのに時間はかからなかった。


「アイヴィー様、新作は書き終えまして?」

 同室の仲間が小声で私に催促する。

 

「ええ、ジュリアス様×セルリア姫の第五弾ですわ」

 私はニッコリしながら薄い本をさし出す。



 ふっふっふ、私の推しカプはジュリ×セル♪

 自分と推しの絡みも良いがやはり作品化するなら推しカプっすよ。


 事実と噂と妄想をこれでもかって盛り込みやしたぜ!

(一応、この作品はフィクションです、と毎回でっかく注意書きはしてある)



 夢小説にしちゃうと、どうしてもこっぱずかしいし妄想が広がってくれない。

 自分の性格のヒロインじゃ、たとえ相手がジュリアス様でもドラマチックな展開にならない。

 せいぜい日常物。


 その点セルリア様なら私ができない行動もとれるし家同士のしがらみでジレジレできるし、ちょうど良い存在なのよ!



「ジュリアス様にも婚約者がいらっしゃる」なんて両親のお小言も右から左だったわー。

 

 だって‥ あの二人引き合わせたの私なんだもの(爆)

 


 原作ではジュリアス様が結婚するのは別の令嬢だったんだけどね。 推しカプを見たいがために私は二人の出会いをちょこっと早めた。




 ジュリ×セルの結婚式や誓いのキッスシーンをまさか肉眼で拝めるなんて。

 勘違いしてくれた両親、あざっす!



 そしてその記憶を絵と物語に書き起こしたら、禁欲生活を強いられている修道女たちにぶっ刺さったのだ。



「あ、あの、三角関係のお話もありませんか? 隣室の子が欲しがっていて‥」

 修道女が目をギラギラさせておねだりしてくる。

 シュールだ。


「まあ~ 一応さっき書き終わったのがありますけど‥」

 ちょっと躊躇しながら私はもう一冊を取り出す。


「きゃ、弟君の恋人が禁断の恋!」



 はい。新作はアントニー様の恋人クレパ姫が、ジュリアス様にメロメロになっちゃうお話でっす! (⊙ˍ⊙)



 ちなみに情報源は王宮の侍女。まだ時々連絡取ってたから教えてくれた。

 報酬は新作でいいらしい。


 発端はアントニー様を巡って家の妹とクレパ嬢がドロッドロの争いをしたこと。

 おもしろかったから一回だけ物語にまとめたら意外と人気が出た。


 この世界には三角関係ドロドロ物がまだないらしい。

「ここここんな視点があったなんて」


 修道女だけじゃなく、王宮侍女にもクリティカルヒットをかましたようで、新情報が大量に送られてきた。


 泥仕合に傷ついたクレパ嬢をジュリアス様がお慰めしてましたよ、って。



 二人が惹かれ合うのは原作でもあった流れだし、それなりに人気カプだったけど、私としては表現する気はなかったのよ当初は。


 原作のクレパ嬢は最終的にアントニー様への愛を確認するはずだったし、自作が万が一にも外部にバレた場合を考えるとリスクが大きすぎるから。



 だけど新しい手紙にはクレパ嬢が思ったよりジュリアス様とラブラブな情報が書かれていた。

 どうも妹のルヴィアが頑張ってアントニー様の気を引いた結果、クレパ様の心が思ったより離れちゃったらしい。

 そのせいで異国の王女はジュリアス沼の深みにはまりこんだ、と。



 そしてやってはいけないと思えば思うほどやりたくなるのは人の性。

 書かずにはいられなかった‥。


 アントニー様ざまあって気持ちが抑えられなくなっちゃったのよ! むしろノリノリで書いてしまったぁぁぁ。


(バレたら死罪かしら)



 それでも新しい情報が欲しいから、多分送っちゃうんだろうな~ 王宮に☆

 どこに行ったんだろう? 私の理性。



(絶対バレないように暗号で書くか? ひらがなとか。まずはこっちの文字との対応表を送るか。完璧に覚えてくれたら次は‥)



  ***



 その後、我が国の王宮では謎の文字が書かれた怪文書が広まったそうである。

 別に私のせいじゃないよね! (冷や汗)



「いかなる軍を率いても勝利者になったであろうし、いかなる国に生まれても指導者になっていただろう」と言われた推しなので、異世界に登場させてみました♪

 同担歓迎なので、同志の方はぜひご感想下さい!


 元ネタが分からない方は世界史の教科書を開いてください☆

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