1日目 その3
「小林さん、時間ある?」
シャワーから戻ってきた委員長は私に笑いかけながらそう言った。
「食堂の集合時間までまだ少しあるよね。何?」
えっ、ひょっとして恋バナ?
時間的に早いような気がするけど。
「そう、あなた『恋愛未来日記』って知ってる?」
委員長の言葉に私はドキッとするが、思わず首を横に振ってしまった。
「そう、橋本君の相手だからてっきり知ってるもんだと思ってた。どこかで『恋愛未来日記』のことを聞いたら私に教えて」
なんで橋本龍之介君の相手だと『恋愛未来日記』を知ってるの?
知ってるっちゃ知ってるけど⋯⋯。
「わかったよ。『恋愛未来日記』って何? それ自体がわからないとね」
私はとにかくしらを切ることにした。
「名前の通りよ。恋愛に関して未来で何が起きるか書いていく日記だよ。いいでしょ。なんでも叶うのよ」
知ってます。
「でもね、問題なのはここから。『恋愛未来日記』を使った人は1年以内に死ぬのよ。怖いでしょ」
「へええ、でもそんなの都市伝説みたいなもんでしょ?」
怖いよ。
怖い。
「私の地元にある高校では数年前に『恋愛未来日記』が流行ってね。数十人が亡くなってね。禁止になったのよ。『恋愛未来日記』が⋯⋯」
「偶然でしょ」
「亡くなった生徒の全員の遺品から『恋愛未来日記』が出てきたらしいけど⋯⋯。私の母さんも私を出産した後に亡くなっているのよ」
「『恋愛未来日記』は出てきたの?」
怖い⋯⋯。
「父さんに聞いたけど日記帳の類は出てこなかったらしい」
なんだ、やっぱり偶然だよ。
「私の母さんはここの教師だったんだけど産休に入る前にある生徒に日記帳を渡したらしいの」
「へええ、そうなの」
なんだよ、急に身近な話になってきたよ。
「その生徒もすぐに交通事故で亡くなったらしいわ。気になる?」
私は怖くなって首を横に振る。
「その生徒の名は橋本辰之助。聞き覚えがある? なんか橋本龍之介君と名前の響きが似ていると思わない?」
ハシモトシンノスケ⋯⋯。
確かに橋本龍之介君と名前が似ているけど。
「へええ、そうなんだ。初耳だよ、その名前」
「まあいいわ。とにかく何か情報が入ったら私に教えて。取り返しがつかないことになる前に。もう時間ね、食堂に行きましょう」
私は黙って頷いて部屋を出ていった。