文化祭 後夜祭編
私は橋本龍之介君を探す。とりあえずキープしなきゃ。後夜祭は一時間しかないんだから。今日も橋本龍之介君は見つからない。どこに行ったんだろう。そんな時、見知らぬ後輩の女の子から声を掛けられた。
「あの、ちょっといいですか?」
「なに?」
「さっきの演劇見ました。すっごく良かったです。ひょっとしてこの後アレやるんですか?」
アレ?
こっちは急いでんだよ。
「もちろんやるよ。期待しててね」
「頑張ってください。応援しています」
彼女はそう言って立ち去った。
アレって何?
まあ、いいや。
そんなことやってると校内放送が流れる。
「本日の文化祭は只今十七時をもって終了です。在校生の皆さんは十八時からの後夜祭の準備をお願いします」
ヤバっ!
私はスマホを取り出し貴子叔母さんに電話を掛ける。
「もしもし、さくらだけど。彼来てる?」
「まだ来てないよ。って、あんた、もうすぐ後夜祭じゃない。何やってんのよ!」
私は通話を切って、橋本龍之介君を血眼になって探す。
見つからない。
後夜祭は始まり、今は十八時五十分。
その時、私のスマホが鳴る。
「さくら、彼来たからすぐに帰ってこい!」
私は貴子叔母さんの言葉に返事もせずに夢中で店に駆け出した。
ガラ!
店の扉を乱暴に開けると橋本龍之介君のびっくりした顔。私は気にせずに彼の手を取って外に飛び出す。
「さくら頑張れ!」
貴子叔母さんの声が後ろから私の背中を押す。
間に合う?
間に合う⋯⋯。
橋本龍之介君も何か言ってたみたいだったが私の耳には届かなかった。
うちの高校の校庭は二つある。その境にポプラ並木がそびえ立つ。後夜祭のキャンプファイヤーは校舎側の校庭で行っている。
私はスマホを確認する。
十九時十分。
私たちが校庭にたどり着いた時には後夜祭は終わって撤収作業が行われていた。ポプラ並木の枝葉を揺らす風は汗だくの身体には心地良いはずなのだが、私には関係ない。
間に合わなかった。
私はその場にしゃがみ込んで両手で顔を覆いながらわんわん泣く。
でも。
それでも⋯⋯。
私は立ち上がり、振り返って橋本龍之介君と向き合う。
「私は橋本龍之介君がだいしゅきいいい!」
月明かりも相まって橋本龍之介君が眩しい。